リンキン・パーク『Meteora』20周年、ヘヴィロックから生まれた新たな価値観と普遍性
Rolling Stone Japan / 2023年4月12日 18時30分
リンキン・パークの2ndアルバム『Meteora/メテオラ』は言わずと知れた傑作だが、そうした評価が批評的な面でもなされるようになったのは近年になってからであるように思われる。
【動画を見る】リンキン・パーク「Lost」ミュージックビデオ
2003年の発表当時も概ね好意的な反応を得てはいたが、音楽スタイルが1stアルバム『Hybrid Theory』に似ている、そのパート2に過ぎないという見方も少なからずあったし、出自であるヘヴィロックの界隈からは、ポップさを増したという印象から”シリアスなバンドではない”とする声も多かった。しかし、以降の音楽シーンに与えた影響は絶大で、ブリング・ミー・ザ・ホライズンやマシンガン・ケリー(『Meteora』収録の名曲「Numb」を引用した曲もある)、ONE OK ROCK、ビリー・アイリッシュやザ・ウィークエンドなど、2010年代を代表するアクトの多くがこの時期のリンキン・パークからインスピレーションを得ている。
また、ヒップホップ寄りだったHybrid Theory(前身バンド)期からロック寄りになりポップさを増していく音楽的変遷は、ヒップホップからエモラップが生まれていく2010年代の流れにも通じるものがある。本作の真価は2023年の今でこそよく見えるようになっているのかもしれない。『Meteora: 20th Anniversary Edition/メテオラ: 20周年記念盤』は、それを振り返るにあたっての絶好の機会と言えるだろう。
リンキン・パークの1stアルバムは全世界で3000万枚以上の売上を達成しているが、それは『Hybrid Theory』というタイトル通りの音楽性によるところが大きいように思われる。例えば、前身バンド期の同名EPに収録された「Step Up」(2パックの「I Get Around」をサンプリング)には以下のようなくだりがある。
And rapping over rock doesnt make you a pioneer
(ロックにのせてラップしていてもパイオニアにはなれない)
Cause rock and hip-hop have collaborated for years
(なぜならロックとヒップホップは長きにわたりコラボレーションしてきたんだから)
リンキン・パークは、ア・トライブ・コールド・クエストやパブリック・エネミー、ビースティ・ボーイズといったヒップホップグループからも影響を受けており、こうしたコラボレーションの歴史的文脈を把握しつつ、双方のジャンルのエッセンスを汲み取り掛け合わせている。メロディとラップのツインボーカル(チェスター・ベニントンとマイク・シノダ)体制というだけでなく、バンドのグルーヴ表現やビートのバリエーションも豊か。それを後押しするのがニューメタル方面からの影響で、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやリンプ・ビズキットといったラップメタルはもちろん、ジェーンズ・アディクションやアリス・イン・チェインズ、ナイン・インチ・ネイルズといったゴシックの薫りあふれるバンドからも多くを得ている。
そうした数多の音楽語彙を融合しわかりやすく解きほぐした楽曲には、ロックまたはヒップホップといった特定の領域に留まらない訴求力がある。だからこそ様々なジャンルの音楽ファンに受け入れられ、莫大な売上を得ることができたのだろう。『Meteora』ではこうした方向性がさらに推し進められており、「Nobody's Listening」ではJay-Z feat.ノトーリアスB.I.G.「Brooklyn's Finest」と自身の「High Voltage」をサンプリングして巧みに融合、そしてJay-Zとは翌年に「Numb/Encore」で歴史的共演を果たしている。2000年代初頭におけるジャンル間クロスオーバーを象徴する作品なのである。
オルタナティブ・メタルの一つの完成形
これに加えて重要なのが、メンタルヘルスの問題を積極的に扱った歌詞だろう。メタルやハードコアパンク、そしてヒップホップの世界では、この当時はまだ自身の内面の弱みを曝け出す表現は主流ではなかった。KORNやナイン・インチ・ネイルズは90年代の活動初期からそうしたテーマに取り組んではいたが、そうしたジャンルが引き継いできたマスキュリニティ、重低音からも醸し出される男性的な圧力が少なからず滲んでいたように思う。リンキン・パークの音楽ではそうした要素が(完全にではないにせよ)明らかに薄められており、その上でメタル系譜のバンドサウンドに求められるエッジも必要十分に活かされている。特に『Meteora』では、チェスターの声の魅力(強靭だがアタックが強くなりすぎない絶妙な発声)をさらに前面に出すべく、シャウトにおける歪みのかけ具合が全体的に減らされているのだが、それが歌詞のテーマにも見事にマッチ。「From the Inside」「Easier to Run」「Breaking the Habit」といった曲名が示す内省的な表現を素晴らしい力加減でこなしている。
これは出身ジャンルのファンには”軟弱になった””ポップになってセルアウトした”と見なされても仕方のない変化かもしれないが、旧来のメタル/ハードコアにはあまりなかった類のヘヴィさが新たに生まれているし、そこには先述の音楽的豊かさと同様、特定の領域に留まらない訴求力がある。本作が2700万枚以上の売上を達成できた背景にはこうした要素も少なからず関係しているのではないだろうか。『Meteora』というタイトルの由来はギリシャにある岩石郡で、それらが持つ壮大な存在感にあやかり同じ感覚を持たせたかったことから採用されたとのことなのだが、その割にメタルやハードコアの界隈に付きまとうマスキュリニティの気配は強くない。そして、それは以降のロック全般の在り方に影響を与えているし、2010年代のエモラップにそのまま通じる音楽性をこの時点で完成させてもいる。90年代までに築き上げられたオルタナティブ・メタルを総括しつつ、以降の展開を新たに導いた音楽。『Meteora』は、そうした歴史文脈の結節点としての意義を体現する作品でもある。
『Meteora』リリース当時のリンキン・パーク
タイムレスな魅力を放つ理由
その上で、2023年のいま聴いて興味深いのがアルバムの構成だろう。80以上の候補曲から絞り込まれた13曲36分という短めのパッケージは、ストリーミングサービスが普及して長尺のアルバムが敬遠されるようになってきた昨今の傾向にも非常によくなじむし、その上で曲の並びも非常に良い。今回の20周年記念盤には未発表曲「Lost」が収録されており、ミックスまで完成した上で外されたこの曲はクオリティ的には本編の13曲に引けを取らないのだが(今年2月10日にYouTubeに公開されてから2カ月で3300万回以上再生されている)、他の曲に比べるとエモーショナルな湿度は微妙に高めで、この曲を入れると全体の流れに少し起伏が増えることになる。その点において確かに外した方が完成度は高いのだろうし、アルバムの構成がいかによく考え抜かれているかということを逆説的に示してもいるだろう。様々な表情を見せながら淀みなく流れ、程よい余韻を残して冒頭からのリピートを喚起する。先述の歴史的な意義とはまた別に、個の作品として完成されている点においてタイムレスな魅力を放つアルバム。本作が大きな影響を与え続けることができた理由は、このあたりにもあるのではないかと思う。
そして、この20周年記念盤は追加収録のデモ(Disc2)やライブ音源(Disc3)もとても良い。例えば、本編には採用されなかった「Sold My Soul to Yo Mama」は、レゲエとヒップホップを混ぜた上でニューメタル的なアタックを加え引き締めた感じのグルーヴが面白いし、本編にも採用された「Faint」も、デモではシンセのループとポストパンク的なビートが初期のザ・キュアーを連想させるなど、決定稿としてのアルバムver.では見えづらくなっている隠し味的な要素を堪能できる。また、「Lying from You」のライブ音源では、アリス・イン・チェインズにそのまま通じるドゥーミーな引き摺り感とヒップホップ的なフロウ/バウンス感が理想的な融合をみせているし、ナイン・インチ・ネイルズのカバー「Wish」では、原曲のニュアンスを把握した上で滑らかさを増したグルーヴ表現がとにかく素晴らしい。このバンドの地力と創意を様々な角度から知ることができる充実したパッケージ。未聴の方はこの機会にぜひ手に取ってみてほしい。
【関連記事】マイク・シノダが語る、ソロワークスとリンキン・パーク『Meteora』20周年
『Meteora: 20th Anniversary Edition/メテオラ: 20周年記念盤』
リンキン・パーク
ワーナーミュージック・ジャパン
発売中
https://linkinparkjp.lnk.to/Meteora_20
3CD国内盤:
https://wmg.jp/linkin_park/discography/27468/
Super Deluxe Box Set:
https://wmg.jp/linkin_park/discography/27433/
リンキン・パーク オフィシャルHP:
https://www.linkinpark.com/
リンキン・パーク Discord:
https://discord.com/invite/linkinpark
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
RAZOR・IZA バンド愛と武道館への夢「ダサくても口に出す」【ソロインタビュー連載第4回】
スポニチアネックス / 2024年11月24日 11時1分
-
35周年の真心ブラザーズが19枚目アルバム、円熟のギター…「スピード」から「急がず」
読売新聞 / 2024年11月23日 16時16分
-
アニマル・コレクティヴの衝撃 「人生を変えた」二大傑作とあまりにも濃密な5年間
Rolling Stone Japan / 2024年11月14日 17時45分
-
【ライブレポート】和と洋の融合が神々しいTMG 20年ぶりに感じた松本孝弘の存在感とバンドの結束力
ORICON NEWS / 2024年10月30日 11時0分
-
リーグ・オブ・レジェンドの世界大会「2024 World Championship」決勝のオープニングセレモニーに『LINKIN PARK』、『Ashnikko』など豪華アーティストが出演!
PR TIMES / 2024年10月30日 10時15分
ランキング
-
1「歴史から抹消するのね」NHKが紅白特番からSMAP排除、「忖度するな」ジャニファンから批判殺到
週刊女性PRIME / 2024年11月27日 18時0分
-
2「ペトロールズ」の河村俊秀さん急死 45歳 自宅で倒れ…「深い悲しみの中におります」
スポニチアネックス / 2024年11月28日 1時35分
-
3「有働Times」好調で囁かれる「報ステ」禅譲説 日テレからの“一本釣り”はテレ朝・早河会長の肝いり
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月27日 9時26分
-
4【独自入手】「非情すぎる」藤原紀香、篠田麻里子が所属の大手芸能プロが破産!タレントに届いた“絶縁状”
週刊女性PRIME / 2024年11月27日 18時5分
-
5「楽天は終わった」と田中将大を擁護の球団OBに「プロなら減俸は当然」と冷静ツッコミ
週刊女性PRIME / 2024年11月27日 19時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください