マイケル・ボルトンが語る、14年ぶりのアルバム、知られざるキャリアの逸話
Rolling Stone Japan / 2023年7月14日 18時15分
世界を魅了するエモーショナル・ヴォイスは健在。マイケル・ボルトンがニューアルバム『Spark of Light』を発表した。
【動画を見る】マイケル・ボルトン「Beautiful World (Feat Justin Jesso)」ミュージックビデオ
「男が女を愛するとき」「ドック・オブ・ザ・ベイ」などのソウル・スタンダードと「ウィズアウト・ユー」に代表されるオリジナル曲を両輪に、マイケルはポップ・シーン第一線を突き進んできた。全世界で6,500万枚のアルバム・セールスを達成した彼は近年、デュエット、ソウルの名門”モータウン”へのトリビュート、映像作品のために録った音源集など”企画物”が多かったが、新作は14年ぶりのオリジナル・アルバムとなる。当代随一のヒット・メイカー達と共作したナンバーの数々は、暗い世界に光を灯すポジティヴなエネルギーに満ちたニュー・クラシックスだ。
70歳を迎えて何度目かの絶頂期を迎えるマイケルが世界に「ポジティヴな光を照らす」 最新作、そして豊潤なるキャリアの知られざる逸話を語った。
ーオリジナル・アルバムを長いあいだ出してこなかったのは何故ですか? その逆に、あまたのライブではグレイテスト・ヒッツとスタンダードを歌うだけで観衆は十分以上に満足するのに、あえてオリジナル・アルバムを出すことにしたのは何故でしょうか?
君の言うとおり、ファンのみんなは私のグレイテスト・ヒッツを楽しんでくれる。彼らの人生の喜びと悲しみを彩ってきたサウンドトラックとしてね。ライブで15曲から20曲、そんな曲を歌えるのは誇りに思っている。でも我々の多くにとってダークだった時期において、光を照らす作品を作るべきだと考えたんだ。いろんなソングライターと共作して気付いたのは、誰もがポジティヴな方向に向かおうとしていることだった。メロディも歌詞も、前向きであろうとしたんだ。世界中の人々をフィール・グッドな気持ちにさせたい。そんな想いを込めて『Spark of Light』を作ったんだよ。
ーカバー曲がない、全曲のソングライティングにあなたが関わっているオリジナル・アルバムはかなり久しぶりですね?
うん、名曲をカバーしたり外部ソングライターを招いたり、すべての曲を自分が書いている、あるいは共作しているアルバムがいつ以来か、自分でも判らないね(『クレイジー・ガイ Everybody's Crazy』1985年以来)。そのぶん満足度が高いよ。
ー「Beautiful World (Feat Justin Jesso)」は昨年(2022年)”アメリカン・ソング・コンテスト”へのエントリー曲となりましたが、若手アーティスト達と競うのはどのような経験でしたか?
とても楽しかったよ。お客さんからの反応も良かった。若い人が多かったし、優勝したアーティスト(AleXa)も若くてオンラインのフォロワーが多いことを考えると、私はすごく好意的に受け入れられたと思う。あの番組に出たことで私の音楽に初めて触れたリスナーもいただろうし、やって良かったね。
ーその後、自分のライブで若い観客が増えたでしょうか?
まだ目に見えて増えたわけではないけど、効果が表れるのはこれからじゃないかな。正直”アメリカン・ソング・コンテスト”で優勝するとは考えていなかった。ただみんなで楽しんで、ポジティヴなインパクトを残せたらそれで満足だったんだ。
ロック・アルバムを作る可能性は?
ーアルバムではニコラス・ペトリッカ、ジョン・ベティス、ヨナス・ミリンなど第一線のソングライター陣とコラボレートしていますが、彼らはどのように選んだのですか?共作の作業はどのようなものでしたか?
彼らは主に私のマネージャーから提案されたんだ。リストを見せられて、これまでどんなアーティストとどんな曲をやってきたか、私自身も曲を聴きながら決めていった。世の中には新鮮で優れた曲を書くソングライターがたくさんいるし、頭を悩ましたよ。それから彼らとアイディアを交換しあって、曲を仕上げていったんだ。コミュニケーションはうまく行ったし、早いペースで作業は進んだよ。「Beautiful World (Feat Justin Jesso)」をデュエットしたジャスティン・ジェッソは20年前、両親とレストランで食事をしていて、その場にいた私に「ファンです」って挨拶してきたこともあったんだ。プロのシンガーになりたいと言うから2、3つアドバイスした記憶がある。それが役立ったのか判らないけど、彼は素晴らしいシンガーになったよ。自分の幅を押し広げるタイプが好きなんだ。
ーそんな楽曲の数々に加えて、アルバムの主役はあなたの歌声です。デビューから半世紀近く、どのようにしてボーカルのエネルギーとエモーションを維持しているのですか?
ボーカル・コーチ2人について発声法やトレーニングを積んでいるよ。東海岸と西海岸から1人ずつ、オペラからポップ、ブロードウェイ・ミュージカルまで幅広くやっている世界有数のコーチだ。ウェイトトレーニングと同じで、反復エクササイズとウォームアップで声帯を鍛えて、声域を広げるんだ。彼らの指導がなければ、このアルバムでの私のボーカルはあり得なかったし、自信を与えてくれたよ。
ー新作でのボーカルの力強さに加えて、『ソングス・オブ・シネマ』(2017年)にボブ・シーガーの「オールド・タイム・ロックンロール」を収録するなど、あなたはまだロック出来ることを証明しています。元々ロック・バンドのブラックジャックでデビューしたことはよく知られていますが、いずれロック・アルバムを作る可能性はあるでしょうか?
実は考えたことがあるんだ。レコード会社のスタッフと話してみたこともある。ロックの名曲を歌うのか、いろんなソングライターと新曲を書くのか……ただ、まだ誰も企画書を書いていない状況だよ。今すぐやる感じではないかな。
ーあなたの友人で、共演したこともあるドリー・パートンもロック・アルバムを作っているし、デュエットを出来たら最高ですね。
それは知らなかった! 彼女だったらロックを歌っても凄いだろうね。
ーカニエ・ウェストの「ネヴァー・レット・ミー・ダウン」でBlackjackの「Maybe Its the Power of Love」がサンプリングされたことで、Blackjackへの再評価はありましたか?
うーん、私の知る限りではそういうことはないみたいだけど、カニエが私の昔のバンドに注目してくれたのは嬉しいね。しかも曲の使い方はオリジナルで、メロディやテーマの面で味わいのあるものだった。事前にリリックも見せてくれて問題ないか確認させてくれたし、私の音楽に対する敬意を感じた。とてもハッピーだよ。
ーあなたはキャリアを通じてオーティス・レディング、パーシー・スレッジ、アル・グリーン、マーヴィン・ゲイなど偉大なソウル//R&Bシンガー達のクラシックスを歌ってきましたが、曲を歌いたくなるロック・シンガーはいますか?
素晴らしいロック・シンガーはたくさんいる。ロッド・スチュワートやジャーニーのスティーヴ・ペリーはサム・クックから多大な影響を受けているよね。彼らの曲を歌ってみたら面白いかも知れない。でも自分に影響を与えたシンガーは君が挙げた人たちやスティーヴィ・ワンダー、レイ・チャールズなどだし、彼らの曲をもっと歌いたい気持ちもあるんだ。
ー『タイムレス・クラシックス(Vol.2)』(1999年)でアル・グリーンの「レッツ・ステイ・トゥゲザー」は2023年5月24日に亡くなったティナ・ターナーも歌ってヒットさせていましたが、彼女と交流はありましたか?
一度だけ会ったことがあったよ。1980年代の後半、コンサート会場の駐車場だった。「あなたの歌を聴いたことがある。ブラザー(黒人のこと)だと思っていたわ」と言われたよ。彼女が自分を知っているというだけで舞い上がったね。残念ながらそれっきり会うことがなく、親しくなる機会はなかったんだ。彼女の大ファンで尊敬していたし、いなくなってとても悲しいよ。
2024年にはジャパン・ツアーを
ーNetflixの番組『マイケル・ボルトンのビッグでセクシーなバレンタインスペシャル』(2017年)は日本でも好評配信中ですが、お下劣なジョークがあったりして、あなたにファミリー向けのクリーンなイメージを持っていたファンはビックリするかも知れません。この番組について教えて下さい。
うん、番組の最初に”注意:お下劣なジョーク”ってテロップを出すべきだったね(笑)。コメディ集団ロンリー・プラネットとはTV番組『サタデー・ナイト・ライブ』に招かれて知り合ったんだ。この番組の”ジャック・スパロー”コントに出演したことで、私は新しい層のファンを開拓することになった。楽しい経験だったし、また何かやろうと話していたんだ。そうして『バレンタインスペシャル』をやることになった。自分のイメージを考えて”どこまでやるか”は常に考えている。ファンを不快にさせることは絶対に避けたいからね。実は”ジャック・スパロー”コントのとき、面白いけどトゥー・マッチなギャグがあって、表現を変えてもらったことがあったんだ。『バレンタインスペシャル』でもきわどいネタはあるけど、テーマはあくまで”愛”だし、問題はないと考えた。視聴者からの反応も良かったし、機会があればぜひまたやりたいね。
ーあなたの自伝『The Soul Of It All: My Music, My Life』で、ブラックジャック時代にサンフアンでオジー・オズボーンの前座を務めたことがあったそうですが、そのときの思い出を教えて下さい。
オジーとはバックステージで話したよ。ステージ上とはまったく異なっていて、さっきまでスタジアムで数万人の大観衆を前にクレイジーになっていたのに、静かで穏やかな人物だった。彼と会ったのはその1回だけだった。
ー『Spark of Light』に伴うツアーで日本に来てくれるのを楽しみにしています!
2023年から2024年にかけてのツアー・スケジュールを組んでいるところなんだ。その一環でぜひ日本に行きたいと考えている。これまで何度も訪れて、日本武道館で行われたチャリティ・イベントにも出演したことがある(2013年9月)。日本ではいつだって素晴らしい経験をしてきた。一度だけインフルエンザに罹ったことがあって大変だったけど、日本で感じる不満は、もっと長く滞在出来ないということだけだ。ぜひ2024年にはジャパン・ツアーでみんなのために歌いたいね。
<INFORMATION>
『Spark of Light』
マイケル・ボルトン
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