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ドラン・ジョーンズ、来日目前のソウルアイコンが語る「自分の歴史」を掘り下げたソロ作

Rolling Stone Japan / 2023年7月5日 18時30分

ドラン・ジョーンズ

ドラン・ジョーンズ(Durand Jones)が発表した初ソロ・アルバム『Wait Until I Get Over』は深くて重い。ドランがフロントマンとなるジ・インディケーションズの2ndと3rdを出したデッド・オーシャンズからのリリース。ソウル・ミュージックを軸とする音楽性はグループのそれと大きく乖離しているわけではないが、その基盤にあるゴスペルを強く打ち出し、故郷のルイジアナ州ヒラリーヴィルや家族の歴史に触れたパーソナルかつ社会的なアルバムは、ジ・インディケーションズの作品を語る際に用いられてきた”レトロ・ソウル””ヴィンテージ・ソウル”といった言葉では表しきれない。どちらかといえばリリックよりもサウンドやボーカルを重視する自分のようなリスナーでも、歌われている内容や背景に向き合わねばと思わせる奥深いアルバムなのだ。そして、当然ながらドランのボーカルはグループの作品より何倍も力強い。

できれば本人の口から語ってもらいたいと思っていたところ、7月15日に沖縄のCORONA SUNSETS FESTIVAL、7月17日(月・祝)に大阪、18日(火)に東京のビルボードライブで開催される来日公演を前にインタビューの機会を得た。



―アルバムでは前半のインタールード「The Place Youd Most Want To Live(Interlude)」で故郷であるルイジアナ州ヒラリーヴィルや家族の歴史が語られます。こうしてブラックとして生きる自身を見つめながら、ルーツに立ち返るパーソナルなアルバムを作ることになった理由を教えてください。

ドラン:本名のドラン・ジョーンズ名義でアルバムを出したくて、ついに自分自身の生い立ちについてのアルバムを作るチャンスをもらった。ここでは僕について描こうと決めた。たったひとつの僕のストーリーをね。そのためには南北戦争後、かつて奴隷とされていた人々が住んでいた街で育ったという話から始める必要があった。その歴史を抜きにして自分の歴史を語ることはできないと思ったんだ。

―そのヒラリーヴィルという街は、市町村とは違った教会特区という特殊な地域だと聞きます。ぼんやりとは理解しているのですが、何が普通の街と違うのか、部外者には想像がつきません。そこでのブラック・コミュニティの内実やチャーチ・ライフ、音楽体験がどんなものであるか、詳しく知りたいです。

ドラン:ヒラリーヴィルに住む人々の多くは港湾労働者、もしくは農民として働いている。そんな彼らが、普段の姿から正真正銘のスターに変身するのが日曜日だった。スーツにアイロンをかけ、穴の空いていないホワイトストッキング、ピカピカに磨かれた靴、みんな精一杯のお洒落をして教会にやってくる。そして、なんのしがらみもなく1週間の苦痛を歌いあげるんだ。本当の自由について、約束の地について、恐れを知らずに歌う。その歌や伝統から受けた影響は、僕の表現においてかなり大きな部分を占めている。幼少期の教会での記憶は一番大事だと言ってもいい。教会の母……白の衣をまとった立ち姿。みんなが彼女の後ろに立って、彼女が「この不毛の地を巡礼する偉大なるエホバよ、我を導きたまえ(Guide me over great Jehovah pilgrim through this barren land)」と歌うと、僕たちも後に続いて歌う。決まったルールなんかなく、各々が自由にアレンジを加えてメロディを歌っていた。教会の後ろの方で誰かが大声をあげると、歌がはじまるサインだ。トゥループという名前のカウボーイが黒くて大きな手で手拍子をはじめ、耳を塞ぐほどの大きな声で「せっせと働け! せっせと働け!」と叫ぶ。まるで機関車のようなリズムを刻みながら、クラップ&ストンプがはじまる。そのすべてがクライマックスへと向かっているような、衝撃的で、まるで勝利を掴んだかのような感覚が湧いてくる。「Glory」「Yes Lord」と叫び、涙を流しながら抱き合って祝福をするんだ。



ーアルバム・ジャケットの写真で手にしているのはサトウキビの葉でしょうか?
 
ドラン:そう。サトウキビの葉を持っているのは祖先への敬意を示すため。ヒラリーヴィルを開拓した人の多くは、砂糖プランテーション出身だった。過酷な労働だったので、砂糖プランテーションで働く奴隷の人々は自分たちの命は長くないと悟っていた。今は川沿いに化学工場が立ち並んでいる。この状況から、ルイジアナ州の僕の出身の地域は”癌回廊(Cancer Alley)”と呼ばれるようになった。その地域に住むアフリカ系アメリカ人が癌で死ぬ確率は、他の地域と比べて50倍も高いんだ。

―50倍……。ブックレットではヨハネによる福音書第14章からの一節を引用していて、教会のルーツは「Lord Have Mercy」のリリックにも感じられますが、クワイアをバックに歌われるホーリーな「Wait Until I Get Over」は黒人霊歌のようです。

ドラン:このタイトルは僕にとって、かなり象徴的なものなんだ。今回のアルバム制作で何度も試練に直面した。それは目の前を流れる川を泳いで横断しなきゃいけない状況に立たされたような気分だった。ただ、それらと向き合っていくたびに肩の荷が下りていくのを感じたんだ。「Wait Until I Get Over」は、その感覚をうまく表現している言葉だと思う。サウンド面では、ヒラリーヴィルの僕の教会での裏打ち(リズム)の賛美歌のスタイルを参考にしたよ。



―フォーク・ブルースのようでもありオルタナティヴ・ロックのようでもある「That Feeling」では、あなた自身のセクシュアリティに踏み込んでいます。ミュージックビデオも含めて、個人的には映画『ムーンライト』(2016年)の雰囲気を感じ取ったのですが、他の曲にはない力強さ、決意のようなものを感じます。

ドラン:この曲は、まさにさっき話した試練のひとつだった。自分のセクシュアリティと向き合う時が来たと思ったんだ。僕の人生において、どうしても周囲から”認められていない”と感じてしまうクィアの愛についてテーマにしなきゃならなかった。



「100%自分だけにフォーカスしたかった」

―「Sadie」で歌われるMs.セイディについて教えてください。

ドラン:彼女は美しいクレオールの女性だ。眩しいほどの笑顔、話し好きで、とてもオープンな性格。僕にもそうあってほしいと彼女が思っていることは僕もわかっているけど、恥ずかしくてそうはなれない。彼女には生まれながらの魅力があって、彼女の目からは僕の知らない悲しみを感じる。彼女は傷ついていて、誰かの愛情が必要だったんだ。



―Skyppのラップを交えた「Someday Well All Be Free」はダニー・ハサウェイ『Extensions Of A Man』(1973年)に収録されていた名曲のカバーです。苦難や困難からの解放を謳う今作に相応しい曲だと思いました。

ドラン:ダニー・ハサウェイの「Someday Well All Be Free」はこのアルバムに絶対に欠かせないと思った。歌詞に「最高の歌を歌え(Sing your greatest song)」っていうフレーズがあって、僕は昔からこの曲がずっと好きなんだ。今の時代にこの曲を演奏するとしたら、僕たちのカルチャーの中心にあるヒップホップを取り入れるほかはないと思った。アメリカの腐った警察に命を奪われた人々の人生について語ったSkyppのヴァースは、ただただ素晴らしいと思ったね。「今でも僕たちは自由になれる日を待ち望んでいる」っていうことを僕らはダニーに伝えたかったんだ。




―インディケーションズの作品は”ヴィンテージ・ソウル”や”レトロ・ソウル”といったタームで語られ、アーロン・フレイザーのセンスもあってか”ローライダー・ソウル”といった文脈でも愛されてきました。ですが、あなたのソロ・アルバムはソウルを軸にしながら、ゴスペル、ロック、ブルース、フォーク、ジャズなど多様な音楽性が感じられ、音色も含めて現代的なフィーリングがあります。

ドラン:17歳の僕が気に入るアルバムを作りたかった(※アルバムには17歳の自分を諭す「Letter To My 17 Year Old Self」という曲もある)。だから、当時の僕がのめり込んでいた音楽を入れるのがいいと思ったんだ。僕はロックに夢中で、パンク・バンドで演奏していた。さらに教会でゴスペルを歌い、ジャズやクラシックのグループにも属していた。すべてが僕にとって大事で、そのことをアルバムで表現すべきだってね。このアルバムはインディケーションズのアルバムとは切り離したものにしたかったから、リスクを負ってでも新たな方向へと進むことにしたんだ。

―演奏陣にはインディケーションズのメンバーは起用していないようですね。

ドラン:インディケーションズは共同プロジェクトだから、メンバー全員を代表するような作品を作るために日々努力を重ねている。もちろん彼らのことは大好きだし、一緒に音楽を作ることを心から楽しんでいるよ。ただ、ソロ・プロジェクトは100%自分だけにフォーカスしたかったから、ひとりでわがままにやりたいと思ったんだ。

―あなたと共同でプロデュースを手掛けているのは、ドラマーのベン・ラムスダインとギタリスト/シンセ奏者のドレイク・リッターです。彼らと組むことによって生まれた音楽面での成果はどんなものでしょうか?

ドラン:彼らと一緒にやることに決めたのは、僕に足りない部分を補ってくれると思ったから。ドレイク・リッターはまるで詩人で、抽象的で芸術的なコンセプトを持っている。グレン・ライゴンやヴァージル・アブロー、テレジータ・フェルナンデス、アンナ・バックナー、ニック・ケイヴなど、僕が影響を受けた(音楽以外の、または音楽家でありながら多方面で活躍する)アーティストたちを取り上げ、みんなが参考にできるように本にまとめてくれたんだ。ベン・ラムスダインは、テクニカル面で多彩な才能の持ち主だ。どんなサウンドにしたいか、レコーディングのプロセスの相談相手になってくれるし、アイディアについても本音で議論できる。彼らのサポートは本当に頼りになったよ。



―適切な例えではないかもしれませんが、今回のアルバムは、内省的なリリック、歌に込められたエモーション、ブルージーなサウンド、グループのフロントマンによる初ソロ作品といった点において、ブリタニー・ハワードの『Jaime』(2019年)を連想しました。

ドラン:それは光栄だよ! ブリタニー・ハワードはサウスを代表する真のアーティストのひとりだ。とても尊敬しているし、彼女からは多くのインスピレーションを受けている。



―最後の「Letter To My 17 Year Old Self」に続いてシークレット・トラックが収録されています。ピアノ・バラードですが、エンディングではミシシッピ川の波音と思われる音が聞こえてきますね。

ドラン:シークレット・トラックはまさに”秘密”について表現している。南部の田舎に住む若者に向けてのメッセージを込めていて、田舎から外の世界に飛び出す決心をするときに知っておくべきことがたくさんあるということを伝えたかった。振り返れば、当時の自分が知っていればよかったと思うことがたくさんある。ただ、その”秘密”はいつまでも明かされないままで、そのことで気が狂いそうになったこともある。B面(後半)の冒頭には雷雨の音が入っていて、最後には穏やかで静かな川のせせらぎが聴こえてくる。これには意味があって、嵐の後の静けさを表現したかったんだ。嵐の最中には今まで隠されていた多くの秘密と直面することになる。だけど、肝心なことは最後まで諦めないことなんだ。

―そんなアルバムに因んだ来日公演がどんなステージになるのか気になるところです。

ドラン:僕のソロ公演ではロックンロールを感じられると思う。サックスをメインに演奏する予定だ。みんなにいろんなスタイルを披露したいと思っているよ。


ドラン・ジョーンズ来日公演

2023年7月17日(月・祝)
大阪・ビルボードライブ大阪
1stステージ OPEN 15:30 / START 16:30
2ndステージ OPEN 18:30 / START 19:30
▶︎詳細はこちら

2023年7月18日(火)
東京・ビルボードライブ東京
1stステージ OPEN 16:30 / START 17:30
2ndステージ OPEN 19:30 / START 20:30
▶︎詳細はこちら

CORONA SUNSETS FESTIVAL
2023年7月15日(土)沖縄:豊崎海浜公園
公式サイト:https://www.corona-extra.jp/sunsets-fes/



ドラン・ジョーンズ
『Wait Until I Get Over』
発売中
詳細:http://bignothing.net/durandjones.html

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