フェンダーはなぜ今、世界初の旗艦店を原宿にオープンするのか 米CEOとアジア代表が語る、楽器市場と音楽シーンの変化
Rolling Stone Japan / 2023年6月30日 19時30分
写真左:フェンダー・ミュージカル・インストゥルメンツ コーポレーションCEO アンディ・ムーニー氏と(右)フェンダーミュージック株式会社 代表取締役社長・アジアパシフィック統括 エドワード・コール氏(Photo by Kimi Mikawa)
フェンダー世界初の旗艦店「FENDER FLAGSHIP TOKYO」が、2023年6月30日(金)に原宿の一等地にオープンした。
東京・原宿、表参道エリア、多くのアイコンショップが立ち並ぶ明治通り沿いの商業ビル「The ICE CUBES」(元H&M)の地下1階から地上3階までの4フロアで構成されたストアは、「あらゆる音楽好きのニーズに対応した様々なサービスを提供する」という既存の楽器店とは異なるコンセプトを掲げており、楽器好きな音楽ファン、ミュージシャンのみならず、原宿・表参道エリアを訪れる多くの人々の注目を集めている。6月27日に行われたグランドオープニングパーティー開始前に、来日中のフェンダー・ミュージカル・インストゥルメンツ コーポレーションCEOのアンディ・ムーニー氏とフェンダーミュージック株式会社 代表取締役社長・アジアパシフィック統括のエドワード・コール氏にインタビューを行い、詳しく話を聞いた。ブランド創設以来77年の歴史を誇るフェンダーはなぜ今、世界初の旗艦店を東京にオープンするのだろうか。
―「FENDER FLAGSHIP TOKYO」オープンを控えた今の率直なお気持ちを訊かせてください。
アンディ:とてもポジティブな気持ちですね。もともと高い期待値を持っていましたが、それをさらに上回るすばらしいストアだと思います。
エドワード:私も非常に心躍る思いです。このストア、そして日本のビジネスを通じて今後、次の77年間もまた引き続きプレイヤーにインスピレーションを与えていきたいです。
―ブランド創設以来、世界初の旗艦店ということですが、なぜ日本にオープンすることになったのでしょうか。
アンディ:2つの理由があります。1つは、日本が世界の中でも最も重要なギターのマーケットだということです。もう1つは、遠くない未来においてアジアが最も大きな音楽の市場になるであろうと考えていますし、そのとき日本はアジアにおける非常に重要な都市になると思っているからです。
エドワード:それに加えて、この日本・東京には最も洗練されたダイナミックなリテールシーンがあって、尚且つ消費者もブランドに詳しい人が多いということも理由ですね。そして、今年だけでも世界中から3,000万人の観光客が訪れる都市だということです。
―今日もたくさんの外国からの観光客が「FENDER FLAGSHIP TOKYO」の周辺を行き来していますよね。ここ原宿から海外に向けてフェンダー・ブランドを発信していくイメージですか?
アンディ:まさにそのとおりです。東京は世界に対して影響力のある都市であり、その中でも原宿・表参道というのは、特に影響力が高いと思っています。ですから、ここでストアがオープンできるという機会が訪れたときには、バド(エドワード氏のミドルネーム)のチームは喜んでそのチャンスを掴みに行きましたし、私も非常に嬉しく思っています。
エドワード:原宿エリアはとても若者が多くトレンディでファッショナブル、表参道はもう少し大人っぽくて富裕層を含めた消費者がいます。私たちはディーラーコミュニティに心から敬意を払っていますし、非常に重要なパートナーだと思っておりますが、このエリアにはディーラーが不在だったため、今までお客様にサービスを提供できておりませんでした。今後は、私たちの一体のマーケティング戦略の中に、この旗艦店を位置づけています。
―「FENDER FLAGSHIP TOKYO」は、多くのファッションブランドが並ぶ明治通り沿いにありながら、周囲にとても馴染んでいますよね。独自のアパレル商品の販売、カフェの設置など、既存の楽器店とは異なるサービスが楽しみです。こうした「あらゆる音楽好きのニーズに対応した様々なサービス」を提供する上で、最も工夫したのはどんなところですか。
アンディ:バドも言っていたように、私たちは本当にディーラーコミュニティを重要だと考えているのですが、一方で多くの場合、楽器店というのは非常に小さな面積しかありません。だからこそ、大規模な楽器店であっても、すべての製品を展示するのはなかなか困難です。しかし、ご覧いただいた通り「FENDER FLAGSHIP TOKYO」にはカスタムショップのフロア、新商品のフロア、アコースティックギターのみを展示しているフロアもあります。これはフェンダーにとって世界で初めてのアコースティックルームになります。こうしたすべての製品を展示できるということが、このお店の最大の特徴です。そして、お客様には時間をかけて楽器を見ていただきたいので、来店時にゆっくりと過ごしていただくためにも、カフェを用意しました。もちろん、製品を買ってもらえたらより嬉しいですけど(笑)。また、ディーラーの方々が、フェンダーブランドのライフスタイルやアパレルまで販売することもなかなか難しい。そういう意味でも、他ではできないユニークな取り組みをこのストアで実現できました。
地下1階は、フェンダーとして世界で初めてのアコースティックギターの展示ルームとイベントスペースに加えてカフェを併設。
最上階の3階は、ドリームファクトリーとも呼ばれる、フェンダーの最上級ギターを生み出すFender Custom Shop®専用のフロア。Fender Custom Shop®では、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、H.E.R.、ジミー・ペイジといった世界トップレベルのミュージシャンから、コレクター、プロフェッショナル、ギター愛好家まで、プレイヤーの夢のギターを実現する、マスタービルダーと呼ばれる世界で最も熟練した名誉ある職人がフェンダーの伝説的な楽器を製造。このフロアには、マスタービルトやチームビルトによる最高峰の作品を取り揃えるほか、カスタムオーダー用の特別ルームも用意している。
エドワード:フェンダーは、世界最大のエレクトリックベース、アンプの提供者でもあります。しかし、”世界最大のブランド”というのは、すべてコアな客層から拡大を図ってきました。例えばナイキであればランニングシューズから、ルイ・ヴィトンであればトランクから、アップルであればPCから始まり、今は非常に幅広い製品を展開していますよね。私たちのコアはエレクトリックギター、アコースティックギター、ベース、アンプですが、もっともっと音楽を愛する幅広い方々に喜んでいただけるように、アパレル、フード・ビバレッジ、アクセサリーなどを提供することで、ギターを愛する人、ギターは弾かないけど音楽を愛する人にもフェンダーのサービスを提供して行こうと考えています。
フェンダーミュージック株式会社 代表取締役社長・アジアパシフィック統括 エドワード・コール(Edward Cole)氏
2014年にフェンダーミュージカルインストゥルメンツコーポレーションに入社。 2015年4月フェンダーミュージック株式会社社長に就任。これまでにラルフ・ローレン・ジャパン社長など 20年近くものライフスタイルやラグジュアリーブランドでの経験を活かし、日本をはじめとしたアジア市場を開拓、ビジネスの拡大に携わる。サンフランシスコ、ロンドン、香港、東京など実に60以上の国や地域でビジネス経験があり、グローバル企業にふさわしい強力なリーダーシップでフェンダーのアジアでのビジネス全般を指揮。趣味はギターとバイク。
―今後、「FENDER FLAGSHIP TOKYO」を拠点としたイベントなどは考えていますか?
エドワード:まさにその最初のイベントが今日です。このあと素晴らしいアーティストの方々に集まっていただき、プレイをしてもらいます。この建物は、サイズが大きくスペースがあるので、ライブ演奏やミート&グリート、サイン会、レッスンプログラムなども含めて、今後は多くのイベントを計画していくつもりです。エデュケーションのために、インスピレーションのためにも、そしてアーティストやプレイヤーをサポートするためにもーー。もうすでに、夏のフェスティバルに出演する海外のアーティストたちが、ここでミート&グリート、サイン会、もしかしたらサプライズのライブ演奏をしてもらうかも?という話が進んでいます。(ストア外観には)大型のLEDスクリーンもありますので、これからのイベントを楽しみにしてください。
―フェンダーでは近年、初心者や女性など新たなマーケットに目を向けてきたと思いますが、そうした傾向もこのストアに大きく反映されていると思って良いでしょうか。
アンディ:私たちが行った調査では、毎年弊社が販売しているギターのうち45%が初心者、そのうちの50%が女性でした。今までの伝統的な楽器店では、女性のお客様に対して十分なサービスが提供できていないという側面がありました。それは、女性店員の数が少なかったため、購入プロセスを女性店員がサポートできていなかったということもあります。そのため、このストアではかなり女性店員の数を増やしています。女性の販売スタッフが50%ぐらいになることを目指しました。
―そうした消費者目線とは別の話ですが、日本の音楽シーンについてはどのように捉えていますか。
アンディ:かつては、日本または韓国のアーティストはなかなか国外での活動が難しかったですが、今はそれが急速に変わりつつあり、日本や韓国のアーティストがグローバルに活躍しています。例えば今日も演奏していただくMIYAVIさんは、アメリカでもギタリストとして、さらに俳優としてもよく知られるようになっていますし、日本の音楽は、今後さらに重要性を増していくはずです。
―日本のチャートに入っているアーティストの曲は、海外のチャートに入っているアーティストと比較すると、今でもギターがフィーチャーされた曲が多い印象ですし、そうした音楽を聴くことでギターを手に取る人もいると思います。
アンディ:とても興味深いですね。私たちにとってそれはすごく好ましいことです(笑)。私は、ジミ・ヘンドリックス、エリック・クラプトン、リッチー・ブラックモアなど、ギターヒローがいる時代を生きてきました。もちろん、そうしたギターの名手は非常に影響力を持っていましたが、その次に時代にパンク・ミュージックが台頭してきたことによって、誰でもギターを手に取ってステージに上がって、熱意あるプレイをすればいいんだという、ギター演奏の仕方が変わったんです。最近はというと、我々のリサーチの結果、女性プレイヤーの多くは自分でギターを練習して上手くなって、好きな曲をリラックスしてベッドルームで静かに弾きたいと思っているようで、それも素晴らしいことだと思います。
―必ずしも、プロミュージシャンを目指してギターを手に取るわけではないですもんね。
アンディ:そうですね。とくにコロナ禍では、新たにギターを手にする人が3,000万人現れたんです。彼らは時間ができたことで、自己投資をしたい、ストレスから解放されたいとギターを手にしたのだと思います。その多くの人が、生涯にわたりギターをプレイしてくれると思いますし、ギターというものについての考え方が変わったと信じています。昨年、我々が組んだアーティストに、blue the tigerという女性ベーシストがいます。彼女はもともとソロ・アーティストとしてTikTokで音楽を発信していたのですが、今はフルバンドでツアーをするようになりました。90秒より短い曲のアーティストをサポートしているレーベルもあります。90秒ということは、どのプラットフォームかおわかりいただけると思いますけど(笑)。人によっては、ステージに上がるのは緊張して嫌だけど、家のカメラで何万人、もしかしたら何百万人の人に観てもらうことを好むアーティストもいます。そういった新しい発表の仕方が出てきているのです。
FENDER FLAGSHIP TOKYOの玄関となる1階は、ギター/ベース製品や、アーティストシグネイチャーモデル、アクセサリーなど、新製品や注目アイテムが展示販売されるフロアとなります。ウェアやキャップ、ホーム/オフィスアイテム、ステーショナリーを含むオリジナルグッズの販売や、旗艦店オープンと同時にローンチする新アパレルブランド「F IS FOR FENDER」など、様々なライフスタイル商品の販売を行う。
―インターネットを介して音楽を発表したい人たちと、ギターを繋ぐガジェットなどはこちらのストアでも取り扱う予定はありますか?
アンディ:フェンダーでは2021年に「PreSonus」という会社を買収しました。PreSonusでは、ストリーミングやライブミキサー等といった音楽配信用のガジェットを扱っているところですので、まさにこの分野にも力を入れています。
―近年ギターを取り巻く環境の変化が、一番顕著に表れていたのはアメリカ市場なのでしょうか?
アンディ:最初にアメリカでリサーチしたときは、「アメリカのマーケットは違う」と言われていたのですが、実際に世界中のマーケットを調査したときに、別にアメリカが特別ではなく、世界中で同じような傾向が見られました。日本でもアメリカでも、例えば女性プレイヤーが増加していることや、新しいプラットフォームによって巨大なニュークリエイターの波が訪れていることは、世界中で共通しています。
―「FENDER FLAGSHIP TOKYO」と、日本に多く点在するフェンダー製品を扱う楽器店との連携などはお考えですか。
アンディ:そうですね。とくにカスタムショップに関しては、カスタムギターに関心のあるお客様が来店した際には、こちらのストアを紹介していただいて、コラボレーションしていきたいと思います。バドはこれまでのキャリアで日本のラルフ ローレンの旗艦店の立ち上げと運営を経験していて、今私が言ったようなことを、小売店と連携して実現しました。つまり、いろいろな店舗のトップバイヤーを旗艦店にお連れして、そこでスペシャルイベント等をして、売り上げについてもコラボレーションするようなことをしていたのです。ナイキが旗艦店を立ち上げたとき、その他のディーラーは「この世の終わりだ!」という反応をしましたし、ディズニーに於いても同様でした。でも実際は、その後ディーラーベースは拡大し、かつてないほどの成功を収めました。フェンダーの旗艦店も決してディーラーの方々と競争するものではなく、業界自体を活性化して拡大するための投資だと考えています。
フェンダー・ミュージカル・インストゥルメンツ コーポレーションCEO アンディ・ムーニー(Andy Mooney)氏
ナイキ、ディズニー・コンシュマー・プロダクツ、クイックシルバーといったアパレル&ライフスタイル&エンタテインメント業界のグローバルブランドでCMOやCEOを歴任したのち、2015年6月、フェンダー ミュージカル インスツルメンツ コーポレーションのCEOに就任。豊富なビジネス&マーケティングスキルを生かし、デジタル施策を含めた大胆な取り組みをグローバル展開中。プライベートでは自身でもバンドを組むほどの音楽好きで、ギターコレクターでもある。
―音楽ファン、ミュージシャン、多くの人が「FENDER FLAGSHIP TOKYO」に期待しています。みなさんにメッセージをお願いします。
アンディ:まずは、「ぜひ来て下さい」と申し上げたいです。世界の中でも最も素晴らしいフェンダーの展示をご覧いただけます。私は既にたくさんのギターを持っていますが、このストアでもう20本ほど、「コレクションに加えたいな」と思うギターと出会ってしまいました(笑)。ギターを買おうかなと思っている方や、以前買ったものの全然演奏していない人が、ここに足を運ぶことで音楽を演奏したい、創り出したい、他の人と共有したいというインスピレーションを受けるような場所にしたいと思っています。
FENDER FLAGSHIP TOKYO(フェンダー フラッグシップ トウキョウ)
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-8-10
■ 営業時間:11 時~20 時(年中無休 *年末年始を除く)
■ 交通
山手線 原宿駅 徒歩5分、
東京メトロ 千代田線・副都心線 明治神宮前駅 徒歩2分
東京メトロ 千代田線・半蔵門線・銀座線 表参道駅 徒歩8分
■ 階数:地下1階~地上3階
■ 面積:総延床面積 1068.4m² / 323.19坪
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