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ザ・ホワイト・ストライプス『Elephant』20周年 今こそ聴くべき4つの理由

Rolling Stone Japan / 2023年4月7日 17時45分

ザ・ホワイト・ストライプス(Photo by Patrick Pantano)

ジャック・ホワイトがその名を知らしめた最初のバンドであり、2000年代を代表するロックバンドとしてすでに伝説的な評価を得ているザ・ホワイト・ストライプス(The White Stripes)。その代表作が2003年にリリースされたアルバム『Elephant』だ。

2004年の第41回グラミー賞で最優秀オルタナティブ・ミュージック・アルバムを受賞し、米ローリングストーン誌が「歴代最高のアルバム500選」のリストで449位に選出するなど、リリース当時から現在まで色褪せることのないクラシックである本作の20周年記念リリースを記念し、2023年の視点からこのクラシックの魅力を再発見したい。


【20周年記念リリース①】
『Elephant』20周年記念限定カラーヴァイナル
完全生産限定盤(1,100セット限定)
2枚組カラーヴァイナル(1枚目レッド・スモーク、2枚目クリア・ウィズ・レッド&ブラック・スモーク)
日本盤のみ帯、解説・歌詞・対訳付/2023年5月24日(水)発売


【20周年記念リリース②】
『Elephant (Deluxe)』(配信のみ)
オリジナルのスタジオ・アルバムのリマスターHDオーディオと、2003年7月2日に米シカゴのアラゴン・ボールルームで行われたエレファント・ツアーの27曲のライヴで構成された全41曲を収録
配信リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/HBTB 


1. 21世紀最大のアンセム「Seven Nation Army」収録作品である

何はともあれ、オープニングトラック「Seven Nation Army」への言及なしに『Elephant』を語ることはできないだろう。

エフェクターを使ってオクターブを落とした、まるでベースリフのようなギターリフに、「ドスッ! ドスッ!」とスタジオの空気を揺らす4つ打ちのキックが重なり、ジャック・ホワイトが「7か国連合軍にも俺を止めることはできない」と歌い始める。

そんな不穏かつ魅力的なイントロダクションを持つこの楽曲は、リリース当初からバンド史上最大級のヒットを記録し、アルバム『Elephant』と並んで第41回グラミー賞「最優秀ロック・ソング」を受賞した、名実ともにザ・ホワイト・ストライプスの代表曲だ。そして21世紀を代表するアンセムである。



しかし「バンド史上最大級のヒット」とはいえ、リアルタイム時はBillboardのオルタナチャートで1位を記録した程度。本楽曲が時代を代表するアンセムとなったのには、むしろ「ロック以外」の世界にその影響力が波及したところに端を発している。

「Seven Nation Army」が特別な楽曲である理由、その一つ目はクラブアンセムとしての側面にある。シンプルな単音の連なりながらも中毒性あるリフのメロディ、そしてBPM120程度の4つ打ちというフォーマットがクラブミュージックとの親和性が高かったこともあり、当時からハウスやエレクトロクラッシュ版のリミックスやマッシュアップがブートレグとしてリリースされていたのだ。2000年代はLCDサウンドシステムやザ・ラプチャーなどNY〈DFA〉周辺の影響に始まり、ヨーロッパのニューレイヴ・ムーブメントなどを通して、ロックソングのダンスリミックス文化は珍しくなかった。しかし、それでもクラブの現場で耳にするロック楽曲としては「Seven Nation Army」に比肩するものは、ニルヴァーナ「Smells Like Teen Spirit」くらいのものだった。さらに2010年代に入ってもその熱は収まるどころかさらに高まり、一時代を築いたEDMのブームにおいても「Seven Nation Army」は見事にアンセム化。デヴィッド・ゲッタなど大物DJもプレイする定番曲となり、2021年にはEDMアーティストであるザ・グリッチ・モブによるリミックスが、ジャック・ホワイトのレーベル〈Third Man Records〉からリリースされるまでに。今日もまたあのリフが、世界中のいくつものクラブでピークタイムを彩っていることだろう。



そして何よりも「Seven Nation Army」を特別なものとしているのが、スポーツアンセムとしての側面だ。「もしもあなたが『Seven Nation Army』を聴いたことがないと思っていたとしても、リフのメロディだけはどこかで耳にしている」と断言してしまえるほど、同曲はサッカーやバスケなど数々のスポーツの試合でチャント(合唱)される応援歌として定番化しているからだ(先日のWBCでも聞かれたほど)。2003年のリリース当時からすでに一部のサッカーファンが合唱していたとされているが、世界中のスポーツファンに「Seven Nation Army」のメロディが認知されたきっかけは、2006年のサッカーW杯ドイツ大会で間違いない。本楽曲は同大会でイタリア代表が優勝した際に激しくチャントされ、その様子が繰り返し世界中で報道されたのだった。



「Seven Nation Army」がスタジアム・アンセムになるまでの経過を解説した動画

一説によると、ベルギーのサッカーファンからイタリアのサポーターに伝播して自然発生的にイタリア代表の応援歌となったというが、おそらく初めは「7か国連合軍にも俺を止めることはできない」というリリックのメッセージ性も考慮して応援歌として歌われるようになったのではないかと思われる。しかし、今ではそんな歌詞からも、ザ・ホワイト・ストライプスという記名性からも切り離され、「Seven Nation Army」世界中のスポーツの現場やクラブでプレイされている。

このエピソードは、ブルーズやカントリーといったルーツ・ミュージックの影響を多分に受け、それらを現代にリファインさせてきたザ・ホワイト・ストライプスが、結果として「現代のフォークロア」を生み出したという点で、21世紀に起こった奇跡の一つと数えていいだろう。

2. 「2000年代ロック」の評価を変えた、時代を代表する名盤である

そして「Seven Nation Army」が21世紀最大のアンセムであるだけでなく、この『Elephant』自体が2000年代のポップ・ミュージックを代表する名作アルバムとして記録・記憶されているレコードとなっている。

リリース当初からメディアの絶賛を集め、米ローリングストーンが当時としては非常に珍しい五つ星の満点を与えたほか、グラミー賞においても「最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞」を受賞。さらにはその授賞式における圧巻のパフォーマンスなどを通し、ジャック・ホワイトは「90年代以降最高のギタリストの一人」としてクラシック・ロックファンやそのミュージシャンたちからも賞賛を集め、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジや、ローリング・ストーンズとのその後の共演にも繋がる評価を獲得したのだ。


『Elephant』のシングル第2弾「I Just Don't Know What to Do with Myself」はバート・バカラック/ハル・デイヴィッドが手がけた楽曲のカバー

こうしたファクトの列挙に対し、もしかしたら「ただの権威盲信だ」「音そのものを聴け」といった批判や、「何が評価されたのか分からない」という疑問が出てくるかもしれない。だが、本作においては「広く高い評価を獲得した」という事実それ自体が歴史的に重要な意味を持っていることを指摘したい。

というのも、今となっては嘘のようだが、ザ・ストロークスのデビューをきっかけに2001〜2002年にかけて始まった「ロックンロール・リバイバル」は、当時「メディアによって捏造されたムーブメント」として疑いの目を向けられる対象だった。そして、そこに括られたザ・ホワイト・ストライプス、ザ・ハイヴス、ザ・リバティーンズなどのバンドは、辛口のジャーナリストやリスナー、そして先輩ミュージシャンたちから「ただの焼き直し」などと言われ、フェイクと見なされていたのだ。「2000年代には本物のロックは存在しない」「イラク戦争の戦場でニルヴァーナやレディオヘッドは真実味をもって響くが、ザ・ストロークスにそれはないだろう」などなど、やはり今となっては冗談のような言説が飛び交っていたのである(とはいえ、実際のところ、ロックンロール・リバイバルについて、メディアによってムーブメントが作られた部分は否定できないし、”偽物”としての部分もある。しかし、それはエルヴィス・プレスリーもザ・ビートルズもパンクも同様である。ファンタジーが現実を加速させるのも、また事実なのだ)。

そんな空気を一変させ、2000年代のリアルタイムのロックミュージックへの疑念を大きく払拭することになったきっかけが、本作なのである。

では、この『Elephant』がなぜそこまでの評価を獲得したのか。その理由の一端を次の項目で分析・解説しよう。


Photo by Lex van Rossen/MAI/Redferns

3. ロックを再定義し、リバイバルへの疑念に回答したレコードである

端的にいえば『Elephant』が提示したものとは「ロックの因数分解と再定義」、そして「アートがタイムレス性と時代性の両面をもっているという事実」だった。

前者はザ・ホワイト・ストライプスが結成当初から一貫して(図らずも)体現し続けたコンセプトであり、それは彼らの最大の特徴であるギター&ボーカルとドラムスによる、ベースレスの2ピースバンドという編成と絶対的に紐づいている。1950年代にバディ・ホリーとザ・クリケッツが作り上げた「ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムス」というロックバンドの原型像を、彼らは2ピースというバンド編成それ自体で解体した。さらにはレッド・ツェッペリンが提示した「ブルーズの流れを汲むハードロック」をベースレスのスカスカのサウンドで再演することで「ロックサウンド=歪んだギターとドラムス」という再定義を行なったのだ。そして、そこにはボーイバンドが持つマチズモに対する批評性や、ペイヴメントらローファイと呼ばれたミュージシャンやそのムーブメントとのリンクを読み解くことも、昨今のマネスキンやMIYAVIのようなギターとダンスミュージックの要素を融合させたアーティストへの影響を感じ取ることも、決して難しくないだろう。

後者の「アート作品が持つタイムレス性と時代性」も、やはりザ・ホワイト・ストライプスひいてはジャック・ホワイト関連作品から一貫して感じられる要素だ。ロックバンドを聴いてロックを演奏するのではなく、ブルーズやカントリーなどルーツを徹底的に遡り、そこから得たインスピレーションをモダンな音楽として現代に提示する。そんなルーツ重視と、レトロさとモダンさへの強い意識は、ザ・ホワイト・ストライプスからビヨンセとの共作「Dont Hurt Yourself」まで、そのサウンドを変えながらも通底していると言っていいだろう。


マネスキンによる「Seven Nation Army」のカバー


『Elephant』のシングル第4弾「There's No Home for You Here」

では、それら2つの要素が、なぜ『Elephant』で結実したのか?

そこには2003年というタイミングはもちろん、本作の制作プロセスも大きく影響していると考えられる。『Elephant』はザ・ホワイト・ストライプスが初めて米国外、イギリスのロンドンで制作したアルバムだが、その大半となる14曲中12曲をレコーディングしたトゥー・ラグ・スタジオは、1960年代以前のヴィンテージ機材を中心に構成された非常にアナログなスタジオだったのだ。当然、本作も現在主流であるProToolsを使ったデジタルレコーディングではなく、オープンリールのテープを使ったアナログレコーディングで録音されており、アルバムのアートワークには”No computers were used during the writing, recording, mixing or mastering of this record”(このレコードの作曲、録音、ミキシング、マスタリングにコンピュータは使用されていない)とはっきり記載されている。そしてプロモ盤も当時主流のCDではなくアナログレコードで作られるという徹底ぶりだった(リーク対策だったとも言われている)。

当然「ザ・ホワイト・ストライプスがヴィンテージ機材で録音したアルバムは、本物の”あの頃”の音がするのだろう」と考えたくなるものだが、実際に再生してみると聴こえてくるのは「Seven Nation Army」。そう、あの極限までシンプルなのに誰も聴いたことがないサウンドだったのだ。そこで気付かされるのは「60年代の機材を使ってレコーディングしたとしても、当時の音楽になることはない」という(考えてみれば当たり前の)事実である。例えば「Seven Nation Army」や「The Hardest Button to Button」のミニマリズムはポストパンクやテクノ以前にはありえなかっただろうし、強烈なブルーズロックである「Ball and Biscuit」にだってヒップホップの影響を感じずにいられない。ましてや、ザ・ホワイト・ストライプスのようなベースレスの2ピース編成での録音ならば、響きすら同じになるはずがないだろう(同スタジオで録音されたどのレコードと比べても『Elephant』は異質だ)。


『Elephant』のシングル第3弾「Hardest Button To Button」



つまり『Elephant』は「リバイバルとは、一周した単なる焼き直しではなく、一周するごとに前に進む螺旋やドリルのようなものなのだ」というルーツの掘り下げとリバイバルを是とするアティテュード、そしてそれが間違っていないという事実を体現したレコードなのである。

なお本作を説明する際に「1963年以降の機材を使用していない」と記載されることが多いが、のちにジャック・ホワイトがプレスリリース文に記載したジョークだったことを明かし、それを鵜呑みにしたジャーナリストたちを批判しているので、これは誤りだと認識しておいた方がいいだろう。

いずれにせよ、本作の存在がいかに多くのミュージシャンを解放し、そして鼓舞し続けているのかは計り知ることはできない。

4. 史上最も議論を呼んだ孤高のドラマー、メグ・ホワイトの魅力に満ちたレコードである

「ザ・ホワイト・ストライプスにまずまずのドラマーがいれば、もっとすごいものになっていた」と、2023年はじめに海外のジャーナリストがツイートした議論/炎上騒ぎをご存知だろうか?

実はこれ、リアルタイム当時からたびたび議論されてきた話題である。今回、トム・モレロ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)、クエストラヴ(ザ・ルーツ)やジェフ・バーロウ(ポーティスヘッド)らミュージシャンがメグを擁護し、ジャック・ホワイトまでもそれについての投稿を行う事態にまで発展したのだが、これもやはり”リバイバル”なのかもしれない。


メグ・ホワイト論争のまとめ動画

さて、本原稿の最後となるこの項目の主役はメグ・ホワイトである。そう、『Elephant』は稀代のドラマーであるメグ・ホワイトの魅力を最も身近に感じられる作品なのだ。

再び「Seven Nation Army」の話となるが、この曲に耳を澄ませるだけでもいい。彼女の極めてシンプルなフレージングが楽曲にストイックな雰囲気を与えているだけでなく、キックやスネアなど各楽器の響きが艶かしく鮮明に聴こえてくるのがわかるはずだ。『POINT』以降のコーネリアスが複数音を極力同時に鳴らさないことで、そのサウンドの響きを最大限の解像度でキャプチャーしていたように。




もちろん、すべてが意図的だったわけではないはずだ。そもそもメグはドラム未経験であり、極めてシンプルなフレージングも、フィルイン皆無のストイシズムも「それしかできなかった」というのがおそらく実状だろう。しかし、結果的に彼女のフレージングもサウンドも唯一無二のスタイルであり、そのファットな響きとリッチな”揺らぎ”は、打ち込みのビートがデフォルトとなった2020年代においても決して古びていない。

そして何より、メグのプレイはインスピレーションに満ちている。実際、ザ・ホワイト・ストライプスはメグ・ホワイトのドラムにインスピレーションを受けてジャックが結成したバンドであり、解散後も「自分が何をしようとステージにいるメグには敵うことがなかった」旨を米ローリングストーンの2014年のインタビューで語っている。

とはいえ、メグ・ホワイトがバンドのグルーヴを支配していたかというと決してそうではないのも、またおもしろい。とくに『Elephant』収録の「The Hardest Button to Button」や、同20周年盤にも多数収録されているライブ音源に顕著だが、むしろジャック・ホワイトのギターにメグ・ホワイトがドラムを合わせにいっている印象だ。姉弟という設定の元夫婦にして、天才が崇拝に近い感情を”素人”に抱いている関係性を含め、やはりあまりにも魅惑的だ。


『Elephant (Deluxe)』に収録、2003年に米シカゴ・アラゴン・ボールルームで演奏された「The Hardest Button to Button」

ザ・ホワイト・ストライプスのリーダーは間違いなくジャック・ホワイトだ。楽曲もジャック・ホワイトによるものだ。だが、メグ・ホワイトは「ジャック・ホワイトじゃない、もう一人の方」なんて軽視できるメンバーではない。ましてや決して「ひどいドラマー」なんかではない。もしもメグがジャズ・ミュージシャンだったなら、たしかに「ひどいドラマー」だったかもしれないが、ザ・ホワイト・ストライプスはロックバンドであり、彼女はロックに必要な要素を(偶然だとしても)ドラマーとして最小限まで分解して我々に見せてくれたのだ。

そうそう。そして、この『Elephant』にはメグが初ボーカルをとった楽曲が「In The Cold, Cold Night」と「It's True That We Love One Another」の2曲も収録されている(後者はジャック・ホワイトとザ・ヘッドコーティーズのボーカルでもあったホリー・ゴライトリーとの3人による歌唱)。フィーリングの豊かさはボーカルにも健在であり、どちらも楽曲に新鮮な魅力を与えていることを間違いなく感じられるはずだ。







『Elephant』20周年記念限定カラーヴァイナル
完全生産限定盤(1,100セット限定)
2枚組カラーヴァイナル(1枚目レッド・スモーク、2枚目クリア・ウィズ・レッド&ブラック・スモーク)
日本盤のみ帯、解説・歌詞・対訳付/2023年5月24日(水)発売



デジタル・アルバム『Elephant (Deluxe)』
配信リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/HBTB 

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