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ビョーク来日公演を総括 過去に例のないシアトリカルな非日常空間

Rolling Stone Japan / 2023年4月27日 17時30分

Photo by Santiago Felipe

大いに評判となったビョーク(björk)6年ぶりの来日公演。音楽ライター・新谷洋子による3月28日のレポートをお届けする。

【画像を見る】ビョーク来日公演 ライブ写真(全30点)

例年より早い桜の開花と共に、ビョークが6年ぶりに来日。3月20~31日の間に、『orchestral』と『cornucopia』と題されたそれぞれに趣向の異なるコンサートを2公演ずつ行ない、ライヴ・パフォーマーとしてのスケールを改めて見せつけた。このうち『orchestral』では32人編成のストリング・オーケストラと彼女のヴォーカルだけでグレイテスト・ヒッツ的なセットを披露し、”ビョーク・アンプラグド”と呼ぶべきスタイルをとったのに対して、『cornucopia』は2017年11月に発表したアルバム『Utopia』にフォーカスし、アルバムの世界をステージの上に表現。計20曲のセットの半数が同作の収録曲によって占められ、自分が描くユートピアそのものをテクノロジーとイマジネーションを駆使して作り上げた、と言うべきなのかもしれない。結果的には、40年近くにわたるキャリアを振り返っても過去に例のない、『Biophilia Live』以上にコンセプチュアルで、かつ極めてシアトリカルな試みとなり、我々オーディエンスは2時間にわたってその非日常空間に完全に没入したのである。


Photo by Santiago Felipe


Photo by Santiago Felipe

そもそもビョークが、『Utopia』で重要な役割を担ったフルート、エレクトロニクス、パーカッションという編成で、シンプルに『Utopia Tour』と題されたツアーをスタートしたのは2018年4月のことだ。以後4カ月間に11公演を行なったのち一旦休止し、翌年5月にその進化形として『cornucopia』をニューヨークにてローンチ。新たにアルゼンチン人の映画作家ルクレシア・マルテルを監督に迎え、デジタル・アーティストのトビアス・グレムラーによるデジタル映像、バルマンのオリヴィエ・ルスタンらが用意した衣装、英国の演劇界で活躍するキアラ・スティーヴンソンによるセット・デザイン、アイスランド人ダンサーのマルグレット・ビャーナドッティルによる振付で、マルチメディア・スペクタクルへとスケールアップさせたのである。

その後2019年内に21公演、パンデミックを挿んで2022年初めに5公演を行ない、ここにきていよいよ日本に上陸した『cornucopia』。この間に最新作『Fossora』をリリースしたことでさらにアップデートされ、同作から2曲(「Atopos」と「Ovule」)がセットに加わった。日本初演にあたる28日、開演前の東京ガーデンシアターのステージを覆うスクリーンにも『Fossora』のジャケットの延長にあるヴィジュアルが映し出され、『Utopia』にフィーチャーされた鳥たちのさえずりが響き渡り(フランス人の鳥類学者ジャン・C・ロシェによってベネズエラで採集された)、ふたつのアルバムの世界が交錯している。

音と色彩と光を司るクイーン

そして開演時間になると、まずは日本から『cornucopia』に参加した、男女混声の合唱団サマディが登場。ミニ・オープニング・アクトとして、大胆なアレンジを施した『さくらさくら』や八木節を聞かせ、いよいよ本編が始まる。オープニング曲は『Utopia』への入り口だったシングル曲「The Gate」だ。この夜は、noir kei ninomiyaのドレスとヘア・アーティストの河野富広が手掛けたヘッドピースで日本の才能をオマージュしていたビョークを取り巻くのは、『Utopia Tour』の時と変わらず、アルバムでも起用した7人編成のアイスランドの女性フルート・アンサンブルViibra、ハープ奏者のケイティ・バックリー(アイスランド・シンフォニー・オーケストラの首席チェリストでもある)、エレクトロクスを一手に引き受けるほか多数の楽器を弾きこなす、やはり同郷のベルガー・ソリソン(『Fossora』でエンジニアを務めた)、『Biophilia Live』以降毎回ツアーに参加しているオーストリア出身のハングドラム奏者/名パーカッショニストのマヌ・デラーゴという、4組のミュージシャン。曲によってサマディも歌声を添え、「Atopos」では共作者であるガバ・モーダス・オペランダイのカシミンが、トモコイズミによるレインボー・カラーの衣装で姿を見せた。


Photo by Santiago Felipe


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Photo by Santiago Felipe


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またステージ上には、『Fossora』のヴィジュアル・インスピレーションでもあるキノコを象ったプラットフォームを、高低差をつけて配置。ゆらゆら揺らいでいる可動式のロープ状のカーテンも相俟って奥行きのある空間が作り出され、そのカーテンやステージの左右のスペースも用いて映像をダイナミックに投影する。植物や人間の体をモチーフにした艶めかしい映像は音楽と完全にシンクロして躍動し、シンクロと言えば、Viibraの面々はダンサーも兼任。踊りながらフルートを奏でる様子はユートピアの精さながらで、「Pagan Poetry」や「Isobel」といった旧作からの曲も彼女たちのフルートとダンスによってセンシュアルに生まれ変わっていた。他方の「Body Memory」では、ビョークを包み込むようにして環状につないだ4本のフルートを4人が同時に演奏するという演出で驚かせたが、マヌのほうも、各曲にリズムのアイデンティティを与えるようにして古今東西の様々なパーカッション楽器をプレイ。「Blissing Me」では巨大な水槽の中にカラバッシュ(瓢箪で作ったマリの伝統楽器)を浮かべて、それらを打ち鳴らしたり、水をすくってはこぼしてサウンド・テクスチュアを構築したり、環状フルート共々、『Biophilia Live』 の時と同様にビスポーク楽器でもオーディエンスを楽しませる。


Photo by Santiago Felipe


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そんな中でビョークは、音とムーヴメントと色彩と光を司るクイーンのごとく君臨し、自然との共生、家父長制の罪、全能の愛といった『Utopia』の多岐にわたるテーマを歌で束ねていく。『Medúlla』からの「Show Me Forgiveness」など、曲によってはステージの左奥に設置された繭型のリヴァーブ・チェンバー(彼女の細かなリクエストに則って作られたビスポーク装置で、国際的なエンジニアリング・コンサルティング会社のアラップと共同で開発)に入って歌い、限りなくナチュラルなリヴァーブ効果は、どこかプライベートな空間から漏れ聞こえる声に耳を傾けているような錯覚に陥らせる。

最後に届けられた、壮大な愛の賛歌

そして彼女は、機能不全に陥っている現在の社会のシステムを取り除き、世界をまっさらな状態に戻して子どもたちに引き継ぎたいと願う「Tabula Rasa」で本編を終えるが、アンコールでこの曲へのアンサーを提供するのが、映像で登場するお馴染みの環境活動家グレタ・トゥーンベリだ。グレタは地球温暖化の危機に対処しようとしない大人たちへの怒りを露わにし、やるべきことを見極めて行動を起こせば変化は訪れると訴え、次いで衣装を変えて現れたビョークは、「Future Forever」で彼女のメッセージを引き継ぐ。より良い未来を想像し、女性の力でそれを形にしよう――と。

が、これがフィナーレかと思いきや、セットを締め括ったのは、『orchestral』でも聞かせてくれた「Notget」だった。『Vulnicura』が描く悲劇の最終章であり、癒えない傷を抱えながらも”Love will keep us safe from death(愛は死から私たちを守ってくれる)”と宣言する、壮大な愛の賛歌だ。全キャリアで最も野心的なパフォーマンスの終わりにごくシンプルなメッセージを残して、ビョークはステージをあとにしたのである。


Photo by Santiago Felipe


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【画像を見る】ビョーク来日公演 ライブ写真(全30点)


〈セットリスト〉
1. The Gate
2. Utopia
3. Arisen My Senses
4. Ovule
5. Atopos (feat. Kasimyn of Gabber Modus Operandi)
6. Show Me Forgiveness
7. Isobel
8. Blissing Me
9. Body Memory
10. Hidden Place
11. Mouth's Cradle
12. Features Creatures
13. Courtship
14. Pagan Poetry
15. Losss
16. Sue Me
17. Tabula Rasa
(アンコール)
18. Future Forever
19. Notget

Cornucopia includes digital visuals created by media artist Tobias Gremmler, Andy Huang, Nick Knight, M/M, stage design by Chiara Stephenson, the flute septet Viibra, clarinet players, a harpist, percussions, electronics and a number of bespoke instruments implemented in the innovative surround sound stage design including a custom reverb chamber.

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