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連続殺人事件をコンテンツ化する人々、絶滅したはずの陰謀論がTikTokで再燃 米

Rolling Stone Japan / 2023年6月9日 6時45分

GETTY IMAGES/ISTOCKPHOTO

知らない人の車に乗ってはいけません。幼いころから叩きこまれてきたシンプルな教訓だ。だが1人のユーザーが、深夜にシカゴのバーを出たところで車で送ると言われた話をTikTokに投稿すると、コメント欄への活発な書き込みとTikTok捕物帳から連鎖反応が起きた――アメリカで語り継がれてきた連続殺人の陰謀論が、再び頭をもたげたのだ。

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TikTokユーザーのケン・ワクスは3月9日に動画を投稿し、本人がいうところの「恐怖体験」を避けるように、とフォロワーに呼びかけた。キャプションには「この6週間で2回も同じような目に遭った」とあり、他人から家まで送ると持ちかけられた後、車が走り去るまでの出来事が説明されていた。「夜中にバーやパーティを出た後、行方不明になって音沙汰がなくなる人が年がら年中いる」。だが話を恐怖体験で終わらせる代わりに、ワクスは邪なほうに知恵をめぐらせた――これは連続殺人事件の仕業だ、と。

自分も深夜に車からつけられた、という書き込みがコメント欄に殺到すると、ワクスは家まで送るというおせっかい行為が、シカゴリバーで立て続けに発生した溺死事件と連続殺人をつなぐカギだと投稿するようになった。シカゴ警察はいずれも事故死だったと断定しているが、犠牲者が生前最後に目撃されたのはいずれもシカゴのバーを出るところだった。不可解な死を連続殺人犯の仕業にするのはソーシャルメディアでは常套手段が、ワクスは実体験(とコメントの嵐)を利用して、殺人犯が深夜に車で送ると持ちかけては獲物をゲットし、薬を盛っているという説を展開した。「行方不明になったいきさつが僕には分かる。事件には関連性があるんだ」とTikTokで語り、若くてたくましい男性でも、酒に酔っていれば見知らぬ他人からいともたやすく力でねじ伏せられてしまうだろう、と自信たっぷりに語った。「そうさ、警察やメディアは手をこまねいて、報道もしない。でも僕らにできることがある」。

ワクスは7週間にわたってTikTokで捜査の進捗状況を報告した。溺死体の発見場所を記した自作の地図を投稿し、捜査対象を全米各都市にまで広げた。「シカゴやオースティン以上に大規模な事件だ」とワクスは投稿した。「全米で男性が同じ状況で姿を消し、数日後あるいは数週間後に発見されている」。TikTokクリエイターは時折動画を投稿するだけに留まらず、本人がいうところの有益な情報を携えて、実際に警察署にも足を運んだ。警察に取り合ってもらえなかったワクスは、増え続けるフォロワーにシフトした。「この件について、警察やニュースが公共の安全強化と注意喚起のために手を打たないなら、僕が自分でやろうじゃないか」。



シリアルキラーを題材にした数々の番組や映画では、おなじみの展開だ。犯人逮捕や有罪判決の前には、自分の説を信じてもらおうと躍起になる人物がいるのが一般的だ。もともとは起業カルチャーが専門だったワクスの動画に、数百万の閲覧回数や数千のコメントがつくようになったのもおそらくそうした理由からだろう。だが、ワクスの説がこれほど注目を浴びたのには他にも理由がある。前例があったのだ。

1997年、フォーダム大学の学生だったパトリック・マクニールさんは、夜遊びした後マンハッタンのバーを出て、大学寮に戻るところだった。生前のマクニールさん(当時21歳)が目撃されたのはそれが最後だった。1カ月にわたって徹底的に捜索を行った末、警察は65番通りの桟橋付近でイーストリバーに浮かんでいるマクニールさんの遺体を発見した。検視報告書によれば怪しい点は一切なく、マクニールさんは酔った勢いで川に落ちたと見られ、事故死と断定された。事件を担当した捜査官の1人、ニューヨーク警察のケヴィン・ギャノン刑事は違う意見だった。現在はすでに引退しているギャノン氏は、マクニールさん――および全米で溺死した数百人の男性――が当局のいうように事故死ではなく、ギャングまがいの秘密殺人集団の仕業だと証明するべく、この20年間全人生を捧げている。

ニューヨーク警察の元刑事アンソニー・デュアルテ氏、刑事司法を専門とするリー・ギルバートソン教授と同様、ギャノン氏もいわゆる「スマイリーフェイス・キラー」を声高に主張するメンバーの1人だ。この陰謀論のもとになっているのは、現場付近で目撃されているスマイリーフェイスのグラフィティが全米で発生した数百件の不慮の溺死をつなぐ糸口だ、という考えだ。まず2008年にFBIが、次いで数十人の犯罪学の専門家、その後ミネアポリスの殺人調査センターの詳細な論文が何度となくこの説を一蹴してきたが、それでもギャノン氏や仲間たちが捜査を止めることはなく、2014年には本も出版された。ごく最近では、Oxgenで6話シリーズのドキュメンタリー『Smiley Face Killers: The Hunt for Justice』も公開されている。

弊誌の取材要請やコメント要請にギャノン氏からの返答はなかった。だが2019年のインタビューでは、絶対に自説を証明して犠牲者に正義を果たすつもりだと語っている。「誰が、なぜこんなことをしているのかを我々が解明すれば、(FBIも)関与するしかなくなるだろう」と本人。「黒幕を裁きの場に連れ出すために、我々は手を打たなければならない。断言しよう、それが実現するまで我々は決してあきらめない」。どうやら同氏はその約束を果たしたようだ。4月26日に投稿したTikTok動画で、ワクスはギャノン氏と「チームを組み」、データを共有しながら共同捜査にあたっていると語っている。キャプションには、「スマイリーフェイス・ギャングの捜査は誰でも参加自由なので、僕のチームも正式に彼のチームに加わった」と書かれている。「一緒に捜査してきた(僕たち)みんな(チームと情報提供者)がいれば、最終的に犯人を裁きにかけて遺族に答えを提示できるだろう。みんなもチームに加わって、一緒に捜査しよう」。

人々が実録犯罪に興味を持つケースは珍しくない――ソーシャルメディアではリアルタイムで人々の目にさらされている(ギャビー・ペティートさん失踪事件しかり、アイダホ州の殺人事件しかり)。インターネットでの関心が事件解決の手立てになる、という賛成派の意見もあるものの、連続殺人犯を求める渇望があまりにも強いと害になる場合もある。カリフォルニア州立フラートン大学のアダム・ゴラブ教授によれば、市民探偵――時には誤情報も多い――がものすごい勢いで広まっていることから、TikTokは昔の陰謀論やすでに偽情報だと確定された陰謀論が再燃するきっかけになるのはほぼ間違いない。

「ある種の連続殺人事件に対する新たな恐怖や関心が持ち上がると、TikTokで毎日のように自説を展開する人々が出てくるのは当然です」とゴラブ教授。「これは逃れられない問題ですが、市民探偵や私立探偵となると話はややこしくなります。かたや未解決事件の再捜査につながり、冤罪に問われた人々の無罪を証明する可能性もあります。ですが倫理を問う監視や規制はほとんど皆無で、憶測が横行しやすくなり、無駄に期待を持たせたり金儲けに利用するといったことも起きます」。



ワクスも金儲け疑惑が原因で、TikTokの英雄からまゆつば者に転じた。ワクスは捜査を呼びかける2本の動画で、自分がチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)を務めるスタートアップ企業Foresyteのカレンダーアプリを口にしている。Foresyte社のステファン・エディCEOはLinkedInの投稿で(現在は削除されている)、ワクスの拡散動画をリンクしたおかげでアプリのダウンロード件数が上がったと喜んでいた。だがその後、ワクスが捜査と拡散動画を利用してアプリをバズらせている、という非難が数百件ちかく寄せられた。「彼は他人の不幸を金儲けの道具にしている」とは、メレディス・リンチというユーザーのコメントだ。「この手のコンテンツは危険だ」と、クリエイターのジャスティン・バーネットも賛同した。

Foresyte社はローリングストーン誌の最初のコメント要請に対し、ワクスは「うっかり」アプリを口にしたのであって、マーケティング戦略の一環ではないと回答した。その後も批判が相次ぐと、Foresyte社はワクスと「袂を分かった」ことを公表した。「ケンはCMOとして、我々のチームに労力と情熱を注ぎ込んでくれましたが、私生活で発覚した別件により……両当事者は別々の道を歩まなくてはならなくなりました」と、Foresyte社の広報担当者は述べている。あらためてワクスにコメントを求めたが、ノーコメントだった。だがTikTokに投稿された動画には、「僕らは別々の道を進みますが、ご健勝を祈ります」と会社にメッセージを送った。

ワクスはTikTokに投稿した2本の謝罪動画のひとつで、捜査の流れでアプリを口にしたのは「不注意だった」が、純粋な過ちだったと述べた。「正直、事件に少しのめり込んで調子に乗ってしまった」と本人。捜査は今後も継続するが、TikTokで進捗状況を公開するのは辞めると宣言した。

ワクスはローリングストーン氏の取材申請を辞退したが、「自分が連絡を取っている刑事や、必要な時間を割いて真相究明にあたるしかるべき当局」に捜査結果を提供する計画だとメール経由で語った。また、動画によって志を同じくする人々との間に連帯感が生まれたとも語った。「僕と似たような経験をした人――深夜に車が近づいてきて、怪しいやり取りをした人――や、行方不明者に心を寄せる人々が他にも大勢いる」とワクス。「事件に関する情報を提供してくれた人も何人かいて、真の仲間意識が生まれた」。

だがゴラブ教授は、実録犯罪がますますコンテンツの主流になって人々を楽しませる一方、しばしば被害者や被害者の思い出が犠牲にされていると付け加えた。

「大衆文化では連続殺人犯が定番化しています。そういう意味で、人々は事件解決を何度も目にしているため、解決方法を知っている気になってしまう。ですがTikTokの世界では倫理が通用しません。こうしたことに対する規制も罰則も一切ないようです」とゴラブ教授は言う。「実録犯罪ものは被害者を無視して、加害者を話題にします。こういうおかしな風潮で、話題の中心は被害者ではなく、話題を作ろうとするクリエイターに向けられてしまっています」。

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