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ルシンダ・ウィリアムスが語る、ロックンロールの新境地とスプリングスティーンとの邂逅

Rolling Stone Japan / 2023年7月6日 17時30分

ルシンダ・ウィリアムス(Photo by DANNY CLINCH)

トム・ペティのような曲に憧れていたというルシンダ・ウィリアムス(Lucinda Williams)は、気骨あるニューアルバムで『Stories from a Rock N Roll Heart』でその夢を叶えた。ただし、曲作りは「今までの中で最も苦労した」という。米ローリングストーン誌の最新インタビューを完全翻訳。


「水の中で暮らしたい」と思えるほど蒸し暑い9月のナッシュビル。苦しみから開放されてリラックスしたルシンダ・ウィリアムスが、レイ・ケネディのルーム・アンド・ボード・スタジオに備え付けのキッチンテーブルで、トミー・スティンソンとジェシー・マリンといったツアーの猛者たちに、ツアー中のエピソードを語っている。めったに聞けない裏話の多くは、内容の濃いルシンダの回顧録『Dont Tell Anybody the Secrets I Told You』でも楽しめる。しかし、彼女の南部特有のゆったりとした口調で話されると、より魅力的なストーリーに聞こえる。

やがて、彼女のマネージャーも務める夫のトミー・オーバビーが姿を現し、コントロールルームで新曲「Jukebox」のボーカルをチェックするよう伝えた。彼らは、ロック色を明確に打ち出したニューアルバム『Stories from a Rock N Roll Heart』の仕上げに取り掛かっていた。「気に入ったわ」と彼女は満足げに微笑み、コンバースを履いた足でリズムを取った。

数カ月が経った2023年の春先、彼女はナッシュビルにある自宅のキッチンテーブルにいた。ニューアルバムに参加してくれたエンジェル・オルセン、マーゴ・プライス、ジェレミー・アイヴィ、バディ・ミラー、ザ・リプレイスメンツのトミー・スティンソンらに囲まれて、この日も嬉しそうにコーヒーを口に運んだ。それだけではない。「Rock N Roll Heart」と「New York Comeback」の2曲でコーラスに加わった、ブルース・スプリングスティーンと妻のパティ・スキャルファの顔もある。「New York Comeback」は、2023年1月に70歳になったルシンダが経験した忍耐と勝利の歌だ。2020年に彼女は脳卒中で病院に運ばれた。忍耐と勝利は、彼女が順調に回復する中で得た大切なメッセージだ。



曲作りの過程でいくつかのコードを弾いてみることはあっても、ルシンダがステージでギターを弾くことはない。でも彼女には歌がある。2023年2月に行われたアウトロー・カントリー・クルーズに乗船した彼女は、バンドをバックに従えて、静かな曲から迫力ある曲まで歌い上げた。ステージ上の彼女は、ルックスもサウンドもまるでロックシンガーのようだった。(彼女のロックの殿堂入りが検討されても決しておかしくはない。)

「センスがひとつ欠けていても、残りのセンスが磨かれる」とルシンダは言う。「だから私の場合は、ボーカルに専念できたのだと思う。誰にもあることよ」。

ルシンダはこれまでに、『Little Honey』や『Down Where the Spirit Meet the Bone』など数々のブルーズ・アルバムを出してきた。ところが今回の『Stories from a Rock N Roll Heart』は、ハウリン・ウルフというよりはパティ・スミスに近い作品だ。これまでにルシンダが暮らした、ルイジアナ、アーカンサス、テキサス、そして現在のテネシーといった彼女の愛する南部の枠を超え、かつて彼女が「ホーム」と呼んだニューヨークシティの気骨とエネルギーに溢れている。

「トム・ペティ風のロックンロールが書きたかった」とルシンダは証言する。2017年に彼女は、トム・ペティの生前最後のコンサートでオープニングアクトを務めた。「彼のような作品を書くのが夢だった。でも私にはとても難しかった。ギターを手に取ると、バラードが浮かんでくる。私のフォーク時代の影響だと思う」。

ニューヨークのバーでプレイするバンドのようなサウンドを得るために、ルシンダは、ロウアー・イースト・サイドの顔と言えるジェシー・マリンや、長年のツアーメンバーであるギタリストのトラヴィス・スティーヴンズにサポートを依頼した。また、1998年のヒット・アルバム『Car Wheels on a Gravel Road』でプロデューサーを務めたレイ・ケネディと再び組み、コンパクトかつ新鮮な、お祭り気分のロックソングを書き上げた。

スプリングスティーンとの邂逅

「前のアルバムは時代を反映して、重苦しくダークな作品が多かった」と、2020年のアルバム『Good Souls Better Angels』について彼女は語っている。同アルバムには、ドナルド・トランプや悪魔をテーマにした楽曲が収められていた。しかし今回の彼女は、もっと自由なスタンスでの曲作りを目指した。アルバムのオープニングを飾る「Lets Get the Band Back Together」は、酔っ払ったザ・フェイセズのメンバーが楽しそうにコーラスしている感じだ。「トム(・オーバビー)のアイディアで、バーでみんなが楽しく一緒に歌うイメージを出したかった」という。「だから、ちゃんとした歌い方は必要なかった」。

対照的に、スプリングスティーンとスキャルファが参加した作品には細部まで気を遣い、美しく仕上げた。オーバビー曰く、Eストリート・バンドのスーパーカップルに楽曲を送ったところ、16パターンのボーカルトラックが返ってきたという。「Rock N Roll Heart」で2人はコーラスに徹しているが、「New York Comeback」におけるスプリングスティーンのボーカルは、ルシンダの声に絡み合い、絶妙なデュエットソングに仕上がっている。

「彼の歌声が聴こえる瞬間は、何度聴き返しても興奮する」とルシンダは言う。「それからパティ(・スキャルファ)からは、 ”こんなに素晴らしい楽曲は今後誰も書けないでしょう。あなたのアルバムに参加できてハッピーでした”というお褒めのメールをもらった。彼女は本当にクリエイティブな人よ」。



ルシンダがスプリングスティーンと初めて出会ったのは、2005年に遡る。スプリングスティーンはアルバム『Devils & Dust』のソロツアーの最中で、場所はロサンゼルスのパンテージズ・シアターのバックステージだった。彼女は、アルバム『Devils & Dust』の作品の中でも特に、娼婦をテーマにした生々しい歌詞の「Reno」がお気に入りだった。「ブルースに、あなたはものすごく勇敢なソングライターだと伝えると、彼からは”君だってそうじゃないか”と返ってきた。私はもう嬉し過ぎて絶句した」とルシンダは振り返る。

コンサート後にルシンダは、スプリングスティーン、T・ボーン・バーネット、U2のギタリストのジ・エッジ、(ジェシー・)マリンらと食事に出かけた。彼らはさらに別のテーブルを囲み、さまざまな「ストーリー」に花を咲かせた。ルシンダとオーバビーは、彼らとの楽しかった食事の思い出を決して忘れないだろう。しかしルシンダは、「ストーリー」という言葉をアルバムのタイトルに使うのを躊躇したという。

「アルバム全体がストーリー仕立てになっていると思われる気がしたから」と彼女は言う。「でも実際は、『Car Wheels on a Gravel Road』とは違うのよ。」

アルバム『Stories from a Rock N Roll Heart』は、ストーリーである必要はない。ルシンダ自身が言うように、ロックを楽しめばよいのだ。「私たちは皆パンデミックを経験し、乗り切った。また以前のように集まって、一晩中騒ぎましょう!」

From Rolling Stone US.



ルシンダ・ウィリアムス
『Stories from a Rock N Roll Heart』
発売中
再生・購入:https://orcd.co/rocknrollheart

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