ディナー・パーティー徹底解説 グラスパー、カマシ、テラス・マーティンの化学反応とは?
Rolling Stone Japan / 2023年4月6日 18時0分
ディナー・パーティー 左からテラス・マーティン、ロバート・グラスパー、カマシ・ワシントン(DINNER PARTY FEATURING TERRACE MARTIN, ROBERT GLASPER, KAMASI WASHINGTON)
5月13日(土)、14日(日)に開催される「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN」。2日目・14日(日)のヘッドライナーとして、ロバート・グラスパー、カマシ・ワシントン、テラス・マーティンによるディナー・パーティー(Dinner Party)の出演が決定した。秩父で本邦初ライブを披露するスーパーグループについて、ジャズ評論家・柳樂光隆が解説。さらに、ディナー・パーティーを中心とする音楽コミュニティのつながりをまとめた、柳樂選曲のプレイリスト「"Dinner Party" mellow connection」をお届けする。
ロバート・グラスパー、テラス・マーティン、カマシ・ワシントン、9thワンダーの4人がディナー・パーティー名義で同名EPをリリースしたのが2020年のこと。スーパー・グループによるこのプロジェクトは大きな話題になり、2022年の第64回グラミー賞では最優秀プログレッシブR&Bアルバムにもノミネートされた。同年にはEPの再録アップデート版『Dinner Party: Dessert』もリリース。人気曲の「Freeze Tag」は現在、Spotifyで4000万回再生を超えている。今年3月には、アント・クレモンズをフィーチャーした新曲「Insane」をリリースしたばかりだ。
ディナー・パーティー関連アーティストの楽曲を集めた、柳樂光隆・選曲のプレイリスト。「メロウな選曲をお楽しみください」(柳樂)
【画像を見る】ロバート・グラスパー相関図で関連アーティストをおさらい
ピアニスト/プロデューサーのロバート・グラスパーはジャズとヒップホップ、R&B、ネオソウルを融合させることで、生演奏を軸にした音楽の新たな可能性を提示し、歴史を変えたレジェンドだ。2023年には『Black Radio 3』で5度目のグラミー賞(最優秀R&Bアルバム部門)を受賞。今もシーンの最前線で活躍し続けているのは周知のとおり。
サックスとキーボード、ボコーダーを操るマルチ奏者で、ヒップホップのプロデューサーとしてケンドリック・ラマーからYG、ラプソディからスヌープ・ドッグまでを手掛けてきたテラス・マーティンは、LAのシーンで確固たる地位を築いてきた。NYを拠点にしていたグラスパーとは異なる形で生演奏とヒップホップの融合を目論み、ケンドリック・ラマーによる2015年の大名盤『To Pimp A Butterfly』や、グラミー賞にノミネートされた自身のアルバム『DRONES』(2021年)などでそれを形にしてきた。
テラス・マーティンと同じLA出身のサックス奏者、カマシ・ワシントンもまた現代のジャズシーンを象徴する存在だ。フライング・ロータスの『You're Dead!』(2014年)での鮮烈な演奏で注目を集めたのち、彼が主宰するブレインフィーダーから『The Epic』(2015年)をリリース。壮大なスピリチュアルジャズを軸にした3枚組の大作にも関わらず、ジャズとしては異例の大ヒットを記録した。2018年の2ndアルバム『Heaven and Earth』も絶賛され、近年は映画音楽も手がけつつ、世界中のフェスに出演している。
この3人が集結しているだけでもとんでもないプロジェクトなわけだが、さらにもう一人のビッグネームも加わっている。ヒップホップ界の凄腕プロデューサー、9thワンダーだ。
彼はジェイ・Zと組んでディスティニーズ・チャイルドにいくつかの曲を提供したほか、ケンドリック・ラマー、エリカ・バドゥ、メアリー・J.ブライジ、アンダーソン・パークなどの楽曲も手掛けている。ソウルやファンク、ジャズから連綿と続くアフリカンアメリカンの歴史を受け継ぐようなトラックが持ち味の才人だ。しかも、ケンドリック・ラマー「DUCKWORTH.」ではハイエイタス・カイヨーテをサンプリングし、今年リリースした自身のアルバム『Zion Ⅷ』ではムーンチャイルドのアンバー・ナヴァランとコラボしているなど、過去のサウンドからの影響を取り入れつつ、それを現代的に更新する新たなサウンドも視野に入れている。グラスパーやテラス、カマシがやっていること、さらに彼らの影響下にある次世代にまで理解があるプロデューサーなのだ。
ディナー・パーティーが「特別」な理由
そんな彼らがディナー・パーティー名義で演奏するのは、メロウで心地よいオーガニックなヒップホップ/R&B。それぞれの特徴を生かしたジャジー且つソウルフルなサウンドを軸にしているのだが、ここで鍵になるのはすべてのリズムがドラマーによる生演奏ではなく、プログラミングされたビートであること。
例えば、グラスパーのアルバムでは、リズムマシンのようなタイム感/質感をドラマーが生演奏で表現し、その人力ビートにバンドメンバーが有機的に絡んでいく様が特徴になっていた。カマシにしても、ヒップホップを通過したドラマーによるグルーヴが現代性に繋がっていた。2010年代以降、多くのジャズ・ミュージシャンたちが、打ち込みのビートを生演奏に置き換えたようなドラマーの演奏をその音楽の基盤にしてきた。
しかし、ディナー・パーティーの音源では打ち込まれたビートが中心になっているため、グラスパーやカマシによる従来の作品とは明らかに異なるものになっている。それに加えて、グラスパーのピアノ、カマシのサックス、テラスによるボコーダーのいずれも、演奏者が自身の個性を主張するためではなく、意識的に楽曲を構成するための素材として奏でられている点も重要だろう。つまり、「最高のトラック」を作ることに4人の技術やアイデアが注がれているのだ。だからこそ、ディナー・パーティーの楽曲はこれまでにグラスパーやカマシ、テラスが発表してきた楽曲よりも聴きやすく、耳馴染みが良い。
トラックの完成度の高さは、『Dinner Party』と『Dinner Party: Dessert』を聴き比べると一目瞭然だ。前者ではPhoelixがボーカルを担当するのみだが、後者ではハービー・ハンコックやスヌープ・ドッグといった超大物から、ビラルやラプソディなどグラスパーが敬愛する大物シンガー、気鋭ラッパーのコーデー、タンク・アンド・ザ・バンガスやアレックス・アイズレーといった新鋭まで、『Black Radio』にも通じる豪華ゲスト陣が参加している。
しかし、この2作はクレジットこそ大きく異なるものの、トラック自体はほとんど変わらない。『Dinner Party』とほぼ同じトラックにゲストが加わることで、曲の印象がガラッと変わるというのが『Dinner Party: Dessert』の聴きどころと言えるだろう。言い換えれば、どの曲も印象が変わるほどラッパー/シンガー各自の個性を発揮しやすい作りになっているということだ。グラスパー、テラス、カマシの3人が単なるプレイヤーというよりプロデューサー兼作編曲家として制作に関与し、そこに9thワンダーも交えてアイデアを出し合うことで、「シンガーやラッパーが自由に表現できる場としてのトラック」を追求しているのがよくわかる。
そもそも2000年代まで遡ると、グラスパーはコモンやQティップ、カマシとテラスはスヌープ・ドッグやDJクイックらのトラックのために演奏してきた。彼らがヒップホップ/R&Bの構造やフィーリングをジャズに導入することができたのは、実際にそういった音楽の現場で超一流のラッパー/プロデューサーとの制作に携わることで、彼らが望む演奏スタイルやフィーリングを習得してきたことが大きい。そういう意味では、3人ともヒップホップ/R&Bにおけるスタジオ・ミュージシャンとしての側面を持っているし、その経験はシーンの未来を切り拓いたプロデューサーとしての資質にもつながっている。
ディナー・パーティー、ライブはどうなる?
さらに、ディナー・パーティーの音楽は、NYならではのサウンドを得意とするグラスパーと9thワンダー、LA育ちのテラスとカマシという組み合わせゆえ、NYとLAの要素が混ざり合っているのも興味深い。
もちろん、ニュースクール的なソウルフルさを発展させてきた9thワンダーと、LAギャングスタ・ヒップホップ出自のテラスの二人が持ち味を発揮すれば、おのずとNYとLAのカラーが溶け合うことになるだろう。そんな視点で『Dinner Party』をテラスのソロアルバム『DRONES』と聴き比べると、前者はテラスらしい音色やビートも含みつつ、かなり東海岸のブーンバップ的サウンドに寄っているのがわかる。そのバランス感のうえに、グラスパーとカマシがそれぞれNY/LA的な文脈の演奏を添えてメロウに仕上げている。
その一方で、先述の「Freeze Tag」では、人種差別に対する強烈なメッセージをさらっと忍ばせている。グラスパーは言わずもがなだし、テラスも2020年、Black Lives Matterに呼応してプロテストソング「Pig Feet」(カマシも参加)を発表するなど、強いメッセージ性の持ち主でもある。サウンドこそいつもと異なるが、この4人が一貫して掲げてきたスタンスは揺らいでいない。
そんなディナー・パーティーはライブも活発に行っており、そこでは9thワンダーの代わりに、ジャスティン・タイソン(Dr)やバーニス・トラヴィス(Ba)などの人力リズムセクションが参加してきた。顔ぶれを見ると普段のロバート・グラスパー・トリオにテラスとカマシを加えただけのようだが、この名義ではジャズ的なセッションではなく心地よいループを軸にした「ディナー・パーティー仕様」のステージを繰り広げて、そこにグラスパーのシンセやローズ、テラスのボコーダー、カマシによるムーディーなサックスが乗ることで、絶妙にメロウなムードが醸成される。
さらに過去のセットリストによると、ディナー・パーティーの楽曲に加えて、グラスパーやカマシの人気曲、ダニー・ハサウェイやア・トライブ・コールド・クエストなどの名曲カバー、ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』の収録曲もプレイされており、予測不能なセットリストにも注目したいところだ。ちなみに、今回の「Love Supreme Jazz Festival」では、グラスパー、テラス、カマシと上述のリズムセクション、グラスパーのバンドでお馴染みのDJジャヒ・サンダンス(Jahi Lake)に加えて、テラスの『DRONES』にも参加していたR&BシンガーのArin Rayも出演する。
ロバート・グラスパーという人はどんな人を集めても、必ずその人たちが活きるやり方で、その場をまとめてしまえる不思議な能力を持っている。それはブルーノート・オールスターズ、R+R=NOW、オーガスタ・グリーンといった他のプロジェクトでも同様で、その場にグラスパーがいると、個性豊かなミュージシャンたちが見事に調和されていく。ディナー・パーティーのライブ・プロジェクトもそのひとつ。4月の米コーチェラ・フェスティバル出演を経て、5月14日に実現する秩父での初来日ステージでも、調和の取れたオールスター・バンドが心地よい時間を作り出すことだろう。
『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023』
日程:2023年5月13日(土)、5月14日(日)12:00開場 / 13:00開演(予定)
会場:埼玉県・秩父ミューズパーク
出演:5月13日(土)
【THEATRE STAGE】
GEORGE CLINTON & PARLIAMENT FUNKADELIC / DOMi & JD BECK
AI and many guests with SOIL&"PIMP"SESSIONS / Answer to Remember with HIMI, Jua
【GREEN STAGE】
ALI / 海野雅威 with Special Guest 藤原さくら / 4 Aces with kiki vivi lily
… and many more to be announced
5月14日(日)
【THEATRE STAGE】
DINNER PARTY FEATURING TERRACE MARTIN, ROBERT GLASPER, KAMASI WASHINGTON /
SKY-HI & BMSG POSSE(ShowMinorSavage - Aile The Shota, MANATO&SOTA from BE:FIRST / REIKO) with SOIL&"PIMP"SESSIONS /
Blue Lab Beats featuring 黒田卓也, 西口明宏 with 鈴木真海子(chelmico) and more /
Penthouse with 馬場智章, モノンクル
【GREEN STAGE】
Kroi / モノンクル / 馬場智章
… and more!!!
各プレイガイド先着先行 受付中
3月27(月)18:00〜4月9日(日)23:59
全プレイガイド(https://lovesupremefestival.tix.to/2023) 公式サイト:https://lovesupremefestival.jp
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