aikoが語る、一貫性と「少しずつ変わっていくこと」のバランス
Rolling Stone Japan / 2023年4月7日 17時0分
前作アルバム『どうしたって伝えられないから』から約2年。aikoから15作目のフルアルバム『今の二人をお互いが見てる』が届けられた。
【動画を見る】aiko「荒れた唇は恋を失くす」MV
「あかときリロード」(ドラマ『忍者に結婚は難しい』主題歌)、「果てしない二人」(映画『もっと超越した所へ。』主題歌)などのシングル曲のほか、伸びやかなメロディが印象的なロックチューン「荒れた唇は恋を失くす」、弦楽器と歌のシックなアレンジによる「のぼせ」など多彩な楽曲を収録。シンガー・ソングライターとしてさらなる向上を果たした彼女に、本作の制作について聞いた。前作と同じくRolling Stone Japan独自の質問を交えたオフィシャルインタビューをお届けする。
―前作『どうしたって伝えられないから』以降も、精力的にリリースとライブ活動を展開。この2年はaikoさんにとって、どんな期間でしたか?
aiko めっちゃ楽しかったですね。前作くらいからセルフプロデュースになって、いろいろと自由になって、その感じはライブのパフォーマンスにも出てると思います。バンドのみなさん、スタッフのみなさんも、以前よりも積極的に「これをやったら面白いんじゃないか」という意見を出してくれて、ライブ自体も全部”初日で最終日”な感じで。まだ経験したことがない快感みたいなものを味わいながらツアーを続けていました。MCも自由すぎて、ライブの後、「よくもまあ、あんなデタラメ言えるね」ってバンドのメンバーに言われたりしてます(笑)。
―アルバムの制作においても、自由度が増していたんですか?
aiko アレンジャーの方々とお話しする機会も増えました。「ここのギターソロはこういう音階でいきたいです」「アウトロと曲の締め方は現場で試してみましょう」とかいろいろと詰めていけるようになったんですよね。曲ができる過程を0から10まで、いろんな瞬間を全部見ることができて、改めて「たくさんのミュージシャンやスタッフのみなさんに支えられて1曲が出来ているんだな」と実感できたのもよかったです。
―アルバムタイトルに関しては?
aiko いつもはアルバム制作の最後のほうにタイトルを決めるんですが、今回は作ってる最中にふと浮かんで、レコーディング・スタジオで「『今の二人をお互いが見てる』というタイトルにしようと思ってるんやけど、どうかな?」とスタッフに話しました。自分でもどういう意味やろう?って、何度も思うんですけど、人との向き合い方もいろいろあるなと、思うんですよ。その人が目の前にいるときもあれば、お互い離れ離れで、「元気にしてるかな?」というときもあって。
―”今の二人”の状態も変わり続けている、と。
aiko それをお互いが見ていたらいいなって思います。自分だけが見ているのは寂しいですし、相手も同じように見てくれたらなって。ちゃんと心と心で見つめ合えてたら素敵ですよね。
―収録曲についても聞かせてください。まずは1曲目の「荒れた唇は恋を失くす」。アルバムのオープニングにふさわしいアッパーチューンですね。
aiko 曲を書いたとき、本当に唇が荒れてたんですよ(笑)。今まではそんなに頻繁にリップとかを塗らなくても大丈夫だったんですけど、去年あたりからときどき荒れるようになってきて。朝起きて、ちょっと荒れた唇を見て、「こんなんじゃ好きな人に嫌われるな」と思ったり。私、嫌なことや悲しいこと、体調がちょっと良くないと、全部が”負”に向かってしまいがちなんです。水道工事で水が出ないだけでも、「もう水も出ないし、私もこんなだし、もうダメだ」って。そういう気持ちで歌詞を書くことも多いんですけど、「荒れた唇は恋を失くす」は、こうやって少しずつ変わっていく自分のことを受け入れたいし、愛していきたいなという気持ちを込めてます。
―ライブ感のあるサウンドも素晴らしいですね。
aiko 最初は「アップテンポなロックな曲にしたいな」と思っていたんですが、アレンジャーの島田昌典さんがとても華やかにアレンジしてくれて、ライブで歌うのがとても楽しみな1曲です。前回のツアーは、島田さんにも初めてバンドメンバーとして参加してもらったんです。島田さんには本当にたくさんの曲をアレンジしてもらっているんですが、客席からではなく「ステージからの光景を見てほしいな」ってずっと思っていて。ツアーを一緒に回ったことで、島田さんのなかでもライブモードが残っていたのか、いつも以上にグルーヴ感やノリがアレンジに反映されてた感じがしました。
「その場にいるときも、もう一人の自分がいるような感じ」
―「アップルパイ」は、ずっと気になっている男性への思いを映像的に描いた楽曲。この歌詞も実体験がもとになってるんですか?
aiko 基本は全て実体験が元になってできています。写真みたいな感じでいろんな場面が記憶に残ってるんですよ。その場にいるときも、もう一人の自分がいるような感じで、「今、こうやってこの人の表情を見てるけど、この角度から見るのはこれが最後かもしれないな」とか、「今悲しい顔をしたような気がしたけど、何が悲しかったんだろう。私の気のせいかな」みたいなことをずっと考えていて。実体験の中では、一緒に映画に行ったわけではなかったのですが、”一瞬でもいいから、この人のヒロインなれたらよかったけど、なれなかったな”と思ったのがきっかけでこのフレーズが出て来たんだと思います。
―「telepathy」はラグタイム風のピアノが印象的なポップチューン。自由に広がるメロディが気持ちいいな、と。
aiko ありがとうございます。「telepathy」はアルバム制作の最後のほうにできた曲なんです。アレンジャーさんにデモをお送るために、まずテンポを決めて、ピアノとボーカルだけでスタジオで録ってたら、アシスタントエンジニアさんが「いいですね」と言ってくれて。普段そんなこと言わない子なんですけど、そう言ってくれたことがすごくうれしくて、「やっぱりアルバムに入れよう」ということになりました。
―ちなみにaikoさん、誰かにテレパシーを送ることってあります?
aiko いつも送ってます(笑)。レコーディングのときも「こっち向いて」とか「あなたがそれをやってること、私は気づいてるよ」とか。私がテレパシーを感じることはないんですけど、いろんな人に送ってますね(笑)。
―(笑)どの曲にも深い想いが込められていますが、時間が経つと、曲との向き合い方が変わることもあるんでしょうか?
aiko どうですかね? そのときに本当に感じていることを曲にしているので、レコーディングでボーカルを録るときは、数週間前、数か月前、数年前の自分を向き合うというか、その時期の自分が戻ってくる感覚があって。時間が経つことで見え方というか、角度がちょっと変わることはありますね。そうやって自分と向き合うことが、楽曲制作のなかには必ずありますね。
―aikoさんの活動スタイルは一貫している印象があります。「Love Like Pop」「Love Like Rock」というツアーのネーミングも初期から貫いていますし、楽曲のアレンジを手がけている島田昌典さん、トオミヨウさんとの信頼関係も強い。これはやはり、aikoさんの意向なのでしょうか?
aiko まずアレンジャーさんに関しては、私が大好きで、尊敬してるからです。島田さん、トオミさんのことが本当に大好きです。「こういう曲にしたい」という私の想像以上のもの、面白い遊びを入れたアレンジを上げてきてくださるし、同じ人とずっと続けていくなかで、少しずつ変わっていくのもたまらないです。ツアーのタイトルがずっと一緒なのは、「こんなに長い間やれてるんだな」って振り返った時に思えたらいいな、と思って、数字が増えていく形にしました。あと、お客さんにとって、私のライブが、子供の頃から遊びに来ていた公園や地元の遊園地みたいになったらいいなと思ってるんです。遊具や乗り物は増えてるけど、そこに入ったら「ここはずっと一緒だな。やっぱり楽しいな」と思ってほしいし、「今日、家に帰ったらアレをやらないと」みたいなことを一瞬でも忘れられるような場所になったらいいなって。同じタイトルのままでも少しずつ変わっていきたいんですよね。
―オーディエンスのみなさんと目を合わせて、おしゃべりするスタイルもずっと同じですよね。
aiko そうですね。コロナでずっとしゃべれなかったけど、今年に入って、ちょっとずつ声を出せるようになったので、ファンのみなさんもトークの腕が上がってると思うんです(笑)。きっと「ライブでしゃべれるようになったらコレを言おう」って考えててくれたんじゃないかなって。面白い方々ばっかりで、グイグイ来てくださる方にも冗談で「うるさい!(笑)」って言うと、みんなも笑ってくれて。全員が演者さんみたいだし、ライブに参加してくれてるのがありがたいです。こういう関係をずっと続けていたいですし、何よりファンのみなさんのことが大好きです。
【関連記事】aikoが語る、日常を歌にするまでの過程「絡まった洗濯物は好きという気持ちと同じ」
<INFORMATION>
『今の二人をお互いが見てる』
aiko
ポニーキャニオン
発売中
配信リンク:
https://aiko.lnk.to/imanofutariwootagaigamiteru
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