米連邦政府に起訴された美術館強盗の「奇想天外」な手口
Rolling Stone Japan / 2023年7月7日 6時45分
PHOTO ILLUSTRATION BY MATTHEW COOLEY. PHOTOGRAPHS IN ILLUSTRATION BY BETTMANN ARCHIVE/GETTY IMAGES; ADOBE STOCK; STEVE CRANDALL/GETTY IMAGES; UNITED STATES DEPARTMENT OF JUSTICE
米ペンシルベニア州スクラントン連邦支局は6月15日、一連の大胆な美術館強盗に関与したとみられる容疑者9人の起訴を公表した。容疑者は狙いをつけた現場を事前に下調べし、その後無線を手に――時には変装もして――現場に戻り、ボクシングのチャンピオンベルトやファベルジュのパンチボウルなど様々な美術品を持ち出し、粉々に砕けた陳列ケースを現場に残して立ち去った。
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検察の発表によれば、被告らが過去20年間にわたって盗んだ貴重な美術品には、ジャクソン・ポラックやアンディ・ウォーホールの絵画作品や、ヨギ・ベラのワールドシリーズ・リング9点、年代物の武器、ティファニーのランプ、1903年のベルモント・ステークスなどのトロフィー20点以上が含まれていたという。検察いわく、犯行は1999年から2019年にかけて、ペンシルベニア州、ニュージャージー州、マサチューセッツ州、ノースダコタ州の小規模な美術館の他、宝石店やアンティークショップで主に行われていた。大半は閉館後の犯行で、容疑者はドアや陳列ケースを叩き壊してから窃盗を働き、車で逃走した。犯行には可能な限り盗んだ美術品を分解または溶解し、バラバラになった状態で推定価値をはるかに下回る価格で売りさばいていたとみられる。当局の話では、警察の目を逃れるためにアメリカの風景画家ジャスパー・クロスピーの1971年の絵画作品(推定価格50万ドル)が焼き払われたこともあったという。このようにして犯人は地元当局の目を何年もぐくり抜けてきた。
起訴されたのはいずれもペンシルベニア州在住の40~50代で、重要美術品の窃盗、重要美術品の隠蔽または処分、およびこれら犯行を共謀した罪などに問われている。逃走車を運転したとみられる人物や、犯人が待ち合わせや盗品の解体・分配に使っていたガレージの所有者らは共謀罪1件で起訴された。捜査官の話では、警察に出頭せず今も逃走中とみられるニコラス・ドンベック被告(53歳)は、核となる容疑、すなわち盗んだコインや宝石類を別の州に移動させた罪でのみ起訴されているとのことだ。
被告の内3人はすでに罪状認否を終え、いずれも無罪を主張している。無罪答弁を終えたダミエン・ボランド被告、アルフレッド・アツス被告の弁護人は、現段階では裁判に関するコメントを控えた。他7人の容疑者に弁護人がついているかどうかは分かっていない。
起訴状には、犯行グループが窃盗を計画して実行するまでの経緯が説明されている。まずは狙いをつけた美術館に複数回足を運ぶところから始まる。ノースダコタ州ファーゴのロジャー・マリス博物館、ニュージャージー州リバティコーナーの全米ゴルフ協会博物館、ニューヨーク州サラトガのナショナル・ミュージアム・オブ・レイシング・アンド・ホール・オブ・フェイムなどで犯人は盗もうとしている貴重な品々を物色し、陳列品のセキュリティ対策を確認した、と検察は考えている。起訴状によれば、陳列ケースの強度を確かめるためにコインでガラスに傷をつけたこともあったようだ。
その後犯人は閉館後に美術館へ戻り、盗みに及んだ。2005年には2人の犯人がペンシルベニア州スクラントンのエバーハート博物館のドアを破り、ウォーホールの『Le Grande Passion』(10万ドル相当)とポラックの『Springs Winter』を奪った。
必ずしも毎回戦果があったわけではない。2017年には1人が単独で犯行に及び、梯子を使ってニュージャージー州のフランクリン鉱物博物館の屋根に上った後天窓を破り、そこから内部へ侵入した。館内で犯人はセンターポンチで陳列ケースを壊し、宝石と鉱物を奪ったが、その価値はわずか1万1000ドルだった。
裁判資料によれば、犯人は時に窃盗中に無線で連絡を取り合っていたという。また少なくとも2回は犯行中に変装していたようだ。当局によると、2016年にはロジャー・マリス博物案に押し入った犯人の1人が「消防士のユニフォーム姿で斧を携えて」いたという。その犯人は陳列ケースを叩き壊し、ロジャー・マリスがニューヨーク・ヤンキース時代に外野手として在籍していた時に贈られたヒコックベルトとMVPトロフィーを盗んでいった。その年全米でもっとも優れた選手に送られるヒコックベルトは、金のバックルにダイヤモンドと宝石が埋め込まれており、推定価値は10万ドル。
起訴状によると、別の時には2人の犯人がニュージャージーの鉱山博物館に押し入ったが、それまで陳列されていた金塊は金庫に収納されてしまっていた。犯人の1人は「ペンキ工のマスクなど、外観が分からないような服装で」開館時間に再び博物館に戻った。その犯人は金塊と「その他金属」の塊を――営業時間内に――持ち出し、別の犯人と車で落ち合って逃走したとみられる。
起訴状によれば、2019年にはハーバード大学構内にある宝石美術館からダイヤモンドを盗む計画が立てられ、犯人の1人が犯行用に「ユダヤ教ハシディーム派の衣装」を仕立たという。出来上がった衣装を実行犯に試着までさせたが、いざ下見に訪れてみるとダイヤモンドの展示は終了していたため、計画はお流れになったようだ。
犯行グループはボランド被告がスクラントンで経営するバー「Colliers」を根城にしていたようだ。盗品を売りさばきやすいよう解体し、あるいはトロフィーを延べ棒や円盤、小判型に溶解して、一部をニューヨークで15~16万ドルで売りさばいた。当局によれば、岩から貴金属を分離するためにトーチをレンタルしたこともあったようだ。当局は起訴内容の発表と合わせて、ベラのワールドシリーズ・リングも溶解されたとの見解を示した。
関係者によると、3年ほど前に地元警察が発見した現場証拠がきっかけで複数の犯行がつながったという。国際ボクシングの殿堂が2015年に強盗に遭った際、現場に残されていたガラスの派遣に付着した血液のDNAが犯行を結び付ける証拠のひとつになったとニューヨークアタイムズ紙は報じている。それをきっかけに連邦、州・地元当局が協力し、州をまたいで20か所の施設で強盗を働いたとみられる9人のペンシルベニア州住民の立件にこぎつけた。
無罪答弁を行った被告は、パスポートの提出とペンシルベニア州からの移動禁止を命じられた。公判開始は8月21日に予定されている。
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