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ノエル・ギャラガーが語る『Council Skies』誕生秘話、ツアーの展望、春にこだわる理由

Rolling Stone Japan / 2023年7月6日 17時50分

Photo by Matt Crockett

今年12月に東名阪ジャパン・ツアーを開催するノエル・ギャラガー(Noel Gallagher)。ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズとして通算4作目となる最新アルバム『Council Skies』の誕生秘話からツアーの展望、ソングライティング論や人生哲学まで大いに語った、ローリングストーン誌ドイツ版のカバーストーリーを完全翻訳でお届けする。

困難な時期を乗り越え、ノエル・ギャラガーが最高のソロアルバムを携えて帰ってきた。彼はさらに、とっておきの切り札まで隠し持っている。占星術と春の高揚感、沈んだ世界と新たな希望についての会話。あとは、あのうるさい弟さえいなければ......。

 *

ノエル・ギャラガーは、非常に揺るぎない存在として愛されている。どの写真も同じように見えるし、ロンドンにどれほど長く住んでもマンチェスター訛りのままで、1991年にオアシスを結成した頃の服が今でもよく似合う。彼自身がよく指摘するように、髪の毛もすべて健在だ。それなのに今、一貫性を極めてきたあのノエル・ギャラガーがいくつかの波乱に耐えている。

そのためだろうか、彼のマネージャーもこのインタビューに同席しているーー筆者がインタビューをきっかけにノエルと定期的に会うようになり、21年目にして初めてのことだ。「待ってたよ。どこにいるのかと思ったよ」とノエルが挨拶する。彼は、この刻々と変化する世の中で不変のものを心強く感じているようだ。彼は最新アルバムを紹介するために、ベルリンまで足を運んでくれた。コロナ禍で定番となったビデオ会議の連続に、心底うんざりしてきているのだ。何にせよ、ノエルは最近ピリついている。今年に入って、23年間連れ添った妻のサラ・マクドナルドと別れることを発表したが、それに関する質問は当然ながらNG。あとは、ノエルが弟・リアムの発言をどう思っているのか知りたかったのだが……リアムが先日、オアシスの再結成がまだうまくいっていないのはサラのせいだと示唆していたようなのだ。彼女はまるでスコットランドのオノ・ヨーコではないか! だが、オアシス再結成についての質問も控えるよう予め釘を刺された。


ノエルが表紙を飾ったローリングストーン誌ドイツ版(Photo by Matt Crockett)

デビュー・アルバム『Definitely Maybe』は来年で30周年を迎え、アニバーサリー・エディションが発売予定。ただそれだけのことである。オアシスとして18年間活動したノエルが2009年8月、「もうこのバンドとは永遠に縁を切る」と宣言したのは、やはり冗談ではなかったのだろう。あれ以来、彼は3枚のソロ・アルバムを制作してきた。『Noel Gallagher's High Flying Birds』(2011年)、『Chasing Yesterday』(2015年)、『Who Built the Moon?』(2017年)。そして今回、新たなアルバム『Council Skies』がめでたくリリースされたーーというのも、彼がこれほど魅力的なポップ・アンセムを書くのは久しぶりで、素晴らしく精密にアレンジされているのだ。何事もないかのように彼が元気そうなのは、傑作を作り出せたと自覚しているからだろう。「どの曲をとっても、シンプルににハイ・フライング・バーズの最強アルバムだ」。

今回のアルバム収録曲のうち3曲には、古くからの親友である元ザ・スミスのギタリスト、ジョニー・マーが参加している。ノエルは彼を必要とするとき、電話越しに曲を提案しようとするが、マーは事前に聴きたがらない。マーは、ただスタジオに入り、お茶を飲みながら、いろいろなことを試してみるのだ。このやり方でいつもうまくいく、とノエルは言う。「マーは俺の作品を気に入ってくれて、これまで一度もノーと言ったことがない。とても光栄なことだ」とノエルが語る。彼はマーを友人と呼ぶが、軽々しくそう呼ぶことはない。音楽業界では、マー以外でノエルの「友人」に値するのは、唯一ポール・ウェラーだけである。この二人は、ノエルが『Council Skies』を最初に聴かせた相手でもある。

「二人とも率直な意見を言ってくれる。特にウェラー。それが的を得ているときもあれば、そうでもないときもある。ミュージシャンは大抵、自分自身が聴きたいものを伝えるが、本当に親しい間柄になると、より複雑になる。俺なら、普段から作品の良いと思うところを中心に感想を伝える。否定的なことはまず言わない。だけど、ポール・ウェラーのやり方はまったく違う。そういえば彼も新しいアルバムを制作しているよね、たしか420枚目だっけ。ウェラーはすぐに「そんなのクソだ、やめとけ!」と言ってくる。ジョニーはもう少し控えめなんだ」。気がつけば、もう『Council Skies』誕生秘話の真っ只中にいる。

「人生はルーレットのようなもの」

―『Who Built the Moon?』のリリースから6年が経ち、その間にはコンピレーション『Back the Way We Came: Vol. 1 (2011–2021)』しか出していませんでしたね。この4枚目のアルバムは、新たな始まりのように感じますか。

ノエル:たしかに、新しいスタートのようなものだ。ベスト盤でバンドとしての第一段階に区切りをつけたからね。それに、このアルバムでは初めて全曲が新曲なんだ。前はあちこちから何かしら引っ張り出してたけど、今回の曲は全部、コロナ禍による9カ月のロックダウン中で書いたものでね。しかも、次のアルバムとその次のアルバムの分まで! 30曲くらいかな、マジで山ほど。

普段なら自分のアルバムが完成すると、少なくとも一気には聴き通せないものだ。いつも1曲か2曲飛ばしたくなるんだけど、今回は違うんだ。ボーナストラックでさえもイケてる!



―ロンドンの北部に自分のスタジオを持ったことは、どれほど影響していますか?

ノエル:スタジオは最高だ。音が本当に優れている! 作り始めたのは2018年で、今とはまったく違う時期だっただろ。コロナが流行り出したときには、スタジオの準備はほとんどできていて、2021年1月にようやく完成。初めてスイッチを入れ、うまくいくかどうかを待つーーあれは興奮しまくる瞬間だったね。。だけど、一番最初に自分の曲を演奏したくなかった。ガチガチに緊張してたんだよ。だから、ボーナストラックにも入ってるジョン・レノンの「Mind Games」を演奏した。そしたら、すげぇ、やべぇ、ものすごくいい音がした! ファック、やっぱりうまくいきそうだ! こんなお金の使い方に越したことはない!と思った。

―スタジオを「Lone Star」(孤独の星)と呼んでいるみたいですが……。

ノエル:そう、俺の性格によく合っているんだ。「Lone Star Studio」でググったら意外と何も出てこなかったから、飛びついたんだ。

―その一方で、ストリングスはアビー・ロードの方で録音されましたよね?

ノエル:ああ、単純に「俺ならできる」からね! このチャンスを活かさないのは愚かなことだと思った。数日間、アビー・ロードで過ごすことができるのは光栄なこと。もちろん、ストリングスを俺のスタジオで録る手もあったが、アビー・ロードのほうがもっと楽しいし、音質もたまらない。



―その豪華さにもかかわらず、非常に要領を得たアルバムに仕上がっているように思います。

ノエル:ちょうど42分だったと思う。10曲入りにはバッチリだ。こんなに上手くいったのは初めてだ! 俺はまだまだ絶好調にやってる。それってマジでファッキン半端ねえよ! 歳をとった今、そう実感できるのはとてもいい気分だ。正直なところ、ほとんどのソングライターが55歳で傑作を生み出すわけではないことを知っている。だからすごく嬉しいし、この状態が続くことを願っている。

―『Council Skies』というタイトルは、ざっくり言うと「公営住宅の上に広がる空」という意味ですよね。それは、ノエルさんにとって何を意味しますか?

ノエル:タイトルは友人(ピート・マッキー)の本からとったんだけど、そこには公営住宅や労働者階級などのイラストが描かれているんだ。後に「Council Skies」になる曲を作っていた時に、極めて重要な部分の歌詞がどうしても浮かばなくて、何もかもがうまくいかなかった。それである日、家でくつろいでいた時、コーヒーテーブルの上にあの本を見つけたんだ。俺は、ちょうどバイパス手術で入院していたその本の作者である友人に電話した。彼にとっての"council skies"とは、絵に使っている「空の青色」だと話してくれて、俺はその発想が気に入った。アルバムカバーの写真は、マンチェスターにある住宅街だけど、そこにかつてメイン・ロード・スタジアムがあって、オアシスもライブしたことがある。それでいきなり、全てがうまく収まった。「コンセプト」とまでは呼べないが、つじつまが合った素晴らしいナラティブだと思う。



―ノスタルジーに浸ることなく、自分のルーツを祝福することはできますか。

ノエル:ノスタルジーって俺は好きじゃない。もちろん、過去を美化するのは簡単だ。だけど、俺は今を生きることが好きなんだ。といっても、最新アルバムの曲はコロナ禍の最中に作ったものだから、かなり内省的だけど。あのときは特にやることもなく、自分と向き合い、思案にふけるくらいしかできなかったからね。おかげで、自分は今までこのような状況を経験したことがないのだと痛感した。当時はコロナ禍の展開も予測不可能で、未来がどうなるか誰も分からなくて、とにかく不安だった。しかも、四六時中ずーっと自分の家でぼーっとするだけだから、現在についての曲も書けなかった。だから、アーティストとしてできたことは、自己の内面を見つめ、どうして今ここにいるかを考えることだけだったし、曲にもそれが反映されているんだ。

―そのタイトル曲では、人生は予測不可能だと歌っていますが、まったくネガティブに聞こえません。以前、ノエルさんはよく「変化が嫌いだ」と強調していましたが、もしかして……その考えは変わったのでしょうか?

ノエル:(笑)人生は予測不可能であるからこそ素晴らしいだろ! もちろんだ! 詰まるところ、次のセリフは 「You could win or lose it all.」(勝つこともあれば、すべてを失うこともある)だろ。人生はルーレットのようなものだと思う、まあそれほど残酷なものではないかもしれないが。でも、人生の何年かを左右するような決断をしてしまうことはあり得る話で、その決断で最強か大惨事な数年間になるんだ。作曲中に、人生がいかに予測不可能であるかを考えていたとき、2人の友人のことも思い出した。一人はゴリラズのメンバーのジェイ・シャロック、もう一人はビーディ・アイにもいたジェフ・ウートン。時々飲みにいく仲間なんだけど、もし5年前、行きつけのバーで2人と飲んでいるときに「もうすぐパンデミックが起こるよ、女王が死ぬし、すべてが変わる、全世界がすぐにひっくり返る」と言われたとしたら、俺たちは絶対に「Fuck off!」と答えただろう。その一方で、10年後に俺たちがどうなっているか、誰も予見することはできない。これが現代だ。昔は違っていたと思う。人類の行く末は常に予測不可能だけど、すべてを勝ち取ることと、すべてを失うことは、いつも紙一重だった。俺はそれが好きなんだ。

―ですが、自分自身の決断ではどうにもならないことが多く、パンデミックの時も、相対的に見て誰もが無力でした。

ノエル:それはそうなんだけど、じゃあ自分ならそれにどう対処するかってことだろ。パンデミックが起こったとき、多くの人が非常に悪い反応を示した。俺の周りにも、発狂して今日まで立ち直れていない人がいた。そして、くだらない陰謀論の登場。マジで神経を逆撫でされたよ。コロナ禍の日々なんて存在しなければよかったと思うほど、大嫌いだった。もし、時間を戻すために全曲を手放さなきゃならないのなら、絶対手放す! だって、個人的にはコロナ前の方が生活が充実していたからね。

でもまあ、自分の家にある小さな書斎でたくさん作詞に没頭することで乗り切った。俺の「小さなオフィス」でね。そこで、消えてしまったものすべてを探し求めた。そうやって、「Trying To Find A World That's Been And Gone」という曲が生まれた。「We're Gonna Get There In The End」も、そしてこのアルバムに収録されている他の曲も全てそうだ。



―「Dead To The World」はみんなのお気に入りのようですね。ノエルさんは?

ノエル:うん、確かにキラーチューンだね。今の時代、何がヒットするかまったくわからないけど、可能性がある曲は相変わらず本能的に感じることができる。ギターコード2つで「これはいける」っていうのがわかるんだ。”君に歌を書いてあげる、そう長くはかからないよ”(I'm gonna write you a song/ It won't take me long)という歌詞の誕生は、数年前のアルゼンチンでのある日に遡る。俺が泊まっていたホテルの前で若者たちがいろんな曲を演奏していたんだけど、歌詞を全部間違えて歌っていたんだ。ちょっと待てよ、何か相応しいもんを書いてやろう!と思った。その時のことを振り返ったら、突然、スムーズに出来上がった。そういう瞬間が好きなんだ。新曲が偶然な流れで出来上がっちゃうってこと。「Dead In The Water」もそうだったし、「The Dying Of The Light」も、「If I Had A Gun」もそう。それより前の「Live Forever」や「The Masterplan」もそうだ。ああいうビッグチューンは、本当に簡単にできた。そういうのって直感的にわかるコツがあるんだ。なぜって、もう何度も見てきたからね。もちろん、どれほど素晴らしいアイデアだとしても、ちゃんと取り組まなければならないけど、平凡なアイデアほど長くはかからない。平凡っていうより、「普通に上等なアイデア」としようか(笑)。

占星術と春の高揚感

―「Pretty Boy」という曲のドラムはiPadで録音されたそうですが、そういったモダン・テクノロジーを嫌っているのではありませんでしたか?

ノエル:いや、まあ、iPadにはFunkBoxという最高のものがあって(アプリのことを指している)、それはあらゆる種類のドラムマシンを模したものでね。誰かが教えてくれたから買ってみたんだ。アルバムではもちろん本物のドラムを入れてるんだけど、曲の冒頭ではまだiPadの音が聞こえるんだ。こういったテクノロジーは、マジでファッキン斬新なんだ。でも、そういうテクノロジーを何のために使ってるかちゃんと理解した上で使わないとね。俺は何のためらいもなく使っちゃう。だから俺にとって、iPadはアイデアを持ち運ぶのに適しているだけで、それで十分なんだ。



―この曲には”星座を変えたいんだ/俺に似合わないから”という歌詞もあります。確か、ノエルさんは1967年5月29日生まれで、双子座ですよね。12星座占いを本気で信じますか?

ノエル:占星術はあまり信じていないけど、双子座の想定される特徴は知っている。ある人との会話から知ったんだ、なんかジェンダーにまつわる話だったな。俺は、その話題に関して全く意見がなくて、ただ傍観していた。俺が「なぜ星座を変えることができないのか?」と言ったら、相手は「そんなの無理だ」と否定した。そこで俺は、「いや、性別が変えられるなら、星座も変えられるだろ? ほら、たった今、俺は射手座になったぜ! これで6カ月若返るだろ? なぜダメなんだ?」と返した。

―でも、ノエルさんは文字通りの典型的な双子座なんじゃないんですか?

ノエル:否定できないな。占星術にのめり込んでいるヤツをたくさん知っているし、占いの一部がどれほどドンピシャな真実であるかを知る瞬間は、ほんと恐ろしいくらいだ。だけど、俺は占いで自分の人生を決めるようなことはしない。ましてや、新聞に載ってる星座占いなど、もってのほかだ。「今日は変化に満ちた一日になるでしょう」とか、マジでつまらん! ただ、春先に生まれたことは自分の性格形成に間違いなく影響していると思う。この話はもう何度もしたよな?

―いいえ、初めてですね。

ノエル:じゃあ、面白いことを教えてあげよう。目がくらむから覚悟しろよ。俺は、ほとんどすべての曲を春に作ってきたんだ。夏や冬に作った曲もいくつかあるが、よく知られた曲の9割は、時間変更後に制作してきたからね(編注:イギリスのサマータイムは3月最終日曜日から始まる)。時計の針が進んだ途端、何かが起きて止まらなくなる。クレイジーだろ。そして2020年はなんと、サマータイムへの移行とコロナ禍の始まりがほぼ一致したんだ……その直後から9カ月間で、全部の曲を作り上げた。すべて。今後10年間でリリースする曲をぜーんぶだぜ。

俺の曲がとても楽観的なのは春とも関係があると思う。春は静かで楽観的だから。日本でインタビューされると、いつも哲学的なことを聞かれるんだ。「ノエルさんを季節に例えるなら、いつですか?」とかね。迷わず春だ。なぜなら、改革の季節だし、花が咲き、暖かくなり、何でもかんでも少しずつ楽しくなってくるからだ。人間もそうだ。


Photo by Matt Crockett

―意図的に楽観的な曲に仕上げているのですか、それとも偶然ですか?

ノエル:意図的ではない。もちろん、今は楽観的だと自覚してるけど、それでも毎年そうなってしまう。今回は特に簡単だった。もしある曲から制作を始めて、それがあまりにもオアシスに似ていると感じたら、大抵すぐにやめちゃうんだ。例えば、「Supersonic」に似てたら、おそらくそれは「Supersonic」ほど良い曲には仕上がらないから、意味がない。でも、例えば「Easy Now」なんかは「Little By Little」よりもいい曲だと思ったし、軽々しくは言えないけど。

スペシャル・エディションは大嫌い

―「There She Blows!」には「リバティ船」「司令官」「愛の七つの海」という驚くべき海洋性のメタファーがあり、同時に「天国の門」もありますね。この曲はどのようにして生まれたのですか?

ノエル:あのマザーファッカーね! ロサンゼルスで作ったんだけど、向こうは大麻が合法なんだよ。当時、別のプロジェクトに取り組んでいたんだけど、店に行って大麻を買ってさ。曲の内容は全く分からんが、船に乗っている男の話だろ? ビージーズやビートルズっぽい60年代の雰囲気もいいし、ギターソロもそうだ。それで十分だろ?



―たしかに、オアシスにもナンセンスな歌詞はよくありましたね。

ノエル:ファンのみんなに説明するのは難しいんだけど、「fuck-all」(どうでもいい)な曲が好きなんだ。「Holy Mountain」もそう。いい音さえ鳴っていれば、歌詞はどうでもいい。他人の曲の歌詞も聴かない。俺にとって重要なのは、フィーリング、メロディ、コードなんだ。ただ、大好きな曲の中には、歌詞の本当の意味を理解するまで何千回と聴いたものもある。たまにショックを受けるんだよ! 数年前、ポール・ウェラーの 「Town Called Malice」(ザ・ジャム「悪意という名の街」)という曲の歌詞が全く理解できなかったから、ググったんだ。それまでは意味がわからなくても、曲に合わせて歌ってたけどね。調べてみて「マジか」と思った。”日曜日のローストビーフを信じて疑わなかったのに/生協の前に打ち砕かれる/ビールか子供服のどちらかをカットしなきゃならない/悪意と呼ばれる街での大きな決断”……正気とは思えない歌詞だ!

―しかし、音楽を聴くと本能的に歌詞に耳を傾けるのではないでしょうか?

ノエル:君はライターだからそうかもしれない。でも、俺は何よりもまず作曲家なんだ。

―(コロナ禍に)それだけ多くの曲を作ったということは、もうしばらくは何も制作しないということですか?

ノエル:そうだね。少なくとも、作ってきた曲を全部レコーディングし終わるまではね。昔の経験から得た一つの教訓なんだけど、今は『Definitely Maybe』の時と同じような状況になってるんだ。当時は、オアシスの最初の3枚のアルバムにも足りる数の曲を、多かれ少なかれ、すでに作り上げてあった。だけど、バカみたいにデビューアルバムに入り切らなかった曲をB面曲として大量放出した。今はアルバム3枚分の素材があるから、それが全部出揃うまでは何も新しく作るつもりはない。まだこんなに素晴らしい曲たちが残っているのに、多すぎるからという理由で途中で挫折したくないからね。

―では次のアルバムリリースまで、また6年はかからないのでしょうか?

ノエル:絶対かからない。もう取り掛かってるし、すでに4曲も完成している。パンデミック以来、そんなに先の計画は立てられないけど、今はまずツアーをやる。その次にアルバムをあと2枚出す予定。だけど、その間に世界でどんなことが起こるかなんて予測できないだろ。だから早くやったほうがいいんだ!


Photo by Matt Crockett

―今回のリリースでは、ボーナストラックやインスト曲、ライブバージョンやリミックスなどを収録したスペシャル・エディションもありますね。実際にいくつかのフォーマットが……。

ノエル:そういうのマジで大嫌い! アルバム1枚だけじゃダメなのか? これこそがアルバムってやつだけをよ! 今じゃアルバムと称して、デラックス・バージョン、スーパー・デラックス・バージョン、ボックスセット、カセットテープがあるだけじゃなく、こっちには歌詞集、あっちにはポスター、ステッカーなど付録にまで違いをつけてきやがる……ファッキンくそったれ! 俺たちがガキの頃にはたったレコード一枚だけだった。それを買って、聴くだけだった。

―だったらアルバムをたった一枚出せばいいじゃないですか?

ノエル:(自分のマネージャーを指差して)アイツのせいだよ! まあ、確かに今回のボーナストラックはなかなか立派だけどさ。ロバート・スミスとペット・ショップ・ボーイズのリミックスは超楽しかった。ニールとクリスは昔からの知り合いで、この前のグラストンベリー・フェスティバル(2022年、ノエルも土曜に出演)では、みんなは日曜の夜にケンドリック・ラマーを観に行ったんだけど、俺は逆にあえてペット・ショップ・ボーイズを観に行った。ケンドリック・ラマーには全く興味がない。だからあいつらにお願いしたら、快諾してくれたんだ。最初のバージョンは本当にペット・ショップ・ボーイズらしかったけど個人的にはちょっとやりすぎだった……次のバージョンは、ペット・ショップ・ボーイズらしさを少し抑えたもので、最終的に4番目のバージョンを選んだんだ。より暗くて、よりエレクトロニックだったから。本人達はもちろん最初のバージョンが一番好きだったんだけどね!




―ペット・ショップ・ボーイズがスペシャル・エディションのためにリミックスした「Think Of A Number」は、ここまで楽観的なレコードの最後を締めくくるには中々悲しい終わり方ですよね?

ノエル:さすが! 面白いことを言うね! 俺も、最初はこの曲が全然好きじゃなかったんだ。何かが物足りなかったんだけど、それを乗り越えて、今は大好きになった。今ならこの曲をアルバムの頭にするぐらい好きで、1曲目の「I'm Not Giving Up Tonight」を最後に置くかな。でも当時は、6年ぶりのアルバムにこんな悲観的な曲から入っちゃいけないなと思った。”未来に乾杯しよう/また巡ってくるといいね!”ってね。

ツアーの展望と将来の計画

ノエル・ギャラガーは、もうすでに将来のことを色々計画しているようだ。夏にはガービッジとの米国ツアーが控えている。少し変わった音楽スタイルにも抵抗はなく、以前にはスマッシング・パンプキンズやライアン・アダムスともツアーを開催している。彼はこうすることで、「より多くの観客が来てくれて、費用も分担でき、より多くのコンサートを開催することができる」と現実的に捉えているのだ。自分ひとりでは、米国ツアーは3週間あまりしかできないかもしれないが、力を合わせたら7週間にもなる。ドイツでは、本人は何十回と演奏したいようだが、今のところ予定されているライブはたった一回(11月6日、デュッセルドルフ)のみ。「ブレグジット(英国のEU離脱)とか、そういうファッキン・ブルシットなことが原因だ。何もかもが高価すぎて面倒臭い」とノエルは言う。「アルバムがウン万枚と売れれば、追加でライブできるかもな!」とのことだ。ツアーのリハーサルは5月から始まる。ノエルは、ツアーでは新曲を4曲演奏したいというが、どの曲を演奏するかはまだ決めていない。オアシスの曲をおろそかにしたくないから、これ以上新曲はできないんだと頑なに主張する。

レパートリーが多すぎるというのは贅沢な問題だ。それはノエルもよく自覚している。「『Wonderwall』には、たまにうんざりする。オアシスが終わった後、長い間演奏してこなかったんだけど、また(セットリストに)入れたんだ。今回はオアシスの曲の中からまだライブでやったことのない曲や、いつもと違うハイ・フライング・バーズの曲をやりたい」とノエルは語る。『Council Skies』はバンドが初めてスタジオに参加した作品であり、その意味では純粋なソロ・アルバムではなく、ハイ・フライング・バーズというバンドとして初の本格的な作品となる。『Who Built the Moon?』を作ったときでさえ、プロデューサーのデヴィッド・ホルムズはバンド体制を望んでいなかったと、少なくともノエルはそう語っている。あるいは、Lone Star Studioでの制作が、彼には少し孤独すぎただけなのかもしれない。



そこでもうインタビューが時間切れになった。オアシスの再結成について聞くチャンスがないなんて、この10年か12年間で初めてのことだと筆者が言うと「よかった! どうせ答えはいつもと変わらないからさ」と微笑みながらノエルに返された。筆者の頭の中には、リアム・ギャラガーがここ数週間、深夜によく投稿するツイートが浮かんでくる。たとえば1月18日には、「ちょうど兄貴と電話で話して、許してくれと言われた。会いたいと言っていた」というくだらないツイートがあった。そして3月24日には、「なんであんなに意地悪で器がちっちゃい野郎が、こんなに美しい曲を作れるんだろう……knowing ME……knowing YOU……as you were」と、少なくともノエルの資質を認めているような投稿をしたその直後、リアムは自分の方が歌が上手いと思っていると投稿し(「アイツの声だけが残念だ。ネズミみたいだ」)、ノエルのことを何度もジャガイモ呼ばわりした。再結成を望んでいるのであれば、決して賢い戦略とは言えない。

とにかく、ノエルは再結成を望んでいないことは確かだ。弟による一連のSNS上の騒動については、「迷惑なことに、周りから情報が寄せられるから知ってるよ。俺はInstagramもTwitterもやっていないから、自分では知る由もないんだけど。新聞を読むときも、すぐにサッカーのページに目を通すし。でも、周りにはもちろん、いつもあれこれ教えてくれたり、リンクを送ってくれたりする人がいる。無駄だよ。俺はSNSには絶対関わらないから。絶対」。では、自分の娘さんのインスタは気にならないのか? ノエルは、「まさか、ありえない!」と激しく首を振る。「まったく興味がない。子供の行動を全部知りたがる親もいるかもしれないけど、俺は違う。必要ない。子供たちを1000パーセント信頼している。やりたい放題させる。ただ、ファッキンなトラブルに巻き込まれなければな!」

この名言で別れを告げられた。ノエルには他にやるべきことがたくさんある。



ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ
『Council Skies』
発売中
再生・購入リンク:https://lnk.to/NGHFBCouncilSkies

NOEL GALLAGHERS HIGH FLYING BIRDS
2023 JAPAN TOUR
2023年12月1日(金)東京ガーデンシアター
2023年12月 2日(土) 東京ガーデンシアター *SOLD OUT*
2023年12月4日(月)大阪フェスティバルホール *SOLD OUT*
2023年12月6日(水)愛知県芸術劇場大ホール
来日公演特設サイト:https://smash-jpn.com/noelgallagher2023

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