ディナー・パーティー来日目前 最新アルバムからロバート・グラスパーの変化を読み解く
Rolling Stone Japan / 2023年5月9日 17時30分
コーチェラ出演時のディナー・パーティー 左からテラス・マーティン、ロバート・グラスパー、カマシ・ワシントン、9thワンダー、Arin Ray(Photo by Scott Dudelson/Getty Images for Coachella)
5月13日(土)・14日(日)の2日間、埼玉県・秩父ミューズパークで開催される「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL 2023」(以下、ラブシュプ)。2日目・14日(日)のヘッドライナーを務めるディナー・パーティー(Dinner Party)が、最新アルバム『Enigmatic Society』をリリース。ロバート・グラスパー、カマシ・ワシントン、テラス・マーティンによる豪華プロジェクトの現在地を、ジャズ評論家・柳樂光隆に解説してもらった。
ディナー・パーティーというプロジェクトの詳細は前回の記事をご覧になっていただくとして("ディナー・パーティー徹底解説 グラスパー、カマシ、テラス・マーティンの化学反応とは?")、大雑把に説明するとジャズミュージシャンが楽器演奏者の立場を離れて、プロデューサーの立場で行っているプロジェクトだと言っていいと思う。すさまじいテクニックを持ったミュージシャンが普段の音楽活動で見せている高度な作編曲能力、複雑な楽曲をいとも簡単に演奏するテクニックなどを抑えて、メロウで心地良い歌もののR&Bを作ることに注力している。2020年の前作『Dinner Party』は正にそんな楽曲が集められた作品だった。
あのときは一回限りのプロジェクトなのかと思われたが、ディナー・パーティーは再び動き出し、最新アルバム『Enigmatic Society』をリリース。時を同じくしてコーチェラのステージにも立ち、まさかの来日公演まで決まってしまった。ここではその新作について考えてみたい。
方向性そのものは前作から変わっていないが、変化はいくつも起こっている。ロバート・グラスパー、テラス・マーティン、カマシ・ワシントンという3人のジャズミュージシャンがプロデューサーの立場も実質的に兼ねており、そこに9thワンダーが加わるのが従来のディナー・パーティーだったわけだが、新作では9thワンダーの存在感がかなり薄れており、クレジットされているのは収録曲の半分未満となる4曲。このパワーバランスの変化が面白い作用を生んでいる。
もともと前作『Dinner Party』の時点で、かねてからグラスパーやテラスが重用し、SminoやRavyn Lenaeなどの作品にも携わってきたマイケル・E・ニールが作曲面でクレジットされていた。つまり、プロジェクトの顔となる4人だけでなく、彼のような職人やフェリックスを筆頭とするシンガーが、ディナー・パーティーの高度なサウンドを支えてきたわけだ。そして、今回の『Enigmatic Society』では、さらに何人かのソングライター/プロデューサーが関与している。
「Insane」ではシンガーのアント・クレモンズが作曲面でも貢献しているほか(彼はビヨンセ、エド・シーラン、H.E.R.などの楽曲を手がけてきた)、ケンドリック・ラマーの作品に欠かせない名手で、サンダーキャットやガブリエルズ、カリ・ウチス、テイラー・スウィフトまで幅広く起用されているトップ・プロデューサーのSounwaveが参加している。
「Secure」で作曲に名を連ねているのがデュレル・バブス。Tankの名前で2000年代初頭に大ヒットを生み出し、アリーヤ、ジョー、クリス・ブラウン、オマリオンなどとのコラボでも知られるR&Bシンガーだ。彼のように、歌唱力に定評のある2000年代のスターを起用するのは、(『Black Radio』シリーズにも通じる)グラスパーならではの人選とも言えそうだ。ちなみTankはケンドリック・ラマーの最初期作品にも起用されており、LAのヒップホップとも交流がある。
「The Lower East Side」ではトレヴァー・ローレンス・ジュニアの名前がクレジットされている。エミネム諸作でも知られるプロデューサーであり、LAシーン屈指のドラマーでもある彼は、ブルーノ・マーズ、ドクター・ドレ、50セントなどとも接点を持ちつつ、テラス・マーティンの作品にたびたび貢献してきた(2017年のテラス来日公演にも同行)。
このようにLAの名プロデューサーを迎えた結果、9thワンダーがタッチしていない楽曲では、必然的にLAのフィーリングが色濃くなっている。これまでグラスパーが先導してきたプロジェクトはNYのジャズ、ネイティブ・タン周辺のニュースクール系ヒップホップ、もしくはソウルクエリアンズ周辺のネオソウルのイメージが強かったが、それらの要素が『Enigmatic Society』ではほとんど感じられない。グラスパー絡みのプロジェクトの中でも、かなり特殊な方向に発展していると言えそうだ。
サンプリングに見られる音楽性の変化
また、「Cant Go」ではホール&オーツの「I Can't Go for That (No Can Do)」、先述の「Insane」ではエムトゥーメイの「Juicy Fruit」と、それぞれ80年代を象徴するヒット曲がサンプリングされているのも興味深い。
グラスパーもカマシもヒップホップ的な感性を備えてはいるが、サンプリングを用いるのではなく、敢えて人力で同じような効果が得られるサウンドを構築してきた。グラスパーは『Black Radio 2』(2014年)のライナーノーツに「プログラミングは使っておらず、すべて生演奏で行われている」とわざわざ明記するほど、生演奏へのこだわりを見せてきたはずだった。ところが最近では、『Black Radio 3』(2022年)にプログラミングで作ったハウストラック「Everybody Love」を収録。ディナー・パーティーでも前作の時点でドラマーを起用せずに自らビートを組み、『Enigmatic Society』ではサンプリングまで使うようになった。この流れはグラスパーの音楽性における面白い変化の兆候かもしれない。
その一方で、前作と比較すると少し複雑なビートが入り込む部分もあれば、「Watts Renaissance」「The Lower East Side」のような生演奏を活かしたインストの曲があったりもして、聴けば聴くほど変化が見えてくるアルバムでもある。
だからこそ、コーチェラ出演時のバンドセットでのパフォーマンスでは、グラスパー/カマシ/テラスの3人だけでなく、ジャスティン・タイソン(Dr)やバーニス・トラヴィス(Ba)の演奏にも自由に表現できる余地がかなりあって、ニューアルバムの作風がライブの方向性にも反映されてるのは明らかだった。そういう意味でもやはり変化のあるアルバムだと思うし、その真価を確かめるためにも秩父でのパフォーマンスは必見だろう。
ディナー・パーティー
『Enigmatic Society』
再生・購入:https://dinnerparty.lnk.to/enigmaticsociety
『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023』
日程:2023年5月13日(土)、5月14日(日)12:00開場 / 13:00開演(予定)
会場:埼玉県・秩父ミューズパーク
出演
5月13日(土)
【THEATRE STAGE】
GEORGE CLINTON & PARLIAMENT FUNKADELIC with Special Surprise Guest/DOMi & JD BECK/AI, bird, 家入レオ with SOIL&"PIMP"SESSIONS/Answer to Remember with HIMI, Jua
【GREEN STAGE】
ALI/海野雅威 with Special Guest 藤原さくら/4 Aces with kiki vivi lily/OPENING ACT : MoMo
【DJ TENT】
荒田洸(WONK)/SHACHO(SOIL&"PIMP"SESSIONS)/柳樂光隆(Jazz The New Chapter)/Chloé Juliette
5月14日(日)
【THEATRE STAGE】
DINNER PARTY FEATURING TERRACE MARTIN, ROBERT GLASPER, KAMASI WASHINGTON/SKY-HI & BMSG POSSE(ShowMinorSavage - Aile The Shota, MANATO&SOTA from BE:FIRST/REIKO) with SOIL&"PIMP"SESSIONS/Blue Lab Beats featuring 黒田卓也, 西口明宏 with 鈴木真海子(Chelmico) , ARIWA(ASOUND)/Penthouse with 馬場智章
【GREEN STAGE】
Kroi/BREIMEN/馬場智章/OPENING ACT : soraya
【DJ TENT】
荒田洸(WONK)/SHACHO(SOIL&"PIMP"SESSIONS)/柳樂光隆(Jazz The New Chapter)/Chloé Juliette
※モノンクルは出演キャンセル。これに伴うチケットの払戻は行わない。
公式サイト:https://lovesupremefestival.jp
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