マインドコントロールでインフルエンサーを恐怖支配、米カルト集団の手口
Rolling Stone Japan / 2023年4月11日 6時45分
TikTokダンサーを多数抱える米マネージメント会社「7M Films」社の実態がカルト集団であると暴いたローリングストーン誌の記事から1年、同社に所属していたダンサー3人が、オーナー兼牧師ロバート・シン氏を提訴した。
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オーブリー・フィッシャー・グリーンさん、カイリー・ダグラスさん、「Konkrete」ことケヴィン・デイヴィスさんは4人の原告に加わり、7M社のオーナーでサンタアナを拠点するシェキナ教会の牧師ロバート・シン氏が「カルト集団」を運営し、信者を利用していたとして訴えている。訴状にはシン氏、7M社、シェキナ教会の他、17の団体と個人が被告に挙がっている。
3月21日付で受理された反訴状には、「シェキナは宗教団体を装ったカルト集団」とある。「ロバート被告は自らを『神の使い』と呼び、自分への服従や教会の存在なくしては一生呪われるだろうとシェキナ教会の信者に説いていた。ロバート被告はシェキナ信者の身体的・経済的完全支配を要求した」。
ローリングストーン誌は今回の提訴についてシン氏の弁護士にコメントを求めたが、すぐに返答は得られなかった。7M社は2022年ローリングストーン誌に対し、ダンサーへの不法威圧および搾取疑惑を否認した。
今回の提訴は現在公判中の訴訟の一環で、そもそもの始まりは2022年10月にシン氏が恐喝と名誉毀損で元信者を訴えたのがきっかけだ(この信者は容疑を否認し、原告としてシン氏を反訴している)。華やかなTikTokダンス動画で数百万もの閲覧回数を集めている同社が「カルト」らしき運営をしているとの疑惑が浮上して1年、同社と幹部がダンサーから訴えられたのは今回が初めてだ。原告の7Mダンサーは、シン氏が牧師を務めるサンタアナのシェキナ教会の元信者でもあった(先の裁判に対する反訴という形で申し立てられた今回の訴えは、先ごろ3月17日に原告第一訴答の証拠として提出され、21日に担当判事より承認された)。
反訴状によると、シン氏は教会信者の生活を制限したり、多額の献金を要求したりしていた。「代理者」を立てて――「指導役」や「指導補佐」と呼ばれていた――信者を統制していたとも記載されている。これら代理者は「被告の代わりに信者から献金を集め、信者の銀行口座から送金し、信者の住居や日中の過ごし方まで指示していた」。シン氏は信者の健康管理にも干渉し、シェキナ教会のメンバーが勤務する新型コロナワクチンの診療所に信者を行かせていたが、そこでは「原告にワクチンを打つふりをして、実は腕の上にワクチンを射出していただけだった」という。
シン氏は信者にコロナ給付金を申請させ、最終的に10万ドルを集めたが、訴状によれば信者の代わりにシン氏が経営する企業が受け取ったという。反訴状には、「ロバート・シン被告はシェキナ信者から集めた献金で豪勢な暮らしをしていた」「ロバート被告の富の大半は、シェキナ信者の無償労働、または過剰な献金の上に成り立っていた」と記載されている。
2022年3月、同社が実は「カルト集団」で、所属ダンサーを家族や友人から引き離し、財産を管理していたとの疑惑がソーシャルメディアで出回り始め、ローリングストーン誌もこれを報じた。複数の情報筋がローリングストーン誌の取材に応じ、知り合いのダンサーがおかしなふるまいをし始め、7M社で働き始める以前のような付き合いを拒み始めたと語った。
当時、ローリングストーン誌のインタビューに応じた7M所属ダンサーは1人もいなかった。今では元ダンサー3人が原告に加わり、そのうち2人がローリングストーン誌の取材に応じて、シン氏と同氏の会社を訴えることにした決意を語ってくれた。「あそこには2年間しかいませんでしたが、(シン氏や)教会にのめり込んで苦しんだ2年間でした」。2020~2022年に7Mに所属していたヒップホップダンサー、カイリー・ダグラスさんはローリングストーン誌にこう語った。「もう誰も同じ目に遭ってほしくない。洗脳、心理操作、人格破壊――まやかしの希望に時間や労力、財産、人生の全てを捧げるようなことをしてほしくないんです」(これら容疑はすべて反訴状にも盛り込まれている)。
ダグラスさんは5年来の恋人でクランプストリートダンサーのオーブリー・フィッシャー=グリーンさんに連れられてシェキナ教会に入信し、7M社に所属したが、やがてすぐに脱会した。フィッシャー=グリーンさんが入会したのは2020年秋で、11月からは7M社の仕事もするようになった。反訴状には「7M社はすぐさまオーブリーさんの仕事を取り仕切った」とあり、シン氏がフィッシャー=グリーンさんのために会社を作らせ、税務担当者をつけたと記されている。200万人のTikTokフォロワーを抱えるフィッシャーさんが仕事を決めると、7M社が彼に代わってギャラを受け取り、20%の手数料を引いてからフィッシャーさんに渡すのが常だったという。のちにフィッシャーさんは、7Mが依頼主からもマネージメント料を取っていたことを知った。
訴えによると、7M社は他にもフィッシャーさんから金を巻き上げていた。2022年4月、フィッシャーさんは歌のプロモーション活動費と称して6000ドルをピンはねされた他、シェキナ信者から「高額の」撮影費も請求された。またシン氏の勧めで、シェキナ教会に収入の10%以上を寄付していたという。フィッシャー=グリーンさんがローリングストーン誌に語った話では、シェキナ信者は「与えた分だけ見返りも大きい」と教えられていたそうだ。反訴状には、「シェキナ教会に所属していた終盤には、オーブリーさんも虚無感を覚え、ロバート氏やシェキナ教の人々が隠し事をしていると感じ始めた」とある。彼は2022年8月に教会を脱会し、7M社との仕事も辞めた。
ダグラスさんとフィッシャー=グリーンさんがローリングストーン誌に語った話では、厳密にいえば信者が親しい人と教会の外で連絡を取るのは禁じられていなかったが、「控えるよう」言われていたという。訴状によれば、ダグラスさんが休日に家族に会いに行くと、教会信者の前で指導役から「ママのパイパイを吸いに行った」と言われた。ダグラスさんのまた指導役はシェキナ教のために予定を空けておけとしつこく迫り、ダグラスさんが税務処理を200ドルを払って信者にやってもらうのではなく、家族の友人に無償で頼むつもりだと言うと、「怒鳴りちらした」そうだ。
さらに反訴状によると、ダグラスさんとフィッシャー=グリーンさんがシン氏所有の賃貸住宅への入居を断ったため、シン氏から集会中に「怒鳴られた」という。反訴状いわく、「被告はオーブリーさんとカイリーさんを、シェキナ教と神に『従わない』信者として見せしめにしようとした」。
7M社はダグラスさんの仕事を減らし、彼女が組む7M所属ダンサーや、動画を撮影する日程を制限した。「カイリーさんは、フォロワー数の多いダンサーが先に投稿して注目を集めるまで、動画を投稿するのは待つよう指示された」。そのためにソーシャルメディアで露出を上げるのを「阻害された」と彼女は主張している。
ある時、反訴状で「とどめの一撃」と書かれている出来事があった。ジムにいたシン氏がダグラスさんに背中の整体マッサージをすると申し出たが、「後ろから腰を押し付けてきた」という。この一件について、彼女は性的暴行で訴えた。シン氏が「非常に崇められていたため」、教会を脱会するまではフィッシャー=グリーンさんを始め誰にも言えなかったが、その後警察にシン氏を通報した。
原告に加わった別のダンサー、ケヴィン・デイヴィスさん(通称「Konkrete」)の主張も、ダグラスさんやフィッシャー=グリーンさんと似通っている。デイヴィスさんいわく、7M社からは手数料を15%しかとっていないと聞かされていたが、実は20%ピンはねしていた。シェキナ教のために動画の振り付けを依頼された時も、ノーギャラだったという。デイヴィスさんは収入の30%を教会に献金し、教会の所有地で建築作業にも携わったが、やはり報酬が支払われることはなかった。入信から数か月後、デイヴィスさんは教会の方針に不満を募らせ、2022年7月に脱会した。
7M社が全国的に注目されるようになったのは2022年初め。有名なTikTokダンサー、ミランダ・デリックさんの家族が、7M社に加入して付属教会に入信したデリックさんと連絡が取れなくなったと、涙ながらに語る動画をInstagramに投稿したのがきっかけだった。「ミランダは宗教団体に入ってから、私たちと口をきかせてもらえないんです」。両親に挟まれてソファに座る妹のメラニー・ウィルキングさんは、動画の中でこう語った。デリックさんが7Mに加入し、当時付き合っていたBDashことジェームズ・デリックと結婚する以前、ウィルキング姉妹はTikTokのダンサーとして知られた存在で、2020年にはフォロワー数も200万人を超えていた。
当時7M社は弁護士を通じて、デリックさんが家族と疎遠になったのは家庭内の諍いが原因だと述べた。ウィルキング家の動画が出てから数週間、デリックさんやBDash、他の7Mダンサーも声明や動画を出し、7M社に対する疑惑を否定した。デリックさんと夫は今も同社と仕事を続け、この1年はミランダさんの家を訪れている画像を時々投稿している。
ローリングストーン誌が昨年3月に報じたように、7M社のオーナーであるロバート・シン氏はシェキナ教会の牧師でもある。裁判資料によると、シン氏はトロントからアメリカに移住した後、1994年に教会を設立した。シン氏は教会について、「平和的な宗教研究と普及活動を通じて、宗教的なメッセージを広めることを使命とする結束の固いキリスト教信者の小集団」としているが、同団体は過去にも揉め事を起こしている。2009年には元信者のリディア・チャンさんが、詐欺と労働法違反でシン氏を訴えた。チャンさんいわく、シン氏は「不法威圧、マインドコントロール、強制的説得、抑圧、その他威圧的戦術を行使して」彼女に380万ドルを献金させたという。また週6日、無償で強制労働もさせられていたそうだ。シン氏はまんまとチャンさんの主張に反論し、判事はシン氏に有利な判決を申し渡した。
ロサンゼルス州上位裁判所の資料によると、昨年10月にはシン氏が2人の元信者と、同氏や7M社をはじめとする同氏の会社の不正疑惑を投稿したソーシャルメディアのモデレーター3人を訴えた。訴訟では元信者のうち1人はシン氏の元恋人とあり、シン氏から関係を終わらされたことを根に持って恐喝し、その後モデレーターとグルになって名誉を貶めたとある。またシン氏、7M、シェキナ教会の不正を暴いたと主張したソーシャルメディアのモデレーター3人も訴えている。不正疑惑について、シン氏、7M、シェキナ教会はいずれも否定している。
今回の反訴にあたり、フィッシャー=グリーンさんはシン氏や7Mに盾突いたことで、自分に腹を立てる人間も出てくるだろうとほのめかした。それでも、訴訟をきっかけにシン氏の企業や教会から猿人が増えてくれればと期待している。「これ以上、友人にあそこにおいておくわけにはいかない」と本人。「あの男の近くにいてほしくないんです。嫌われようが、好かれようが、何をされても構わない。僕はただ、みんなにあの環境にいてほしくないだけなんです」。
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