さかいゆう4年越し野音ライブを総括 「春の嵐」も味方につける2部構成・3時間の熱演
Rolling Stone Japan / 2023年4月12日 19時0分
シンガーソングライターのさかいゆうが4月8日、東京・日比谷公園野外音楽堂にてワンマンライブ『SAKAI YU ”LOVERS” CONCERT 2023 in YAON』を開催した。
2019年『さかいゆう 10th Anniversary Special Live ”SAKAIのJYU”』を開催したのち、2020年、2021年と2回の中止を乗り越え、彼にとっては実に4年越しに実現した「野音」。この日は2部構成となっており、第1部ではサポートメンバーにMasa Shimizu(Gt)、菅野知明(Dr)、種子田健(Ba)を迎えて自身のオリジナル曲を披露した。そして途中に休憩を挟んで始まった第2部ではorigamiPRODUCTIONの面々をゲストに迎え、昨年11月にリリースしたカバーアルバム『CITY POP LOVERS』からの楽曲を中心に演奏するという、実にボリュームたっぷりの内容となった。
この日はあいにくの雨。夕方になってぐっと冷え込み、開演を待つ間も激しい風が容赦なく体温を奪っていく。定刻となり、サポートメンバーとともにステージに現れたさかいが、ふりしきる雨の中でレインコートを着込み待つオーディエンスに向かって開口一番、「すいません!」と挨拶すると、寒さで震えていた人々からようやく笑顔が漏れた。ステージの上に配置された楽器やアンプはすでにびしょ濡れで、鍵盤にたまった雨水を大きめのタオルでゴシゴシと拭きながら、それで放たれる音さえも「演奏」に変えていくさかいの姿に大きな歓声が湧き上がる。まずは2ndシングル『まなざし☆デイドリーム』でこの日のライブはスタート。続くデビューシングル「ストーリー」では、続く「ストーリー」(アルバム『Yes!!』収録)では、”僕らのストーリー”と歌うところを”野音のストーリー”と歌うなど、「野音仕様」の演出に喜びの声が上がった。
Photo by Atsuki Iwasa
Photo by Atsuki Iwasa
Photo by Atsuki Iwasa
雨は一向に止む気配がなく、ライブが始まって早くも数曲で楽器や機材のセッテイング位置を後ろにずらすなどのハプニングもあったが、その間に予定していなかった「サウナでのエピソードトーク」が始まったり、「雨上がらないかな……」と呟いたかと思いきや、”雨上がりの〜♪”と小田和正「たしかなこと」の一節を突然歌い出す一幕があったり、こんな天候だからこそのサプライズも随所に散りばめられた。
雨煙で白く煙ったステージがまさに曲名通りとなった「煙のLADY」を経て「リベルダーデのかたすみで」では、まるで『Inner Visions』期のスティーヴィー・ワンダーが降臨したかのような、ジャジーかつファンキーなエレピソロをエンディングで披露。降りしきる雨と強風が、その演奏をドラマティックに演出していたのも印象的だった。
「今日は皆さんの『声』を聞くのが目標なんで。雨対策はしっかり、マスクはご自由に。苦しかったら外してもいいですからね」
Photo by Atsuki Iwasa
Photo by Atsuki Iwasa
予報では「18時には雨も上がる」とあったが一向に止む気配なし。気温も4月とは思えぬほど冷え込んできて、ともすれば心が折れそうになるオーディエンスに向かい、ねぎらいの言葉をかけるさかい。ここで本日最初のゲスト、シンガーソングライターのMichael Kanekoが登場し、二人で「Get It Together」をファンキーに歌い上げた。Michael Kanekoによるハードロック仕込みの速弾きギターと、さかいのエレピが熱いソロバトルを繰り広げると、一瞬弱まっていた雨が再び激しい風と共に呼び戻された。
第1部の後半は「嘘で愛して(Tell Me a Lie)」、「愛の出番」と、ピアノをフィーチャーした優しくも力強いバラード曲を続けて演奏。途中ピアノのインプロビゼーションでは、先日逝去した坂本龍一の「Merry Christmas Mr. Lawrence」を思わせるフレーズを差し込むなど、彼への追悼の意を「音楽」で表現するさかい。一瞬空を仰ぎ、両手の人差し指を力強く天に向けていた姿が印象的だった。
続く「君と僕の挽歌」で、”淋しさは続くだろう この先も/思い出 増えない/でも輝いてる””別れの瞬間も なぜだろう?/悲しみよりも 「ありがとう」がこみ上げてきたよ”と歌う歌詞も、まるで教授への弔辞のように感じられる。”優しい苦笑いを 思い出す”という一節すら教授のことを歌っているように感じてしまい、ついついしんみりしていると、「終わると見せかけてー!」とさかいの陽気な叫び声が。第1部の最後は「さかい流ゴスペル」とも言うべき「薔薇とローズ」を力強く歌い上げた。
第2部 origami PRODUCTIONと夢の共演
第2部は、さかいがorigami PRODUCTIONの面々と共に作り上げたシティポップの名曲カバー集『CITY POP LOVERS』を、そのorigami PRODUCTIONのミュージシャンたちと共に再現するスペシャルライブ。mabanua(Dr)、Shingo Suzuki(Ba)、関ロシンゴ(Gt)というOvallのメンバーに、Michael Kaneko(Gt, Cho)、さらさ(Cho)、Hiro-a-key(Cho)が加わった賑やかな編成で、まずはアルバムでも冒頭を飾った山下達郎「SPARKLE」から。歯切れの良いイントロのギターカッティングが野音の空を切り裂き、さかいの伸びやかで力強い歌声が会場いっぱいに広がると、フロアのあちこちから歓声が上がった。
続いて披露されたのは、「ムッシュかまやつ」ことかまやつひろしによる和製レアグルーヴのマスターピース「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」のカバー。抑制の効いたOvallのリズムセクションと、さらさとHiro-a-keyによるクールなコーラスワークが、まるで青白い炎のようにじわじわと会場を盛り上げていく。そして、「きっと、みんながこの編成で聴きたいと思っている曲をやります」というさかいのMCに続いて演奏したのは、オリジナルラブ「接吻」のカバー。Ovallは2021年、本家とすでにこの曲をコラボしており、まさに「お墨付き」のアンサンブルでさかいの歌をしっかりと支えた。
Photo by Atsuki Iwasa
その後も曲ごとに楽器編成を変えながら、『CITY POP LOVERS』でカバーした楽曲を中心に披露。竹内まりや「プラスティック・ラブ」のカバーは、音数を極限まで減らしたOvallのミニマルなアンサンブルが、さかいのビロードのようなファルセットボイスを引き立てる。かと思えばブレッド&バター「ピンク・シャドウ」では、さかいとMichael Kanekoが息の合ったハーモニーを日比谷の空に響き渡らせ、Nenashiを迎えた鈴木雅之「夢で逢えたら」のカバーでは、アブストラクトなヒップホップビートに乗せて、さかいとHiro-a-keyがアーバンでシルキーな掛け合いボーカルを披露した。
個人的に白眉だったのは、Michael Kaneko、さらさを迎えたはっぴいえんど「風をあつめて」のカバーだ。Michael Kanekoのアコギとさかいのエレピのみのシンプルな伴奏により、3人それぞれが持つ唯一無二の歌声を存分に堪能することができた。
Photo by Atsuki Iwasa
気がつけば雨もだいぶ小降りに。しかし凍えるような寒さは相変わらずで、ステージにいるミュージシャンたちもみな辛そうだ。「もう、(寒さで?)頭が痛いから激アツな曲をやります!」とさかいが叫び、赤いライティングの下で鈴木茂「砂の女」をカバー。曲のエンディングでは、ラテン風味のリズムに乗って関ロが延々とギターソロを披露してみせた。
さらに、さかい曰く「「プラスティック・ラブ」と双璧をなす、シティポップの名曲」である「真夜中のドア」を、Masa Shimizu、Shingo Suzuki、関ロシンゴという編成でカバーし本編は終了。アンコールでは、今年3月に逝去したボビー・コールドウェル「What You Won't Do For Love」のカバーをエレピで弾き語り、「これで終わるの寂しいから,あともう一曲聴いてもらおうかな。ほいたら、全員来なさい!」と、この日の出演ミュージシャン全員をステージに呼び込み、シュガー・ベイブ「DOWN TOWN」を総勢10人でカバー。途中、まるでエレクトリック・マイルスのような阿鼻叫喚のジャズファンクを展開し、再び曲に戻るとこの夜一番の大歓声が起きた。
「春の嵐」の中で披露された、およそ3時間に及ぶステージ。悪天候をも吹き飛ばすような、否、むしろ悪天候さえも味方につけるような素晴らしい演奏と歌に酔いしれた一夜だった。
Photo by Atsuki Iwasa
SAKAI YU ”LOVERS” CONCERT 2023 in YAON
セットリスト
●第1部
01. まなざし☆デイドリーム
02. ストーリー
03. 煙のLADY
04. リベルダーデのかたすみで
05. Get it Together
06. 嘘で愛して(Tell Me a Lie)
07. 愛の出番
08. 君と僕の挽歌
09. 薔薇とローズ
●第2部
10. SPARKLE
11. ゴロワーズを吸ったことがあるかい
12. 接吻
13. プラスティック・ラブ
14. PINK SHADOW
15. 風をあつめて
16. オリビアを聴きながら
17. 夏のクラクション
18. 夢で逢えたら
19. やさしさに包まれたなら
20. 砂の女
21. 真夜中のドア〜stay with me
●アンコール
22. What You Won't Do For Love
23. DOWN TOWN
プレイリスト:https://lnk.to/yusakai_yaon2023_setlist
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
革新と普遍を併せ持つ10組の共演、「ツタロックDIG LIVE vol.16」現地レポ
Rolling Stone Japan / 2024年11月25日 18時0分
-
iScreamが語る、一人ひとりの「歌姫」がグループとして放つ輝き
Rolling Stone Japan / 2024年11月19日 17時30分
-
トム・ヨーク立川に降臨 レディオヘッドの名曲も披露、集大成ツアーで見せた「劇的に美しい内面世界」
Rolling Stone Japan / 2024年11月18日 14時25分
-
BRAHMANが示したロックバンドの真髄 唯一無二の「形式」は4人の意識とともに進化
Rolling Stone Japan / 2024年11月14日 18時0分
-
Little Black Dress、キングレコード移籍を発表 移籍第1弾11・22リリースへ
ORICON NEWS / 2024年11月5日 12時55分
ランキング
-
1「松本人志の復帰」熱望する芸人たちの“気持ち悪さ”。娘をもつ父親、『虎に翼』主演女優の兄までなぜ
女子SPA! / 2024年11月27日 15時46分
-
2【独自入手】「非情すぎる」藤原紀香、篠田麻里子が所属の大手芸能プロが破産!タレントに届いた“絶縁状”
週刊女性PRIME / 2024年11月27日 18時5分
-
3「歴史から抹消するのね」NHKが紅白特番からSMAP排除、「忖度するな」ジャニファンから批判殺到
週刊女性PRIME / 2024年11月27日 18時0分
-
4《マンションの一室に消えて…》俳優・岸部一徳(77) 妻ではないショートカット女性と“腕組みワインデート”年下妻とは「10年以上の別居生活」
NEWSポストセブン / 2024年11月27日 11時13分
-
5美しき古装姿でブレイクしたシュー・カイが現代ドラマでも放つ魅力(※ネタバレあり)
Rエンタメディア / 2024年11月27日 12時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください