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松崎崇が語る、配信レーベル「VIA」の2年半、マカロニえんぴつやEveから学んだ「A&Rの役割」

Rolling Stone Japan / 2023年6月7日 18時0分

松崎崇(Photo by Mitsuru Nishimura)

さまざまなカルチャーへの「こだわり」と「偏愛」が強いエンタメ業界のキーマンに話を聞く、連載インタビュー企画「ポストコロナの産声」。2020年に全世界を襲ったコロナ禍において苦境に立たされた音楽業界のスタッフたちは、価値観が変容していく日々の中でどのように過ごしてきたのか? そしてアフターコロナに向けてどう考えているのか? そうした中で感じたカルチャーの面白さや、この業界で仕事する醍醐味を赤裸々に語ってもらう。

第2回目のゲストは、トイズファクトリーの松崎崇。Eve、マカロニえんぴつのA&Rを担当し、配信に特化した社内レーベル「VIA」を立ち上げ、りりあ。、Midnight Grand Orchestra、TAKU INOUE、holo*27といったアーティストを抱える。コロナ禍に設立したレーベル「VIA」について、そして自身のルーツについて語ってもらった。

―松崎さんは、トイズファクトリーのクリエイティブ1の部長でありながら「VIA」レーベルのヘッドを兼任されているんですよね。

トイズファクトリーでA&Rやりながら、社内に自分のレーベルを主宰させてもらっています。Eve、マカロニえんぴつは社内全体を巻き込んでやるスタンス、「VIA」の方はもう少し自分主導で自由にできる環境で、2軸ですね。これもコロナ禍に繋がってくるんですが、大変な時だからこそチーム制で集まってやれる環境を作りたいというのがVIAを立ち上げた狙いとしてありました。

―2020年11月、まさに立ち上げの時期が、コロナ禍でした。気づけば今はみんなストリーミングで音楽を楽しむのが、当たり前のカルチャーになってますよね。立ち上げてみて想定内だったこと、想定外だったことってどんなことがありますか。

想定内なことは続いてるってことぐらいで(笑)。主宰レーベルを会社に通すためのプレゼン資料にも、目標は「続けること」と書いてました。このことだけはずっと言ってたんです。社内レーベルって、最初の打ち出しは派手なんですが、気づいたらなくなっているレーベルが多い。最初から大きく打ち出すというよりは、地道に続けて、いつかトイズファクトリーのストリーミング・サブスクライン=VIAになると、面白くなると思いました。想定外なことは、まだ一般層にまでリーチできていないこと。素晴らしいアーティストに所属してもらっているので、もっと自分が頑張らないといけません。

―withコロナでのレーベル立ち上げだったわけですけど、今アフターコロナになりつつある中での影響はどのように感じていますか。

最近ライブで声出しができるようになって、ストリーミングもライブの数と比例して数字を伸ばしてきてます。音楽をエンターテイメントとして好きになり始めてる中学生、高校生からすると、新しい体験が今スタートしているように見えます。ライブ体験の後に曲を改めて聴くことで新しい発見や気付きがあったり、音楽の伝わる深度が変わってきてます。マカロニえんぴつの「なんでもないよ、」はコロナ禍にストリーミングでヒットしたんですけど、お客さんも基本的には「静かに聞く曲」と認識していたと思います。しかし、今ライブで声出しがOKになって、最後の”ららら”というフレーズをお客さんと一緒に歌って、新しい景色がそこにはあって、ライブきっかけで変わっていくんだなと痛感しました。

―確かに声出しライブが戻ってきて、本当に戻ってきた感って如実にありますよね。

顔出しをしていないネットのアーティストをたくさん担当させてもらっているんですが、ライブをやってこなかったアーティストも「何かやりたいです」と言ってくれたり。今までTikTokとかYouTube、SNSを中心に音楽を発信していたけど、フィジカルライブの良さを改めて実感している気がします。


コロナ禍で印象深かった施策

―コロナで本当にライブもできない、ファンともコミュニケーションできないみたいな状況のときにやった施策で印象的なものってありますか。

2つあります。マカロニえんぴつはライブハウスから出てきたバンドで、マネージメントのエッグマンもライブをとても大事に考えています。メンバー、マネージメント、チーム全員ライブから音楽を伝えていきたい思いがあるんです。ツアーファイナルの豊洲PITでメジャーデビューをお客さんの前で発表する予定がコロナでライブが出来なくなってしまいました。マネージメントの強い後押しもあって、オンラインライブという形で場所は変更なく豊洲PITでワンマンライブをそのままYouTubeで生配信をして発表することになったんです。会場にお客さんはいないんですけど、「またこの場所でみんなで集まりたい」と言う思いで、普段のライブとは違う切り口で、新しい伝え方にチャレンジ出来ました。ありがたいことに本当に盛り上がって、2日間ぐらいずっとSNSでもトレンド入りして。コロナ禍でメジャーデビューを祝いづらい空気がエンタメ界隈にあるタイミングでしたが、結果本当やってよかったとチーム全員が思えて、オンラインという形だったけど、自分達らしいことがやれたのがすごく印象的でした。



―もう1つは?

もう1つはMidnight Grand Orchestra(以下・ミドグラ)というDJ・コンポーザープロデューサーTAKU INOUEと、VTuberの星街すいせいさんというボーカリストとのユニットをVIAでやらせていただいていて。オンラインライブの中の表現として独自のやり方を、担当してくれてるVIAのスタッフの熱量とかも全部込めてやっていたんですけど、VIAとしてやるのは初めての大がかりなオンラインライブでした。映像にも本当にこだわり抜いて、大きな制作費も投下して。もうそれは何か別の意味のチャレンジというか、ちょっと博打に近いというか(笑)。自分たちで「これでスベったらやばいな」と言うぐらい追い込んでやったんです。みんなオンラインライブに慣れてきていて、普通にやっても何の爪痕も残せないだろうし、VTuberも本当に星の数ほどいる中で、すいせいさんである意味、TAKU INOUE、そして我々がやる意味は何だろうと考えて。観たことがないぐらいのクオリティと時間をかけてライブを作る方に振り切ってやりました。その時のチケット代が4500円だったんですけど、観てる人たちから「頼むからもっとお金出させて。こんなの赤字でしょ」みたいな心配するコメントが沢山きて(笑)。そのときにやっぱりフィジカルじゃなくても、熱量を込めて作ったら、それが結果として広がっていくんだなと実感できたので、僕らとしても1つ大きな手応えがありました。



―そういうネットと親和性の高いアーティストは、コロナになる前から結構チェックしていたんですか?

Eveを担当しているのが自分の中ではすごく大きくて。僕はEveのメジャーデビューのプロジェクトからジョインしました。顔出ししない新しいアーティストと出会って、新しい表現を一緒作っていきたい思っていて。Eveと出会って彼から教えてもらったことが沢山あるんです。考え方やスタンスも今までのアーティストと違います。出会った頃からアニメーションだったり、ミュージックビデオ(以下MV)とか、音楽と映像による世界観、オリジナリティで海外で勝負したいと言う考えが明確にありました。その経験があったから、りりあ。を筆頭とした新しい世代のネットのアーティストと繋がることに自分の中では抵抗がなかった。バンドもやるけど、ネットアーティストも大切にやる、このバランスを自分のアイデンティティとして大事にしています。



―バンドマンとネットアーティストの人たちの考え方とか価値観って全然違いますよね。

そうですね。同じ日にそれぞれの打ち合わせがあって、「こんなに打ち合わせで言ってること違ってていいのかな」と思ったりはします(笑)。でも、考え方としてどちらも正解なんですよね。


Photo by Mitsuru Nishimura



大学時代に学んだ「カウンターカルチャーの本質」

―VIAではラジオ番組「78 musi-curate」をやってますよね。こういう取り組みを会社としてやってると下で働いてる子たちも楽しめそうですね。

VIAのスタッフの子が選曲するんですけど、自分のルーツの音楽を好きに選曲できてオンエア出来るとすごく楽しんでやってくれています。自分の好きなものを電波に乗せて伝えられるのが楽しいって言ってくれるのでそれは嬉しいですし、スタッフのモチベーションにもなってると思います。

―松崎さんがメインパーソナリティをやっていらっしゃるんですよね。

今2つコンテンツがあって、前半はスタッフが好きな曲を選曲して、何でその曲を選んだのか僕が聞かせてもらったりするパート、後半は同業種の方と対談する2部構成。今までは同業種はライバルというか、仲良い方が他社にあまりいなかったんです(笑)。でも今は、尊敬するA&Rが他社に沢山いて、20代にもとんでもない才能のA&Rがいるんです。そういう他社の人たちと交流する場を作りたかったっていう本当に自分本位な企画なんですけど。担当してくれてる編成の方に話したら、アーティスト同士の対談はよくあるけど、A&R同士や違うレーベル同士の人が対談するのは珍しいし、面白い!と言ってもらって始まりました

―ラジオでもスタッフのルーツとなる曲をかけるっていう話でしたけど、松崎さん自身の音楽の原体験を教えてもらえますか?

僕の場合、大きなウェイトを占めてるのは完全にクラブカルチャー、クラブミュージックです。高校も大学もずっと田舎で、当時は学校で流行ってるものを聴くのがかっこ悪いみたいな、流行と逆を行く典型的ないけ好かない学生でした(笑)。その反動でDJにはまって傾倒していくんですが、70人、80人ぐらい入ったらパンパンになるようなDJバーが長崎の佐世保にあって、そこでアルバイトをしていたんです。その店は当時佐世保の中でも一番イケてて、いろんな有名アーティストを呼んで平日でもガンガンイベントをやっていたんです。特にヒップホップとかレゲエとかが当時流行っていたけど自分がそのジャンルで勝負しても絶対勝てないのは分かってて、テクノだったら周りに好きな人が少ないし、これなら俺でもいけるかもと逆算して選びました(笑)。そういう考え方が今にも少しだけ繋がっていった気がします。

―なるほど。

カウンターカルチャーじゃないですけど、長崎の田舎でテクノのDJやってる人は2、3人ぐらいしか当時いなかったので、東京からアーティストを呼ぶと、地方の大学生イベンターとして認識してもらえるんです。僕は佐世保で自分主催のテクノイベントをやっていたんですが、DJの方が全国ツアーをやると、「長崎だったら松崎くんって大学生がテクノイベントやってるよね」と少しづつそのシーンにおいて認知されていくのがすごく嬉しかったんですよね。角度を変えて少し周りと違うことをする、カウンターカルチャーの本質を学んだ気がします

―レコード会社に入ってからの苦労だったり喜びはありましたか?

レコード会社で働いてみて、趣味の大好きなテクノのCDを大ヒットさせるのは難しいと思いました。ただ、最初のCDだけは自分の好きなジャンル、アーティストに拘りたいと思って、前職ポニーキャニオンで手掛けた自分のA&R初作品はDJ KYOKOのミックスCDでした。その後にwhite white sistersというデジタルロックアーティストをインディーズ流通で手掛けました。当時は売り上げとかを全く考えずにDJ KYOKOをポニーキャニオンからリリースすること自体に満足してたんです。当時の制作部長から、「黒字化してたよ」と褒められて。要は赤字にならなかったことを褒めらるって本当に期待されてなかったんだなと当時勝手にショックを受けたことを今でも覚えてます(笑)。今に思えばとても優しいフォローですよね。でもそこからちゃんと売れるもの、音楽シーンど真ん中で勝負出来るものをやらないと駄目なんだなと思ったんです。

―自分が当時好きでやってたことが今の仕事にこういう形で繋がるっていう意味で言うと、若いうちに何かに熱中しておくのはいいことですよね。

そう思います。最初にDJ KYOKOの作品をリリース出来たのは、自分の中ではすごく大きかったですね。「これは俺にしか絶対担当出来ない」と言った若者の勘違いは、すごい熱量で人に伝染するというか。そういう周りからはみ出していく子が今、大きく時代を動かしている気がします。YOASOBIを見ていてもそうだし、ソニーの山本さん、屋代さんのように今までのやり方からはみ出して、新しいまた別の王道を作っていくケースがこれからもっと増えていくと思います。


今こそ注力するべきもの

―この先、VIAとしてクリエイティブ1として、どんなものを目指していきたいですか。アーティストに期待することも含めて教えてください。

海外のマーケットシェアを広げていかないといけない、国内だけだと限界があると思いますし、本当にその通りだと思うんです。The Orchardから世界配信したり、配信のディストリビューターをアーティストによって適材適所変えながら得意なところを伸ばしたり、海外向けのデジタル広告の施策を組んだり、それこそコーディネーターを入れて海外ライブをブッキングしたり、各社みんなやっていると思うんです。でも根本に立ち返ったときに、”音だけ”で海外に広げていくのは、限界があるなと思います。

―なるほど。

そうなったときに、やっぱり今こそミュージックビデオに改めて注力していくことが大事だと思いました。Eveは今450万人ぐらい登録者数がいて、海外のファンからのコメントが7、8割になってきてます。曲だけだと限界はあるけど、曲の良さを一番わかりやすく拡張できるのは絶対的にMV、そこに立ち返りました。本当に良い映像があれば、国内だけに留まる訳がないんです。MVを作るときに、大前提として既視感がないもの、毎回見たことがないような良い意味でいびつでインパクトがあって新鮮なものをしっかり作り続けていれば、自然に海外への道は開けるはずで。毎回毎回丁寧にその曲に対して最高のMVを作って、それを広げていくということが、一番アーティストにとっての心臓になり得るんじゃないかなって思います。レコード会社のA&Rは、もちろんアーティストがいい曲を作るためのサポートをするべきですが、曲の解像度を上げて、広めるために、今いるアーティストと今一度向き合って話をして進めていきたいと思っています。




Photo by Mitsuru Nishimura

編集:Hiroo Nishizawa(StoryWriter) 企画協力:Kazuo Okada(ubgoe Inc.)

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