POP YOURS総括 2年目を迎えたフェスとヒップホップの最前線で目の当たりにした「変化」
Rolling Stone Japan / 2023年6月1日 17時30分
ヒップホップフェスティバル「POP YOURS」が、5月27日(土)と28日(日)、千葉・幕張メッセ国際展示場9〜11ホールで開催された。初開催となった昨年に引き続き、文筆家・ライターのつやちゃんに2日間の模様を振り返ってもらった。
【写真まとめ】「POP YOURS」ライブ写真(全86点)
あまりの盛り上がりに、幾度となく笑いがこみあげてしまった。昨年と違い新型コロナウイルス5類移行後となる開催で、大幅に増やしたというチケットは全てソールドアウト。しかし、観客の数以上に驚いたのは熱量である。BAD HOP、Awichの両ヘッドライナーはもちろんのこと、ralph、あるいはTohjiのパフォーマンスによって起きた地鳴りのような歓声、ぎゅうぎゅうに充満する熱気の凄まじさ。響くビートはドリルありEDMあり、披露されるのはラップあり歌ありダンスあり、とにかくヒップホップを独自に解釈した多種多様な表現が観客の奥底にある感情を引き出し爆発させる。国内ヒップホップの最前線を張るプレイヤーが集まることで、沸々と湧き上がる熱、熱、熱! 果たして今、ユース層がこれだけエモーションを露わにする文化が世の中にどれほどあるだろうか。
BAD HOP(DAY 1)
Awich(DAY 2)
それにしてもPOP YOURSのプロデュース力というのは素晴らしく、開始してたった1年のフェスとはとても思えない信頼感が醸成されつつある。音楽業界関係者と話していても近年多く誕生した国内音楽フェスの中で最も成功した事例だと捉える声が多く、確かに、場づくりやプロモーションに至るまであらゆるコンテンツがシーン全体の活性化に繋がるよう”愛を持って”設計されている点には共感を感じずにはいられない。2021年にヒップホップ・フェスの在り方が世間で厳しく問われた背景を考えると、本フェスが持つ自治力が果たしている功績も大きいのだろう。
運営は昨年の初開催に手ごたえを感じたのか、POP YOURS冠の単発ライブも多数展開するなど年間を通じて次々と攻めの施策を打ってきた。Bonbero、LANA、MFS、Watsonを集めドロップしたテーマ曲「Makuhari」や、Awich、NENE、LANA、MaRIによるサイファー曲「Bad B*tch 美学」など、コアなヒップホップリスナーのツボを突きつつ間口も広げる企画も非常に優れている。ライブでも、その2曲は最大級の熱狂を作り出していた。
POP YOURSで「Makuhari」を披露するBonbero、LANA、MFS、Watson(DAY 1)
さて、POP YOURSが国内ヒップホップ最前線の見本市となっているのであれば、そのパフォーマンスの数々は1年間のシーンの変化を如実に反映したものになるはずだ。では昨年の開催から現在まで、国内ヒップホップを巡ってどのような出来事が起こったか振り返ってみたい。一つに、ジャンル特化の大型イベントが乱立したことが挙げられる。それこそPOP YOURSが先鞭をつける形でTHE HOPEやTOKYO KIDS BADASS VIBES等が続き、サーキットイベントの類いや地方のフェスも生まれた。
同時に、大型イベントを成立させるには多様な音楽性が存在しなければ成り立たないが、その点でこの1年間は様々なジャンルのビート解釈がますます拡大した期間でもあった。ブーンバップ~トラップ~ドリルというメインストリームの音だけでなく、トランスやEDM、ドラムンベース、ポップパンクに至るまでダンサブルで軽やかなサウンドを作り手が希求し、同時にジャージークラブのようなトレンドも勃興。さらには新たなラップの潮流も本格化し、WatsonやCandeeといった面々が即物的なユーモアとともにバネのあるメロディアスなラップを畳みかけ、次世代スターの最右翼に躍り出た。
そして、ヒップホップの”Unity”に想いを馳せる出来事も起こった。KANDYTOWNの解散である。ちょうど今回のPOP YOURSでもBAD HOPが解散を宣言したが、いよいよ2010年代から続くヒップホップの大所帯クルーが散り散りになりはじめている。本稿では、以上を「2年目を迎えたヒップホップ大型フェス」「多彩な音楽性とビートの希求」「新たなモードに突入したラップ技法」「仲間とのつながり=Unity」というトピックスにまとめた上で、今回のPOP YOURSを総括していきたい。
2年目を迎えた大型フェス
昨年はここまで巨大なキャパでの公演を経験したことのあるラッパーがほとんどいなかったため探り探りのパフォーマンスも多かったが、今年は多くの演者が”いかに魅せるか”を意識し準備してきたことで一気に舞台上の表現力が高まった。まず目立ったのは、ダンスを交えての演出。目を惹いたステージはMFSとJP THE WAVYで、背後にダンサーを従えつつ、自らもそのノリをラップに活かしていた。両者ともに昨年は息が上がりやや声が出ていなかった場面もあったが、今年はその点も大きくカバー。同じくダンサーを率いたLANAの舞台も印象深い。他にも、アート性高いビジュアルをスクリーンに投影しながらのショウを展開したCreativeDrugStore、生サックスとの共演を果たしたKEIJU、安定のやり取りで楽しませてくれたPUNPEE & BIMも、緩急をつけた”魅せる”ライブができていた。BAD HOPやAwichに象徴的だが、ライブや新作リリースといったニュース発表の場にステージを使う手法も昨年より増加。コーチェラなどと同様に、ライブ配信を見込んだ上での宣伝効果を狙うがゆえの背景もあるのだろう。
他方で、演出に頼らずともラップのみで空気を支配し観客を没入させる優れたラッパーもいた。guca owlやOMSB、ralph、C.O.S.A.のステージは、マイクを通し言葉を発するという凄みだけで会場全体を惹きつけ、異次元の力量を誇示。MCを巧みに織り交ぜ盛り上がりを作り出すという点では、フェスに引っ張りだこのRed Eyeやジャパニーズマゲニーズの手腕も相変わらず目立っていた。ヒップホップの大型フェスに限らず、ロック系のフェスなどにヒップホップアーティストが出演することも多くなってきた昨今、今後は巨大な会場で観客を惹きつける舞台表現の重要性が増していくだろう。昨年から今年にかけて国内ツアーに出ていたJP THE WAVY、LEXなどのステージングはさすがに鍛えられていたし、中でもAwichの構成力は別格だった。
MFS(DAY 1)
JP THE WAVY(DAY 2)
CreativeDrugStore(DAY 2)
PUNPEE & BIM(DAY 1)
guca owl(DAY 1)
OMSB(DAY 1)
C.O.S.A.(DAY 2)
多彩なビートの希求
既存のブーンバップ~トラップ主軸のビートでは自らの表現を規定しきれないアーティストが増えている中で、隣接するロックミュージックやハイパー・カルチャー、レイブ音楽といった領域と共振しつつオルタナティブなヒップホップを標榜する潮流がますます勢力を増している。今年のPOP YOURSでもTohjiとゆるふわギャングという二大勢力を筆頭に、主に「New Comer Shot Live」のステージでフレッシュなリズムとテクスチャが鳴らされた。UKガラージやジャージーで颯爽と駆け抜けたYvng Patra、ダンスミュージックのグルーヴを使い盛り上げたTokyo Young Vision、ロックサウンドを引用したCreativeDrugStore等、拡散するビートで会場に多様なヒップホップを見せた面々が挙げられる。
「New Comer Shot Live」は非常に意義深いステージであるが、STARKIDSとPeterparker69を見て2日間の空気の違いによる難しさも感じた。両日通しで来場している観客も多い中、1日目の会場の方がよりストレートなヒップホップを求めており、2日目はやや飢餓感が満たされ疲労も見えてくるためオルタナティブな音を受け入れやすい空気が出来上がっているのだ。2日目の冒頭、Peterparker69の疲れを癒すオアシスのようなサウンドが会場に染み渡る様子を眺めながら、タイムテーブルの残酷さを痛感した。
Tohji(DAY 2)
ゆるふわギャング(DAY 2)
Yvng Patra(DAY 1「New Comer Shot Live」)
Tokyo Young Vision(DAY 2)
STARKIDS(DAY 1「New Comer Shot Live」)
Peterparker69(DAY 2「New Comer Shot Live」)
新たなモードに突入したラップ技法
ビートが変容するにつれて昨今の日本語ラップが繰り出すワード数は増加傾向にあると思うが、それと同時に、以前にも増して(特にライブにおいては)聴取しやすいとフックになる声質・メロディが重要になってきているとも感じる。例えば軽快なジャージー・クラブのビートに多くのリリックを乗せると大抵は「流れて」いってしまうわけで、その点、Watsonの滑舌とメロディアスなフック、LANAの声質、そしてralphの圧倒的なスキルはやはり強烈なインパクトを残していた。特に、Watsonの無駄のないユーモラスなリリックは今のリスナーに一言一句のレベルで浸透しているようで、大合唱によって会場には言葉の洪水が生まれていた。自身の枠はなかったものの、Elle TeresaとSEEDAの客演で抜群のラップを見せたLunv Loyalもさすがの出来。彼もまた、はきはきとした滑舌でフックを作れるラッパーだ。
Watson(DAY 1)
LANA(DAY 2)
ralph(DAY 2)
Elle Teresa(DAY 1)
仲間とのつながり=Unity
連帯はヒップホップにおいて重要な概念の一つだが、今年のPOP YOURSではより一層その重みを感じる場面が多かった。「42だけどしてないセルアウト!」という痺れるMCでライブを始め、「俺にも古い仲間がいる、STICKY見てるかよ?」と言ってSCARS「COME BACK」を歌ったSEEDAのステージに、涙腺がゆるんでしまったのは私だけではないだろう。Jin DoggはREAL-Tの写真をスクリーンに投影し「街風」へと繋げ、BAD HOPは事情によりヘッドライナーが飛んだ¥ellow Bucksにパフォーマンスの場を用意した。IOやKEIJUはMUDやGottzをステージに呼び、DJ RYOWは”& FRIENDS”と称してTOKONA-XはじめSOCKSや”E”qualといった東海勢をレペゼン。レジェンドへと歴史をさかのぼる形でKREVAとZeebraを呼んだPUNPEE & BIMも、大きく会場を沸かせた。昨年に続きSTUTSの愛にあふれたピースフルな舞台も素晴らしかったし、Mall Boyzを復活させたTohji、多くのゲストを舞台にあげたAwichも同様だ。特に、NENE、LANA、MaRIと披露したサイファー「Bad B*tch 美学」はAwichの盟友・AIもサプライズゲストとして参加し、「連帯」というテーマをヒップホップ・フェミニズムにも接続。ヒップホップコミュニティが日に日に巨大化していく中で、フッドやジェンダーを軸にした友情で結束を強めていくラッパー達に胸を打たれた。
だからこそ、仲間を呼ばず一人でライブを演じ切ったLEXは、どこか孤高の輝きをまとっていたように見える。最新作『King Of Everything』は内省的な作風だったが、「これが私です」と呟き「This Is Me」を歌い没頭する姿には、破滅的な危うさが漂っていた。ヒップホップ・フェスの中にあって、彼だけはいつもロック・アーティストのようなたたずまいだ。
SEEDA(DAY 1)
Jin Dogg(DAY 2)
IO(DAY 1)
KEIJU(DAY 2)
DJ RYOW & FRIENDS(DAY 1)
STUTS(DAY 2)
Awich(DAY 2)
POP YOURSに限らないが、昨今の大型ヒップホップ・フェスが抱える大きな悩みに、ヘッドライナークラスの顔ぶれが似通ってきているという問題がある。そうなると若手~中堅をいかにヘッドライナーとして成立するレベルまで育てていくかという点に期待が膨らむが、LEX、Tohji、ralphにはタレント性、力量ともにまだまだ尽きない可能性を感じた。大きなプレッシャーをはねのけ、ますます存在感を増していくラッパーたち。もちろん若手の新陳代謝も良好で、昨年「New Comer Shot Live」の枠だったCandeeやMFS、Skaaiは今年はメインのスロットへ昇格。来年も、今回のNew Comer枠から何人かが昇格するだろう。
これだけPOP YOURSが盛り上がると、恐らく、今後のヒップホップシーンにおけるプロップスを構成する一つの要素に「大型ライブでいかに求心力の高いステージを披露できるか」というポイントも含まれていくに違いない。さて、2024年はどのラッパーが栄えあるステージに立つのか? 楽しみでならない。
【写真まとめ】「POP YOURS」ライブ写真(全86点)
LEX(DAY 1)
Candee(DAY 2)
Skaai(DAY 1)
POP YOURSのセットリストをまとめたプレイリスト
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