収監直前のNORIKIYOが語る、10thアルバム『犯行声明』の真意
Rolling Stone Japan / 2023年6月12日 17時30分
2007年にデビューアルバム『EXIT』をリリースし、これまでに9枚のオリジナル・アルバムに加え、コラボEPや数えきれないほどの客演楽曲を世に送り出してきたラッパー、NORIKIYO。無慈悲なストリートライフをリアルに描き出すと同時に、人生を鼓舞するポジティブなリリックも彼の魅力だった。常に皮肉とユーモアを忘れずに言葉を紡いできたNORIKIYOだったが、2022年8月に彼が逮捕されたという事件が報道された。”末端価格1億1000万円の大麻を育て売買していた”というセンセーショナルなニュース。しかし、それは彼が主張する事実とは異なる報道内容だった。判決を待つ保釈中という状況のなか、一体、逮捕をめぐって警察とどんなやりとりがなされたのか、赤裸々な訴えと共に勾留中に大半の歌詞を書き上げたという10thアルバム『犯行声明』に込めた思いを聞いた。
【写真を見る】『犯行声明』アートワーク
―今から順番にお話を伺っていきたいなと思うのですが、今、どんな状況にいらっしゃるのか伺ってもいいでしょうか。
はい。3年6カ月の実刑判決を受けて、控訴して、今は保釈中という段階です。6月7日に最終の判決が出ますんで、その判決いかんでは収監されるんじゃないかという状況です。
―2022年8月に、NORIKIYOさんが逮捕されたという報道が出ました。報道内容としては大麻取締法違反、かつ営利目的栽培との内容で非常に驚きました。当時はどのような状況で?
8月に報道が出た時点では、自分は再逮捕されたという状況だったんです。もともと(2022年の)6月7日に家宅捜索が来て、日付が変わって6月8日付けで逮捕された。ニュースが出たのは俺も知らなくて、弁護士が面会に来て「ニュースになりましたよ」と(ネット記事を)プリントアウトして、どういうことが書いてあるかが読み上げてくれて知ったんです。捜査機関の一方的な見解だということで、弁護士はめちゃくちゃ怒ってましたね。俺も、「こういうことって日本で起こり得るんだ」みたいな感じでした。たとえば、殺人事件があったら、最初は死体遺棄容疑で逮捕されて、その後に証拠を照らし合わせたり捜査したりして、改めて殺人事件として扱われて、その後に殺人罪で逮捕したというふうになる。なのに、なんで俺はいきなり証拠もないのに「売買していた」とニュースを(メディアに)出すんだよと。一度、ニュースに出ちゃったら全員がみんな「そうなんだ」っていうふうに思うじゃないですか。「何でですか?おかしいと思わないんですか?」って刑事さんに聞いたんすけど、「それは上が決めたことだから」の一点張りだった。それで、「この人たちサラリーマンなんだな」って感じたんです。
―『犯行声明』のリリックを聴くと、とにかくそのフラストレーションや怒りが生々しく伝わってきます。アルバムからのシングルとしてリリースされた「オレナラココ feat. STICKY」の歌詞にも”ポリの脚本ってすげぇ苦痛、自分勝手出すなよフェイクニュース、人の人生にゃねぇぞ Take 2”というリリックがあったり、「Prove Ones Case」でも” 証明しようにも証拠の類なんてのは元々ねぇ”という箇所があったりする。
俺が営利目的で大麻を所持していたんじゃないかって嫌疑がかけられている時点で、「捜査機関は俺の事件をそういうストーリーにしたいんだな」って感じたんですよ。でも、「事実は違う」ということは、俺は最初から申し上げていた。さっきも言いましたけど、8月に「ニュースが出た」と聞いた時に「マジで半端ねえ、すごい演出だな」と。みんなが「NORIKIOYOって売人なんだ」って思うだろうな、と感じましたし、「厚生省の麻薬取締捜査官の人や警察は、証拠もないのにそんなストーリーを作っちゃうんだ」って気持ちでした。(熊本県警は)9カ月間、内偵の捜査をしていて、俺は4カ月ちょっと勾留されていたんです。結局、1年ぐらいの間にわたって俺のことを調べてたんすよね。9カ月間も捜査していた間に、俺から(大麻を)買ったってヤツは一人もいなかった。それにも関わらず「売ってただろ」って主張しているんです。俺は、自分の携帯電話を(警察に)渡して、パスコードも教えた。こっちからかしてみたら「やってねえから、どうぞ」って話です。それでも、何も証拠は出てこない。
大麻が二つの場所にあったので、この件を巡って、所持と栽培で計4回逮捕されたんですけど、結局、調べることって一緒なんですよ。一回目の逮捕で起訴された段階で、最終的には営利目的という疑いは外れたんですよね。ニュースになったのは三回目の逮捕の時。一回目も二回目も、営利目的という事項は起訴内容から外れていたにも関わらず、三回目でもまだそう主張されていた。調べる証拠は全部一緒なのに、かつ、営利目的を裏付ける証拠もなくて起訴できないにも関わらず、捜査機関はどうしても営利目的で起訴したいんだ、という気持ちをひしひしと感じました。弁護士からは、「大多数の国民はみんな普通に警察を信じてるけど、日本の警察は彼らに都合いい部分しか証拠を使わないし、検事にいたっては証拠を改ざんすることもある。それが露呈して、懲役に行った捜査機関の人もいらっしゃいますよ」と言われたんです。「残念ながら、日本の捜査機関にはそういうことをやる人たちもいる。NORIKIYOさんの場合は既に捜査機関がニュースを出しちゃってるから、例えばそこら辺で捕まえたヤツの中に『NORIKIYOから買った』って吹聴する二人でもいたら、状況が危なくなりますね」って言われて、「怖っ」て思ったんですよね。
”犯行予告”を書くことから始めた
―ネットニュースで知った時、とにかく「ラッパーNORIKIYOが末端価格1億円超の大麻を売買し逮捕」という見出しのインパクトが強すぎて。
それも、警察側が”1億1000万円”って言いたかったんですよ。欧米などの通常の大麻ユーザーが摂取する部分って、大麻草の一部分だけなんですよ。ニュースでは18.4kgと報じられていたんですけど、最終的に起訴された内容に書かれているのは6kg弱なんです。(普通は吸わない)茎や鉢とかの部分も入れて、3倍くらいの量に盛られている。だって、麻薬取締捜査官の人たちや所轄の警察、熊本県警本部とか、みんなが約1年にもわたって捜査してきた事件なんだから、どうにかこれをモノにしたいっていう、その気持ちは分かるんすけど、「事実と違う演出が凄すぎるでしょ」って。そこで、「これはもう俺のゲームじゃない」と思ったんすよ。俺が立ち入ることができるゲームじゃないし、俺が戦っても、黙る以外戦う術がなかったし、弁護士も「完全黙秘してください」っていう感じ。「余計なことを言ったら、こじつけられて何をされるか分からない。裁判まではこちらから真実を明かすことはやめましょう」と、当初からそういう作戦でした。
―「オレナラココ」のMVを見ていて、捜査中の会議室を思わせるホワイトボードに「NORIKIYOの銀行口座にTuneCoreから2億円を超える入金」と書いてあったのが個人的に気になったんです。TuneCoreからの入金ということは、紛れもなく楽曲制作の売上金ということにも関わらず、警察からはそのような疑いが掛けられていた。
結局、彼らのストーリーを補強するもの、言い換えると、彼らが立てた仮説を立証するのに使えそうな証拠だけを集めるんですよ。それ以外の証拠は、裁判所には出さないんですよね。自分に都合のいいものだけを証拠として裁判のステージに上げて、都合が悪い、たとえば「こいつは大麻なんて売っていない」って事実を裏付けるような証拠は出さない。フェアじゃないことは他にもあって、まず、取り調べの段階でアメリカみたいに弁護士が脇にいるわけでもないですし、密室の中でずっと取り調べのプロフェッショナルの人たちのリングの上に、ルールすらわかっていない、パンチの打ち方すらもわからない俺が放り込まれた感じです。それはもう、ガードするしかないから。ずっと黙りこくるしかなかったっていう感じです。銀行口座もまず全部開示させられて、お金の動きも調べてられていたんです。俺が親父に車を買ってやって、その車屋さんが水戸なんですけど、(警察たちが)水戸まで行ったらしいですからね。何年も前の話なんですけど、そうした金の動きも全部、「大麻を売り買いしている経路じゃないのか」と疑われて。アルバムの中でも言ってるんですけど、1回、犯罪者になってしまったら、もう死ぬまでずっとその犯罪者として扱われてしまう。それは自分がしたことだし、日本は法治国家だから、法律に違反したので前科者として扱われること自体はいいんですけど、改めて、そういう状況がずっと続いて、そういう過去と付き合っていかなきゃいけないんだなっていうことを再確認しました。
―現時点では、『犯行声明』の特別サイトもオープンして、ファンの方は、NORIKIYOさんからの直筆の手紙を読むことができる。手紙に記載されている日付は、2022年の7月9日になっています。改めてこの手紙を書いたときの心境や状況に関しても伺えますか。
2022年7月8日に、安倍元総理が亡くなられたじゃないですか。その事件の翌日に留置場の中で新聞が回ってきて、結構衝撃を受けたんです。日本という国で、かつてのジョン・F・ケネディの暗殺事件みたいなことが起こったんだな、と。その新聞に掲載されていた写真を見ても、結構生々しかったんですよ。特定の宗教団体の人たちに陰で応援してもらっていて、そのツケが廻ってきたというか、この国のハンドルを直接握っている人たちのところに帰ってきたというか。そして、その事件を起こしてしまった容疑者の方が、なんていうか、全く後悔してないような印象を受けたんですよ。「別に俺は何も悪いことしてないぜ」っていうか。人を殺めること自体は絶対あっちゃいけないことだとは思いますけど、この国に対して一矢むくいたというか、「自分の人生でやらなきゃいけないことをやっただけだ」っていうような感じの印象を受けたんですよ。彼の供述的な物を新聞で読んで、「俺の人生と俺の家族をぐちゃぐちゃにして、ずっと放置してきた政治家どもにカマしてやったんだ」っていうふうに感じたんですよ。そのときに、”犯行声明”っていう言葉を思いついて、「そういうアルバムを作りたいな。作れるじゃん」と。「そのために先ずは何が必要だろう?」と考えたときに、「犯行予告でしょ」って。まだ歌詞は1行も1小節も書いてないけども、とりあえず”犯行予告文”を書こうって決めたんです。取り調べで刑事や検事さんに何をどういうニュアンスで言われたとか、こういうことを聞かれたとかを、つぶさにメモしていたレポートバッドに、まず”犯行予告”の文章を書くことから始めたんです。
自分と対話するしかなかった
―それが、この手紙ということですよね。この手紙の中にも「国家というプラットフォームに操られているのではないか」といったメッセージが書かれている。便利な世の中になったけれどもそういうサービスやツールを使わされているんじゃないかとか、その国家は我々の所有権を守るふりをしているとか、そういった問題意識は以前から抱えていたものですか?
漠然と感じていたことはあるんですよ。自分って何なんだろう、どっから来てどこに行くんだろう、とか、そういうことを考える時間を、AIやアルゴリズムみたいな便利なものに奪われてる、というような。あの手紙を書くときに、その考えをより精査していったんです。俺がやったことは、この国では犯罪とされていることかもしれませんけれども、被害者がいなくて、逮捕される前までは誰にも迷惑をかけていない。それを裁くことがこの国の正義であり、都合なのかと思って。検事さんから取り調べを受けているときに、「何でこの事件を起こしたんですか」と聞かれて、その時、「調書にサインはしないけど、それを前提としてお話していいですか」と言って自分の考えを話したことがあるんです。「たとえば夜中に、田んぼに囲まれたような20キロの速度制限がある道路を、30キロや40キロで走ったことありますか?」って。そうしたら「はい、あります」っておっしゃって。「それは、道路交通法違反ですよね。でも、検事さんも、誰にも迷惑を掛けていなくて、かつ安全だって分かってるから、多分アクセルを踏み込んだはずですよね。僕がしたことはそれと全く一緒のことです」って言ったら「それは違います」って言われたんですけど、僕からしたら一緒のことなんです。「誰かに何か迷惑かけたか?」っていう。結局、でかい声で「これが正しいことです」言っている人たちの都合でいろんなことが決まってしまうし、その正義や正しさってのはあやふやで、時代も変わったら、それも一緒に変わっていくものでもある。何ていうか、「すげえに腑に落ちねえな」みたいな。スピード違反した人が捕まるか捕まらないかっていうのも、結局、その日そこで検問をやると決めた国家の都合の話だし、それを「運が悪かったな」だけで済ませていいものなのかなって。
―リリース前に公開されたプレスリリースでは、アルバムの歌詞の9割は勾留中に書いたものだと明かしています。
勾留されている間は他の人と自由におしゃべりできないし、接見禁止で弁護士としか会えない。だからもう、自分と対話するしかなかったんです。だから、自分の思っていることを書き留めてたりしていた。さっきも触れた”犯行予告”って文章は、俺が普段から考えていたことを言語化したもので、それを書いた時に「しっかりとスタートとなるものが書けた」という意識はありました。正直、勾留中は完全黙秘しないといけなかったんでストレス溜まってたっていうか、暴言吐いて言い返したかったんです。言いたいことがもういっぱいあったんで、それをテーマに分けてって、「これはここで言おう」と。ばーっと溢れていくように(歌詞を)書いた。『犯行声明』ってアルバムを作ろうと思ったときからは、もう取り調べも全部ネタだと思ってました。取り調べに呼ばれたら、「よし、今日はどんなネタくれっかな」みたいな思いでしたし、檻の中で1人でいる時間も、ずっとぶつくさ言いながらノートにリリックを書いていて。就寝時間が来るとボールペンとノートを取り上げられちゃうから、その時間が来るのが嫌だったんですよね。
―ある意味、そうした極限の状態というか非常に制限された状態の中でリリックを書くことって、NORIKIYOさんにとって一種のセラピー的というか、そうした作用はありましたか? いつもの生活においてリリックを書くうことと、そうした状況の中で書くということは、違う意味を持っていた?
いつもは普段の生活のリズムとして日々思ってることを、曲として書くわけなんですよ。その曲が全て世の中に出るわけではなくて、日々、クソ曲がいっぱい溜まっていって、その中のキラリと光るところだけが集まって曲になるんです。でも、勾留されていた時は、そのリズムが崩れていたんですよね。ずっと便秘でスッキリしないみたいな状態でが続いていた。なので、勾留中でも曲がバーって書けるようになってきたら、メンタル的にも健康になってくるっていう感じでしたね。保釈許可が降りた後、出てきて二日目くらいに(プロデューサーの)BACHLOGICさんに「ご心配をお掛けしました」という連絡をして、「実はアルバム一枚分のリリックを書いてきたんで、録らせてください」と伝えたら、「すぐやろうや」みたいな感じで言ってくださって。速攻、彼のスタジオに行って録り始めました。
ZORNからの依頼、STICKYの存在
―昨年の11月、ZORNさんがさいたまスーパーアリーナで単独公演を行った際、NORIKIYOさんが一人でステージに立って「2 FACE feat. BES」をパフォーマンスした姿も印象的でした。「こうした形で、一旦戻ってきたんだな」と。
ZORNさんがさいたまスーパーアリーナでライブをやるっていうことは、シャバにいた時から知っていたんですけど、逮捕されたから「これは行けないな、申し訳ないな」と思っていたんです。そうしたら、数人いた弁護士のうちの1人から、「ZORNさんが(ライブの演目で)NORIKIYOさんの曲をやっていいかと言ってます」と言われて、「ああ、是非是非やってください」と伝えていた。(保釈許可が下りて)出てきてから、日程的には間に合うけれども、俺としてはもう出るつもりはなかったんです。そうしたら、ZORNさんが「一曲やりに来てくれない?」と言ってくれて。勾留されている間はずっと4畳半の世界にいたので、本番の日はいきなり(ステージの)下からバーって上がっていって「すげえ広い空間だな」みたいな。ギャップがすごくて、よく分からないまま終わったんですよ(笑)。
―数あるZORNさんとのコラボ曲ではなく、あえて1stアルバム『EXIT』(2007年)に収録された「2 FACE」を選んだのは、どのような理由があったのでしょうか。「2 FACE 」にも、警察と対峙する光景を匂わせるリリックがありますが、当時のリリックは、現在のNORIKIYOさんにどう響いていますか?
これは、ZORNさんの方から「この曲をやってください」と依頼を受けたんです。あの曲を皆さんが好きだと言ってくれるのは嬉しいんですけど、正直、僕の中ではこそばゆくて。当時はああいった世界に身を置いていたーーイリーガルなことを商売、生業としている頃に書いた曲なんですよね。だから、今はもうそういう仕事をに携わってない俺が歌うのは違うんじゃないかな、とは常日頃から感じていたんです。それで、いつからかライブではあまりやらなくなったんですよね。でも、ZORNさんのさいたまスーパーアリーナのライブの時点では、自分がまたそういう状況になっていた。やっぱり、自分に対してガッカリな部分もあるっていうか、せっかくそこから抜け出してまともな暮らしが出来ていたのに、病気のせいとはいえ(※NORIKIYOは国の指定難病である重症筋無力症を患っている)、結局また自分のせいでそういう目に遭っているということを感じた時に、「またここに戻って来てるんだ、俺」って。厳密にいうと違う場所ではあるんですけど、複雑な気持ちではありますよね。確かに自分の曲なんですけど、あの頃書いた気持ちとはまた違う気持ちで、昔の曲を歌っているというか。
―「オレナラココ feat. STICKY」では、かつてSTICKY(2021年没)さんが所属していたグループ、SCARSがリリースした「SCARS」(アルバム『SCARS』[2006]収録)でラップしている「JailがこのGameの代償」というフレーズをサンプリングしています。もちろん、当時のSTICKYさんの状況と現在のNORIKIYOさんの状況とは異なると思うんですが、かつてのこのフレーズを、どんな気持ちで再構築したのでしょうか。
檻の中で、STICKYの”JAILがこのゲームの代償”って声が突然降りてきたんです。ここでいうゲームは、要はドラッグディールのことだと思うので、僕がしたこととは違うんですが、法に触れるという意味でのゲーム、という認識で使おうと思ったんです。”JailがこのGameの代償”と、その次の”でも俺の声まではぶち込めないっしょ?”ってフレーズが同時に降りてきた。それで、「あ、そういう曲を書こう」と思って。STICKYはもうここには肉体的には存在していないけど、曲を聴けばそこにいるし、俺の胸の中にもいる。だったら、「オレナラココ」っていうタイトルは、俺が収監されてもされなかったとしても、「これを聴いたヤツの頭の中にいるぜ、俺はそこにいるからね」っていう意味合いで付けた曲名なんです。ある意味、捜査機関への嫌味っていうか、ちょっとシニカルな表現方法ができるなと思って。だから、「この曲は面白いものになるんじゃないか」と思って書き始めました。俺が檻の中でムシャクシャしてる時に、STICKYが「おい、書けることあんだろ、これ使えよ」って言ってくれたような感じがするんです。
―この状況において、改めてNORIKIYOさんがラップのパワーみたいなものを感じることってありますか。
やっぱり、いろんな先輩の曲たちを聞いたときもそうですけど。日本のヒップホップにハマった時、たとえばスチャダラパーの曲を最初に聴いたときは、何か楽しい気持ちになれたし、世の中のおかしなところに楽しく突っ込みを入れてく、みたいなちょっと大人な視点をゲットできたんですよ。ジブさん(Zeebra)とかRHYMESTERの曲を聴いた時には強くなれたという気持ちだったり、マイクロフォンペイジャーを聴いた時に、まるでMUROさんやTWIGYさんみたいなクールでかっこいい人になれたような気持ちになったりするとか、そういう風に気持ちを動かされてきた。今回は、檻の中で自分でラップを書き始めた時に、自分の言葉に勇気づけられるというか、曲を書いて檻の中でちっちゃい声で歌いながら、「そうそう、そうだよな、やっぱりこうじゃなきゃダメだよな」みたいな、自分で自分の言葉に納得するような部分はありました。
ヒップホップの神様
―『犯行声明』からは、原始的な衝動というか意地みたいなものを強く感じました。周りの反応はいかがですか?
(全曲のプロデュースを手がけた)BACHLOGICさんはポーカーフェイスなので、あまり褒めてもらうことはないんですけど、それでも「めっちゃええやん」とかは何回か言われたり。ジャケットを作ってくれているグラフィティ・アーティストのKANEくんは、「1stアルバムのテンションを感じたから、色味を黒と赤にする」と言ってくれて。「オレナラココ」のジャケットには有刺鉄線のデザイン入っているんですけど、それも1stアルバムに有刺鉄線が入っていたから、KANEくんがそうデザインしてくれた。だから、2枚目の1stアルバムが出るって感じですかね。別に出したかったわけじゃないんだけど、結果的にそうなっちまったっていう(笑)。結局、環境がそうさせているからですよね。自分が身を置いている毎日の環境を咀嚼して出てくるものが、自然とそうなるだけであって。こういう状況になっちまったら、そういう詞になるんだなっていうことを再確認しました。無理にやっているわけではなくて、本当に生理現象という感じです。
―今後のラッパー・NORIKIYOはどうなっていくのか、ご自身はどのようにお考えですか。
この間、D.Oくんとも話したんですけど、俺たちにはヒップホップの神様がいて、一段ステージを上がろうとしてるときって、その神様が絶対に負荷を掛けてくるんですよね。これまでにも、例えば以前にワンマンライブをやる前にはここで話せないようなこととかがいっぱいあって。今回は、こういうことになったっていう。「これをこなしたら、当然、神様は俺のことを一段上げてくれんだよね?この後にどんなステージが待っているか知らないけど、俺はそれに見合うものをちゃんともらうぜ」っていうか。D.Oくんも、それを精算して、今、精力的に活動していらっしゃると思うし。実際に、懲役に行っている時の過ごし方や、こういうトラブルがあるかもしれないから、っていう話や、彼の書籍に書いてある内容も詳しく教えてもらったんですよ。懲役囚の中にも、ヒップホップが好きな人がいっぱいいると言っていたし、実際に、警察官の中にも聴いている人がいる。(刑務所という)人間扱いされないような場所に隔離されている中で、自分が生み出したものを褒めてもらったりとか、「あの曲良かったよ」とか言われたりすると、その日一日元気が出る、ということも教えてもらいました。そうして話していくうちに、自分の行動にも責任があるというか、ラッパーは、自分の経験したことを言葉を使って流布するわけじゃないですか。だからせめて、世界がポジティブな方向に回るような表現をしたいなと思ったんです。刑務所の中では歌ったりすると懲罰房行きなんで、服役中にいっぱい歌詞が書けるかどうかは分からないんですけど、だからこそ、今の時間は、好きに曲を書いているのかもしれません。あと、D.Oくんにも言われたんですけど、こうなったら「ちょっと長期取材に行く」みたいな、そういう風に考えたら全部が面白くなるなじゃいかって。ヒップホップの神様から与えられたミッションだと思って、行ってきます。でも、その分の対価はくださいよ、あとで。
<INFORMATION>
『犯行声明』
NORIKIYO
YUKICHI RECORDS
6月22日発売
https://hankou-yokoku.norikiyo.biz/
https://zakai.jp/?mode=grp&gid=2863833
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