この映画がヤバい──FBIと当局が「テロ攻撃を助長する」と警告した作品 米
Rolling Stone Japan / 2023年5月3日 10時0分
ローリングストーン誌は米FBIが2023年4月初頭に出した警告文を入手。それによると、架空の物語を描いた映画『How to Blow Up a Pipeline(原題)』が、現実世界でエネルギーインフラへのテロ攻撃を助長するかもしれないというのだ。
【動画を観る】FBIが内容に警告を発した映画の予告編
国内最高法執行機関の内部通知を含め、連邦・州あわせて少なくとも23機関――まさにアルファベットのオンパーレード――が35以上の文書を発布し、商業映画が全米の化石燃料インフラに脅威をもたらすと警鐘を鳴らしている。映画の公開以降、全米に石油や天然を運搬してアメリカ人の生活を支え、地球をじわじわと温暖化する巨大パイプライン網への攻撃は今のところないようだ。
「危険分子が映画に着想を得て、爆発物やその他破壊装置で石油ガスインフラを狙う可能性がある」と書かれたFBI大量破壊兵器部の4月6日付内部文書は、警察、政府、その他インフラを反故する関連各所にも配布され、疑わしい行動に目を光らせるよう職員に呼びかけている。FBIはそうした行動の例として、インフラ施設への侵入を図る人物から、カメラや録画装置の不自然または意味のない使用、インフラ業務に探りを入れる目的でのスケッチやメモ取りにいたるまで、多岐にわたる事例を挙げている。
それから2週間あまり、約3年前に出版された同名ノンフィクション小説を脚色した映画『How to Blow Up a Pipeline』が危険だという警告が次々発せられた。
アルコールたばこ火器局(ATF)の警告はFBIよりもずっと曖昧だ。「法執行機関や民間石油業界の統一見解として、この映画は全米の重要インフラに対する攻撃や破壊行為を促す可能性がある」と書かれた3月21日付のATF内部通知は、今月に入ってから各方面に回覧され、ローリングストーン誌の手にも渡った。具体的な脅威については記載されていない(情報サイトInterceptの報道によれば、カンサスシティ地域融合センターも先ごろ警告を発布した)。
インフラ攻撃は現実に発生している。司法省によれば、12月にワシントン州の変電所が攻撃を受け、数千世帯が停電して300万ドルの被害を出した事件で、男性2人が1月に逮捕された。だが、架空の映画に触発されて実際に攻撃を起こす陣源がいるという推測は信じがたい。パイプライン等のインフラ保護を担当する政府高官も、「パイプライン攻撃をもくろむ人間は、映画に触発されなくとも攻撃する」と言っている。
実際のところ、『How to Blow Up a Pipleline』はパイプライン爆破方法を伝授しているわけではない。そのことは、メリーランド州調整分析センターのテロ対策部に従事する大量破壊兵器上級分析官も、4月14日付のメールで指摘している。
「明らかに、この映画は装置製造を手ほどきしているわけではなく、むしろ過激化するまでの経緯や、主人公が攻撃を実行する理由に重点が置かれている」と、その分析官は「パイプラインの爆破法――手製爆弾の観点から見た映画評」と題した内部文書で記述している。
ボルティモアまで映画を見に行った時のことについては、「私も山のようにメモを取った(不穏な動きを見聞したと誰かに通報される確率70%)」とも書いている。
『How to Blow Up a Pipeline』のダニエル・ゴールドヘイバー監督は映画について、「石油パイプラインの破壊が自己防衛だと考える8人の登場人物を描くことで、現代社会でもっとも差し迫る問題を取り上げたフィクション作品だ。観客が強い親近感を抱いていることからも、気候変動危機の重大さを物語っており、早急な対処の必要性を強調している」とローリングストーン誌に語った。
ゴールドヘイバー監督は、当局が映画の危険性に警鐘を鳴らしていることについてはコメントを控えた。
経済効果としては観客に高価なポップコーンを買わせるのが関の山という消費財を内部通知で取り上げたことについて、FBIはコメントを控えた。「当局では慣例として、特定の情報案件についてコメントしないことにしていますが、定期的に関係当局と情報を共有し、各機関の管轄コミュニティをサポートしています」との声明を出した。「FBIでは一般大衆に監視を呼びかけ、不信なことがあれば当局へ通報するようお願いしています」
映画は無害かもしれない。だが市民の自由を訴える活動家やその他専門家の意見では、映画の観客がテロリストになりうると全米の警察に通知することで、深刻かつ危険な結末がもたらされるかもしれない。
プライバシー・言論の自由・人権を擁護するNPO研究団体Electronic Privacy Information Centerの顧問、ジェイク・ウィーナー氏はこう語る。「全般的に、こうした文書は当局がリスク分析を行う上で極端な偏見を抱いていることの裏返しです。そのせいで右派の過激な某局行為の脅威は慢性的に見過ごされ、意味もなく環境活動にばかり目が向けられてきました」。
「複数の文書は、これまでの長期的パターンと一致します。関係のない極右暴力行為の事例を取り上げて、中道左派の政治組織への監視や取締りを正当化しようとしているのです」と同氏は言う。「こうした質の劣る分析があまりにも多く、危険です。害のない活動に警察を過剰反応させ、不法監視を正当化することにもなりかねません」
諜報内部文書の一部からは、パイプラインを神聖化する風潮も伺える。南ネバダ・テロ対策センターの治安メモには、「アメリカ合衆国のパイプライン網は国内輸送システムの一部だ。このシステムのおかげで大量のエネルギー商品を消費者や企業に安全に運搬し、文字通り国の経済や生活を動かしている」と書かれている。
一部では警戒の必要性を擁護する意見もあがっており、国土安全保障省(DHS)も情報共有プラットフォームで各地に警戒を発した。DHS高官はローリングストーン誌に宛てた声明でこう語っている。「映画、書籍、動画作品および動画配信チャンネルはアメリカ合衆国憲法の下に守られている。重要インフラへの暴力行為や破壊を助長していると思われる映画や書籍もあるため、我々もいっそう監視の目を光らせ、物理的な安全確保を促進するような戦略・技術・手順を講じるよう関係各所に呼びかけている。何よりも重要なのは、セキュリティ体制の強化に向けて対策を講じ、予想される特定の脅威備えて状況を監視し続けることだ」。
だがブレナンセンターの研究員マイク・ジャーマン氏は、警察官がこうした内部文書に促され、環境グループに過剰反応する可能性があると語る。
「こうした報告は、情報物が警察官の間に恐怖をあおるだけで、現実の脅威を予知するには何の役にも立たないという残念なパターンのひとつです」と同氏は言う。「こうした報告を受けた警察官は、石油ガス業界に抗議する人々や団体への監視を強めること以外に、道理的な行動をとることができるでしょうか?」。
「FBIには環境犯罪を調査する責任があります。ですが多くの場合、FBIは自分たちを公共利益ではなく、産業の守り人とだと考える節がある」とジャーマン氏は続けた。「FBIとATFは映画がもたらす影響を監視するのではなく、現実に起きている犯罪の解決に労力を割くべきです」。
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