かりんちょ落書きが指向する骨太なロック、自分の弱さや恥ずかしい部分を描く理由
Rolling Stone Japan / 2023年4月14日 12時0分
自由形ロックンポップスを掲げるシンガーソングライター・かりんちょ落書き。爽やかでキャッチーなメロディーと、ウルフルズやエレファントカシマシなどから影響を受けたという骨太なロックサウンドは、どこか懐かしくもあり、新しい。一方、歌詞は感情に直接訴えかけるような等身大の言葉で紡がれており、パワフルで暖かみのあるサウンドとともに聴く者を優しく包み込んでくれる。ポップなサウンドと、悲観的に描かれた歌詞の組み合わせは、人間の弱さや寂しさに寄り添い、最終的には希望へと導いてくれるようだ。
今回のインタビューでは、2023年4月5日(水)にリリースされた1stフルアルバム『レストラン』の収録曲について、彼が辿ってきた音楽的ルーツ、シンガーソングライターとしてのスタンスなど、多方面にわたって話を訊いてみた。
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ーかりんちょ落書きという名前はどういった由来でつけられたんですか?
僕の名字が仮屋なんですけど、名前を考えた時に「あいみょん」みたいな、1回聞いたら忘れない名前がいいなと思って。そしたら知り合いから「沖縄のうみんちゅって言葉から取ってかりんちゅはどう?」って言われて、ありかもって思ったんですけど、別に沖縄にルーツを持っているわけじゃないので「かりんちゅ」だとそのまま過ぎて沖縄の人に怒られそうだなと思って(笑)。それで「かりんちょ」って言葉になりました。それだけだと味気ないので何か自分に精通する言葉を組み合わせようと思って。絵描くのがすごく好きだったことから落書きって言葉を思いついて。今後の活動も落書きのように思い描いたように活動できたらなと思ったので、落書きという言葉をつけ加えて「かりんちょ落書き」になりました。
ーすごく語呂がいいですよね。
最初は絶対やめた方がいいってバッシングの嵐だったんですけど、貫いてやっていく中で徐々に浸透してきた感じはありますね。
ー元々バンドとして活動されていたんですか?
そうです。中学2年ぐらいからバンドをやっていたんですけど、だんだんメンバーのやりたいことが違ってきて解散することになって、そこからソロのプロジェクトを始めるようになりました。
ーシンガーソングライターとして活動しいくのは、バンドとはまたスタンスが違ってきますよね。
やっぱりバンドを組んだことによって色んな音楽への探求心や楽しみが増えたんですけど、活動していくにつれてそれぞれのプライドとかがぶつかり合うようになってしまって。それが正直個人的にはちょっと疲れてしまって、もっと自分が思い描くように曲を作りたいっていう思いが強くなっていったんです。今は自分が考えたものを形にできるようになって、バンドとは違った良さ、悪さがあると思います。
ー自分の中でもっと作り込んでいきたいっていう気持ちが芽生えていったんですか?
基本的にデモ段階で自分がやりたいことをある程度全部やって、それを完全にサポートメンバーの方に投げて作っています。やっぱりデモを作るという作業は1番重要視していますね。自分がやりたいことを崩さずにできるところが、シンガーソングライターの特権なのかなって気はしますね。
ーかりんちょ落書きさんの音楽ルーツについて教えてください。
僕は物心つく前の幼少期の頃、福岡に住んでいた時代に無意識の中で流れいてた音楽がスピッツと尾崎豊とGOING UNDER GROUNDでした。完全に両親が好きな人たちだったんですけど、メロディーや旋律を聴いてすごく心地よくて。もう好きとかそういう次元じゃなくて染み込んで来たものだったんですよね。それから中学生になってバンドメンバーと出会い、そこでザ・クロマニヨンズ、エルファントカシマシ、ウルフルズ、奥田民生さんとか、骨太で強固なロックに出会いました。
ー確かにサウンドからスピッツの爽やかさに加えて、ウルフルズや奥田民生さんとかのロックな部分を受け継いでいるなと感じました。あとメロディーに関して何か意識されていることはありますか?
誰っぽいって言われないように作ることを1番意識していますね。好きな音楽にはもちろん影響受けているんですけど、「かりんちょの曲って奥田民生っぽいよね」とか良い意味でも言われたくなくて。でも好きな音楽は自分の血とか骨にはなっているから、そこから自分からしか生まれてこないようなメロディを意識して曲作りをしていますね。
ー詞に関しては、どういうところからインスピレーションを受けることが多いですか?
僕は頭が悪いんですよ。色んなアーティストを聴いて「こんな風に言えたら素敵だな」とか思うんですけど、自分にそれを上手く落とし込めないんですよね。それをやると嘘くさく感じてしまうというか。面白い言い回しや言葉遊びに苦手意識があって。だったらもっとナチュラルな言葉で、頭に入ってくるんじゃなくて心に入ってくるように言葉を紡ごうっていう意識に変わりました。自分がステージで歌った時に、どれだけ自分の気持ちが言葉に乗るかを大事にしています。自分が感じている思いを誰かにも同じように感じてもらえるように、歌詞はより自分の気持ちが乗るように作るってことを大事にしていますね。そのせいで最近は歌詞がすごく重いってよく言われるんですけど、それが良さでもありある種コンプレックスでもあります。でも自分が今できることは、どれだけナチュラルに胸に届く歌詞を書くかだと思っています。
ー確かにナチュラルな言葉にも、心に響く深みがあるところが日本語の良さだと思います。
ナチュラルっていうのは、自然な言葉の方がいいなと思っていて。普段使わないような言葉だと、頭で一回考えないと理解しづらいと思うんですよね。自分も音楽を聴いている時に感情が揺れる曲ってナチュラルな言葉で語りかけてくる歌詞が多いので、そのまま僕も感じたように詞を書いていますね。
ーかりんちょ落書きさんの紡ぐ言葉は、人間の弱い部分やネガティブなところにもちゃんと寄り添ってくれているように感じました。
多分これは僕の根暗な性格からなんですけど、言葉を出していく時にどうしても自分の弱い部分が前に出てきてしまうんですよね。でも、きっと自分と同じように感じている人も絶対にいると思うから、そういう言葉を歌って自分の弱さを見せることで、弱っている誰かを安心させたいというか、少しでも寄り添えたらなって。全然希望じゃないんですけど、少しでもその人の近くにいれたらいいなって思います。
ー言葉自体は希望に溢れたものではないとしても、弱さに寄り添っていく中で最終的に希望に繋がっていくように感じました。
そうですね。絶対そのまま終わらせたくはないと思っていて。だから曲が終わるにつれて、その人にとっての明るい未来、明日への希望になって欲しいってことを絶対に曲を作る上でテーマにしていますね。
ー作詞のスタンスで影響を受けたアーティストや、好きな歌詞を書くアーティストはいますか?
エルファントカシマシやウルフルズは好きな歌詞が多いですね。近くにいてくれる存在の人がすごく好きなんですよね。でも普段あまり歌詞を意識して曲を聞かないんですよ。結構メロディーやサウンドを聴くことが多いので、あまり言葉が先に入ってくるっていうことはないですね。
ー歌詞よりもメロディーやサウンドを聴くというのは洋楽的な聴き方だと思うんですけど、洋楽のアーティストでよく聴いて影響受けた人はいますか?
洋楽も結構聴いてきて、最初に好きになったのはAC/DCですね。元バンドメンバーがすごいハードロック好きで、自分のお気に入りのプレイリストをCDで焼いて渡してくれたんですけど、どれも良くなくて(笑)。ハードロック無理だなと思っていたら、翌日そのCDを返そうとしたら「これも聴いてみてよ」ってAC/DCの『バック・イン・ブラック』ってアルバムを貸してくれたんですよ。別に期待せずにプレイヤーで聴いてみたら「これはめちゃくちゃかっこいい!」って思えて。それから洋楽をすごく聴くようになりましたね。ザ・フーやヴェルヴェット・アンダーグラウンドとかレジェンドの人たちを好んでよく聴いていますね。
ーシンガーソングライターとして活動されている中で、同世代のシンガーソングライターやバンドで意識したり、影響受ける人っていますか?
バンドの時からの付き合いで同い年にDUGOUT CANOEっていうバンドがいて、彼らとの出会いは自分にとって大きかったですね。ボーカルの大槻君は自分とも音楽性が近くて。その時僕がやっていたバンドは今とは全然違ってダンスナンバーが多いロックバンドだったですけど。彼はもっと言葉を大事にしていて。バンドを引っ張っていく彼の姿勢を見て色んなことを勉強させてもらいましたね。やっぱお互いにすごく意識し合っているから、ちょっとDUGOUT CANOEの方が調子良かったらめちゃくちゃ悔しいし逆も然りで。常に意識はしていますね。
かりんちょ落書きのライブ写真
ー今回リリースされる1stフルアルバム『レストラン』に収録されている11曲は、ご自身の中での自信作を選曲したんですか?
去年まで出していたシングルも最終的にはアルバムにしたいっていう思いで作っていたので、やっとそれがちゃんと1個の作品になったなという感じです。今までシングルとして出していた曲にプラスで3曲追加しました。
ータイトルの『レストラン』は、どういったところから付けたんですか?
レストランって言葉は飲食店っていうイメージが強いんですけど、それ以外にも再出発、再構築って意味もあって、それがすごく素敵だなと思ってタイトルにしました。自分もバンドを経て今シンガーソングライターになって、今までの形をある種ぶち壊して今新しく自分の形を作っているんですけど、その第一歩としてのアルバムっていう意味も込めてレストランという言葉を選びました。
ー今作のリード曲である「管制塔」。こちらの楽曲は、昨今の世界情勢であるロシアとウクライナの戦争を受けて作られたということで、かなりシリアスなテーマになっていますよね。
最初は全く戦争のことを考えてなかったんですけど、ウクライナとロシアの戦争が始まった時期がちょうど曲作りをしていた時で。そしたら母親から「もしかしたら、あなたにはこの戦争について歌う義務があるかもよ。あなたにはそれをできる力がある」みたいに言われて作ろうと思いました。六畳一間の部屋の中から歌っている歌だし、窓から空を見ているだけなんですけど、自分の気持ちとして、会えなくなってしまった人に向けて歌っているという気持ちもこの曲には込めて作りました。
ー戦争という重いテーマを歌にしていく中で、ナイーブな感情になりませんでしたか?
この曲を作っている段階では、それに引っ張られて苦しくなっちゃうみたいなことはなかったですね。あとは、この曲を歌っていく上で色んなことに結びつけばいいなと思っていて。別に自分からこの曲はこうだって言わなくてもいいと思うし、あまりそれを言いたくもないなって思いますね。この曲を聴いて、戦争を覚え浮かべる人もいるだろうし、もっと身近な人思い浮かべる人もいるだろうし。
ー歌詞を考える上で、そういった風に色んな解釈がある曲を作るということは意識されますか?
意識しますね。僕は言葉を繰り返して使うので、その言葉の感じ方は人それぞれでいいと思うし、時々によって違くていいと思っています。言葉がリフレインされる中で、その人にとっての何かを感じ取って欲しいなと思います。
ー今作にある新曲のひとつ「スマイル」。こちら楽曲はどういった時期に制作されたんですか?
「スマイル」を作った時は、結構どん底の状態で。色々と人間関係に疲れてしまい、内にこもっていた時期だったんですよ。かりんちょ落書きっていうプロジェクトを始めて、これからどうしていこうかなと思っていた時に、たまたまテレビでエレファントカシマシの新春ライブみたいのがやっていて。確か「ファインティングマン」を歌っていたんですよ。その歌っている姿にものすごく感化されて、涙が溢れ出てきてしまって。そのエレファントカシマシの映像を見て、「今までやってきたこと、今まで培ってきたものをそのまま出していけばいいんだ」って思えたんですよね。だから、この曲は自分にとっての希望にしたくて「スマイル」という言葉にしました。
ー「ピンク」という楽曲は、制作時のエピソードがすごく面白いですよね。
酔っぱらった帰り道、泥酔して起きたら電車の中でどこか知らない駅にいたんですよ。やっちゃったなぁと思いながらポッケに手を入れたら全く記憶のないピンク色の錠剤が出てきて。誰かが持っていて回り回って僕のポッケに入っちゃったのかな、これは誰が持っていたんだろう、この錠剤がもしかしたらその人にとってものすごく大事な薬だとしたら自分が持っていていいわけないなとか妄想がいっぱい膨らんだんです。その妄想をテーマに曲を書いてみようと思って作った曲が「ピンク」なんです。
ー妄想からどんどんストーリーが膨らんでいって曲になることは多いんですか?
個人的には妄想半分、実体験半分ぐらいの感覚ですかね。
ー「少年」という楽曲は、ご自身の青春時代の実体験から来ているんですよね。サビの歌詞にある「少年よペンを持て 一冊のノートを持て」っていうフレーズがとても印象的でした。
これは、今の10代の人たちに向けて作りたいなという思いがあって。自分は学生時代、勉強せずにずっと絵ばっかり書いていたんですけど。でもその時の落書きばっかりしていたことが多分今に繋がっているなって思ったんです。別に絵だけではなく、どうしようもないくらい何かをしたいっていう思いがあるんだったら、それをずっとやって欲しいっていう思いでこの歌詞を書きましたね。絶対に恥ずかしいことでもないし、むしろそれを好きだって思ってやり続けることが、その人の未来を変えていくんじゃないかなって思ったので。ま、僕はそれがまあ別に絵描きになったわけじゃないんですけど、なんとかペンだったなと思ったので。
ーそういった、その瞬間に感じた思いみたいなものを歌われている楽曲が、かりんちょ落書きさんの曲には沢山あるなと感じました。
その時に感じたことを忘れないうちに形にして昇華していきたいみたいなところはあるかもしれないですね。
ー今作に収録されている楽曲の中で、特に思い入れのある曲、制作に苦労された曲はありますか?
「スペード」という曲は唯一お題をもらって作った曲なんですよね。ライブハウス定期的にやっている弾き語りのイベントで、ひとつのテーマに沿ってその日出演する演者が曲を作ってくるっていうものがありまして。それで「スペード」っていうお題を出されて、色々考えても訳分からなくてイベントの2日前くらいまで書けなかったんですよ。もうめちゃくちゃ適当な曲にしてしまおうかなとか思うくらい。そんな時にスペードって反対にしたらハートに形が似ているなって気づいて。でも歪な形でハートではないな、みたいなことを思い浮かんだんですよ。そこからスペードから連想した、ハートにはなれない存在みたいなものを自分の中で1個テーマに置いてラブソングを作ろうと考えたんです。それが決まってから歌詞ができるのはすごく早かったんですけど、それまでが煮詰まりすぎて。あと締め切りが決まっていたのもあったんで苦労しましたね。
ー「昼中電車」は、くるりに影響受けて作った楽曲になっているんですよね。
くるりって独特の雰囲気、空気感があるじゃないですか。いつでも聴ける安心感があるというか。僕は『NIKKI』というアルバムがすごく好きなんですけど。くるりみたいにどの場面にも浸透するような、色んな色を持っている曲を作りたいなと思ってできたのが「昼中電車」という曲ですね。
ー今回のアルバムのラストに、「又、風呂に入れない夜」という楽曲を持ってきたのは、何か意図があるのでしょうか?
この曲は、形にしてく中でものすごくカロリーが高い曲になってしまって、最後以外には組み込めないと思ったので必然的にラストの曲になりました。逆に、楽曲の盛り上がりや、曲単体でのエネルギーみたいなものは1番あると思っているので、この曲が最後にある形が1番綺麗かなとも思いました。
ータイトルそのままからしても、無気力さみたいな部分が表れていますよね。
まさにその通りで、この曲は自分自身が沈んでいたタイミングとも重なっていて。普段から携帯に歌詞を書き留めているんですけど、恋愛がうまくいってない時に無意識に書き留めていた言葉を後日見返していたらこのタイトルの言葉が出てきたんですよね。ただ「風呂に入れない」って繰り返しているだけなんだけど、なぜか自分の目に留まって。そこから広がってできた曲ですね。
ー今作のフルアルバム全体を通して、リスナーの方に届けたい思いを教えてください。
僕の歌詞は、どちらかというと悲観的で弱気な歌詞が多いので、自分の弱さや恥ずかしい部分を変えたいっていう多くの人が抱える気持ちに寄り添えると思ったんです。あと寂しい気持ち、どうしようもない気持ちにも寄り添えるような曲になればと思い作りました。でも曲調は明るくてロックな曲が多いので、言葉との対比だったり、アンバランスな感じも楽しめる作品になっていると思います。
ー今後シンガーソングライター・かりんちょ落書きとして、どういったアーティストを目指していきたいですか?
やっぱり、星野源さん矢沢永吉さんのような伝説を目指していきたいですね。あそこまで行けたら気持ちいいだろうなぁと思います。
ーかりんちょ落書きさんが作る1つ1つの曲は、決して今の流行りに縛られているわけじゃなく、長い日を超えて愛されていくような気がします。
それは言っていただけることが多くて、僕はあまり意識したことはないんですけど。すごいラッキーで嬉しいなと思いますね。でも確かに自分が好きな、ザ・ブルーハーツ、ザ・クロマニヨンズ、奥田民生さんやウルフルズとかが作る音楽は、どの時代でも聴いているっていう印象はあって。そういうところに影響受けたから、自分も自然にそういう風に曲を作っているんだと思います。
<リリース情報>
かりんちょ落書き
1stアルバム『レストラン』
2023年4月7日(金)リリース
価格:2750円(税込)
=収録曲=
1. 溶け合うくらい
2. dari
3. 海が満ちる
4. 少年
5. ピンク
6. スマイル
7. (SANPO Brake)
8. 昼中電車
9. スペード
10. 管制塔
11. 又、風呂に入れない夜
配信リンク https://linkcloud.mu/2f8bcfc8
アルバム購入ページ https://tower.jp/item/5697141
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