15歳でヌード動画が拡散、美女シンガーの今なお癒えない「傷」
Rolling Stone Japan / 2023年5月10日 6時45分
マディソン・ビアーはインターネット時代の申し子だった。子供時代にジャスティン・ビーバーから見出されたのをきっかけに、インフルエンサー兼ポップミュージシャンとして名を馳せ、いつの間にか未成年者を代表するセックスシンボルとなった。メンタルヘルスに悩んだ時期を題材にした自叙伝『The Half of It』では、そんな彼女の内なる悪魔との葛藤が包み隠さず記述されている。
ここに引用する抜粋には、弱冠15歳でSnapchatのヌード画像がネットに流出されたきっかけや、彼女自分が恥辱を乗り越えるまでの経緯が描かれている。
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いきなり有名になったことで味わった経験の中でも、プライベートなヌード写真の流出はとくに心に傷を残した出来事だった。
10年近く経った今も、私の頭から離れない。すっかり立ち直ったと思うたび、玉ねぎの皮のごとく新たな副作用が醜い頭をもたげ、心に受けた傷が人生のあらゆる側面に浸み込んでいることを実感させられる。
事の始まりは、幼馴染の男の子とのSnapchatでのやりとりだった。彼とは昔からの知り合いで、心から信頼していたし、お互い相手に首ったけだった。私たちはよく動画や画像を送り合った――2人ともまだ若かったし、自分の身体やセクシュアリティを模索している最中だった。Snapchatは動画のスクショや保存ができないもので、相手が見たら永遠に削除されるだろうとも思っていた。それに、さっきも言ったように、彼のことを信用していた。
大半のティーンエイジャーと同じように、私たちも結局別れた。月日が経ち、ほとんど気にも留めなくなった。この時私はすでにL.A.に引っ越していたが、彼を含めロングアイランドの友達とは何人か連絡を取り合っていた。前の学校で私の動画が出回っているのを最初に知ったのも、友達からだった。
それは真夜中に起きた。今でも鮮明に覚えているし、できることなら忘れてしまいたい。細かい点までひとつひとつ脳裏に焼き付いている。母はすでに就寝し、私はベッドに横たわって何の気なしに携帯をスクロールしていた。翌朝のダンスの練習のことが心配で、時間通りに起きられるよう早めに寝た方がいいと思いながら、気を紛らわせようとしていた。
するとどこからともなく、昔の友達からメッセージが送られてきた。「ねえ、グループチャットに誘われたんだけど、あなたが乳房を抱えている動画が送られてきたわよ」
最初は冗談だと思ったが、その後も昔の同級生から動画を見たというメッセージが相次いだ。ほとんどは心配してくれた友達からだったが、数人はこの時点でからかい気味に、「そもそもなぜあんな動画を送るような不用意なまねをしたんだ?」と遠まわしに質問した。心臓が早鐘を打った。友達の1人が動画のスクリーンショットを送ってくると、全身の感覚が麻痺した。たしかに私だった。例の男の子に送った動画だった。彼がどうやって動画を保存したのか検討もつかなかった。すぐにパニくった。
あっという間の出来事だった。うとうとしながらYouTube動画を見ていたと思ったら、次の瞬間には寝室で1人泣きじゃくっていた。
動画を送った彼に電話すると、彼はコピーしていないと全面的に否定した。わけが分からなかった。彼は私と同じぐらい流出に驚いていたが、他に誰がいるというのか? 彼にしか動画を送っていないのに。私は電話を切ると、動画を削除するようみんなに伝えてくれと友達に頼みまくった。
だがそれ以外にはどうしようもなかった。すでに動画は出回っていて、私にはなす術がなかった。ごく親しい友達に見られたことだけでも十分恥ずかしかったが、誰かが両親に動画を送るのではないかと思うと怖くなった。一生外出禁止を食らうかもしれない、あるいは弟が噂を耳にするかもしれない。そう考えただけで吐き気がした。
数分も経たないうちにだんだん現実が飲み込めてきて、私の目標は前の学校で動画が拡散するのを防ぐことから、ソーシャルメディアへの流出を止める方へと変わった。
内心、時間の問題だということはわかっていた。1人がネット上に投稿するだけで――私はフォロワー数を増やしていたし、こういうことが評判を傷つけうることも分かっていた――あとは飛び火のごとく広がっていく。いったんネットにあがると、もう消せない。永遠にそこに残ってしまう。
数時間後には起床して、ダンスの練習に向かわなくてはならなかった。動画の追跡を手伝ってくれた友達も、おおかた眠りについていた。母を起こすのが怖かったので、携帯を伏せて枕の下に押し込み、ベッドに潜るしかなかった。朝になったら悪夢が終わっていることを願いながら。
家の外で母がダンスのレッスンに送ってくれるのを待っていると、最初のツイートが流れてきた。「マディソン・ビアーの裸写真が欲しい人は、フォローとDMをよろしく」
始まった。一度も会ったことのない、赤の他人の手に動画が渡ったのだ。しかもフォロワーと注目集めに動画を利用されている。
すぐにそのユーザーにメッセージを送り、懇願した。お願い、ツイートを削除して、誰にも送らないで。お願いします、子どもだからバカな過ちを犯してしまったの。
即座にユーザーからブロックされた。今となってはフィードも更新されない、何の変哲もないページを茫然と見つめた。手の施しようもなかった。
ダンスの練習中、ついに動画がネット上に出回った。誰かがVineに投稿し、TwitterやInstagramでもすでに取り上げられていた。何度もシェアされ、しまいにはトレンド入りするほどだった。携帯を開くとメッセージが山のように届いていた。私は泣き崩れた。
人生が終わったように感じた。頭に浮かんだのは、中学校の時に受けたインターネットの安全に関する授業のことだけだった。授業を担当した司書さんがインターネットの危険性について警告し、不適切な投稿――酔っ払った時のツイートなど――をすると、将来雇用主の目に留まって雇ってもらえなくなりますよ、と説得した。
私のケースと比べたら、そんなの可愛いものだ。
私は携帯に釘付けになったまま、スタジオの床で泣きじゃくった。動画がどんどん拡散されていくのをただ見守るしかなかった。どのコメントにも、お前は最悪な人間だ、これでキャリアも終わりだ、両親はさぞ娘が恥ずかしいだろう、などと書かれていた。人々は私の身体を批判し、いちいち欠点をあげつらった。この時初めて、この状況から脱け出すには――これを終わらせるには――命を絶つしかないと感じた。
辱めは増す一方だった。ツイートの内容は、事情を知った両親やマネージャー陣のから言われたことと同じだった。みな私に腹を立て、私を恥ずかしいと感じていた。両親に真実を打ち明けたことだけで十分心苦しかったが、チームをがっかりさせたと知った時には胸が痛んだ。15歳にして、私は自分の犯した過ちでキャリアや将来を棒にふっただけでなく、チームで頑張っていたみんなの評判も損ねたのだと思い知らされた。
とにかく部屋に閉じこもって、布団の中に隠れていたかった。鏡で自分の姿を見るのも、服を着替えることすらも嫌だった。犯されたような気分だった。周りの人間全員が怪しく思えた。たとえ際どい写真や動画でなくても、私の素材をネットに投稿する人が他にもいるんじゃないか? 友達とのお泊り会で1度だけタバコを吸ったことがあったが――もし誰かが動画を撮っていたらどうしよう? 誰も信用できなかったし、誰も助けてくれなかった。誰も私の言い分を聞こうとしなかった。なんということか、私はたった10秒の動画1本で人生をダメにしてしまったのだ。
その後のことはなかなか思い出せない。だが憎悪に満ちた無数のコメントは一字一句覚えている。私は現実社会よりも、携帯に張り付いて過ごすようになった。
MATTHEW PRIESTLY*
私は自分の身体に居心地の悪さを覚え、恥じ、自信が持てなくなった。その上チームとは被害の対処法について気まずい話をしなくてはならなかった。テーブルの向こうに座る母親とマネージャーは、動画を見て私に失望しただろう。そんな思いに駆られるうちに、屈辱が私の中に深く刻まれていった。
チームのアドバイスは、動画に映っているのは私ではないと全面否定することだった。当時はそれが唯一残された選択肢のように思えた。顔全体が映っていたわけではないので、いったん公に否定して、あとは動画の拡散が続いても気にしないふりをすれば、憶測もやがて収まり、私も前に進めるだろうと。
だが、そうは問屋が卸さなかった。むしろ、動画に映っているのが私ではないと否定したことで余計に炎上し、私が嘘をついている証拠探しが始まった。人々は動画に映るマニキュアと私のInstagramにあがっているマニキュアの動画を比較したり、ベッドのヘッドボードを比べたりした。ほくろなど細かい点まで議論の対象になった。ネット上で自分の身体が何度も何度も切り刻まれていくのを目の当たりにするうちに、自分であることをやめ、内にこもって、二度と外に出たくないと願うようになった。
さらに悪いことに、他にも動画が出回り始めた。私の動画ではなく、私だと言われても分からないぐらいそっくりな別の女の子の動画だった。最初の動画よりもずっと際どかったが、両方一緒にまとめて投稿されたので、みんな何の疑いもなく私だと思い込んだ。私がしゃしゃりでて「こっちの動画は本物だけど、こっちは違うの」と釈明するわけにもいかず、ひたすら否定するしかなかった。
2020年の国際女性デーに、私はInstagramに声明を投稿した、動画に映っているのが自分だとついに認めた。これ以上自分を恥じないことにした理由を説明し、15歳の少女の信頼を裏切った人々こそ恥じるべきだと指摘した。たった1回の投稿だったが、人生でもっとも重要な決断だったと今でも考えている。結果がどうあれ、私は自信を取り戻す必要があった。
とはいえ自分でも驚いたことに、投稿ボタンを押すまでには相当勇気がいった。さらに驚いたのは、肯定的な反応をもらったことだった。自信を取り戻したいと思ってはいたが、投稿するまでに、キャリアや評判に傷がつく可能性も受け入れなくてはならなかった。どんなにひどいコメントにも対処する心構えができていると確信しなくてはならなかった。15歳の時の経験で、自分は憎まれても仕方がないことをしたと刷り込まれていたのだ。
だがそうはならなかった。むしろ、当時動画を拡散した人の何人かは謝罪してくれた。私と同じように、信頼していた人から裏切られた女の子たちからは、自分だけじゃないと教えてくれてありがとう、と感謝された。
私の方も、みんなに感謝するべきだ。癒しの過程で、人々からの反応がどれほど貴重だったことか。できることなら時計を巻き戻して、15歳の自分にもメッセージを伝えたい――自分は1人じゃない、こんな思いをしているのは自分だけじゃないんだ、と。
しいて言うなら――私はもっと守られてしかるべきだった。未成年がわいせつな行為に関わった画像を、意図して送ったり受け取ったりするのは連邦犯罪だ。確かに動画を送ったのは私だが、動画をやり取りした人数は、数千人とはいかないまでも、数百人にのぼる。それにネット上でばら撒いたのは私ではない。
女の子がまったく同じ形で、信頼されている人から裏切られたという話は長いこと後を絶たない。一方で、周りの大人たちは正義を追及するのではなく、なかったことにしてしまいがちだ。2016年には、元彼からヌード動画をTwitterでばら撒かれた15歳の女の子が自殺した――これはほんの一例だ。だが今日に至るまで、リベンジポルノに関する連邦法はまだ成立していない。
私の場合、もっと上手く対処できていたら、とはあまり考えないようにしている。考えても、自分が被害者だとすら気づけなかった15歳当時を不憫に感じるだけだ。大半のティーンエイジャーと同じように自分の身体やセクシュアリティに関心を抱いたせいで、自分は最悪だと思っていた私。他人の身勝手な行為のせいで、自分の身体や自分自身を憎むよう教え込まれた私。
あの事件から10年近く経つ。インターネットは相変わらず無情だが、今の時代にはああいうことは起こらないだろう。当時のインターネットはまるで様相が違った。今より匿名性が高く、法律もインターネット上の犯罪行為にどう対処すべきか苦労していた。「セクスティング」「ねっといじめ」といった単語がオックスフォード英語辞書に登場するのは2011年になってからだ。
現在15歳の子に同じようなことが起きた場合、ソーシャルメディア各社はそうした素材の拡散を防止するよう対策に追われることになる。こうした出来事がいかに有害か(違法であることは言わずもがな)理解も深まっている。だがインターネット文化も変わったように思う。以前よりも自粛規制が広まり、ネットコミュニティも被害者の側に回って、未成年者のみだらなコンテンツの拡散予防に努めている。前よりも善処できるようになったと信じたい。
だが何より重要なのは、私自身がもう自分を恥じなくなった。それに気づくのが最初の1歩だった。
マディソン・ビアー著『The Half of It: A Memoir』(Copyright © 2023 by Madison Beer)より、Harper社の許可を得て抜粋。出版元HarperCollins Publishers。
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