Kenta Dedachiが語る、スケアリー・ポケッツとの制作、LAの大学生活で見つけた「歌うべきこと」
Rolling Stone Japan / 2023年5月8日 18時30分
シンガーソングライター、Kenta Dedachiの新境地を切り拓く新曲「Hunger for Blood」。YouTube上で様々な名曲をファンクカバーしてきた米LAのバンド、スケアリー・ポケッツのメンバーが録音に参加し、Kentaならではの繊細なトップラインに加え、バンドサウンドの豊かな表現によって、洗練さとスケール感がよりパワーアップしている。2018年夏、LAの大学で音楽を学ぶために渡米留学したKentaにとって、コロナ禍と大学卒業を経て、新たな章のはじまりを告げる一曲になったと言えるだろう。今回のインタビューには、KentaのプロデューサーでもあるKOSENも同席してくれた。
—2022年にリリースしたメジャー1stアルバムの『Midnight Sun』は、コロナ禍で日本滞在中に制作・レコーディングした作品ですが、今回のシングルはLAで作り上げた曲なんですよね。大学卒業のタイミングも重なって、Kentaさんにとって特別な一曲になったのかなと思いますが、周りの環境が作品に与えた影響もあるんでしょうか?
Kenta:大学って最初の1年間はすごく楽しいけど、3、4年生になると将来のことを真剣に考える時期になって、ちょっとシリアスになってくるんですよね。「Hunger for Blood」を書いたのは大学4年生の最終学期で。『Midnight Sun』を出した後にアメリカに戻って書いたんですけど、この曲を書いてる時、これからも音楽をやることは決めていたものの、少しの不安はあって。でもSNSでは失恋ソングを部屋で歌うのが流行っていて、悩んでることや傷ついてる時の気持ちを、そのまま歌うアーティストがTikTokの僕のフィードに多く出てくる。そんなことを友達と話していたら、生々しいことを歌うのもアリだなと思えてきて、この曲ができました。”生=RAW”って言ってもいろんな生があると思うんですよね。生の楽器でハッピーな曲もあると思うし。でも僕はハッピーな曲より、自分の芯にある、例えば痛みや傷に触れてくれる曲を書きたいと思ったんです。
—レコーディングは卒業後にしたんですか?
Kenta:レコーディングは卒業後ですね。留学ビザが切れるまでの2カ月間を、僕とKOSENさんとマネージャーさんで合宿してレコーディングしました。
—KOSENさんは、曲を作るパートナーとしてKentaさんのヴィジョンをどう捉えていましたか?
KOSEN:今回は、Kentaくんに100%近いものができたらいいなと思っていました。Kentaくんが作ったデモを基本大事にして。『Midnight Sun』の時は、アレンジ面でも細かくアドバイスすることもあったんですけど、今回はKenta Dedachiそのものをどうやって活かすかを第一に考えて、歌詞やアレンジの話をたくさんしましたね。
—楽曲に参加してくれたスケアリー・ポケッツは前から好きなバンドだったとか。彼らがレコーディング・ブースにいるのを見て、夢のような光景だったとVlogでも話してましたよね。
Kenta:スケアリー・ポケッツって、僕の中で”LAのバンド”ってイメージがあったんですよね。LAのライブハウスに行ったら会える人、LAのスタジオで楽しそうに音楽やってる人、みたいなイメージのグループだったんです。もちろん僕の友達もみんな大好きだし。今回レコーディングに参加してくれたニック・キャンベルは僕が大学1年生の頃、友人が一緒にレコーディングしたことがあって、僕もいつかやりたいなって思ってたんですよね。しかもスケアリー・ポケッツのエンジニアでもあるケイレブ・パーカーは僕の大学の先輩で、大学の説明会みたいな場で話したことがあるんです。あとからスケアリー・ポケッツのエンジニアもやってると聞いて、彼ともいつかできたらなと思っていて。最初はInstagramでニックにDMしたんですけど、すぐ返してくれて、ミュージシャンの相談をしたら彼のコネクションで集めてくれました。おかげでコミュニケーションもスムーズで、すごくいいセンスの持ち主ばかりで、最高でしたね。
—DMでオファーしたんですか?
Kenta:はい。実際に何曲か聴いてもらい”RAW”というテーマの説明をして、「、1月から2月にかけてレコーディングしたいんだけど、その時期って空いてますか?」って感じで。そしたら「Sure man!」って返事が(笑)。楽しい人ですね。バンドメンバーの人たちも、KOSENさんと歳が近いのかな。
KOSEN:俺とはたぶん世代一緒だよね。「12歳の時、何聴いてた?」って話してたんだけど、レディオへッドやレッチリも好きだったけど、ミーターズも好きだったとか。そういう感覚も共有できるし、音楽的に信頼できるというか。
—レコーディングにあたって彼らに何かリクエストはしましたか?
Kenta:演奏のニュアンスとかを伝えて、こういう音にしたいってレファランスを送ったりしました。レコーディング当日はケイレブに、「ちょっと錆びたギターの弦の感じで弾きたい」って説明をしたら、「だったらラバーギターじゃない?」って。ラバーギターっていうギターが今LAで流行ってると聞いて。ブリッジがゴムになってて、ガットギターとスティールストリングのアコギの中間みたいな音なんですけど、ギタリストのライアン・ラーマンにはそれで弾いてもらったり。スタジオでいろいろアイデアを出しながら決まっていった感じはありますね。ほんといいヴァイブスで音楽を作ることができました。
KOSEN:レコーディング初日のスタジオが、元々パンク小屋だったんですよ。
Kenta:あー、そうでした! エコパークの近くにある普通の住宅街にポツンとあって。昔はパンクロックをガンガンやってたみたい。そこをスタジオに変えたらしくて。
—ライブハウスだったってこと?
KOSEN:そうなんですよ。住宅街のこんな小さいところでパンクを鳴らしてたなんて、信じられない。LAのスタジオは、行くとこ行くとこみんな個性的でしたね。
Kenta:DIYですよね。そこにあった卓も普通の卓じゃなくて、アナログとデジタルを混ぜた、なんかのプロトタイプみたいなやつで。
KOSEN:あんな卓は見たことないですね。
Kenta:エンジニアの人も、これどうやってやるの?みたいな感じで。
KOSEN:みんな個性があるよね。人だけじゃなくて、場所も。
—ドラムの鳴りもすごくいいなと思いました。
Kenta:ケイレブ・パーカーは録る音にこだわる人で、マイクの位置を何回も変えたりして、すごく凝ってました。そういうのもよかったですね。
KOSEN:ニックに、「こういう感じの曲だから、こういうスネアの音が欲しいんだけど」って事前に伝えたら、ガレージロックっぽい音を鳴らす人がスタジオに来てくれて、それが曲にバチッとハマったんです。LAには”自分の音”を持った人がたくさんいて、それがないと生きていけないんじゃないかなって感じました。
Kenta:スケアリー・ポケッツっていうバンドもプロジェクトというか、毎回同じメンバーじゃないんですよね。曲によってベーシストが変わったりする。KOSENさんが言ったみたいに、「この人はこれが得意」みたいなものが明確にあって、ミュージシャン同士のネットワークもあるから、「この曲やるときはこの人に頼もう」ってできるんだと思います。それはいいですよね。
「血」というワードが出てきた理由
—今回のような制作過程で音源制作をするのは初めてですか?
Kenta:海外でレコーディングしたことはあったんですけど、最初のプロダクションから完成まで、自分がリードして決めていったのは初めてです。今まではサウンドプロデューサーからミュージシャンを選ぶところまで、例えばディレクターの方やKOSENさんがこの人がいいかもって提案してくれていたんですけど、今回は自分でニックを選んで、そしてニックとコミュニケーションしてセッションの準備をしました。僕も大学を卒業して、これからは自分でやりたい人と音楽をつくっていくことにすごく意味があると思っているし、今回そういうふうに作れたことに手ごたえを感じました。
KOSEN:まさにKentaサウンドになりましたね。
—では、最初に思い描いていたイメージ通りのものが完成したんでしょうか。
Kenta:そうですね。イメージ以上にいいものができたんですけど、僕が最初に作ったデモから全然ブレてない。ライアンがソロを弾いてくれたり、リズムも生の音が入って、新たな命が加わった感じがします。
—これまでの作品にあるような、ポップで柔らかい曲もKentaさんの魅力かもしれないけど、こういうちょっと乾いた曲もKentaさんの一面なんだなと思いました。
Kenta:今の”僕”ですよね。例えば、インディーズの時に出した『Rocket Science』(2019年)ってアルバムは、アメリカに行く前に書いた曲も入ってるし、「行くぞー!」みたいな、大学1、2年生のハッピーな感じが出てる。今は自分が成長したこともあると思うんですけど、世界を見た時に、ただ”いいもの”だけじゃなくて、ダークな部分もたくさん見えるし、アメリカに行った後にコロナ禍になって、その間にいろんなことを感じたんですよね。「Hunger for Blood」は18歳の時には書けなかったと思います。
—音楽を表現することは、今のKentaさんにとってどんな意味を持っていますか?
Kenta:”RAW”ってテーマで作り始めてから、ただみんなが聴いて心地よい曲を作るんじゃなくて、意味のある曲を歌いたいなと思ったんです。誰かを救う曲を作りたいし、自分が聴いていても救われる曲を作りたい。それは昔からある想いなんですけど、今はもっと強くなってる感じがします。ポップ・アーティストを目指したいと思ってるけど、自分の”RAW”の部分を忘れずに。ただ、そういう曲を作るのって苦しいんですよね。自分のことも知らないといけない。心に傷を負ってる人の気持ちにどうやって寄り添えるかを考えて書いた曲が「Hunger for Blood」なんですけど、書きながら自分がつらくなる時もあって、プロセスは重く感じられたりもしました。でも落ちこんでる時に、その気持ちを代弁してくれるような曲を聴くと救われた気持ちになるじゃないですか。音楽とかアートにはそういう力があると思うので、この曲がそういう作品になってくれたらいいなと思います。
—日々ノートに曲のアイデアになりそうなことを書いているそうですが、そこには日々Kentaさんが感じたことや思ったことも綴られているんでしょうか?
Kenta:常々思っている気持ちを書き記すようにしていますね。それがある時、歌詞になることもある。やっぱり書き記す作業は大事ですよね。ペンでノートに書くって、スペシャルな感じがします。
—人に何かを伝えるためには、自分のことを知らなければならない。
Kenta:大事なことですよね。自分がハッピーじゃないと、他人のことをハッピーにできない感じがする。この曲を作る時、”傷を負う”ってどういうことなのかを考えていたら、「blood」ってワードが出てきたんです。傷ついてる時、僕はすごく落ち込んじゃうタイプなんです。誰かに何か言われたりして、それが悪気のない言葉だったとしても傷ついて、幸せな気持ちが抜けていく。ある意味、(幸せが)吸われていく感じがする。この曲ではヴァンパイアが血を吸い取るようなイメージをだぶらせました。人って、血がないと生きられないじゃないですか。血が流れているから僕たちは幸せな気持ちにもなるわけで。
「これからももっとLAでレコーディングしたい」
ーKentaさんは大学で音楽を学んでいましたが、音楽を学び続けてきたことで、自分の人生がどのように豊かになったと思いますか?
Kenta:大学で音楽を学んで、理論的にも知識的にも、理解が深まりました。家族から離れ単身でアメリカに行って、未知な世界でしたけど、でもLAが少しずつ自分のホームにもなってきて、生きてるって実感を味わうことができて。あと、僕は今まで洋楽ばかり聴いてきたので、海外で生活できること自体に感動もあったし、ギターの先生がグラミー賞を取っている人だったり、そういう人から学べるなんて経験も最高だなと思いましたね。今回はLAでレコーディングできたわけですけど、これからももっとLAでレコーディングしたいです。あらためて今、僕が向かうべき場所なんじゃないかなと感じました。
—場所だけでなく、人から受けた影響も大きそうですね。
Kenta:LAは、みんな個性的なんですよね。さっき話したようにミュージシャンもみんな自分自身のスタイルを持ってるし、友達もみんなそれぞれに違う。やりたいことがあるからここにいるんだという覚悟がないと、LAは生きていけない街だと思います。そこで、何も怖がらなくていいってことを学びました。「Hunger for Blood」は、ハッピーな気持ちになれる曲ではないかもしれないけど、LAで自分のユニークなところを出すのがいいって思えたからできた曲だなと思いますね。あるライブに行った時に、いつも着ないようなレイシーな服を着てみたことがあったんですよ。僕、普段はポロシャツとかを着ていてカジュアルなんですけど、すごくファンキーなアーティストのライブで、LAのジェンダーレスな感じの人が集まる場所で、そういう異世界なところに自分も、例えばそういう服装で行ってみたら、めっちゃ似合ってるじゃん!って10人くらいの人に言われて。え?って(笑)。ここにいたら自分のキャラクターが探せるなって思いました。いろんな冒険ができる感じがしますよね。そういう意味でも、今回のような曲をLAで書くべきだと思ったし、自分のスペシャルなところをもっと見つけて大切にしていきたいなって思わせてくれた、そんな大学4年間でしたね。
—最後に、5月に東京と大阪でワンマンがありますが、どんなステージになりそうですか。
Kenta:今回はアコースティックでほぼ弾き語りなんですけど、ワンマンではまだチャレンジしたことがないので、どうやってやろうかなって考えているところです。「Cozy notes」っていうタイトルを付けたですけど、普段僕が音楽を聴いて気持ちよくなれるように、来てくれるみんなにもそんなふうに”Cozy”になってほしいと思う。音楽って楽しむものだから、楽しんで帰ってくれたらそれが一番かなって。そうするためにいろいろ考えています。
<INFORMATION>
Digital Single
「Hunger for Blood」
Kenta Dedachi
EPIC RECORDS JAPAN
配信中
erj.lnk.to/E2haD5
Kenta Dedachi Acoustic Live "Cozy notes"
5月18日(木)大阪・心斎橋JANUS
5月30日(火)東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
https://www.kentadedachi.com/live/
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
原田知世×川谷絵音 相思相愛の二人が語る「優美」なコラボレーションの背景
Rolling Stone Japan / 2024年11月26日 17時30分
-
Billyrrom、「風」の時代に台風の目となる6人が語る自信と挑戦
Rolling Stone Japan / 2024年11月22日 18時30分
-
小西康陽が語る65歳の現在地 歌うこと、変わり続けること、驚くほど変わらないこと
Rolling Stone Japan / 2024年11月20日 17時30分
-
MIKOLASとSKY-HIが語る、豪華セッションの制作舞台裏
Rolling Stone Japan / 2024年11月11日 12時0分
-
HOMEが語る、今を生きるバンドが考える「モダンポップス」
Rolling Stone Japan / 2024年11月8日 19時0分
ランキング
-
1「松本人志の復帰」熱望する芸人たちの“気持ち悪さ”。娘をもつ父親、『虎に翼』主演女優の兄までなぜ
女子SPA! / 2024年11月27日 15時46分
-
2【独自入手】「非情すぎる」藤原紀香、篠田麻里子が所属の大手芸能プロが破産!タレントに届いた“絶縁状”
週刊女性PRIME / 2024年11月27日 18時5分
-
3「歴史から抹消するのね」NHKが紅白特番からSMAP排除、「忖度するな」ジャニファンから批判殺到
週刊女性PRIME / 2024年11月27日 18時0分
-
4《マンションの一室に消えて…》俳優・岸部一徳(77) 妻ではないショートカット女性と“腕組みワインデート”年下妻とは「10年以上の別居生活」
NEWSポストセブン / 2024年11月27日 11時13分
-
5美しき古装姿でブレイクしたシュー・カイが現代ドラマでも放つ魅力(※ネタバレあり)
Rエンタメディア / 2024年11月27日 12時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください