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アニマルズ・アズ・リーダーズ、メタル〜現代ジャズを横断する超絶技巧バンドを徹底解説

Rolling Stone Japan / 2023年4月3日 17時45分

アニマルズ・アズ・リーダーズ

トシン・アバシ率いるアニマルズ・アズ・リーダーズ(Animals As Leaders)が、最新アルバム『Parrhesia』を携えての来日ツアーを4月11日(火)大阪・BIGCAT、12日(水)名古屋CLUB QUATTRO、13日(木)東京・Spotify O-EASTにて開催する。『現代メタルガイドブック』監修の和田信一郎(s.h.i.)にバンドの魅力を解説してもらった。



アニマルズ・アズ・リーダーズ(以下AAL)が6年ぶりに来日する。AALはジェント(djent)と呼ばれるスタイルの発展に貢献したバンドで、こうした立ち位置もあってかメタル領域の外で語られる機会が少ないのだが、その音楽性は一言でいえば「プログレッシブ・メタルコアと現代ジャズの交差点、その系譜における最高の達成」で、様々なジャンルの音楽ファンに聴かれるべき美しさと豊かさを湛えている。メシュガーやペリフェリーが好きな方はもちろん、スクエアプッシャーやティグラン・ハマシアン、ジェイコブ・コリアーやIchika Nitoのファンにも強くアピールするはず。折角のこの機会、できる限り多くの人に体験してほしいと思う。

AALはナイジェリア系アメリカ人であるトシン・アバシのソロプロジェクトとして結成され、2009年に発表された1stアルバム『Animals As Leaders』が大きな話題を呼んだ。この作品をプロデュースしたミーシャ・マンソーはペリフェリーの中心人物で、2010年リリースの1stアルバム『Periphery』はジェントを最初に確立した歴史的名盤とされている。

「ジェント」はメシュガーのフレドリック・トーデンダルが2000年代初期に作った言葉とされ、このバンドの独特のリズム構成(複雑なアクセント移動を繰り返すが、長期的に見れば4拍子系の4倍数小節周期に綺麗に収まる)および重く鋭いギター(8弦が使われることが多い)の刻みを指す格好の言い回しとして、先述のミーシャなどがインターネット上の掲示板で繰り返し語ることで広まった。そうした固有のサウンドにメタルコア由来の跳ねる躍動感を加えたのが音楽ジャンルとしてのジェントで、つんのめるような引っ掛かりとノリの良さを兼ね備えたこのスタイルは、簡略化された形でポップミュージック(一部の邦ロックなども)に採用されるほど普及している。


『Animals As Leaders』収録の「Cafo」、Spotifyなどでバンドの最多再生回数を記録している人気曲




このジェントの形成に大きく貢献したのがAALで、圧倒的に高度なアレンジを超キャッチーに聴かせる音楽性は、2009年当時のシーンの常識を大幅に塗り替え各方面に衝撃を与えた。大部分が奇数拍子からなる変則展開を滑らかにグルーヴさせるリズム処理もさることながら、イングヴェイ・マルムスティーンやジョン・ペトルーシ(ドリーム・シアター)に連なるクラシック音楽寄りの要素と、スティーヴ・ヴァイやアラン・ホールズワース、メシュガーなどに連なるジャズ寄りの要素を融合したメロディ〜コード感覚には異形の美しさがあり、極めて複雑なのに理屈抜きの親しみやすさがある。8弦ギター主体のベースレス編成も特徴的で、低音までしっかり出ているのに帯域としての低域は控えめで風通しが良いプロダクションは、エイフェックス・ツインやスクエアプッシャーに影響を受けたというIDM的な電子音響と非常に相性が良い。

こうした要素からなるAALの音楽は、作編曲・演奏の両面で簡単には真似できない高みにあり、10年以上経った今でも新鮮に聴ける輝きを維持している。Fire-Toolzのようなハイパーポップ以降の音楽に通じる面も多く、そうした観点からも評価されるべき音楽だと思う。



その上で、AALが凄いのはむしろ2ndアルバム『Weightless』(2011年)以降の飛躍だろう。打ち込みのソロプロジェクトから3人編成の生バンド(8弦ギター×2、ドラムス)となり、複雑なアレンジを人力でこなすようになったことに加え、作編曲面での進化が凄まじい。

先述のように、トシンの元々の影響源はメタル領域に関わりの深いギタリストが主だったのだが、この頃になるとアダム・ロジャースやカート・ローゼンウィンケルといった現代ジャズの名手からも貪欲に学ぶようになっていく。そうした探究が最高の形で結実したのが2014年の3rdアルバム『The Joy of Motion』で、ジミー・ヘリングやアイザイア・シャーキー(ディアンジェロのバンドメンバーとしても来日経験あり)をはじめとしたカントリー〜ソウルミュージック方面の影響も取り込みつつ、唯一無二の音楽性をさらに更新。本作ではリズム構成も大幅に整理され(メシュガーの変則4拍子に接近)、複雑さと親しみやすさの両立具合が大きく増している。最初に聴く一枚を選ぶならこれ……と言いたいところだが、各種ストリーミングサービスでは本作だけ配信されていないのが残念(代わりに選ぶなら1stか最新作である5thをお薦めしたい)。CDやLPを手にとる機会があったらぜひ聴いてみてほしい。


『The Joy of Motion』収録の「Physical Education」

最新アルバム『Parrhesia』を携えた来日公演の展望

続く4thアルバム『The Madness of Many』(2016年)の発表後、AALとしての作品制作は長く止まることになったが、その間もトシンに対する注目度は高まっていった。中でも印象的なのがGENERATION AXEだろう。スティーヴ・ヴァイ、ザック・ワイルド(オジー・オズボーンのバンドや再始動パンテラ)、ヌーノ・ベッテンコート(エクストリーム)、イングヴェイ・マルムスティーンといったメタル系ギターヒーローの共演ライブ・プロジェクトにトシンも加入。この5人で2017年と2019年に来日し、幅広い世代の音楽ファンに感銘を与えた。また、2020年には、現代ジャズを代表するピアニストのひとりティグラン・ハマシアンのアルバム『The Call Within』に参加。両者の音楽性を完璧に折衷した7拍子の「Vortex」で極上のギターを披露している。




そうした活動を経て、2022年にはAALの5thアルバム『Parrhesia』を発表。リズム構成の複雑さは初期2作寄りだが3rdと4thでの洗練を経て巧みに整理されており、固有のメロディ&コード感覚も健在。やや仄暗い雰囲気のもと、独自の美しい音楽表現をさらに発展させている。「Monomyth」MVの暗黒ジェント舞踏(基本的には9拍子周期でアクセント移動を繰り返す楽曲に完璧に合わせる)も楽しいし、過去の来日時に食べた蒙古タンメン中本にインスパイアされたという「Red Miso」、そして「Asahi」という曲名を鑑みるに、少なからず日本とも縁のある作品に思われる。こうした楽曲の数々がライブの現場でどのように具現化されるかも楽しみだ。





実際、AALのライブは本当に素晴らしい。自分は2017年2月の大阪公演を観ることができたのだが、演奏技術と出音の良さ、それを駆使した表現力ははっきり言って異常で、複雑な楽曲群をスタジオ音源以上の精度で形にするパフォーマンスに終始圧倒されてしまった。マニピュレーターが操る同期音源付きの演奏だったのだが、変則拍子の嵐を余裕をもってこなしきるアンサンブルは全く機械的でなく、超高速フレーズの一音一音で丁寧な”間”の表現がなされていく。特に凄いのがトシンで、精密を極める超高速ギターに柔らかく丁寧なタッチが加わるフレージングは最初の一音を聴いただけで感嘆の声が漏れるほど。ハヴィエル・レイス(Gt)とマット・ガーストカ(Dr)のプレイも極上、「音源のこのリードフレーズはハヴィエルが弾いていたのか!」となる場面も多数。専属スタッフによるPAも良好で、入り組んだ楽曲をノーストレスで堪能できてしまう。

SNSで定期的に話題になる「Cafo」の無茶な手拍子(下掲動画の5分47秒あたり〜、7拍子リフの3.5・5・6・7拍目に手拍子を要求、慣れれば意外と簡単)もアンコールで披露してくれるなど外連味も十分。予備知識なしで行ったとしても確実に楽しめる最高のショウだった。そこから6年を経た今回はさらに凄いことになっているだろうし、期待は高まるばかり。できる限り多くの人に体験してほしいものである。



冒頭でも述べたように、AALの音楽は確かにメタルの系譜にあるがそこに留まらず、現代ジャズや電子音楽のリスナーにも強くアピールしうるものでもある。Ichika Nitoやポリフィアなど、YouTubeで名を馳せるテクニカル系ギターヒーローの源流でもあるし、ジェントというジャンルがその出自(2000年代末における”インターネット発の音楽”だった)から備えていたエディット感覚、近年でいうところのハイパーポップに通じる質感を受け継ぎ人力で具現化してしまうものでもある。こうした越境的な存在感、様々な文脈に繋がる音楽の凄みを体感する場として、今回の来日ツアーは絶好の機会と言えるだろう。お時間ある方はぜひ。



ANIMALS AS LEADERS PARRHESIA JAPAN TOUR 2023
2023年4月11日(火)大阪・BIGCAT
2023年4月12日(水)名古屋・CLUB QUATTRO
2023年4月13日(木)東京・Spotify O-EAST
OPEN 18:00 / START 19:00
チケット:前売 ¥6,000(税込/D代別)
公演詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=3861

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