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SUGAが語る、Agust Dを通して見た「心の旅」、坂本龍一との対面

Rolling Stone Japan / 2023年5月14日 17時15分

SUGA(COURTESY OF BIGHIT MUSIC)

おそらくBTSのメンバーのなかで、ソロ作品のリリースを前にして緊張する感覚を誰よりも理解できるのはSUGAだろう。本名ミン・ユンギ、現在30歳のラッパー兼プロデューサー兼ソングライターは、もうひとつの顔Agust D名義で2枚のフルレングス・ミックステープをリリースしている。1作目は2016年の『Agust D』、2作目は2020年の『D-2』と、どちらも内省的な作風でアーティストとしての一面を確立した。

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胸が張り裂けんばかりのラップで気骨のあるK-POPスターとしても名を馳せ、メンタルヘルスや内なる葛藤について意見することも厭わなかった。

昨夏、BTSは今後グループとしてアルバムをリリースする代わりに、各自ソロプロジェクトに専念すると発表。SUGAはすでにその時、予定していたAgust D三部作の最終章に取り掛かっていて、サイドプロジェクトがどんなものになるのか世間からよりいっそう注目されることになるのは本人も承知していた。すると突然プレッシャーがSUGAを襲った。本音で激しいラップを繰り出すAgust Dとしての一面を守りつつ、国連やホワイトハウスで演説したり、PSYやホールジーやコールドプレイといったポップの大物とコラボレーションしたりするSUGAというイメージにも応えなくてはというプレッシャーだ。

「三部作を完成させなければならなかったので、絶対にAgust Dを前面に押し出したいと思いました」SUGAはソウル市内にあるHYBEのオフィスから、ZOOM越しにローリングストーン誌の取材に答えた。「でも現実は、マーケティングという点でいうと、SUGAのほうが存在感は上です。Agust DとSUGA(のイメージ)を同調させなくてはという重いプレッシャーがのしかかり、アルバムの完成に響いてしまいました」

ソロ作品はもちろん、作曲に関わったBTSの100以上の楽曲でも、SUGAはつねに様々なアイデンティティと相反する欲望の板挟みになりながら、その両立を目指してきた。成功への渇望と物質欲への反発。自分に正直でありたい気持ちと出しゃばりすぎていないかという恐れ。大衆の期待に応えたい思いと、批評家に理解されていないという感覚。だが4月21日にリリースされた新作『D-DAY』で(制作舞台裏をおさめたドキュメンタリー『SUGA: Road to D-DAY』もディズニープラスで同時配信)、SUGAはついにこうした内なる葛藤を克服する術を学んだことを証明した。オープニングを飾るタイトルトラックでは、自分にしか見つけられない新しい未来を築くのだと宣言している。”人生のあがき、劣等感、自己憐憫と自分を並べ/今日という1日を迎え、己の銃に狙いを定めろ”と彼はラップする。

炸裂するドリルのビート、胸を震わせるR&B、激しくエモーショナルなラップを融合した全10曲のソロ作品は、全体を通じて彼の哲学的な歌詞があふれている。彼自身が抱えるトラウマ、愛と別離、後期資本主義に生きることの難しさ、そして(毎度おなじみだが)アンチな人々の偽善――今回はそこに自己認識で得た英知を交じえながら。2016年の『Agust D』がラップを激しい感情のはけ口にしていた時代を象徴しているならば、2020年の『D-2』は不安を抱えつつも自分自身を受け止めることを学んだ時代。そして『D-DAY』はついに自分らしさを理解し、人生のカオスと変化を堂々と潜り抜ける1人のミュージシャンの姿を表している。


SUGAが掘り下げる「解放」という概念

SUGAは『D-DAY』全編を通じて<解放>という概念を掘り下げ、社会構造、胸の内の不安、それらを解き放つ自由をラップで模索している。だが同時に、音楽そのものや制作過程での心理状況、それ自体もある種の自由ではないか、とも提起している。

シングル「Haegeum」(韓国語で「規制解禁」の意。韓国の伝統的な弦楽器「奚琴」の名称でもある)の中で、彼はデジタル社会の過剰な消費に批判を掲げ、”みんな妬みつらみに目がくらみ/互いに足枷をはめあっていることに気づかない/情報の津波に呑まれるな”と言い放つ。だがフックの部分では、陰鬱なドリルビートにのって「立ち上がろう」と訴え、騒然とした音楽に身をゆだねて今を生き延びろとリスナーをけしかけているかのようだ。



トラウマ的な記憶の断片を保存する脳の部分、扁桃体に着想を得た物悲しいラップソング「AMYGDALA」でも、過去を悔やむ気持ちから自分を解放しよう、と呼びかける。ここでも彼は、人生でもっともつらかった時期を次から次へと鮮やかにラップで歌い上げ、これでもかと胸の内を明らかにしている。生後すぐに母親が心臓の手術を受けたこと。10代の時デリバリーのバイト中にバイクの事故に遭ったこと。「仕事中に電話に出たら、父親が肝臓がんになったと知らされた」こと。だがここでもやはり曲を作り、「いやな思い出」を引っ張り出して再構築することが、癒しのプロセスの助けになったという。ドキュメンタリー『Road to D-DAY』の中で本人も、「昔の最悪な思い出を振り返り、それをコントロールする術を学ぶのは、ある種の治療です」と語っている。



韓国の大邱で生まれ育ったSUGAは、K-POPアイドルを夢見るずっと前からラップとプロデュースを独学で学んだ。10代の頃は先日亡くなった坂本龍一のインストゥルメンタル曲からビートを抜き出してサンプリングの練習に励んだ。憧れの人との対面を果たし、アルバムの1曲「Snooze」で共演したSUGAにとって、『D-DAY』はひとつの節目だった。ちなみにこの曲では、韓国のインディロックバンドThe Roseのボーカル、ウソンもフィーチャリングされている。

ドキュメンタリー『Road to D-DAY』には、SUGAが坂本と初対面した時の様子も収められている。2人は作曲を始めたきっかけについて語り合い、坂本の「戦場のメリークリスマス」を順番にピアノで弾き合う。名曲の繊細なピアノコードや、坂本ならではの弦楽器アレンジが「Snooze」制作中のヒントになった。ドキュメンタリーの中で本人は心揺さぶるトリップホップのこの曲について、BTSで音楽に目覚めたすべての若手アーティストに捧げた曲だと坂本に語っている。「この曲でみんなに力を与えたかったんです。『つらいよね、でも大丈夫だ……転ぶのが怖くても僕が受け止めてあげる』とね」。ビルボート1位に輝いたBTSの「Life Goes On」でも見られた、リスナーに慰めの言葉をかけるSUGAの力量がここでも存分に発揮された形だ。ちなみに『D-DAY』には、「Life Goes On」をオルタナヒップホップ風に再解釈したバージョンが収録されている。

SUGAがBig Hit Entertainmentに入所したのは2010年。複雑な振り付けを覚えなくてもいいだろうと考えたからだ。それが今や、BTS時代を経て何でもこなすパフォーマーへと成長し、しなやかなダンスの動きも激しいラップもお手の物だ。最近ではギターの演奏も覚え、時折披露している。BTSメンバーで初めて単独ソロツアーを敢行し、4月26日の北米公演を皮切りに夏にはアジアを回る予定だが、ステージでの個人的な目標について語るSUGAは極端なまでに謙虚だ。「僕は1人のラッパーにすぎません」と本人。「自分を表現する最善の方法は何か、ずっと悩んでいました。でもギター演奏もそこまでひどくはありませんから、人前で披露してもたぶん気に入ってもらえるかなと思いました」





SUGA独占インタビュー

アルバムリリースとツアーに先駆けてローリングストーン誌の取材に応じたSUGAは、IUやJ-HOPEとのコラボレーションについて、音楽哲学について、そしてAgust D名義で今後も活動するのかどうかについて語ってくれた。

ードキュメンタリー『Road to D-DAY』の中で、「アルバム制作中、Agust D名義での最後のアルバムにするかどうか迷った」と言っていましたね。確認ですが、『D-DAY』はAgust D最後のアルバムではないということですか?

その通りです。アルバムを買っていただいて、ライナーノーツの「thanks to」セクションを見ていただければ(質問の答えが)わかると思います。最後だと言うと、本当にこれで終わりにしなくてはならなくなります。引退するといっては何度も復活するミュージシャンが大勢いますが――僕は絶対そんな風にしたくありません。三部作の最終章ですが、Agust D最後のアルバムではありません。

Agust Dとして僕が伝えるべきストーリーは、SUGAとして伝えるストーリーよりも重いでしょう? 今回のアルバムには全身全霊を注いだので、そこまで重いストーリーをこの先も語り続けられるほどエネルギーが残っているかわかりません。でも数カ月後にはまたAgust Dとして伝えたいストーリーが出てくるかもしれませんし、ユンキとして、あるいはSUGAとしてリリースするかもしれません。将来の可能性は誰にもわかりません。

なので、これがAgust D最後のアルバムだとは言い切れません。次のアルバムは来年かもしれないし、10年、あるいは死ぬ直前かもしれません。ひょっとしたら、会社の方でこれが最後のアルバムになると言ったんでしょうか? だとしても、僕はここで終わるつもりはありません。バットマンでも『ダークナイト』三部作がありましたが、その後も(新しい映画で)バットマンは復活しました。そういう感じです。

ーIUとは「People Pt. 2」で再びタッグを組んでいますね。前回は2020年にリリースされた彼女のシングル「Eight」で、プロデューサー兼ゲストとして参加していました。共演者として彼女のどんなところがすごいと思いますか? 2人の共通点はなんでしょう?

マーケティング的な視点で言えば、僕がこの曲をAgust D名義でリリースする理由はひとつもありませんでしたから、SUGAとAgust D(のイメージ)を上手く同調させる必要がありました。ですが、僕はAgust Dという人物を通じてミン・ユンギとしての自分の物語を語ってきたので、(SUGAとしてのブランドと)合致させなくてはなりませんでした。今回はどちらのアーティストを合致させるべきか、かなり悩みました。

BTSのメンバーを加えても良かったかもしれません。実際デモでは、Jung Kookがガイドとして声を吹き込んでくれました。でもJung Kookと共演するにしても、「ああ、またBTSっぽい曲だ!」という印象は与えたくなかったんです。それでフィーチャリングするアーティストを探しました。(IUとは)すでに「Eight」で共演していましたし、息も合っていました。僕らの息が合っていたおかげで、あの曲は多くの人から愛されました。それに彼女とは仲がいいんです。前々から友達で、年齢も同じなので、僕の曲に参加してくれないかと頼みました。彼女も多忙な人なので引き受けてもらえないんじゃないかと心配でしたが、ありがたいことに2つ返事で引き受けてくれました。「People Pt. 2」の出来には大満足です。



ーJ-Hopeをフィーチャリングした「HUH?」では、ヴァースを書いてもらう上で何か指示は出しましたか?

音楽を始めて17~18年になりますが、他の人と組む時には絶対プレッシャーをかけないようにしています。あの曲のジャンルはドリルで、イジョン(HYBEのソングライター兼プロデューサーEL CAPITXN)と一緒に作りました。すごく難しいビートです。J-Hopeにも(ヴァースを書くのが)大変だと言われましたが、僕は「好きなようにやっていいよ。代わりに僕が全部後でまとめるから!」と言いました。

PSYと共演した時も、「Eight」の時も、CMソングを作るときも似たような感じです。他のアーティストの音楽をプロデュースする時には、「どんな風にしたいですか? どんな曲にしたいですか? どんな曲を書けばいいですか?」と尋ねるようにしています。誰かに曲を書いてもらう時にも、同じように「好きなようにやってください」とか「好きなように書いてください」と伝えます。J-Hopeのヴァースを最初に聞いた時は、そのまま採用したくなりました。「ワオ、言いたいことがしっかり表現できてるね、上手くいった!」と言って、編集なしでそのまま採用しました。



ー他のBTSメンバーにアルバムを聞かせましたか? 何か感想はありましたか?

他のメンバーはあまり感想を言ってくれないんです。言ってはくれるんですが、Disney+でドキュメンタリー映画が配信されるのにちなんで言うと、みんなの意見はディズニーっぽいんです。どれも前向きな意見で、「ワオ、このアルバムやばいね!」という感じです。客観的意見なのか確信が持てないので、外部からの意見に耳を傾けるようにしています。メンバーはいつも最高だと言ってくれるんですけどね。出来が良くないものを聞かせても、みんな出来が悪いとは言わないでしょう(笑)。でも、みんなにはいつも感謝しています。みんなのおかげで、やる気と勇気が湧いてきます。


坂本龍一からの影響

ー「Snooze」はThe Roseのウサンと先日他界した坂本龍一とのコラボレーション作品です。アーティストとして坂本龍一からはどんな影響を受けてきたのでしょう? 実際に共演してみていかがでしたか?

ちょっと込み入った話になるかもしれませんが、サンプリングした音源を逆回転して、切ってつなげるという手法があるんです。作曲家の間ではよく使われる手法なんですが、中には「これが作曲か?」と言う人もいます。オリジナル音源からサンンプルを取ってきて、改めて収録し直すので、実際これも作曲です。例えばIUと組んだ「Eight」でも、最初にテーマを決める段階で、音源の一部を逆回転して切り貼りしました。ヒップホップでは当たり前のやり方です――多くのヒップホップアーティストが昔も今もこの手法を使っています。これをやるのに必要なのがインスト曲です。ボーカルなしの曲なら、いろんな形式の音楽に落とし込めますから。

サンプリングをする中でこうした制作を練習する必要に迫られ、最終的に行きついたのが坂本龍一さんの曲でした。プロデュースをやり始める前、子どものころから「戦場のメリークリスマス」とか映画『ラスト・エンペラー』のサントラなど、彼の作品を尊敬していました。中学生かそのぐらいのころ、そういったインスト曲を使って自分のビートを作りました。なので当然、坂本龍一さんはいつか会ってみたい憧れの存在の1人でした。お会いしたいとお伝えすると、2つ返事でOKしてくれました。

お亡くなりになって本当に残念です。でもお会いした時は最高でした。ミュージシャン同士の対面ではなく、子どもの僕が大人の彼に会いに行くという感じでした。心からお悔やみを申し上げます。目標に掲げてきた1人でしたから。彼は僕のアルバムにも喜んで参加してくれて、コラボレーションもスムーズに進みました。2人とも楽しんで曲作りをしました。

それと、あの曲は必ずしも僕自身のことを歌っているわけではありません。歌詞を聞けば多分お分かりになるでしょう。僕の後に続くアーティストのことはもちろん、坂本龍一さんの作品に心の平穏を見出してきた世界中の人々のための曲です。



ーアルバムのテーマは「解放」だそうですが、あなたにとっての解放とは何ですか?

以前から今回のテーマの意味は自分でもよく分かっていたので、収録の過程で自分の考えも上手く整理されてくだろうと思いました。(2022年に)『私の解放日記』という非常に良くできた韓国ドラマがあったんですよ。アルバム制作は3年前からすでに始めていましたが――ふと、ドラマとテーマが同じだと気づきました。「解放」をテーマに、みんながもっとたくさんのストーリーや議論を突き詰めてくれたらいいなと感じました。

正直な話、「解放」という概念に固執していたからこの曲(「Haegeum」)を書いたわけではありません。Haegeumとは「奚琴」といって、楽器の名前です。でもだいぶ前にリズム系のビデオゲームに熱中していたんですが、ゲームの中に「奚琴ソング」という曲が出てくるんです(註:特定のステージに到達した時にだけ流れる曲)。それがこの曲のねらいでした。3年ほど前、「Daechwita」と並行して「Haegeum」のフックの部分を書いたんですが、当時は韓国の伝統楽器でたくさん曲を作っていました。なのでみなさんご存じないかもしれませんが、本当は「Daechwita」のビートとして書いた曲なんです。

「解放」を僕なりにどう定義するかと自問したら、(自分の楽曲の中で)解放という概念がどんどん広がっていきました。視聴者の皆さんはすごく面白がってくれるでしょうね――他にもいろんなプロモーションを用意しましたから。自信はありますよ。ビデオでは、とにかくやりたい放題やっています(笑)

ーAgust Dの「D」は生まれ故郷の大邱(テグ)の頭文字ですね。ソウル生活も長くなり、世界中を旅していますが、今はあなたにとって大邱はどんな存在ですか?

Agustの後にスペース、Dが続くのはなぜなのか、をいつもみなさんに訊かれるんです。「『ONE PIECE』絡みですか?」とも言われます(漫画『ONE PIECE』の主人公はモンキー・D・ルフィ)。大邱はすごく大事な存在です――当然、生まれ故郷ですからね。あそこにいる時はすごく落ち着きます。それに、ミュージシャンというのは出身地にものすごい誇りを持っているんです。僕もよく帰省します。マクチャン(小腸の炙り焼き)を食べに帰ります。それに両親も大邱が大好きなんです。夢のような場所ですね。

ー今回のアルバムではどんなライブパフォーマンスを予定していますか?

いろいろありますが、会場に来てからのお楽しみです。収録はしません。ミン・ユンギのショウは、ぜひとも会場で観てください。

補助通訳:TaeHo Lee

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