カッサ・オーバーオールの革新性とは? BIGYUKI、トモキ・サンダースが語る鬼才の素顔
Rolling Stone Japan / 2023年6月12日 17時50分
カッサ・オーバーオール(Kassa Overall)が名門Warpから発表した、最新アルバム『ANIMALS』が大きな話題を集めている。今年10月には東京・大阪での来日公演も決定。ここでは彼の作品/バンドに参加してきたBIGYUKIとトモキ・サンダースに、鬼才ドラマー/プロデューサーの素顔を語ってもらった。
※ジャズ評論家・柳樂光隆監修『Kassa Overall Handbook』より転載
BIGYUKI
カッサは「水のような」アーティスト
キーボード奏者/作編曲家。本名は平野雅之。高校卒業後に渡米し、バークリー音楽院へ入学。ロバート・グラスパー、カマシ・ワシントンからア・トライブ・コールド・クエスト、J・コールまで第一線のミュージシャンと共演。最新作は2021年リリースの『Neon Chapter』。(Photo by @ogata_photo)
カッサは3Dで考える脳があるアーティスト。ファッション、フライヤーのデザイン、写真の撮り方、ライヴでのステージの演出、すべてに独特な世界観がある。
最初にすごいと思ったのが2020年のミックステープ『Shades of FLU』。カッサが昔のブルーノートの音源をリミックスして、すげぇグリッチーにしたりしている。これがメチャクチャかっこいい。そもそもカッサとがっつり話すようになったきっかけがポール・ウィルソン(『Neon Chapter』の共同プロデューサー)で、カッサとポール、シオ・クローカーも似たマインドのアーティスト。俺とポールが『Neon Chapter』の”LTWRK”を一緒に作っているときにスタジオにカッサが遊びにきて、カッサがスタジオで踊ってたり、「Let it Go」で俺が小さいMIDI鍵盤を弾いているのを見て「今のヤバい」とか言ってた。それで俺のことを面白いやつだなって認識したんだと思う。
SHADES OF FLU Kassa Overall
前にロンドンに1週間くらい滞在したとき、リチャード・スペイヴンやロイル・カーナーと一緒にスタジオ入ったりしてたんだけど、たまたまカッサがロンドンにいて「スタジオ取ってあるから遊びに来なよ」って言ってくれて。そのとき遊びに行って弾いた演奏が、『ANIMALS』でローラ・マヴーラが歌っている「So Happy」に使われている。カッサはたまたま俺とタイミングが合ったから一緒にやるって感じで、そうでなければ別のことをやる人。絶対に無理やり決めたことをやるんじゃなくて、常に水のような感じのアーティストだと思う。演奏に関してはカッサが多少イメージを伝えてきたけど、基本的には俺のセンスで弾いたものを一番面白がってくれる。俺としては何回か試して、そろそろ本気でやるかと思ったら、カッサが「もう大丈夫」って(笑)。素材として使うんだろうし、彼なりのバランス感覚があるんだと思う。(演奏した)ミュージシャンがいいと思うものと、大きな目で音楽として聴いたときにちょうどいいものは違うからね。カッサはプロデューサーの脳だから。
2023年の『SHADE 3』でも俺は弾いてるんだけど、カッサが俺の家に来て録音したりしたことがあって、それが使われている。彼はいろんなものを最後に組み合わせるから、レコーディングの段階で「この曲を弾いた」ってイメージがない。俺はバラバラな感じでやった認識なんだけど、カッサは大きい視点で見ていて、彼がほしいものを録ったんだと思う。俺から引き出す方法があって、気負わせずに、硬い演奏にならないように、常に柔らかくて自然なもの、こぼれてしまう「Swag感」を掬い取ろうとしていたんじゃないかな。いたずらっぽい演奏をするところがほしいというかね。
『ANIMALS』でヴィジェイ・アイヤーと曲を作った方法が面白くて、ヴィジェイにちっちゃいシンセのおもちゃみたいなのを渡して、それでフリーでインプロをさせて録音。あとで聴き直して、その中のいいモチーフをもとに作曲したらしい。カッサは常に考え方が面白いんだよ。『ANIMALS』はヤバくてぶっ飛ばされた。近年でも特にやられた音楽だし、こんなかっこいい音楽あるんだって。彼のヴィジョンが次のレベルに到達した、このアルバムでカッサは彼がいるべき場所に行くんだなって思ったよ。
SHADES 3 Kassa Overall
トモキ・サンダース
「不自由」から解き放つフリージャズ
1994年、米ニューヨーク州マンハッタン市生まれ。10歳で父ファラオ・サンダースからアルトサックスを譲り受け、14歳からテナーサックスに転向。バークリー音楽大学を卒業後は、拠点のニューヨークと東京を行き来しながらプロとしてのキャリアを積み上げている。(Photo by eBar)
2022年の1月ごろ、カッサのバンドに参加することになって「マジで!」って。夢が叶ったと思いました。以前のカッサのバンドはポール・ウィルソンとジュリアス・ロドリゲス(1998年生まれのピアニスト&ドラマー)、モーガン・ゲリン(NYの新世代マルチ奏者)がメンバーだったけど、それぞれに忙しくなって、その代わりに僕が入りました。
カッサのバンドに参加するにはジャズの即興感覚と、ヒップホップのアティテュードを持っていることが大事だと思います。その両方をオープンに表現できるのが彼の音楽です。ジャズもヒップホップもソウルもファンクもディスコもあるし、カッサの場合はさらにエレクトロニックな要素もある。だからリリースもWarpですよね。カッサは常にジャズの箱に入ることを望まないので、様々なものを取り入れて今の時代を反映したものを作ろうとしています。そこにはテクノロジーもそうだし、今の社会状況も含まれます。だから、カッサの音楽は様々な意味で今の時代を反映している。
トモキ・サンダースが参加した米NPR「Tiny Desk Concert」でのパフォーマンス。トモキは10月のカッサ来日公演でもバンドの一員として参加する。
音楽もすごく自由なんです。その音楽が到達したいところへ行くために、ナビを使ってそのまま目的地に行くんじゃなくて、回り道したり、ショートカットを使ったりするんですよね。カッサの音楽にはフリージャズの要素もあるんですが、そこには僕の父であるファラオ・サンダースだったり、アーチー・シェップだったり、チャールス・ミンガス、ジョージ・アダムス、ドン・プーレンなど先人へのリスペクトがあります。
カッサの音楽はリズムの形を自由に崩してもまた元に戻るっていうか、色が混ざっていたルービックキューブが一気に揃うみたいにまとまるんですよね。彼の自由さのバランスが僕はすごく好きなんです。フリージャズを適当なメロディだったり、変なノイズを使ったり、みたいな音楽だと思ってる人もいるかもしれないけど、僕が思うフリージャズは「ジャズ」という言葉を自由にするもの。僕の父や先人たちの中には「ジャズ」って言葉が好きじゃない人も少なくなかった。だから、ジャズって言葉を自由にしたい、ジャズという音楽からもっと自由になりたいってムーブメントがあった。それがフリージャズ。オーネット・コールマンやアルバート・アイラー、セシル・テイラー、ドン・チェリー、もちろんジョン・コルトレーン。そういう人たちはジャズのパンク世代みたいなもので、白人社会が構築した形式を無効にしようと、音楽を通じて自分たちが好きな形に、自分たちがやりたいように形式を抽象化していった。社会のなかでの自分たちの「不自由な立場」から解放するようなマインドセットを反映していた音楽だと思う。それによって自分たちの未来を志向したし、祖先とも繋がろうとした。
カッサは自分の音楽で、今のフリージャズを表現しているんです。パンデミックのこと、ジョージ・フロイドのこと、ジェンダーのこと。「人間にとっての自由って何だろう?」って問いを音楽から感じさせる深みがありますよね。カッサはリリックでも人間の多面的な部分を描いていると思うし、自分のフレームと相手のフレームの両方で物事を捉えているし、自分の考えと相手の考えの中間を見たり、自分のアイデアと世の中のアイデアをリンクさせようともしている。僕は彼の音楽にシュルレアリスムを感じたりもしますね。
カッサ・オーバーオール
『ANIMALS』
発売中
国内盤CD:ボーナストラック収録、歌詞対訳・解説書付き
数量限定Tシャツ・セットも発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13345
Kassa Overall Japan Tour 2023
2023年10月19日(木)WWWX
サポート・アクト:TBC
OPEN 18:00 / START 19:00
前売 ¥7,000 (税込/別途1ドリンク代/オールスタンディング)
2023年10月20日(金)ビルボードライブ大阪
1部:OPEN 17:00 / START 18:00
2部:OPEN 20:00 / START 21:00
チケット:S指定席 ¥8,500 / R指定席 ¥7,400 / カジュアル席 ¥6,900
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13425
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