吉田豪が選ぶ2022年の年間ベストソング
Rolling Stone Japan / 2023年7月6日 18時0分
Rolling Stone Japanでは昨年と一昨年と3年前と4年前に引き続き、プロインタビュアー・吉田豪氏に2022年のベストソングを挙げてもらった。
半年遅れの2022年ベスト紹介です! 毎年正月ぐらいにアップしていたんですが、今回は単行本の作業とかいろんなものが重なった結果、気がついたらもう7月! なので、もともと年間ベストソング10曲を選ぶ企画だったのを前回から勝手にベスト20へと変更したわけなんですが、今年はせっかくだからベスト25まで掲載! 原稿料は据え置きのまま大増量でお届けします!
【プレイリストを聞く】吉田豪が選ぶ2022年の年間ベストソング
1. 尾藤イサオ「あしたのジョーRAP」
これ、正確には2021年11月22日リリースで22年の作品じゃないからギリギリ対象外なんですが、ボクが今年1月末にJ-WAVEの番組でオンエアするまでほとんど誰も存在に気付いてなかった(もちろんボクも前回の選曲時には気付いてなかった)ので、あえて選曲。もはや説明不要な寺山修司作詞による1970年発売の名曲をヒヨリナ (DJ HIYOCO&エムリナ)なる謎のユニットがラップにアレンジ……と聞くと正直よくある安直な企画モノっぽく思えて萎えそうなものなのに、あの特徴的すぎるイントロをループにして、BUDDHA BRANDっぽさも感じる悪そうなラップを、オリジナル版を歌った尾藤イサオ(現在79歳、リリース時点で77歳)本人が見事なぐらいにやりきってるから、もう最高! ビートルズ来日公演の前座をやった面々(内田裕也、ジャッキー吉川とブルー・コメッツ、ブルージーンズ、ザ・ドリフターズほか)がどんどん亡くなっていく中で、ここまでちゃんと現役シンガーとしての凄みを感じさせてくれるのは本当にすごいです。しかも、尾藤さん本人がラップをやりたいと言って実現した企画らしいのもすごすぎる!
2. HELLO KITTY「Hello! 生まれた意味がきっとある」
ハローキティとハロー!プロジェクトがハローつながりでコラボした曲。ひなフェスでOCHA NORMAとコラボしたりでハロヲタ内では知られているけど、配信オンリーなので外には全然届いていないのがもったいない! ザックリ言うと、林原めぐみらしき人が名曲「ピョコピョコ ウルトラ」っぽさもあるつんく♂楽曲を大久保薫アレンジで歌ってる感じだから、そんなのいいに決まってる!
3. 花譜&長谷川白紙「蕾に雷」
去年は大森靖子とのコラボ曲「イマジナリーフレンド」を1位に選んだバーチャル・シンガー花譜ですが、長谷川白紙コラボのこちらも強烈! 武道館でワンマンLIVEをやれるぐらいに大メジャーな人がここまで攻めたことをできてるのが素晴らしいです。
4. 矢舟テツロートリオと仮谷せいら「ジングルガール上位時代 feat.さとうらら」
グループが解散したりで名曲が歌い継がれなくなる問題についてはずっと考えていて、ボクが初期RYUTistにカバー曲をリクエストするときの選曲テーマはそこにあったし(故人や歌手業を辞めた人、解散したアイドルやバンドの曲を選んでいた)、そういうカバーを意識的にやっていたアイドルネッサンスの妹分AISやハコイリムスメも解散して名曲を歌い継ぐコンセプトのグループがいなくなったいま、こういうやり方があったのか、という。アレンジが全然違うから途中まで気付かずに聴いてたけど、まさかの2011年のTomato n' Pine名曲カバー! この辺りのアイドルポップがこうやって普通にカバーされる時代になっていただきたいものです。
5. 後藤輝基「Carnival」
フットボールアワー後藤さんのソロアルバム『マカロワ』は、ブランキーと長渕剛が好きな彼の音楽性を完全に無視した、プロデューサー藤井隆ならではの選曲によるカバー集。ボクが2020年のベストソングに選んだ本田美奈子「悲しみSWING」のカバーも収録されているんですが、なんといっても宝生舞「Carnival」がカバーされていることにビックリ! ボクがCHARAやbiceきっかけで渡辺善太郎仕事を漁ったことから辿り着いた宝生舞のシングル曲(音楽活動は8センチCDを2枚リリースしただけ)を、スカート澤部渡がアレンジ! もう完璧すぎ! もっと言うと、タワレコ予約特典の『マカロワ』藤井隆仮歌CDに入っていた藤井隆バージョンも絶品でした!
6. SKE48 Team KII「時間がない(Produced by Night Tempo)」
いわゆる48っぽい曲に一切ピンとこない人間なので、たまに攻めたことをやったときは積極的に反応するようにしているんですが、これはかなり面白いと思いました。SKE48オリジナル公演第5弾で、Team KIIとしては2011年の「ラムネの飲み方」公演以来、約11年ぶりの新公演に、なぜかNight Tempoを起用! アルバムでは計4曲を手掛けてるんですけど、これが全部良くて。正直、Night Tempoの昭和歌謡リミックス仕事はそんなに趣味じゃないんですけど、オリジナルは相当いいから、だからこそ広末涼子がNight Tempoとレコーディングしたという例の企画がどうにか消滅しないように祈ってます。
7. 水瀬伊織 (CV.釘宮理恵)「ピンクローズアプローズ」
数年前、mekakusheさんから「楽曲提供の仕事をしてみたいけど、どうしたらいいのか……」って相談されていた側からすると、こうしてアイマスにも楽曲提供するようになり、更にそれが『#アニソン派!楽曲アワード2022』のグランプリを受賞したりと、そっちの世界でもちゃんと評価されるようになったのが本当に良かったなと思います。釘宮さん演じる水瀬伊織は大瀧詠一やフリッパーズ・ギターのカバーも最高でラジオで流したこともあるぐらいなんですけど、やっぱり歌声のインパクトが強すぎて、原曲とは全然違うものになるのがいいんですよね。2022年の釘宮さんはDE DE MOUSE/パソコン音楽クラブ「SMILE SPLASH!!」での歌唱も素晴らしかったです。
8. あかせあかり「恋ノ行方」
あかせさんはコスプレイヤーの人で、これが歌手デビューの曲ですね。アニメ『その着せ替え人形は恋をする』のEDテーマでもあって、MVは再生回数1300万とかいってるからちょっととんでもないんですけど、キラキラしたすごく真っ直ぐな曲を、歌のプロじゃない人が真っ直ぐに歌っていて、女優の歌手活動とか大好きなボクにはどストライクでした。これ以降、1年半ほど経つのにリリースもないから、もっと歌って欲しい!
9. カノサレ「ベランダにて」
彼女のサーブ&レシーブ改めカノサレは、なぜかいまインスタントシトロンの遺志を受け継ぐアイドルグループになりつつあって、長瀬五郎&松尾宗能をバックに従えてライブをやったり、カバーもやったりで、彼らが作るオリジナル曲もホントいいんですよ。渋谷系アイドルポップの正解!
10. おにぱんず!「おにパパン!パン!」
アニメ『おにぱん!』の企画で誕生した、TIF2022でボクがかなりの衝撃を受けたグループ。真夏の野外で見ていたから頭がクラクラして冷静な判断が出来なくなっていた可能性もあるんですけど、アミューズ所属だからなのか、さくら学院のユニットぽさも感じる上品な破壊力にやられました。その後、冬に聴いてもちゃんと頭がクラクラするから、たぶん本物!
11. XOXO EXTREME「ADELHEID」
プログレアイドルにNARASAKIさんが提供した『アルプスの少女ハイジ』モチーフの曲なんですけど、これがまたあまりにもCOALTAR OF THE DEEPERS! ザグザグと刻まれるギターをライブハウスで爆音で浴びると最高に気持ちいいんですよ。COALTAR OF THE DEEPERSのセルフカバー音源も良かったです。
12. 中島愛「1/2」
平野綾が「空色デイズ」(中川翔子)を歌ったり、仲村宗悟が「リライト」(アジカン)を歌ったり、基本はアニメの世界の人がアニソンをカバーする企画『CrosSing』で、まめぐは川本真琴の名曲をカバー。確かに『るろうに剣心』のOPテーマだったけど、予想通りの最高の組み合わせだし、これで8cmシングルとか作って欲しいぐらい。そして歌めちゃくちゃ上手い。
13. 麻倉もも「プリンセスじゃなくても」
2022年7月27日に発売された声優・麻倉もものアルバム『Apiacere』のアナログ盤(同年11月3日発売)にのみ収録されていた新曲が、すごい良かったんですよ。作詞・作曲・編曲/長谷泰宏(ユメトコスメ)で、レーベルもソニーだし松田聖子の大ファンだという麻倉さんに寄せたような曲というか、大瀧詠一&鈴木茂&松本隆が手掛けたアルバム『風立ちぬ』っぽさもあるというか。そんないい曲なのに、聴くまでのハードルが高すぎると思ってたから、今年3月に無事配信リリースされて良かったです。
14. 鳥 very bird「鳥 Trick」
くぴぽのまきちゃんがプロデュースする、元ゆるめるモ!のゆいざらすと元染脳ミームのおきんとんによるユニット。とにかく楽曲が良すぎるし、メンバー2人ともキャラクターが強くてちゃんと喋れるしで(おきんとんの騙されやすいエピソードが本当にやばい)、これはちゃんと届くべきところに届いたら面白くなるんじゃないかと思ってAbema TV『火曜The NIGHT』とかにも実は推薦していたりしたんですけど、ついさっき(6月30日22時)解散が発表されました……。ホントもったいない!
15. 和田輪「フェードイン」
元Maison book girl和田輪さんのソロ。諭吉佳作/menの素晴らしくも歌いにくそうな楽曲を圧倒的な歌唱力で見事に乗りこなしてて、さすがでした。
16. fishbowl「熱波」
2022年のアイドルアンセムといえば、おそらくこれかFRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ」になると思うんですけど、どちらもヤマモトショウ(元ふぇのたす)仕事なのがやばいです。打率高すぎ。そして、地元を大切にするローカルアイドルなので静岡限定盤にはデモ音源を収録する姿勢も、ふぇのたす時代から変わってないと思ってます。
17. でんぱ組.inc「プロタゴニスト」
もふくちゃんが主導権を握ることで一気に原点回帰というか、明らかに音楽的にはどうかしたことばかりやるようになった、でんぱ組。眉村ちあきが楽曲提供したこの曲もかなりやり過ぎというか、眉村ちあきが歌うデモ音源も聴いたんですけど、「これは眉村さんなら歌いこなせるだろうけど、他の人がやるのは困難だよ!」って思わず笑い出すレベルで。相沢梨紗さんも「眉村さんの声で仮歌がきて、『これがいいじゃん!』って感動した」とか言ってたんですけど、でんぱ組バージョンも不思議な感動が巻き起こる出来になってます。
18. ファーストサマーウイカ「Open the Door」
地上波の人になっても音楽を忘れることなく、ちゃんと面白いことをやり続けているはずなのにあまり話題にはなってない気がする彼女。自身の主演ドラマ『私のエレガンス』の主題歌として、セルフプロデュースで布袋寅泰に楽曲を頼むのも、それがThe Jam編曲のノーランズ「ダンシング・シスター」みたいな仕上がりになってるのも、すごくいいのに!
19. PANTA et Kei Okubo REKA FUJISAWA「涙のメロディー」
PANTAさんの楽曲をアーバンギャルドおおくぼけいがアレンジしたネオフレンチPOPを、療養中のPANTA応援ライブでオフィシャルショップ店員ネコとしてステージに立った藤沢玲花が歌う……という謎の説明だけでCDを買ってみたら、これまたいい感じの昭和アイドル歌謡。素人に歌わせるのとか無茶苦茶だなと思ってボーカルの藤沢玲花を検索してみたら、ベリーベリープロダクション出身の元ジュニアアイドル〜女優でCDリリースもしたことある既婚者でした。でもこれ、サブスクにもないし視聴もないし動画もイントロ部分しかないっぽい!
PANTAさんとおおくぼけいさんの新曲「届けたいの」「涙のメロディー」を歌わせていただきました。ぜひお聞きください!
「Promenade de Chat」 PANTA et KeiOkubo REIKA FUJISAWA→https://t.co/LGhjJgRgT8 pic.twitter.com/KkmgewxCdp — ネコPANTA頭腦警察オフィシャルショップ店員 (@PANTA49230956) January 2, 2023
20. ano「ちゅ、多様性。」
Is名義でのバンド活動は方向性がハッキリしていて好きだけど、ソロはまだ見えないな……と思ってたらついに出た、もはや説明不要のあのちゃんの代表曲。あのちゃんミーツ相対性理論な曲だけでも文句なしなのに、『チェンソーマン』7話のエンディングテーマだから歌詞がちゃんとエピソードを反映していたりもして、売れるべくして売れた曲だなと思いました。
21. 水前寺清子とギターウルフ「三百六十五歩のマーチ」
2022年7月20日、新宿LOFTで開催されたサニーデイ・サービスとギターウルフのツーマンライブ『サニー&ウルフ青春狂騒ナイト!』で何の前触れもなく実現した謎コラボ。ギターウルフのセイジさんはもともとチータが大好きで主催フェス『シマネジェットフェス』にも呼んでたりして、ボクも「豪君、チータには興味ないの? 最高だよ!」と言われたりしてたんですけど、上下レザーにサングラスでキメたチータは確かに最高でした。
22. NaNoMoRaL「エンドエンドロール」
2022年3月にオーディション・イベントでグランプリとなりメジャーデビュー権を獲得。この勢いで一気に突き進む……のかと思ったら、なぜか2022年のリリースは1曲だけで、あれから1年以上経ってもメジャーデビューの話は一切聞こえてこないんですよね。なぜか思い出す、「Negiccoが『ヌキ天』で優勝してメジャーデビュー決定になったはずが、他の特典も含めていろいろ有耶無耶にされた」事件。相変わらずいいライブは繰り返しているし、唯一のリリースもやっぱりいい曲なのに!
23. 透明教室与平行女孩「永远的神」
BELLRING少女ハートと大森靖子の中国人ヲタが母国に帰って2019年に作り上げたアイドルグループ、透明教室与平行女孩(透明教室とパラレルガール)。ベルハーやおやすみホログラム、dots tokyoなんかのカバーで日本の地下アイドル文化を輸出してたみたいなんですが、これは大森さん作のオリジナル曲。大森さんの武器である突き刺しにくるような歌詞が中国語になることで、いい意味でふんわりとポップになってる気がします。
24. METAMUSE「tiffany tiffany」
大森さんの人生は過酷すぎるなと思ったのが、ZOCに期間限定で加入する予定だった超有名アイドルを母に持つ友人が亡くなったこと。そして、それを踏まえて「生まれ変わったらアイドルになりたかったな」「ママと同じ名前の友達ができたの」という歌詞の曲を歌っていく覚悟を決めたのも、いちいち過酷で。亡くなった彼女がZOCの「famiry name」が大好きだったというのも母親に対する複雑な感情が感じられて、だからこそそういう曲を歌う彼女の姿が見たかったなあ……という。
25. 加護亜依「pray」
加護亜依公式YouTube『加護ちゃんねる』のカバー企画、選曲がすごい無茶苦茶なんですよ。正直全くピンとこないカラオケのベタな定番みたいなものから、加護ちゃんの歴史を踏まえるとグッとくるハロプロナンバー(タンポポ「恋をしちゃいました」とか三人祭「チュッ!夏パ〜ティ」とか)に、加護ちゃんが歌うと違う意味が出てきそうな「MajiでKoiする5秒前」(広末涼子)とか「ドライフラワー」(優里)なんてのもあったりして。それでいて、フジファブリック「若者のすべて」とかBiSH「オーケストラ」とかBONNIE PINK「A Perfect Sky」とか、意外な選曲も散りばめられてたりして。そんな中、個人的にやられたのは津野米咲追悼で歌われた赤い公園「pray」のカバーでした。
あと、ベストアルバムは大体こんな感じです!
実は他にも好きな曲とか好きなアルバムとか大量に選んでたんですけど、それをやると「まだ●●が抜けてる」とか気になって原稿が終わらなくなるから、もう諦めて全部カットしました!
RYUTist『(エン)』
ilie『uragaeshi』
電影と少年CQ『CQ』
ルカタマ『MISRULE』
ドレスコーズ『戀愛大全』
藤井隆『Music Restaurant Royal Host』
きのホ。『ブリリアント帰り道』
RAY『Green』
眉村ちあき『ima』
SAKA-SAMA『万祝』
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