UKジャズ最重要ギタリスト、マンスール・ブラウンが語る孤高のサウンドと日本文化への愛
Rolling Stone Japan / 2023年6月7日 17時30分
サウスロンドン発のギタリスト、マンスール・ブラウン(Mansur Brown)が6月10日(土)に東京、12日(月)に大阪のビルボードライブで初の来日公演を行う。実は、UKジャズ周辺のシーンで最も謎めいた存在が彼だった。
最初に聴いたのは2018年の『We Out Here』に収録されたトライフォース「Walls」での演奏。そもそもギタリストが多くないシーンだけに、ギターが入っているだけで目立ってしまう。そのうえ、ロックっぽい演奏のギターはかなり異質で、前半はプログレもしくはフュージョンっぽく聴こえる。しかし、それが後半になるとリズムがトラップっぽくなり、ギターはその上物っぽく漂い、そのまま曲が終わる。
『We Out Here』はUK若手ジャズシーンのショウケースのようなコンピレーションだった。カリビアンやアフリカンの移民やその2世がそのルーツを誇示するような音楽性が近年のUKのシーンの特徴であり、『We Out Here』にはその象徴のようなアーティストが集結していた。レゲエやアフロビート、グライムなどを取り入れたサウンドはUKの独自性を示していた。そんな中、マンスール・ブラウンが所属していたトライフォースは全く異なる文脈を演奏していたことになる。彼は当時のUKのどのミュージシャンとも異なるベクトルで演奏していた。それは『We Out Here』と同年にリリースされた、ユセフ・デイズとアルファ・ミストのシングル「Love is the Message」でも同じだった。
さらに遡ると、UKジャズ隆盛のきっかけになったと言われる2016年のユセフ・カマールによるヒット作『Black Focus』にマンスールが参加していて、そこでは「Love is the Message」や「Walls」のような演奏で『Black Focus』のコズミックかつサイケデリックなサウンドに貢献していた。どんなに周りが盛り上がってもギターの音色は常にクールで、どこかミステリアスなムードを醸し出している。マンスールは一貫して、独自の路線で演奏し続けていた。
その後、ユセフ・カマールの片割れ、カマール・ウィリアムスが主催するレーベルから2018年にリーダー作『Shiori』を発表。2021年には自主レーベルのAmai Recordsを設立し『Heiwa』、2022年には『NAQI』とリリースし、2023年にはゲーム音楽のサウンドトラック『Desta - The Memories Between』を手掛けている。マンスールは全くぶれずに独自の路線を突き詰め、そのクオリティを高め、着実に進化しつつ、自身の美学をより強固に確立している。ひんやりとした音響的な質感と、サイケデリックでありつつも抒情的でメランコリックなサウンドは、その表現力をどんどん高めている。
おそらく、UKのほかのプレイヤーたちとは全く異なるところから影響を受けてきたのは間違いない。ただ、マンスールに関してはあまりにも情報がなかった。そんな彼が今回、来日直前にメールインタビューに答えてくれた。これで彼の音楽の秘密が少しだけ解けるはずだ。とはいえ、まだまだ謎は多い。
―「Rise」「No Way」などの曲を聴くと、あなたが世界中のギター音楽を研究していることがわかります。特に研究した国や地域の音楽があれば教えてください。
マンスール:正直なところ、その曲を作っている時にギター音楽は聴いていなくて、ラテン、R&B、アフロビートのアーティストを聴いていた。例えば、ロザリア、ティンバランド、ウィズキッドやブランディかな。
―あなたのサウンドの特徴として、ディープなエフェクトがあると思います。ギターのエフェクトに関して、影響源となったアーティストはいますか?
マンスール:これも、実はギターとは関係のないアーティストからインスピレーションを受けることが多い。シンセプレイヤーのマイク・ディーン(カニエ・ウェスト、ビヨンセ、トラヴィス・スコットらを手掛けるプロデューサー/エンジニア)やスヴェン・グレンバーグ(Sven Grünberg:エストニアのプログレ鍵盤奏者) のように、ギターサウンドを別の何かとして表現する方法をいつも模索しているんだ。
―ギターだけでなく、様々な楽器を演奏し、プロダクションも自分でや手がけていますよね。あなたの音楽の世界観やサウンドの作り方に影響を与えたコンポーザーやプロデューサーはいますか?
マンスール:ハンス・ジマー、ルドウィグ・ゴランソン、N.E.R.D、ブリアル、ヒットボーイといった、ジャンルを問わずいろんなプロデューサーやコンポーザーに影響を受けている。型に収まらず、新しいサウンドを探求し続けることにまったく躊躇のない彼らに、自分の枠を押し広げようとしている自分自身の姿が重なるんだ。あと、トラヴィス・スコットが生み出すサウンドには、かなり大きな影響を受けた。好きな曲は「ASTROTHUNDER」「NO BYSTANDERS」「CANT SAY」だね。
―あなたは自分でビートも作っています。影響を受けたビートメイカーはいますか?
マンスール:ティンバランド、N.E.R.D、Sounwave、マイク・ディーン、スコット・ストーチ、プリンスだね。プリンスからは、楽器を学ぶことについてやアルバムの自主制作の方法についても影響を受けた。彼らを好きな理由は、音楽を新しい領域へと拡張したパイオニアたちだから。
―ミニマルミュージックやテクノなどの反復を重視した音楽からのインスピレーションを受けていますか?
マンスール:まさに、エレクトロニックミュージックと反復の要素は、リスナーと音楽を繋ぐためには欠かせない要素だ。エレクトロニックとライブミュージックが融合すると、より叙情的で印象に残る現代的なタッチをライブミュージックで表現できると思っている。
―あなたの音楽を聴いて、ダブ、トリップホップ、ニューウェーブなども思い浮かびました。そういった音楽からの影響はありますか?
マンスール:父親がダブミュージックの大ファンだったから、無意識のうちに影響を受けているのかもしれない。彼はサイエンティスト、リー・ペリー、キング・タビーを演奏していたね。
自身のリーダー作と日本語の響きについて
―これまでにリリースしたアルバムやミックステープのコンセプトを教えてください。
マンスール:『Shiroi』は自分自身の追求について。心の深い場所にある、触れたくないような、一方では平和だけが存在するような場所を表現しようとした。
『Heiwa』は、『Shiroi』ほどではないけれど、平和な世界で生きることについて。幸せで平和に生きていくために、私たちが磨き続けないといけない価値観について描こうとしたんだ。
『NAQI』は2つのパートで成り立っていて、幸せに生きようとする男性もしくは女性のパーソナリティの二面性について描かれている。『Vol.1』は、自己防衛として作られる、強くて立派な性格を身につけることについて。相手との間に境界線をつくることで、傷つくことから距離をとっている。一方で、『Vol.2』は自分の心に正直になることについて。弱さを認め、助けを求めることで人間としての成長を描いている。
―「meikai」「heiwa」「shiroi」「mashita」「Tesuto」と、日本語のタイトルをたくさん用いていますよね。その理由は?
マンスール:日本語の響きはとても美しくて、描きたい感情をまさに鏡のように映し出してくれる。
―好きな日本の文化はありますか?
マンスール:アニメがすごく好きで、個人としても、アーティストとしても、アイデンティティの一部になっている。坂本龍一の大ファンなんだ。あんなふうに感情をサウンドに乗せられるのは彼以外にはいないと思っているよ。
マンスールが音楽を手掛けたゲーム『Desta:The Memories Between(Desta:狭間の記憶)』のトレイラー映像
マンスール・ブラウン来日公演
2023年6月10日(土)ビルボードライブ東京
1stステージ 開場15:30 開演16:30
2ndステージ 開場18:30 開演19:30
▶︎詳細はこちら
2023年6月12日(月)ビルボードライブ大阪
1stステージ 開場16:30 開演17:30
2ndステージ 開場19:30 開演20:30
▶︎詳細はこちら
チケット:
サービスエリア ¥8,400-
カジュアルエリア ¥7,900-(1ドリンク付)
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