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Nissyがドームで届けたポップスターの「親密さ」と新たなコミュニケーション

Rolling Stone Japan / 2023年3月31日 19時10分

Nissy Entertainment 4th LIVE 〜DOME TOUR〜at TOKYO DOME 2023.2.17(Photo by 田中聖太郎写真事務所)

「本当に今までにないくらい先が見えない状態で作っているというか。じゃあ、いつか会えるかもしれないし、いつかのために準備をする」。Nissyがそう語ったのは、2020年8月のことだった。歴史に名を遺すであろうパンデミックは、エンターテインメントと愚直に向き合ってきた彼にも影を落とし、結果的に4年半ぶりとなる3rdアルバム『HOCUS POCUS 3』にも大きな影響を与えた。「求められていることに応えるのがエンターテイメントのひとつ」という確固たる信念を持ち、自分自身の感情をそのまま作品へ流しこむことをあまりしてこなかったNissy。しかしながら今作は、彼のなかで渦巻くネガティブな感情をエンターテインメントに昇華すると共に、「10年後にこういうことがあったと思い出されるものにしたい」という願いまで内包した1枚に仕上がったのである。

【写真6点】Nissyのライブ写真を見る

そんな『HOCUS POCUS 3』を引っ提げて始まった、6大ドームをまわる『Nissy Entertainment 4th LIVE〜DOME TOUR〜』なだけに、例年とは一味違う空気を放っていたように思える。ライブ全体がこだわり抜いたエンターテインメントとして成立していたことはもちろん、何が正解かわからない現実のなかで「自分たちは一歩踏み出した」と意志を示し、最先端の技術をふんだんに取り入れた演出で堂々と未来を照らしてみせたのだ。

本稿では、2月17日に開催された東京ドーム公演、Day2の様子をお届けする。

約3年半ぶりのライブということもあり、会場にはワクワクとした空気が開演前から立ちこめていた。ツアー開始当初は制限されていた声出しも、2月4日の京セラドーム大阪公演以降はマスクを着けていれば全面解禁。コミュニケーション手段はカスタネットから声援へ戻り、客入り時にはAIのTHREEがオーディエンスとコール&レスポンスを繰り広げる。照明が消え、観客席が紅く染まると、次第にNissy Entertainmentへと誘われていった。

Nissyが指をパチッと鳴らし、「DoDo」からライブはスタート。”そろそろ海に 会いに行こうか”と歌うナンバーをオープニングに配置し、光の海に姿を現すのだから全くもって粋なエンターテイナーである。例年であれば、派手なファーのアウターやセットアップのスーツで幕開けを飾るものの、今回はなんと白いプルオーバーにスラックスといったリラックススタイル。一味違うスタイリングは、ワンマイルウェアが流行った特殊な状況下を想起させ、変わってしまった日常が少しずつ再生されていく起点の役目も果たしていた。

Lippyの時計が合図を送り、「Trippin」により本格的にNissy Entertainmentへ突入。華やかな火花も上がり、一切出し惜しみしないエンタメ空間をド頭から作りあげていく。ギターを弾く振り付けのシーンでは、XR技術を用いてアニメーションをリアルタイムに合成しMVを再現してみせた。挑発的な視線を投げかける「The Ride」、”hello hello”の声が会場に響く「Never Stop」と休む間もなくパフォーマンスを展開。「Relax & Chill」ではカメラ目線で一人ひとりへ言葉を届けた。たくさんの会えない日々を越えて、ようやくこの日に辿り着いたことを一節の重さが色濃く物語る。再び手にした夢の時間をもう手放すまいという祈りを「Jealous」の”離れないで”に乗せ、一つ目のセクションでNissy Entertainmentの再生を謳ったのだった。


Photo by 田中聖太郎写真事務所



ストーリーテリングなステージ

二つ目のセクションでは、VTRと演出を交差させストーリーテリングなステージを創りあげていく。物語は「タイムパラドックスを誘発してしまうため、特定の時間軸で密接に人と関わることができない。規則に反しないためには、パートナーから自分の記憶を消さなければならない」といった内容だ。映像のなかでTHREEは「この時間軸に来て来年で10年になる」とも話しており、Nissyがソロ活動を始めた年数ともリンク(ツアー開始時は、2022年だったため)。それはまるで、すべてをリセットしたかのように引き裂かれたこの数年間は、前に進むために必要不可欠な工程だったのだと暗喩しているよう。寝ている彼女をNissyが後ろから包みこみ彼女に触れると、眩い光が会場にも広がっていった。

センターステージに現れたNissyは、大切な人へ手紙を綴るかのごとく「君に触れた時から」を歌唱。噴水が呼吸する舞台に佇む姿は、背景映像と相まって物語中の女性を降りしきる雨のなかで待っているようにも見える。切ない視線を投げかけながら「Dont Stop The Rain」を舞い踊ると、青い炎が思い出を焼き尽くしていく映像を挟み「Say Yes」へ。”君の本音 試そうか?”と不敵に微笑み、緩急のある洗練されたダンスで魅了。切り替えの多い動的なカメラワークは、楽曲の持つ飄々とした空気を掴むと共に、表現力がパワーアップしたNissyの旨味を余すことなく捉えていた。

折り返し地点となり、スクリーンには再びLippyの時計が登場。『HOCUS POCUS 3』の世界観を描くターンを締めくくると、会場一体となって盛り上がる後半へ繋いでいく。VTR内でのNissyは、ラジオコーナーでダンサーのShow-hey・kazuki(s**t kingz)とトークをしたり、チョコレートプラネットと「静かにしろ」のコントにチャレンジしたり。その生き生きとした表情は、付き合いの長い仲間とのトークや自粛期間中に励まされたお笑いとの関わりを心底楽しんでいるように見えた。

コント内でのエンジン音が大きくなり、「静かにしろ!」と勢いよく叫んだのをきっかけに「DANCE DANCE DANCE」へ導かれる。段ボールを積んだ車がアリーナ席に到着すると、箱の中から虎の着ぐるみを着てウサギの耳をつけたNissyが現れた。虎年から兎年に跨るツアーとのことで、2年分の想いをこめた特別なガルピョン仕様。ダンスレッスンタイムを経て動きやすい衣装に着替えると、「OK、じゃあいってみようぜ!」と曲に入っていった。会場はサイリウムと共にカラフルなポンポンで埋め尽くされ、コール&レスポンスの声が響き渡る。チアダンサーズと一緒に息の合ったラインダンスも披露し、場内の熱をグングンと上げていく。「The Eternal Live」に繋がれても勢いは留まることなく、歌とダンスとバンドがお互いを感じ合って呼吸する。生演奏を活かしたソリッドな楽曲アレンジは、バンドメンバーのスキルを感じさせると共に、個々の強みを遺憾なく発揮するダンスメンバーの魅力も鮮明に描写。Nissyも負けじとアクロバットを繰り出し、パワフルなステージを作り上げたのだった。


Photo by 田中聖太郎写真事務所


Photo by 田中聖太郎写真事務所



胸のうちに秘めた想い

この日初となるMCで、Nissyは胸のうちに秘めた想いを語っていく。先の見えない日々で心が折れてしまったこと、歌詞を書けない日々が続いたこと、『HOCUS POCUS 3』にこめたテーマや願い、ツアーを通した地域創生への取り組み、そして会場へ足を運んでくれたことへの感謝。感触をひとつひとつ確かめながら紡がれていく言葉たちは、いつもと違う3年間を過ごしてきたからこその重みを伴う。

そして、言葉には収めきれなかった想いも乗せて、大切に「I need you」を歌い上げていく。葛藤や寂しさまで素直に綴ったラブソングは、単なる恋愛の歌ではなく、Nissyからファンへ向けた唯一無二の幸せな”愛の唄”としての意味も放ち、会えなかった日々ですらファンに支えられてきたことを彷彿させる。人気のなくなった自粛期間中の渋谷センター街を想起させる映像を挟み「僕にできること」へ結ぶと、力強く届けるようにマイクに言葉を落としていくNissy。1回目のサビで逆光に照らされながら真っすぐに前を見据える姿は、陰りのある日々でも光を見つめて、一歩一歩進んできた事実を物語る。ラストには「一緒に歌いませんか。またこの環境でいつ会えるかわからないけど、この景色を見てください。しっかりと焼きつけてください。そして、その声を共有してください」という呼びかけにより、会場全体でシンガロング。この2曲が連なっていることは、Nissy自身が君の「頑張ってね」により支えられてきたことを伝え、同じ時に出逢えたからにはずっと守ってみせると誓いを立てているようだった。

最後のセクションに踏み入れ、ついにここからはラストスパート。デジタルLED装飾の衣装を身に着けたダンサーたちと共に「Get You Back」をバシバシ踊りこなし、光とパフォーマンスの融合で異世界のような空間を生み出す。音玉も轟かせ、華々しく”Im HERE”と示してみせた。

スクリーンに映るLippyとがユニバーサル・スタジオ・ジャパンのお友達を紹介すると、エンディングへ向かうべく「The Days」を投下。キャラクターたちとトロッコで外周をグルッと周り、ひとりひとりと視線を合わせていく。「トリコ」では一緒に歌って踊って遊びつくし、「Cat&Mouse」では力を残すことのないようにタオルをブンブンと振り回す。ラストソングとなったのは、制作段階から時間をかけて生み出されたナンバーの「NA」。パンデミック以前に制作された楽曲であるが「僕らは常に過去と、今を過ごし 未来を受け入れていて。(中略)過ごした時間が きっと時代の変化の一部となっていく。それはとても凄いことなんだよ!」という想いがこめられており、ここからまた日常を進んでいけるようなパワーを与える。銀テープに花火、噴水といった豪華演出で彩り、本編を締めくくったのだった。

アンコールにより呼び戻されると、「まだ君は知らない MY PRETTIEST GIRL」を披露し、会場中から飛んできた”もう1回”の声に思わずにっこり。MCでは「もうしゃべることない。もう昨日の続きじゃん、これだと。どうしよう」なんて話しつつ、即席のセッションでカバー曲をパフォーマンス。例年のライブで好評なカバーコーナーを、MCで再現してしまう大盤振る舞いだ。

その後は、「一歩進んでいる僕たちもいる」とSNSを通して伝えるために、Instagramのストーリーズを観客の声入りで撮影。Nissyの煽りに負けぬ音量で響き渡る歓声は、変化を強いられたエンターテインメントが少しずつ再興していく兆しを感じさせる。雪が降り積もる映像をバックに「ワガママ」を歌い、「My Luv」では柔らかに煌めくサイリウムが左右に揺れる。黄色い光が東京ドームを包みこんだ光景は、Nissyのおまじないにより隅々まで染め上げられているようだった。

あのライブから数日が経ち、いよいよマスクの着用は個人判断となった。多くの変化を強いられてきたエンターテインメントも、苦難の時を越え手にした新たなフォーマットで少しずつ前に進みだしている。言うならば『Nissy Entertainment 4th LIVE〜DOME TOUR〜』は、そんな希望の一つだったのではないだろうか。先陣を切って一歩踏み出し、地方創生にも配慮をし、最先端の技術をふんだんに取り入れてエンターテインメントの可能性を拡張する。ひとりの人として、ひとりのアーティストとして、再生を目指した結果だったような気がしてならない。

そういえば、ライブをナビゲートするAIは”THREE”と名付けられていた。3はNissyと頻繁に紐づけられる2と4の間に位置すると共に、”破壊と想像”の意味を持つ数字である。今年10周年を迎える彼が、リセットされたかのように思える現実に、どのような光を灯してくれるのか期待したい。




Nissy Entertainment 4th LIVE 〜DOME TOUR〜at TOKYO DOME 2023.2.17(Photo by 田中聖太郎写真事務所)(C)TM & (C)2023 Sesame Workshop、(C)2023 Peanuts Worldwide LLC、(C)TM & (C) Universal Studios. All rights reserved

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