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小瀬村晶が語る、東京で感じ取った「日本の四季」をピアノで描いた理由

Rolling Stone Japan / 2023年6月30日 12時0分

小瀬村晶

作曲家・ピアニストの小瀬村晶がピアノソロによるニューアルバム『SEASONS』を2023年6月30日にリリースする。15年に渡るインディーズでの活動では、自身の作品のみならず多くの映画、ドラマ、ゲーム、アニメ、CM 作品の音楽を手掛けており、その楽曲はピッチフォークなど各国の有力メディアからも高く評価されている。そんな小瀬村にとってメジャー・デビューとなる今作は、長い歴史を誇る名門レーベル「デッカ・レコード」からのリリース。”日本の四季”をコンセプトとしながらも、収録された12曲からは小瀬村のパーソナリティも伝わってくる。アルバム制作の背景と自分自身について語ってもらった。

―メジャーデビューおめでとうございます。とはいえキャリアも長いですし作品数もかなりありますよね。

小瀬村:ありがとうございます。もう15年インディペンデントでやってきたので、ちょっと恥ずかしいですけど(笑)。メジャーデビューというよりは、ご縁があってデッカ・レコード、ユニバーサル・ミュージック・グループのみなさんとご一緒することになったという感覚です。

―『SEASONS』の ”日本の四季”というコンセプトはどこから生まれたのでしょうか。

小瀬村:今回の制作に入る前、デッカレコードのイギリスのチームの人たちとZoomで話す機会があったんですけど、デッカは世界中に点在するアーティストと契約してるレコード会社なので、それぞれの特質みたいなところに興味があるという話がでて。彼らからすると、東京っていうアジアの極東で生まれ育った自分の土地に根付いた音楽、アイランドミュージックみたいなものを見つめ直したときに、どんな音楽が出てくるのかというところに興味があるっていう話を聞いて、なるほどなと。

―今まであまりそういうことを考えたことがなかった?

小瀬村:なかったんですよ。僕は10代後半で音楽を作曲するようになって、ちょうどその頃、インターネットを使って世界中のアーティストと交流ができるようになったこともあって、特に自分が日本人で日本・東京に住んでることをあまり意識することはなかったので。当たり前すぎて見つめ直したこともあまりなかったので、それはすごく良いきっかけかもしれないと思いました。

―最初からインターネットがあったというのは大きいですね。

小瀬村:最初のアルバムもオーストラリアのレーベルからリリースされてるんですけど、それもやっぱりインターネット上で声をかけられたのがきっかけだったので。だからもともと、どこかの国に属しているみたいな感覚で音楽をやってこなかったんです。でも確かに、改めて自分の身の回りに目を向けて作品を作ってみるのは面白いかもしれないということで、『SEASONS』というコンセプトを選びました。



―例えば「Gentle Voice」のMVを拝見すると、広い野原が映し出されています。ご自分が育った東京の原風景と四季をどう結び付けているのでしょうか。



小瀬村:初めて会った人によく、「小瀬村さんって森に住んでるのかなと思った」って言われるんですよ(笑)。

―確かに森に住んでピアノを弾いてそうなイメージはありますね(笑)。

小瀬村:実際は東京に住んでるんですけど、都会に住んでると逆に自然のささやかな美しさに気づいてハッとすることも多い。よく大きい公園に行ったりするんですけど、そういうところで鳴ってる音に耳が開くっていうか。今回きっかけになったのもそうですけど、人間って身近なものこそ当たり前すぎて、貴重だっていうことに気付きにくいと思うんです。例えば本当に森に住んでる人だったら、森をテーマに曲を作らないかもしれないし、そういう意味で僕は東京に住んでるけど、自然からインスピレーションが沸くことも多いんです。あとは作曲を始めた頃に通ってた大学がすごく田舎にあって、山を切り開いて作ったキャンパスだったので、そこで毎日ボーっと風の音を聴いたりしていたので、そこからインスピレーションをもらっていた部分もあります。

―確かに、ロックでも「東京」って曲を歌う人はだいたい大体地方から出てきたミュージシャンな気がします。

小瀬村:東京生まれの人ってあまり書かないですよね。そういう感覚に近いのかなって思います。

―大学時代によく風の音を聴いたりしていたとおっしゃいましたが、そういう自然から感じたものは、以前からピアノを弾いたときに表れていた覚えはありますか。

小瀬村:それはありますね。元々一番最初のアルバムを作ったときにちょっと体調を崩していて、学校にも行けなかった時期があったんです。そのときに毎日公園に通ってはいろんな音を採集して持って帰って聴いていたんです。改めて聴くと、自分が現場にいて録っているのに、そのときには聴こえてなかった音が入っていたり、そもそも音の聴こえ方がまず違ったりして面白いなと思って。いわゆるフィールドレコーディングですけど、どんどんいろんな音を採取して、それをコンピュータの中で組み合わせて編集して、少しシンセサイザーやピアノを加えたりして自分で楽しんでたんですよ。それが自分へのメディテーションとか癒しになって、心を休ませたりしていて。その作品をオーストラリアの人が聴いてアルバムにしようって言ってくれたことが始まりなんです。その感覚は今も根付いてるというか、続いてると思います。

―ピアノはいつ頃から弾いていたんですか。

小瀬村:3歳ぐらいから弾いていて、住んでいた町の小さい場所で、おばあさんが1人で教えてるところで中学生までクラシックを習っていたんですけど、怖い先生に怒られながらやっていたから楽しくなくて。でもその先生が病気で亡くなってしまって、次に新しく来た先生は「好きな曲を持っておいで」っていうタイプの方で、「タイタニック」の曲を練習して弾けるようになったんです。好きな曲を弾けるようになったし、大満足でもうこれ以上やることはないなと思って、逆にピアノへの興味を失ってしまいました。高校では軽音部に入ったんですけど、そこで当時流行ってたロックとかミクスチャーとかヒップホップ系のバンドを知ってカルチャーショックを受けたんです。でもキーボードとかはいらないっていう部活だったので、僕はボーカルをやってTHE MAD CAPSULE MARKETSをコピーしたり、デジタルロックをやってました。ほぼ叫んでただけですけど(笑)。

―へえ~! ピアノを弾いている姿からは想像できないです。

小瀬村:歌はあまり得意じゃなかったので、そこでやめたんですけどね。大学生になってからはエレクトロニカに興味を持つようになって、自分でも作ってみたいなと思って曲を作るようになったんです。作曲をするようになってから、改めてピアノにも興味を持つようになりました。



―では『SEASONS』の曲について詳しく訊かせてください。曲順は四季を春夏秋冬の順に並べているわけですか。

小瀬村:そうです。ただアルバムのコンセプトとしていわゆる「春っぽい曲」「夏っぽい曲」を作るっていうコントラストの強いものではなくて、もう少し自然な流れで、だんだんと移り変わっていく季節の色合いみたいなものを表現したかったんです。あくまで自分の記憶の中にある季節をイメージして何となく出てきた曲を順番に並べていった構成になっています。

―そうして春夏秋冬、1年間がアルバムになっているわけですね。

小瀬村:1年間季節が巡ってそこで終わりっていうよりは、ずっと周回するっていうイメージです。「Where Life Comes from and Returns」という、命が生まれ戻っていく場所という意味の1曲目から始まって、最後の「Hereafter」まで行ってまた戻ってくるっていう、自然のサイクルを表現したかったんです。



―確かに、聴いているといつの間にかひと回りしていた印象でした。曲ごとの大きな起伏がない分そう感じた気がします。

小瀬村:作為的にならないように、あまりそういうダイナミクスは作らないようにしてます。最近は僕らが知ってるちょっと趣のある日本の四季とは変わってきちゃって、急に暑かったり寒かったりするので、あと50年もしたらこの作品も、記憶の中の良き日本の四季みたいなものになってしまうかもしれないですけど、僕の中ではやっぱりこういうものが四季かなっていうのがあるんです。だからわりと淡々と徐々にグラデーションしていくイメージで作りました。

―そんな中で、終盤になるとちょっと感情が入ってくるように聴こえます。

小瀬村:制作期間がちょうど冬から春にかけての間だったんですけど、まさに冬に作ってたからかもしれません。やっぱり冬に作ってると自然に冬っぽい曲になるので。ただ僕は冬にどっぷり浸かるっていうよりは、どこか春を迎える光を探したい。「Passage of Light」は最後の方で作ったので、全体をちょっと俯瞰しながら作ったんですけど、冬の沈みゆく世界の中であがいてるような部分が出てたかなと。美しい秋の印象をイメージした「Gentle Voice」から「Zoetrope」「Left Behind」に移っていくなかで、もう気持ちは冬に向かってますね。でも自分の中にある、ほの暗いハーモニーが心地良い部分だったりするので、そういうものが秋から冬で重なっていったのは良かったと思います。

―11曲目の「Towards the Dawn」はちょっとシリアスですね。

小瀬村:そうですね、トンネルの中から出て森の中を彷徨ってるみたいな。僕はたぶん環境にすごく影響されやすいんだと思います。

―そこはご自分の感情と移り変わる季節がリンクしている感じですか?

小瀬村:常にそういうサイクルっていうことを考えている部分があります。あまり自分では気づいてなかったんですけど、他の仕事で曲を書いたときに、僕の曲のフレーズが「弧を描くような音楽に感じる」って言った人がいて。自分の音楽をそういう視点で聴いたことがなかったんですけど、確かに僕の音楽って、ミニマルなフレーズの反復が多くて、その音型が弧を描いたようなものが多いことに気づいて。「なるほどな」って思ったんです。そう考えると、常に自分の音楽ってサイクルというか”サークルの中”にあるようなイメージがあって。今回も四季というサイクルしていくものをテーマにしているので、もともとそういうものを自分の中で感じながらやってた部分もあるんだと思います。行っても必ず戻ってくるところに心地よさを感じてるというか。



―どこかで完結することを求めていない?

小瀬村:たぶん、完結させることにそんなに魅力を感じてないのかもしれないです。曲1つとっても、いわゆる終わらせない終わり方が多いので。「Towards the Dawn」なんかも、終わったのか終わらないのかみたいな形で終わっちゃうというか(笑)。結構インプロビゼーションで録っていることが多くて、弾きながらモチーフが決まってくるとレコーディングして1番いいのを選ぶみたいな作曲の仕方をしているので。ピアノソロの曲を書くときは、そうやって感覚的に作ることが多いです。



―その感覚的に作った曲を作品として世に出すときに、タイトルを付けるわけじゃないですか? 今回のコンセプトだと、例えば「Dear Sunshine」は春の曲だなって思いながら聴くわけですけど、タイトルに聴く側のイメージが引っ張られることもありますよね。そこはどう考えてタイトルを付けているのでしょうか。

小瀬村:タイトルは難しいですね。一番難しいんじゃないかっていうぐらい。曲を作ってる時間より、タイトルを考えてる時間の方が長いんじゃないかな(笑)。仮タイトルをつけちゃうとそれになっちゃうから、とりあえず日付を付けておいて、後で聴きながらどういう曲名にしようかなって考えます。自分の記憶を探りながら出てきた曲を改めて聴きながら、逆にインスピレーションを受けて想像を膨らませてタイトルを付ける、みたいなことの繰り返しですね。でも「Dear Sunshine」は、夢の中で書いてた曲なんですよ。



―そんなことってよくあるんですか?

小瀬村:いや、だいたい起きたら忘れてるので15年やってて1回もないんですけど、この曲は起きたときにメロディを覚えていたので、それを全部メモして、あとからコードを付けて曲にしたんです。そのときは春の日差しの中ですごくキラキラした曲を弾いてるっていう夢だったんですよ。夢の中で、この曲はめちゃくちゃいいなって思ったのですが、実際にアトリエで弾いてみたら、「あ、そんなに…」みたいな(笑)。

―ははははは(笑)。夢の方が良い曲だった?

小瀬村:「というよりも、何か夢と違うな」って(笑)。弾いてみたら素朴な曲だったんだなって思いました。どことなく童歌みたいで。

―逆に、例えばCMや映画の曲の依頼があったときには最初からテーマがあるわけじゃないですか? そういうときはどうやって曲を書くんですか。

小瀬村:CMは絵コンテだけが送られてきて、決まった尺に合わせて作ります。映画は逆で、映像が全部出来上がってきて細かく作る感じです。

―映画だと『ラーゲリより愛を込めて』(2022)は大きな話題作でしたけど、このときも全編ご覧になってから曲を書いているわけですか。

小瀬村:そうです。全部繋がれた映像を見て、それから打ち合わせをして細かくどこに音楽を付けていくかっていう話をして作って行くんです。コンマ単位で音楽を付けてちょっと変わるとまた作り直しをするので、途方もなく大変な作業です。自分だけの作品ではないので、その作品を作ってる人たちとの話し合いの中で生まれてくるものを探す作業になるんですけど、自分の作品を作るときは自分しかいないので。自分が企画して自分で曲を考えてコンパイルしてっていう、正解が自分の中にしかないっていうのはそれまた悩みもあったりもするんですけど、基本的には自分が聴きたい音を作れるわけですから、それは大切なライフワークですね。



―ピッチフォークの評に、「飽きることの無い彼の旋律は果てしなく、他の音楽家と一線を画するものだ」とありますけど、今作を聴いたときに本当に飽きることなく繰り返し聴いていられるのはなんでだろうって考えてみたら、あまり我を出している感じが曲にないからなんじゃないかと思ったんですよ。それは今おっしゃった、CMや映画で自分を前面に出さない仕事をしてきたことが、ご自分の作品を作るときにも多少なりとも影響してるのかなって。

小瀬村:いや、逆に仕事の場合は自分を出すことを求められることが多いんですよ。つまり「この曲を聴いてきました」って、わりとメロディーが強めの曲のイメージで作りたいっていうお話が来ることが多いので、どちらかというと映画やテレビの仕事の方で、自分を客観的に見て自分らしいと思われてる部分を強く出そうとするんです。その分、自分の作品になるとそういうものから少し遠いところに行ってる部分があるんですよね。仕事として求められたものをやるときは、ちょっと背伸びをするというか、本来自分だったらここまではやらないけど、でもこの映画だとここまでやったほうが良いから、挑戦するっていうこともよくあるんです。ただ自分の作品の場合は、自分が割と控えめなものが好きだったりするのでそういう曲になるというか。今回も「”ザ・春”っぽいメロディーを書く」とかっていうプロジェクトではなくて、もやっとした感覚的なものに近いかなって(笑)。ピアノソロ・アルバムだけど、自分の中の感覚としては最初にお話ししたフィールドレコーディングだったりとか、アンビエント・ミュージックに精神性が近いと思います。

―なるほど。残響音が夏の終わりを感じさせる「Faraway」にもそういう感覚が感じられます。

小瀬村:この曲は、夏の提灯とか祭囃子がちょっと遠くに聴こえているようなものをイメージしていた気がします。

―夏の曲で言うと、「Niji No Kanata」は2013年にボーカリストのlasah(ラサ)さんのボーカル入りでリリースした曲ですよね。

小瀬村:これだけ唯一セルフカバーみたいな感じですね。夏の曲であと1曲作ろうと思ったときに、「そういえば10年前に夏の曲を作ったことあるな」って思い出して。そのときはボーカル曲だったんで、歌いながら作曲したんですけど、ピアノで弾いたらどうなるのかなって弾き始めたらうまくいって。過去の自分との接点も今回のアルバムに組み入れられたのはすごく良かったなと思います。

―Twitterに書いていらっしゃいましたけど、CDジャケットは「正面から向き合わないとぼやけてしまう仕様」ということですね。これはどうやってできてるんですか。

小瀬村:レンチキュラーっていう素材を使っていて、見る角度によっては、絵がボケて見えて、正面から見るとちゃんと見えるんです。そのグラデーションがこの作品のコンセプトと合っていると思って。

―アルバムを1枚完成させてみていかがですか?

小瀬村:素朴な作品なので、場所を選ばずに聴いてもらえるんじゃないかと思います。僕は作品を作るのが好きなので、1つの作品を作り終えると、また次のアイディアが出てきて、「今度はこういうことがしたいな」って思うんです。これからもその繰り返しですね、ずっと。


<リリース情報>



小瀬村晶
『SEASONS』
2023年6月30日(金)リリース
Decca Records
https://akirakosemura.lnk.to/SEASONS
CD:UCCL-9111 ¥3960(税込)
LP:UCJY-9002 ¥4950(税込)
=収録曲=
1. Where Life Comes from and Returns
2. Dear Sunshine
3. Fallen Flowers
4. Niji No Kanata
5. Faraway
6. Vega
7. Gentle Voice
8. Zoetrope
9. Left Behind
10. Passage of Light
11. Towards the Dawn
12. Hereafter

https://www.universal-music.co.jp/kosemura-akira/

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