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ライドが明かす、「シューゲイザーの象徴」が歩んできた濃密な音楽遍歴

Rolling Stone Japan / 2023年5月15日 19時0分

ライド(Photo by Kazumichi Kokei)

4月に代表作である『Nowhere』(1990年)、『Going Blank Again』(1992年)の再現ツアーで4年ぶりに来日を果たしたライド(RIDE)。チケットは見事ソールドアウト、東京ではオールタイム・ベスト的な選曲の追加公演も開催され、日本での根強い人気を再認識させられた。

UKシューゲイザー第一世代を象徴するバンドのひとつとして広く認知されるようになったライドだが、そのサウンドが一定だったことはなく、実際は作品をリリースするたびに大きな変化を重ねてきた。最初のEP2枚から『Nowhere』までの間にもアプローチの変化が感じられるし、『Going Blank Again』の一部やLP2枚組の大作となった『Carnival Of Light』(1994年)、一旦解散する前に残した『Tarantula』(1996年)では60s~70sロックの影響が顕著になり、フォーキーな曲、ガレージ・パンク、果てはブリティッシュ・ハード・ロック風までと、シューゲイザーのイメージから大きくはみ出す楽曲も増えていった。

再結成後の『Weather Diaries』(2017年)、『This Is Not A Safe Place』(2019年)では、改めて「ライドらしさ」を客観的に再考しながら、それを単になぞるのではなく、解散後に多種多様なジャンルに触れて表現の幅を増したメンバー各人の個性もしっかり反映。同窓会的なムードとは一線を画す現役感のあるアルバムを続けて作れたことが、現在まで好調さをキープできている大きな要因だろう。今回の来日公演では、すでにレコーディングが終わっているというニュー・アルバムから新曲「Monaco」も披露。前作ともタッチが異なる打ち込みを併用したポップなアレンジが新鮮で、まだまだ新しい展開を見せてくれそうな気配だ。

取材にはギター&ヴォーカルのアンディ・ベルと、ドラマーのロズことローレンス・コルバートが出席。実は変わり続けてきたバンドの軌跡を原点からたどり直すべく、各時代ごとにどんなものを愛聴していたのか振り返ってもらった。音楽マニアの友人同士が集まってスタートしたライドの基本的な性質も、わかりやすく伝わってくる内容だと思う。


アンディ・ベル(Photo by Kazumichi Kokei)


ローレンス・コルバート(Photo by Kazumichi Kokei)

─今日はふたりが今までどんな音楽に影響を受けてきたのか、順に聞かせてください。ますライド結成以前の10代半ばぐらいまでは、主にどんなバンドを好んで聴いていましたか?

ローレンス:僕の場合、まず思い出すのはハウリン・ウルフ、ジミー・リードといったブルースのレコードだね。一時かなり夢中で聴いて、ドラムやサウンドの響きがいいなと思っていた。その後エコー&ザ・バニーメンが好きになって……シンガーのイアン・マッカロック、ギタリストのウィル・サージェント、そしてドラマーのピート・デ・フレイタスにすっかり魅了されたよ。同時にヒップホップが台頭してきた時代でもあったので、エリック・B&ラキム、パブリック・エネミーのビーツに刺激を受けた。そしてアメリカから出てきたソニック・ユース、マッドハニー、ダイナソーJr.といったオルタナティヴ・バンド、UKではハウス・オブ・ラヴ、ストーン・ローゼズとか……そんなバンドが好きになっていった。ゴス系のバンドも好きで、結構聴いてたんだ。バウハウス、ザ・キュアーとか。

─ローレンスはストーン・ローゼズにかなりのめり込んでたそうですが。

ローレンス:うん、ファン度は多分僕よりアンディの方がずっと上だけど(笑)、確かにストーン・ローゼズが大好きだった。

─レニの独特なドラミングから影響されたところはありますか?

ローレンス:ドラムの叩き方はそれ以前に覚えたから原点ということはないけど、レニの叩き方、ストーン・ローゼズの音楽を実際に生で体験してしまったら……もう絶対に100%「これがやりたい」「こんな風になりたい」と思わざるを得ないものだったからね。影響は否定しようがないし、僕の中でトップ3に入るバンドだよ。

アンディ:レニの叩き方……(両手を大きく動かして真似する)最高だよね。他のバンドとは異なる種類のテクニックを持っていた。

ローレンス:あの流れるような動きも良かったんだよね。

アンディ:崇拝に値する個性と出会った感じがしたな……レニのパーソナリティがそのままダイレクトに、ドラムセットに直結してる感じでさ。

ローレンス:わかる、体から音楽が溢れ出てるみたいで……。



─レニの話だけで終わりそうな勢いですね(笑)。アンディはライドを組む前はどんなレコードを聴いてたんでしょう?

アンディ:ビートルズ、サイモン&ガーファンクルのレコードは父が家でよくかけていた。初期のビートルズ……『With The Beatles』『A Hard Day's Night』『Beatles For Sale』と、サイモン&ガーファンクルのアルバム『Bridge Over Troubled Water』がうちにあったんだ。そこから音楽を聴き始めて、もう少し成長するとザ・スミスやザ・キュアーを聴くようになった。そしてローレンスと知り合い、彼と同じようなレコードを聴いた。ストーン・ローゼズと、その前にジーザス&メリー・チェインが大好きになって……その2つは、僕らが知り合った頃に共通して好きだったよね。

ローレンス:そうそう。その頃はお互いのレコード・コレクションをシェアし合ってた。



アンディ:君がザ・フォールのカセットテープを作ってくれたのを覚えてるよ。「Cruiser's Creek」と「Smile」が入ってたでしょ?

ローレンス:そうそう(笑)。

アンディ:フォールのシングルは何枚か持ってたけど、まだアルバムに入ってる曲まで詳しく知らなかった。で、ベーシストのスティーヴ・ケラルトは当時レコード店で働いていて、彼はすべてを持っていた(笑)。僕らがスミスやメリー・チェイン、バニーメンを聴いている一方で、スティーヴはデッド・カン・ダンス、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとか、他にもオブスキュアなレコードを聴き漁ってたんだ。


バンドの軌跡と音楽的嗜好の変遷

─ライドが始まったのは1988年で、1990年の春にデビューEPを出した頃には、かなりノイジーで大音量のサウンドになっていましたよね。あの時期にはどんなレコードを聴いていたんでしょう?

ローレンス:頭に浮かぶのはメリー・チェインのウォール・オブ・ノイズ。あとはダイナソーJr.とか、その辺じゃないかな。

アンディ:具体的にこれというレコードは思い出せないけど、メリー・チェイン、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのサウンドからインスパイアされていたのは間違いないだろうね。それが『Nowhere』の頃になると、だいぶ変わってきた。実は僕の頭の中の大部分がビートルズで占められるようになってきて、模倣したり、手法を取り入れたりする対象として、ビートルズが真ん中に来ていたんだ。ソングライティング、リハーサル、ライブではメリー・チェインやマイ・ブラッディ・ヴァレンタインに引き続き影響されていたけれど、スタジオではビートルズが使ったテクニックを研究している、そんな感じだったよ。




─その『Nowhere』『Going Blank Again』でのサウンド的な変化はどうでしょう。徐々にキーボードも使うようになっていきますが、聴くものの好みに変化はあったのでしょうか?

アンディ:最初の2枚のEPが言わば〈フェイズ1〉で、キーボードは一切使わず、ほとんどオーヴァーダブもせずに、ライブ・レコーディングのような感じで録音した。『Nowhere』ではピアノを使ったり、「Paralysed」に群衆の声を効果音として入れたりとサウンド・エフェクトをいろいろ駆使するようになった。アコースティック・ギターは12弦を一部で使った以外に弾いていない。『Going Blank Again』は、ダブ・レゲエ、アンビエント、エクスペリメンタル・ノイズ、ポップ・ソングまで、すべてを飲み込んでゼロから再構築し直した感じ。ここにはニック・ドレイクからソニック・ユース、マッシヴ・アタックまで、あらゆる影響が詰まっているよ。




─『Carnival Of Light』ぐらいから60~70年代のロックの影響がさらに強くなったように感じました。この時期はどんなレコードを主に聴いていましたか?

アンディ:『Carnival Of Light』は、僕にとっては70年代のロックからの影響が強くなっていた時期。レッド・ツェッペリンをよく聴いていて、「Moonlight Medicine」には「Kashmir」と似たフィーリングがあるし、「Rolling Thunder」にはジミー・ペイジを思わせるところがあると思う。僕はアコースティック・ギター奏者としてのペイジがとても好きなんだ。東洋の音楽から影響されているところもね。一方、マーク・ガードナーはこの頃、ジェイホークスやブラック・クロウズを気に入っていて、そんな流れで部分的にジョージ・ドラクリアスにプロデュースを頼むことになったんだ。アルバムの大部分はジョン・レッキーがプロデュースしていて……彼はピンク・フロイドとスタジオに入った経験があるベテランだ。その結果、やや気ままな〈ロック・アルバム〉に仕上がった。音楽的には実際良い〈ロック・アルバム〉になったけど、シンガーとしてはマークも僕も70年代スタイルのヴォーカリストではないから(笑)、そこはイマイチだったかな。






─ジョージ・ドラクリアスがプロデュースした「How Does It Feel To Feel?」は、60年代に活躍したビート・バンド、クリエイションのカヴァーでした。誰があの曲をやろうと提案したんですか?

ローレンス:はっきり思い出せないけど、確かジョージのアイディアじゃなかったっけ?

アンディ:多分そうだった気がするよ。

─そうなんですね。クリエイション・レコードのアラン・マッギーがクリエイションの大ファンで、彼らと契約してアルバムを作らせたほどの入れ込みようだったので、アランに無理矢理カバーさせられたのかと思ってました。

アンディ:(笑)。アランはクリエイション・レコードの会社名も彼らから取ったし、もともとアランがやっていたビフ・バン・パウ!のバンド名も彼らの曲名からもらったぐらいだからね。

ライド解散〜再結成とリスナーとしての変化

─ライド解散後、ローレンスはマークとアニマルハウスで活動、アンディはハリケーン#1を経てオアシスに加入しました。別々のバンドで活動していた90年代の終わりから2000年代初頭にかけては、何を好んで聴いていた記憶がありますか? 世の中的にはブリットポップのブームが終わって、ドラムンベース以降のクラブ・ミュージックが流行っていたと思います。

ローレンス:ブリットポップの末期には紛い物が次々に出てきてうんざりしたし、やんちゃな感じのバンドも増えてきて個人的には楽しめなかった。90年代の終わりにはダンス・ミュージックの方に興味が移って、ドラムンベースやエレクトリックなサウンドの方を好んでいたよ。

アンディ:僕はオアシスに加入した頃はラーズをよく聴いていたし、初期のフリートウッド・マックも好きだった。日本へ行ったときはラーズのアルバムにボーナス・トラックがたくさん入っているCDを買えてうれしかったな(笑)。ピーター・グリーンがいた時代のフリートウッド・マックはどのアルバムも大好きで、取りつかれたように聴きまくってたよ。

─2000年代に入ってからは、IDMやポストロックなど新しいサウンドに触れる機会もあったと思います。アンディはDJも頻繁にやるようになりましたよね。

アンディ:その頃、僕はスウェーデンに住んでいた。物凄くインパクトが大きかったのがムーディーマンで、それから僕はDJを始めたんだ。一度はまったら気持ちを抑えられなくなって、随分そういうレコードを聴き漁ったよ。ミニマル・ミュージック、ダウンテンポ、エレクトロニカ、ミスター・フィンガーズもよく聴いた。




─アンディのもうすぐ出る新しいソロ・アルバム『Tidal Love Numbers』は、Masalというユニットとのコラボ作で、フローティング・ポインツやアリス・コルトレーンにインスパイアされた作品だそうですね。

アンディ:アンビエントな作品で、聴く人によってはジャズっぽいとも言われる。僕としてはカンからインスパイアされたところが大きいし、フローティング・ポインツのアルバムからかなり刺激を受けてるよ。あとファラオ・サンダースや、アリス・コルトレーンのハープを使ったサウンドとかね。モジュラー・シンセ、テルミン……さまざまな影響をミックスした感じのサウンドになっている。




─ライドはライブでも新曲「Monaco」を聞かせてくれましたが、ニュー・アルバムはどれくらいまでできていて、どんな内容になっているんでしょうか?

アンディ:実にライドっぽいサウンド(笑)。録音は終わっていて、ミキシングを始めたところだけど、ツアーがまだしばらく続くので年内にはリリースしない。ゆっくり腰を落ち着けてミックスが完了してから、来年に出そうと思っているよ。再結成してからの僕らは、それぞれが得意なことや、自分たちの持っている天性の才能を尊重してきた。それが続いているのはとても良いことだと思うし、そうやって各人の色が出せたら良いアルバムになると思うんだ。『Weather Diaries』や『Going Blank Again』がそうだったようにね。


Photo by Kazumichi Kokei

─ライブの終わりに、坂本龍一とデヴィッド・シルヴィアンの「Forbidden Colours」を流してくれて、日本のオーディエンスがとても喜んでいました。やはり亡くなったばかりの坂本龍一を追悼する意味でかけたんですよね。

アンディ:うん。この曲はイギリスではとてもポピュラーなんだ。僕が坂本龍一の作品を聴き始める上でイントロダクションになった曲なので、今回かけたいと思った。

ローレンス:本当に美しい曲だよね……美しいメロディだからこそ、たくさんの想い出が宿る曲だと思うよ。過去のことを思い出す、というか。

─ちなみにローレンスさんはテコンドーの黒帯をお持ちだそうで。いかにも格闘技をやっている人っぽいムーヴが入ったドラミングだなと思ってました。今もトレーニングはされてますか?

ローレンス:いやあ、最近は忙しくてなかなか時間が取れなくてね。また練習を再開して、子供たちに技を伝授しなきゃと思ってるよ(笑)。

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