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アルファ・ミストが語る「ジャズの探求に終わりはない」音楽的冒険を支える仲間たちの貢献

Rolling Stone Japan / 2023年5月25日 18時10分

アルファ・ミスト(Photo by Kay Ibrahim)

アルファ・ミスト(Alfa Mist)はUKジャズのみならず、世界の音楽シーンにおいても唯一無二の存在だ。トム・ミッシュやジョーダン・ラカイなどとコラボするJ・ディラ系譜のビートメイカーでありながら、ユセフ・デイズやマンスール・ブラウンなどとのセッションでフェンダーローズを奏でる鍵盤奏者でもある。UK屈指のラッパー、ロイル・カーナーの作品ではその両面で貢献していたりもする。

しかも、演奏のみならずコンポーザーとして他にはない個性がある。ヒップホップへの憧憬を感じさせる演奏が得意なのは先にも述べたが、彼はビル・エヴァンスなどを好むオーセンティックな志向性も備えている。それに加えて、21世紀以降のコンテンポラリージャズをも取り入れている。アカデミックな教育は一切受けていない「独学の人」でありながら、ビートを打ち込む傍ら、アヴィシャイ・コーエンやシャイ・マエストロといったジャズの最前線をも自身の音楽に反映させようとしてきた。演奏とビートメイクを兼任し、新旧のジャズをアカデミックではない方法で共存させる。その両方を同時に実践しているアーティストは、他にそう思い浮かばない。

通算5作目となる最新アルバム『Variables』では、その表現が更なる進化を遂げている。トランペット奏者のジョニー・ウッドハム(Johnny Woodham)、ギタリストのジェイミー・リーミング(Jamie Leeming)、ベーシストのカヤ・トーマス・ダイク(Kaya Thomas-Dyke)、ドラマーのジャズ・カイザー(Jas Kayser)という、それぞれ個性溢れるプレイヤーのキャラクターを活かすことで、その音楽を豊かに響かせている。

今回のインタビューでは『Variables』の制作背景に加えて、アルバムに貢献したバンドの仲間たちについてもたくさん語ってもらった。6月5日に大阪、7日に東京、8日に横浜のビルボードライブで開催される来日公演にも、このメンバーが揃って出演予定。ぜひ予習編としても役立ててほしい。



―『Variables』のコンセプトを教えてください。

アルファ・ミスト(以下、AM):今、僕がいる場所について考えること。そして、僕が人生でこれまでに下した決断、もしくは人生によって下された決断についてだね。その決断の結果、僕は今の場所にいる。別の選択をしていたら、僕は別の方向に向かい、別の場所にたどり着いていたかもしれない。このアルバムでは、それがコンセプトになっているんだ。

―サウンド面ではいかがでしょう?

AM:アルバムには10種類の曲があるけど、それはつまり、僕が作ることのできたアルバムが10種類あったことを示している。10曲それぞれのサウンドが、新しいアルバムの方向性になったかもしれない。その可能性の全てを示すことが、サウンド面でのコンセプトだったんだ。

―10の異なる決断があったと。つまり、曲によって別の可能性やポテンシャルがあるってことですね?

AM:そうだね。無限の可能性があるということを表現したかった。例えば、「ギターと歌だけで一枚のアルバムを作る」みたいに、それぞれの曲のサウンドだけで一枚ずつアルバムを作れたかもしれない。伝統的なジャズのアルバムや、ドラムとベースだけのアルバムを作ることだってできたかもしれない。そんな感じで、このアルバムには僕が作れたかもしれない10の可能性が詰まっているんだよ


Photo by Kay Ibrahim

―『Variables』での作曲や制作プロセスはどんなものでしたか?

AM:僕の場合、プロセスはいつも同じ。まず最初にビートを作るから、今までリリースした全ての曲のビート・バージョンも持っているんだ。で、次のステップはそのビートをバンドのみんなに聴いてもらう。そしてスタジオに入って、その場で演奏をテープに録音していく。ただ、今回のプロジェクトでこれまでと違った点は、たくさんのライブをやっている時期にアルバムを制作したこと。だから、ライブで演奏したときのエネルギーがたくさん収められている。その影響で、前作よりもエネルギッシュなサウンドになっていると思うね。より力強いサウンドになったんじゃないかな。

―たしかにライブ感が強いですよね。それもあって個々のメンバーの演奏が活きているし、そこにはコンテンポラリーなジャズの要素が多く含まれていると感じました。そういったインスピレーションはあったりしますか?

AM:僕が本当に尊敬するモダン・ジャズ・アーティストたちはたくさんいる。僕は常にたくさんの音楽を聴いているからね。アーロン・パークス、カート・ローゼンウィンケル、ロバート・グラスパーを始め、素晴らしいアーティストはたくさんいるけれど、「よし、このサウンドを僕も作ってみよう」と考えることはないかな。もちろん、僕の音楽へのアプローチの仕方や音作りにおいて、彼ら一人一人からインスピレーションはもらっていると思うけどね。

―例えば、ギターのフレーズはモダンな現代のギタリストをよく研究してるのがよくわかります。全体的に新しいジャズの技術をインストールした人たちの演奏が入ってるアルバムだなと思ったんですよね。

AM:ピアノだったらブラッド・メルドー、アーロン・パークス。ギターラインは、リオーネル・ルエケとカート・ローゼンウィンケル。トランペットはアンブローズ・アキンムシーレ。彼は本当に素晴らしいトランペット奏者で、僕のお気に入りなんだ。それから、ベースはアヴィシャイ・コーエン。今はとりあえず彼らの名前を挙げておくよ。

―こういったコンテンポラリーなジャズを取り入れているビートメイカーってすごくめずらしいと思うんですよ。

AM:そうなのかな? 僕はほとんどの人と逆のことをしてきたのかもしれないね。ジャズミュージシャンの中には、後からヒップホップに取り組み出した人がたくさんいるけど、僕はその逆だったから。まずヒップホップから初めて、その後にジャズに興味を持った。でもある意味、僕はそっちのほうが面白いと思うんだよね。ジャズって複雑で終わりがないから、永遠に探求が続けられるし、常に新しい発見があるから。

アルファ・ミストの音楽を支える仲間たち

―ここからは、あなたの音楽を形にしてくれている個性的なメンバーについて聞かせてください。トランペット奏者のジョニー・ウッドハムはあなたが運営するレーベルSekitoから、JSPHYNXの名義で『Reflex』をリリースしていますね。

AM:僕とジョニーが一緒に仕事をしたことのあるミュージシャンたち、みんなの才能をジョニーの音楽と融合させることができたのが『Reflex』という作品なんだ。彼は普段、トランペットで伝統的なジャズやビバップのラインをたくさん演奏している。でも、彼がビートを作ると、すごくモダンなUKサウンドになるんだよね。ジャングルやドラムンベースの要素が出てくる。『Reflex』には(ホセ・ジェイムズらを支えてきたジャズドラマーとしての顔だけでなく)UKだとドラムンベース界隈でも有名なリチャード・スペイヴンも参加していて、みんながジョニーのサウンドの魅力が引き出してくれているんだ。




―そのジョニー・ウッドハムは、『Variables』でどんな貢献をしていますか?

AM:ジョニーは、僕がリリースしたほぼ全てのアルバムで演奏してくれている。僕はたくさんのラインやメロディを書いているけど、ジョニーは、彼が作り出す音色を使って、それを支えてくれるんだ。もし違う人がトランペットを演奏すれば、それは違うものに聴こえると思う。

そして、ジョニーの音楽はタイムレスなんだ。彼はフレディ・ハバードが好きで、あの頃のミュージシャンたちに夢中なんだけど、新しい音楽、新しいコード、新しいサウンドを操る方法も知っている。伝統的な方法で演奏しながらも、新しいサウンドを作ることができるんだ。どちらが片方が上手く演奏できる人はたくさんいるけど、新しい曲を伝統的なスタイルで演奏できる人はあまりいないと思うんだよね。彼はどこか違う時代から来たみたいなミュージシャンなんだ。



―ギタリストのジェイミー・リーミングもまた、Sekitoからアルバム『Resynthesis』をリリースしています。

AM:『Resynthesis』は、ジェイミーの性格がすごく出ている作品だと思う。すごくクリーンで、ハーモニーがとてもメランコリックなんだ。悲壮感はないけれど、内省的で、考えさせられ、感じさせられる。それはジェイミーの人柄でもあって、すごく美しい彼のグルーヴが反映されているんだよね。会ってみないとわからないだろうけど、彼と会って一度でも会話をすれば、なぜ『Resynthesis』がああいうサウンドになったのか、すごく納得がいくはず。僕はやっぱり自分自身を音楽に変換できる人たちが最高のミュージシャンだと思うんだ。つまり、自分という人間によって音楽を表現できる人たち。ジェイミーはそれを見事に実現しているんだ。同じことは、ジョニーにも言えるよね。

―ギタリストとしての特徴は?

AM:本当に素晴らしい音色とテクニックを併せ持ちつつ、その場その場で常に音の探求を心がけているんだ。僕は長年にわたってジェイミーと多くのショーを行ってきたけど、彼は毎回新しいことを考えようとする。ギターに関してすごくオープンマインドで、且つしっかりと訓練されている。探検家であるからこそ、僕たちにより多くのことを解き明かす機会をくれ、音楽の世界のなかで成長させてくれるんだ。彼のそういう面からは、僕も影響を受けている。




―今回の『Variables』でも、ギターが重要な役割を果たしていますよね。

AM:ギターの音は常に大好きだし、すごく重要だと思う。ピアノで弾く3音の基本的なコードも、ギターで弾くとなぜか響いてきたりするよね。ピアノでは退屈に聞こえることが、ギターではなぜか素晴らしく聴こえたり。だから、僕は自分の音楽の中にギターの雰囲気があるのがとても好きなんだ。常に全てのトップに立つわけではないけれど、素晴らしいサポートとして、鍵盤との相性もすごくいい。普段は、鍵盤かギターのどちらかを使うことが多いかもしれないけど、僕は両方あったほうが土台が強くなると思う。

―このアルバムで、特にお気に入りのジェイミーのプレイが聴ける曲を教えてください。

AM:オッケー。例えばタイトル曲の「Variables」。この曲は僕が書いたんだけど、雰囲気を出すために、僕自身は冒頭でちょっと演奏しているだけなんだ。そして、あとはジェイミーに任せた。なぜなら、僕はこの曲で、ギター、ベース、ドラムで作り上げるジャズが聴きたかったから。なぜかはわからないけど、ピアノが好きでも、そういうジャズが聴きたくなる時もあるんだよ。だからジェイミーにお願いした。そしたら、ジャズっていうよりロックっぽくなってさ(笑)。たぶん、それがジェイミーがあの曲に感じたヴァイブだったんだと思う。ツアーで演奏するたびに毎回姿が変わっていってすごく興味深かったよ。彼は、演奏するということよりも、「自分自身でいること」を意識している。だから、あの曲で彼自身を上手く表現した結果があのサウンドだったんだろうね。



―しかし、そこまで任せているんですね。メンバーを心底信頼していると。あなた自身は鍵盤奏者として、『Variables』でどんな表現をしようと思ったのでしょうか?

AM:僕はプロデュースをし、全ての曲を書いたけど、鍵盤奏者としての僕の役割は、ただ楽しむことだった。僕はたまたまキーボードを弾けるだけ(笑)。本当は他のキーボード奏者を呼んで、楽譜を渡したっていいんだ。それをしたって、全てが僕の音楽であることに変わりはない。でも、敢えて自分でキーボードを弾いたのは、それが僕にとって楽しいことだからなんだ。だから、鍵盤の上で楽しむというのが僕の役割だった。色々考えたり、ストレスを感じたりっていうのは、曲を書き終わった時点ですでに終わっていたからね。

―マインドとしてはプロデューサーやコンポーザーとしての比重が大きいわけですね。では、次はベーシストのカヤ・トーマス・ダイクについて。彼女はベースだけでなく、『Variables』の「Aged Eyes」、前作『Bring Backs』の「People」でのギター弾き語りも魅力的で、こういう曲がアルバムを魅力的にしていると感じています。「Aged Eyes」はどういう曲なんですか?

AM:その2曲は、ギターで書いたから、生まれた部分もある曲だね。僕はギターを上手く弾くことはできないから、ライブで僕がギターを演奏する姿を見ることはないと思うけど、僕はギターが大好きで、家やスタジオにいるときに弾くこともある。カヤは、歌詞とハーモニーのアレンジを担当してくれるんだ。彼女もまた僕の音楽にとって本当に大切な存在で、これまでの僕のアルバムの全てのアートワークも担当してくれている。彼女は今、彼女自身の作品を作っているところで、もうすぐリリースされる予定。たぶん、数カ月以内にはリリースできるんじゃないかな。



ウガンダのルーツと向き合った理由

―今回のアルバムで南アフリカのフォーク・シンガー、ボンゲジウエ・マバンドラ(Bongeziwe Mabandla)を起用した経緯を教えてください。

AM:僕はこれまで、自分の知り合いや友人以外のアーティストを起用したことはなかった。でも彼は、僕がその領域を越えて手を伸ばした最初のアーティストなんだ。歌詞の内容こそ彼の言葉(コサ語)が話せない自分には理解することができなかったけど、英語に翻訳されたものを読んだら、信じられないほど素晴らしかったんだ。

―そのボンゲジウエ・マバンドラが参加した「Apho」について聞かせてください。

AM:さっきも話したけど、僕はギターでも曲を書く。この曲もギターで書いた曲で、普段とは違う曲を書いてみようと色々と試しながらできた曲なんだ。ギターもそうだし、グルーヴやリズムも他の曲とはちょっと違っている。この曲は、今の僕が本当に興味を持っているサウンドが詰まっている曲なんだ。僕はギターのループとハイエナジーなサウンドが好きなんだけど、ボンゲジウエがそこに美しいメロディを加えてくれた。あのメロディラインは彼自身が書いたものなんだ。その二つの要素が一つになって、僕のこれまでの作品とはかなり異なるサウンドが生まれたと思う。




―まさに「Apho」は新境地ともいえそうな、聴いたことがないタイプの曲でした。同じことはアフロビート的なアプローチの「Genda (Go Away)」にも言えるのではないでしょうか。

AM:僕の母親はウガンダ人。つまり僕もウガンダ人なんだけど、ロンドンで生まれ育った僕とは違って、母親はウガンダからロンドンに来たから、彼女はルガンダ語を話すんだ。僕はそれを理解することは出来るけど、話すことはできない。そのなかで、僕が理解できる数少ないルガンダ語の一つが「Genda」で「あっちへ行け」という意味なんだよ。否定的な意味で覚えているわけじゃなくて、ちょっと冗談混じりで笑いを誘うようなイメージだね。

この曲には子供の頃の思い出を込めたかったんだ。曲で使われているのは正しいアクセントじゃないかもしれないけど、それはそれでいいと思ってる。新しい国に引っ越してきた人たちが、自分の子供に古い言葉を教えているリアルな様子が表現されている方が大切だからね。だから、この曲には僕の姪っ子も参加してくれているんだ。彼女は、僕よりもさらに次の世代だから、僕以上にルガンダ語が話せない。でも僕らは二人とも、僕たちなりにその言語を話そうとしている。言葉を伝えようとすることは大切なことだと思うし、たとえおかしな発音になったとしても、自分たちの伝統を守るために学ぶべきだし、それを繋いでいきたいと思うんだ。


Photo by Kay Ibrahim

―今回、アフリカのミュージシャンと共演していたり、アフロビートが取り入れられていたりするわけですが、そういう曲ではアフロビートを得意にしているドラマーのジャズ・カイザーが大きな役割を果たしていますよね。

AM:僕もそう思う。彼女自身の音楽を聴いてもらったらわかると思うけど、彼女の音楽にはたくさんアフロビートが使われていて、彼女はとても上手く扱うことができるんだ。このアルバムでもそれがすごく機能していると思うよ。




―僕は『Variables』がきっかけで、あなたがウガンダにルーツを持っていることを知りました。あなたのミドルネーム「Sekitoleko」もウガンダに由来する名前なんですよね。これまでにも自分の作品で、そういうルーツの要素を表現したことはありましたか?

AM:実は僕のアルバムは全て、どこかにウガンダの要素が入ってるんだ。「Mulago」という曲のタイトルは僕の母親が生まれた病院だし、「Naiyti」はナイトって意味で、ウガンダでは語尾に「イー」みたいな言葉をつけて「ナイティー」っていうんだ。意識してウガンダのルーツを表現しようとしているわけではないけど、自分にウガンダの血が流れているから、自然と曲名のアイデアが出てくるんだと思うよ。

―最後に、日本でのライブはどういう感じになりそうですか?

AM:もちろん『Variables』の曲をたくさん演奏するけど、日本に来る機会は貴重だから、昔の曲もプレイする予定。僕たちは即興のバンドだから毎回違う内容になると思うし、どうなるかはお楽しみ。日本に行くのが待ちきれないよ。かなり久々だからね。日本でみんなに会えるのを楽しみにしているよ。





アルファ・ミスト
『Variables』 
再生・購入:https://alfamist.ffm.to/variables 

ALL TOMORROWS COLLECTIVE Vol.1 アルファ・ミスト来日公演
6月5日(月)ビルボードライブ大阪
6月7日(水)ビルボードライブ東京
6月8日(木)ビルボードライブ横浜
1st show:OPEN 17:00 START 18:00
2nd show:OPEN 20:00 START 21:00
詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=3896

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