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Borisと明日の叙景が語る、ヨーロッパ・ツアーの舞台裏、ファンの熱狂

Rolling Stone Japan / 2023年7月13日 22時10分

Boris、明日の叙景

Borisと明日の叙景(あすのじょけい)が一緒にヨーロッパをツアーする、というニュースが今年の2月初旬に発表されたとき、国内外のファンから大きな反響が寄せられた。Borisは名実ともに日本を代表するバンドの一つであり、国外ではメタルの枠を越えたファンベース(レディオヘッドのトム・ヨークなども)を築いている。また、明日の叙景は昨年7月にリリースされた2ndアルバム『アイランド』が非常に高く評価され、「J-POP? それともブラックメタル?」というCD帯掲載のコピーどおり、様々なジャンルの音楽ファンを惹き込んでヒットを続けている。音楽性は異なりながらもいずれ劣らぬ素晴らしいバンドであり、ツアーも大成功だったようだ。

【写真を見る】Boris、明日の叙景、ツアー中の写真

今回の対談は、そうした欧州ツアーのアフタートークとして実現したものである。BorisからはAtsuo(今回のツアーではドラム兼任でなくボーカル専任)とTakeshi(ギター、ボーカル)が、明日の叙景からは等力(ギター)と布(ボーカル)が参加。前編となる本記事では、昨年末の邂逅から一気にツアーの話がまとまっていった経緯や、過去作品に対する海外からの反応、実際のツアーの様子や現地の人々との交流などが語られている。他では聞けないだろう話も満載。お楽しみいただけると幸いだ。

・交流の始まり、欧州ツアー実現のきっかけ

ー本日はとても貴重なご機会をありがとうございます。それではまず、先日の欧州ツアーについてお聞きします。Borisは4月29日から6月8日、明日の叙景は5月18日のフィンランドから6月5日のUKまで、5月下旬は同じ会場を一緒に回られていたように思います。こうしたツアーが実現したきっかけはどんなものだったのでしょうか。

Atsuo まずはツアー先を組んで行って、だいたいの日程が決まってくると、次はサポートのバンドをどうしようかという話になってくるものなんですけど。ちょうどその時期にに、『現代メタルガイドブック』関連の絡みもあって、明日の叙景の名前も聞いたり目にしたりする機会が多かったんですね。色々なところでプッシュされてるな、みたいな。そういう中で、Takeshiも気に入ってるという話で。

Takeshi Borisが高円寺HIGHでライブやった時(2022年12月18日の夜公演)、同じ日に別の会場で明日の叙景がやってて(渋谷CYCLONEの昼公演、初ワンマン)。その日に、今制作に関わってくれてるVinyl Junkie Recordingsの南さんが明日の叙景を観てからこちらのショウにも来てくれて。

Atsuo そうそう、南さんはCOALTARS OF THE DEEPERSと一緒にやった時(2022年7月27日、吉祥寺SEATA)にも関わってもらってて。そういう流れの中でも、明日の叙景の名前を目にする機会が増えてきてたんですよね。それで、Dog Knightsという今はフランス拠点のレーベルからBorisが以前リリースしていて、明日の叙景のアルバムもそこから出ていることは知ってたんですね。海外からリリースしているんだったらツアーのサポートも受けられるんだろうなという考えもあったので、それじゃ連れてったらいいんじゃない、みたいな。

Takeshi そうそう。短期間にね、いろんなものがキューっと一気に繋がって、全部リンクして。

Atsuo こういうのって縁だよね。そうせざるを得ない流れみたいなのが生まれて。


Boris

ーTakeshiさんは、明日の叙景をいつ頃から聴かれてました?

Takeshi 『アイランド』の前、2nd EP(邦題:すべてか弱い願い、英題:Wishes)から聴いてたんですよ。日本にもこういうバンドが出てきたんだなと思ってて。ただ、その時は正直言って物凄く「くる」感じの印象ではなかった。だけど、『アイランド』が出た時に、特にキラーチューンの「キメラ」を聴いた時に、これは新しいのが来たなと思って。



Atsuo 周囲の評価も高くなっている感じはあったよね。国内でも。

等力 そうですね。『アイランド』から。

Atsuo 実際に海外ツアーに行けるバンドかそうでないかという問題がある。だから海外でリリースしていて、それは向こうでの活動をイメージしているんだろうなというのがわかったので、声をかけさせていただきました。

ー明日の叙景のメンバーの方々は、実際に声をかけられてどう思いましたか。

等力 それはもう、行くしかないなと(笑)。行かない選択肢はないだろって感じでしたね。

Atsuo 結構早かったよね。話を振ってから形になるまでが。

等力 そうですね。今回はベースの関が行けなかったりとか、サポートメンバーを用意しなければいけない(Gen〈Graupel〉とGabrielが参加)というのはあったんですけど、意思決定としては結構すぐに決めちゃって。


明日の叙景

ーもともと海外でも展開していきたいという希望はあった。

等力 そうですね。先にもお話していただいたように、海外リリースをしていたのは各国でフィジカル(LPやCD)を入手しやすくするためで。日本からフィジカルを送ると大変なことになるので、各大陸で作って売りたいと思っていろいろなレーベルとやってきました。その中で、ツアーをやりたいというヴィジョンも、具体的ではなかったにせよ持っていまして。それで、今回チャンスをいただいたので、これはもうフルスイングで行くしかないでしょという感じでしたね。

布 そもそも、日本人だけに向けてやっていると1億人としか商売できないので。80億人を相手に商売したほうがチャンスは多いですよね。そこの選択肢を最初から除いちゃうのは勿体ないので、海外での活動というのは日頃から考えていました。具体的に何かやっていたわけではないですけど。

Atsuo 日本人として好きな音楽をやり続けようと思うと、国内だけの規模だとどうにもならないですからね。特にこういったエクストリームな音楽は。世界にはこれだけの受け皿があるというのは最初から意識しないと。


海外からの反響、デジタルとフィジカル

ー実際にツアーに出る以前に、音源だけで海外からどのくらい反響があったのでしょうか。Borisはもう、海外のほうが売れている感じですよね。

Atsuo そうですね。ドルで生活してますから。

一同 (爆笑)

Takeshi 為替を気にしながらね。

Atsuo 今はボーナスステージだね。ヨーロッパツアー終わってからユーロがまた上がってますし。

Takeshi 生々しい話ですけどね。

ー最近はBandcampでのリリースも活発ですよね(2019年頃から公開作品数が急増した)。売り上げにおけるデジタルとフィジカルの比率ってどんな感じなんでしょう。Borisのようにアートワークも良いバンドだと一層興味深いんですけど。

Atsuo フィジカルは、名刺みたいなものだと考えていますね。規模が大きく一緒に仕事ができるレーベルと共に、世界中にアルバムという名刺をばらまくみたいな。それで、凄く気に入ってくれたファンは、自分たちが運営するBandcampページに来てもらって、細々したリリースも聴いてもらえばいいかなって。そんな考え方でやってます。

ー結果的に、デジタルで聴く人が増えてきた感じでしょうか。

Atsuo いや、アナログのほうが売れるな〜(笑)。アナログって、今のアーティストにとって一番のプライドの見せどころっていうか、説得力の見せどころだと思うんですね。アナログ切ろうと思うと体力がいるじゃない。レーベルもバンドも。そこで、音もパッケージもどれだけ良いものを作れるか、というのがアーティストとしての腕の見せどころだと思います。

ーなるほど。明日の叙景はどうでしょう。『アイランド』で本当に跳ねたと思うんですけど、海外からの反応はどういったものでしたか。

布 これまでの作品は海外の方が人気があったんですね。2nd EPも1stアルバムも。Bandcampでのデジタルも、CDについても。それが『アイランド』では、日本国内のほうが売れ行きも反響も多くなって。海外も今までと同じくらいの反応はあったんですけど、それまで下だった日本からの反応が上に行ってしまったので、日本ですごい人気あるんだけど海外には届いてないのかな?みたいに『アイランド』をリリースした当初は不安になることもありましたね。



等力 でも、Spotifyのリスナー数は日本よりアメリカの方が10倍多いので。

布 海外では、BandcampとかCDの売り上げとかよりも、完全にサブスクに移行しているんだなと感じましたね。

等力 Bandcampのデジタルの売り上げは海外からも多いですね。

布 フィジカルは日本ですね。CDは。

Atsuo CDは……日本でしか売れなくない?

一同 (笑)

布 意外と私たちは、Bandcamp経由でCDとデジタル音源を売って食いつないでいたところがあったんで。

等力 一応、あるものは買ってくれますね(笑)。

布 でも確かに、BandcampでLPは取り扱ってないので、本格的に始めたらそっちがぐわーっといく気はしますね。

Atsuo アナログはね、自分たちで管理するのはかなり大変なんですよ。在庫にしても、返品処理とかクレーム対応にしても。盤の色違いも何色もあったり。

ーただ、ダイハード・エディション(豪華版)というのもあるように、盤のカラーはファンにとってはかなり重要な部分ですよね。

Atsuo そう。スペシャルカラーって今すごい進んでて、次々に新しいスタイルが出てくるんですよね。プレス工場も開発を頑張ってるんですけど。やっぱり複雑になればなるほど不良品も多いんですよ。で、一枚不良品が出たら、そういう人に限って送ったもう一枚がまた不良品だったりする。そうなると利益とか全然ですよね(笑)。返金する対応だけでもどんどん経費がかかっちゃったり。

Takeshi だから、そういうやり取りが多くなってくるともう美学の問題になっちゃって。儲けがどうこうじゃなくてプライド。

ーなるほど。それでは話を少し戻すと、もともとそうやって海外からの反応があったからこそ欧州ツアーに踏み切れたということでしょうか。明日の叙景としては。

等力 そうですね。Borisからお声がけいただけたからではありますが。行ってみた感想としては、各地にファンがいたんだな(笑)というのはありますね。

Takeshi 確実にいたもんね。

布 4~5年前に売り切れてるTシャツ着てきた人がいて。待たせちゃったな、と感じました。

等力 必ずどの会場にもいたよね。あいつか〜!みたいな人が。呼べる人数的にはまだまだこれから成長していく必要がある、というかできると思うんですが、今までの活動のなかでファンになってくださった方々が来ていただいた、という感じで、手応えを感じましたね。

Atsuo Borisはご存知のようにほんと好き勝手なことやってるんで、お客さんも耳が柔らかい人が多いんですよね。明日の叙景についてもすごく楽しんでたし。すごい良かったですよね。

Takeshi 初日がフェスだったでしょ(ヘルシンキのSonic Rites Festival、The Initiation 2023という名義の前夜祭)。僕らは観れなかったんですけど、初っ端からかましてたみたいだよね。フェスって実は物販あまり売れないものなんですけど、翌日話を聞いたらそれがすごいセールスだったという。

等力 なんならあれがピークだった気もしますね(笑)

Takeshi やっぱり待たれてた感がすごくあったなあ。

Atsuo フィンランドはすごい親日で、日本の文化に対してオープンだし。

等力 Borisが出るフェスは土日の2日間だったんですけど、そこに明日の叙景が出る枠は無くて。それなら金曜に前夜祭をやろう、明日の叙景をそこのトリにしよう、という流れも良かったのかもしれないですね。明日の叙景でお客さんがたくさん入ってくれて。

布 フィランドと明日の叙景の音楽的親和性という話でいうならば、Children of BodomやSonata Arcticaみたいに、日本の歌謡曲やJ-POPにも通じるメロディが多いので、そういう意味では他の欧州の国よりも合うかもしれないとも感じますね。

ーフェスだったら特にだと思うんですけど、予備知識なしで来た人も多かった印象はありますか?

等力 前夜祭のトリ扱いだったこともあって、ほとんどの方が知ってくれていた感じでした。盛り上がり的には、観客の半分が『アイランド』曲を聴きに来た感じでした。

布 サブスクのリスナーは、フィンランドは多いんですよ。ただ、Bandcampはそんなにウケてない。

ーなるほど。そういうふうに地域的に細かく分析しているんですね。

布 いや、そこまではしてないんですが(笑)。ただ、国単位ではなく都市単位で、どのくらいリスナーがいるかはチェックしてますね。

等力 今回のツアーで解像度が上がりましたね。こういう場所はこういう感じなんだ、みたいな。

Atsuo えらいなー。うちは何にもチェックしてないよ。

一同 (笑)

布 発送を担当すると、ここの国が多いな、というのがわかる感覚はありますね。

Atsuo サブスクとBandcampの質が違うというのはあるよね。

布 Bandcampはアメリカですね。

Atsuo うん。やっぱり、アンダーグラウンドをサポートするカルチャーがまずあって、それがフィジカルからデジタルに移行するのを助けたのがBandcampだったんだなという感覚がありますね。それは自分たちでやってみてすごく思いました。アーティストをサポートしたいって人がBandcampにはいるよね。


明日の叙景



観客の世代交代、ツアー中の体調管理

ーそれでは、ツアーの反響についてお聞きします。同じライブハウスに出演される機会も多かったと思うのですが、そこでのお客さんの反応など、お互いのバンドについて印象的だったことはありますか。

等力 いい意味で、どの国もあまり変わらないかもと思いました。熱量とか雰囲気は。

Atsuo 日本より盛り上がることも多いよね。

等力 明日の叙景の場合は、日本も同じくらいでしたかね。比較対象が『アイランド』リリース後のライブしかないからそう感じるのもありますが。

布 Borisのお客さんは盛り上がり凄かったですね。


Boris

ー自分は海外ツアーを観たことないのでアレなんですが、ドローン寄りの音楽性の時でもダイブやモッシュが起きるというのはすごいですよね。

Atsuo 僕は今回ボーカル専任だったんですけど、そこでのテーマとして、お客さんと直接触れるというのがありましたね。コロナ禍でソーシャルディスタンスの話が言われ続けていたこともあって。そういう意味で、ダイブとかモッシュが起こるのは僕が牽引している部分もありますね。

布 Heavy Rock Breakfastというツアータイトルの意味(そうしたディスタンス状況からの目覚め)を言われていたときにハッとしましたね。だからそれだけお客さんを意識していて、お客さんとの距離も限りなくゼロに近く詰めていく。ステージングと思想のマッチ具合が凄くて、これが説得力というものなんだろうなと感じました。それでお客さんもそれに応えるという。そういうコミュニケーションが成立していたからこそ盛り上がったのではないかと思います。

Takeshi 応えすぎのとこもあったよね。

一同 (笑)

Atsuo トラブルも多かったな。コロナ以降、若い人もめっちゃ増えてて。お互い暴走気味で(笑)。

Takeshi でも本当にね、明らかに変わったんですよ。コロナ前後で。

Atsuo 年配の人は「自分はそこに加われない」みたいなSNSの呟きをしてたりも。モッシュが起こってるけどそこに行けないとか。

Takeshi ただ、逆に未来はあるなと思いました。若い世代につながっていってるなと。

Atsuo アメリカにしてもヨーロッパにしても、ロックがちゃんと若い人に受け継がれている、そういう土壌がある感じですね。

ーこれはもしかしたら日本に限った傾向なのかもしれないですが、ブラックメタルでモッシュしちゃ駄目という話があったじゃないですか。

等力 はい。

Atsuo そうなの?

等力 一部の厳格な(苦笑)

ー元を辿れば、Mayhemの故・ユーロニモスが設立したレーベルDeathlike Silence Productionsが、Earache(レーベル番号にMOSHを冠していた)などのデスメタル勢に対抗してANTI-MOSHを冠したり。そういうジャンルのドグマというかマナーのようなものが、近頃の若い世代の間では良い意味でいい加減になってきているようにも思えます。

Atsuo ツアー前半でサポートしてくれたPupil Slicerなんかは、モッシュパートがあらかじめ用意されてて。その場面になるとメンバー自身も「Move, move!」とか掛け声みたいなのが決まってて。

Takeshi もうお約束だよね、そういったジャンルの。

ーそうですね。Pupil Slicerは今年の6月頭に出たアルバムも素晴らしかったですが、そこでだいぶメタルコア寄りになったというか、そういうパートを増やした印象があります。

Takeshi そうだね。前はもっとマスコア的な感じが強かったけど、この間のツアーでは積極的にお客さんを煽ってモッシュパートを作ったり、メタルコア的なアプローチに接近した印象がありましたね。

Atsuo Kate(Davies、ギター&ボーカル担当)はティーンの時に『Pink』(Borisの2005年アルバム)の10周年再現ライブ観に来たって言ってたね。『Altar』(BorisとSunn O)))の2006年共演作)の再現も来たとか言ってたし。





ーなるほど。それでは、そういった盛り上がりの様子と絡めて、セットリストの組み方などで意識されたことはありましたか。

布 我々は、今回はロングセットということもあって、長期的なツアーをするのも初めてだったので、まずは身体面で自分たちがパフォーマンスを発揮しやすいように曲順を作り、そこから組み換えていこうと考えました。ドラムのフレーズの、例えばブラストをどれだけ続けられるかとか。どちらかと言えば、お客さんへの盛り上げというよりは自分たちの表現、パフォーマンスを最高の状態でキープするためのセットを心がけました。

Atsuo 最初っからボロボロだったよね。

一同 (笑)

布 最初が一番(笑)

Atsuo 言えないようなこと、すごいあったよね。

布 ラトビア(3公演目、5月21日)の時の体調不良が一番きつかったですね。

Atsuo 聴いててもう、怖すぎた。声のダメージがどんどん蓄積していくのがライブ中にわかるんだから。僕は録音とかするから、ボーカルの声のコンディションとかすごく気になっちゃうんだけど、あれは怖かったね。

等力 初日のフィンランドは良くて、その後ジェットラグ(いわゆる時差ボケ)とかいろんなものが重なって、旧バルト三国あたりではみんな体調崩してるかギリギリという感じで。

布 みんな咳ゴホゴホしてましたね。

Atsuo みんなボロッボロだったね。

等力 マジでこれ終わりかもしれない、と思いながらやってて、最初のほうはギリギリな感じでしたが。

布 イタリアあたりで体調がすごい復活しましたね。私たちは40・45・50分の枠でいただいていて、それぞれに合わせて3種類のセットを作りました。

Atsuo どうしてもドラムメインの体力配分になるよね。曲芸的な部分もあるから。

等力 はい。それで、中盤以降は安定してきましたね。

布 コンディションの話でいうと、湿度ですね。南下するに従って、翌日の喉のコンディションがどんどん良くなってきて。イタリアですごく良くなって、次のオランダも良くて。その後UKに行ったんですけど、スコットランドのグラスゴーに行った翌日、喉が全然ダメでした。北に行くともうダメですね。

Atsuo 歌唱法も、ツアーで可能な歌い方というのを模索しているのが分かった。長いツアーだとどうしても、単発の公演で集中しているのと全然違ってくるんで。

ーそうですよね。特にブラックメタル的な絶叫メインの発声って、あまりツアーを想定したものではないと思いますし。

布 まあ、技術の問題だったり……。

Takeshi やっぱり歌い方ちょっと変わった?

布 空気の当て方も、普段は喉の奥に当てて叫んでるんですけど、前歯とか上顎の硬い部分に当てて歪ませるほうにしましたね。全然違いました。

ーあまりフルヴォイス(声帯の広範囲を震わせる)にするのではなく、ヘッドヴォイス(声帯を震わせる部分を少なくし負荷を減らす)寄りにする感じでしょうか。

布 そうですね。うまく出来てたかどうかはさておき。こっちのほうが喉や軟口蓋に負担がないな、という実感はありました。そうしていくうちにイタリアで調子が戻ったので、また軟口蓋に空気をちょっと当てる方法に戻しました。

Takeshi そういうアップデートが次の作品にもつながっていくだろうね。

Atsuo やってみないとわからないからね。ツアーとか、何日もやり続けるとか。

ーボーカルの話でいうと、言語が違うじゃないですが。お客さんの反応的には、そこは障壁になっていなかったのでしょうか。

布 もともとMCをしないバンドなので、その点で伝わらないな〜みたいなストレスはなかったですね。

ー『アイランド』の曲では、歪ませないクリーンな声で語る部分もあって、そこがお客さん的にも特に感情移入できるパートになっているとも思うのですが、そこは大丈夫でしたか。

布 むしろ、「こんにちは」「こんにちは」「はじめましてかな」「はじめましてだね」(「遠雷と君」冒頭の語り)なんかでは、「こんにちは」と言ったら「こんにちは」と返してくれて、「はじめましてかな」と言ったら「はじめまして!」っていう人もいましたね(笑)。「そうでーす!」と日本語を理解した上で返してくれる人も。むしろ、伝わらないことを前提にやっていたのに、伝わってしまって逆に驚きました。

等力 エストニアで、あの語りを被せてきた人いたよね(笑)。

一同 (笑)

Takeshi あれこそが、待たれてた感がすごくあるなと思った。

Atsuo 長いツアーに出ると、ツアー前提の曲作りとかがされるようになったり、曲の意味とか役割も変わってくるからね。ここからまた変わるだろうね。


明日の叙景

ーBorisのセットリストは、今回はどんなモードだったのでしょうか。

Atsuo 昨年のアメリカツアーとあまり変わらない感じかな(『NO』『Heavy Rocks(2022)』収録曲主体のハードコア寄りセット)。それで、今回は日本からドラムのMUCHIOくんに来てもらって。だいぶ頑張ってくれたね。初めてこんな長いツアー…31本? 毎日1時間半くらい。だいたいD-beatだし(笑)。





Takeshi でもね、すごい楽しんでくれてたし。「ぶっちゃけ、体力的どう?」とか聞いたら、「あと1カ月くらい行けます!」みたいな話してたので。


Boris



観客着用のTシャツ、歴史と自分たちが直結すること

ーなるほど。ちなみに、両バンドのライブの時、お客さんが着ていたTシャツなどは印象に残られました?

等力 結構バラバラだったかもしれない。

布 ベタなのでいうと、Sunn O)))とかAlcestとか……。

Atsuo あー、Sunn O)))は多いね。

Takeshi  Sunn O)))、Alcest、あとはenvyとか、MONOもいた。

布 あと、日本語のTシャツ着てる人が多かったですね。

Atsuo メイド服着てる人いたね。

Takeshi  そうそうそう。それで男性だったりね。

布 日本の文化好きですっていうことがわかる服装の人が多かったですね。

等力 これ微妙な話なんですけど、Burzum(※)のTシャツも3回か4回くらい見かけましたね。

Burzum:ヴァーヴ・ヴァイカーネスの個人プロジェクトであり、ブラックメタル史上、最も悪名高いバンド。ヴァーヴは急進的な国家主義者で、ノルウェー・シーンの犯罪傾向を先導(教会放火など)、同シーンの中心人物だったユーロニモスを殺害したことでも知られる。その一方で、残した作品(獄中で製作されたアルバムも)には優れたものが多く、異常に鋭い表現力とジャンル越境的な音楽性(特に電子音楽方面との接続)は後続に絶大な影響を与えた。メタルの歴史における最大の暗部の一つであり、歴史的な意義は否定できないが向き合い方が問われる存在でもある。

Takeshi  あ、いたね。

等力 結構いるんだな〜と思いながら。明日の叙景のライブ(Borisとのツアー後の)にも普通にいたり。あと、自分のツアーが終わった後、ロンドンでPanopticon(US出身のアトモスフェリック/フォーク・ブラックメタル)を観に行った時も「あっ、そのバンドのTシャツ着るんだ」「大丈夫?」みたいなのが結構いましたね。

Takeshi  まあ、でもキッズだよね。

等力 あまり考えてないというか(苦笑)

Takeshi 2年くらい前にBurzum知りましたみたいな感じで。

Atsuo そういう背景とかもう形骸化しててさ、シリアルキラーを楽しむみたいな。

Takeshi バッドテイスト的な感覚ね。

ーBurzumのTシャツは先日のkokeshi単独(6月25日、吉祥寺WARP)でも結構いたんですけど、Cannibal CorpseやCarcassのTシャツ着るのに近い感覚なのではとも思いますね。

等力 たぶんそんな感覚で着てるんだろうなとは思いますね。

Atsuo で、実際さ、海外に行ってライブとかやると、そういう音楽のヒストリーと自分たちが直結するじゃん。それでなんというか、切実なことになるんだよね。裏側にあるストーリーとか。それは実際のことだったりするから。そういう判断基準というのが生まれるよね。

等力 本当に切実な問題としてあって。僕らはライブが終わったあとみんなで写真を撮って上げてたんですけど、Burzumシャツの人が前のほうにいて。ライブ中に「あ〜、これ写真撮るときどうしようかな」みたいな(笑)。ライブ中それのことしか考えられなくなったこともありましたね。

一同 (笑)。

等力 街中でもBurzumシャツは2人見たし、普通にいて。「なるほど、いるんだな」と思いました。

Takeshi 文脈を知らない人にはどうでもいいことなんだろうけど、実際に裏側のストーリーを知ってる人間からすると、気になってしょうがないんだよね。

等力 そうですね。結構リアルに感じました。みんなも動揺してないかな?みたいな。僕らの物販を助けてくれたDog Knightsのダレンとかも、見かけるたびに「うわっ」って言ってましたね。「いるね」という報告も。そういうのに敏感な人もかなりいました。

ー良くも悪くもあまりこだわらない人もいるということですね。

布 もしかしたら、こだわってる可能性もありますね。

等力 場合によっては。でも、それで明日の叙景を観に来るのはよくわからないよ。

布 そうなると、私たちの差別はいけないことだと考えている部分が伝わってないということにはなりますね(苦笑)


ライブハウスの環境、現場でのコミュニケーション

ーそれでは、ライブの環境の話についてお聞きします。音響環境など、日本のライブハウスと比べて印象的だったことはありますか?

布 ひとつ明確なのが、ボーカルが埋もれないですよね。海外の会場は。ドライブ感がすごく強くて、中にはディレイがわざとらしくてちょっとな…というのもあるんですけど、喉を節約したい場合は助かる、みたいな面もあって。日本のライブハウスは全体のバランスを整えるのを重視するのに対して、海外のライブハウスは、会場の規模にかかわらず、ボーカルやギターのリードメロディをしっかり聴かせてくれる外音だったなと思います。

等力 確かにそれはあった。

Atsuo 彼らはハウスのPAで回ったんでね(各会場のスタッフにPAを任せた)。基本的に、アメリカもそうだけど、会場にはアンプとかドラムとかは無いので、自分たちのセットを持ち回りで。会場のPAシステムとバランスを調整しながらライブをやるわけですけど。

等力 そうですね。それも、少しずつ慣れていくという感じで。ドラムのチューニングとか、モニターはどうしたいかみたいなことを、セッティングの時に伝えていく。初対面の人でもうまくいけるよう、毎回少しずつやり方を調整していく感じでした。その辺のコミュニケーションはむしろしやすかったかもしれません。

Atsuo 基本的には英語喋れるからね。

一同 (笑)

Takeshi 的確に伝えてたよね、毎回。それは見てて思った。

等力 はい。結構ちゃんとコミュニケーションができて。その上で、個人的にはやってて楽しいなという感覚がありました。日本のハコよりもスタッフがオープンな感じで、わりと話をしてくれるので。それでテンションが上がっていくのはありました。

Atsuo ねー。ちゃんと「こういう音楽好きだな」というTシャツ着てたりとか。音楽好きだな、音楽聴いてるな、という人がハコに必ずいる。それから、向こうのクラブ、ベニューの文化として、まずヘッドライナーの機材が並んでて、それを崩さずにサポートバンドの機材を前に並べるんですよね。

等力 自分たちの場合は、上手のほうに僕らのドラムを置いて、ギターとベースのキャビネット(スピーカー)はBorisのをお借りして。

Atsuo それはもう最初からいろいろ話しながら形にしていく感じでやってたんだけど。Pupil Slicerはね、明日の叙景と同じ、なんていうんだろう……。

等力 Quad Cortexっていうマルチエフェクター、ギターのアンプシミュレーターですね。

Atsuo それだけで、スピーカー使わずライン信号をPA直でやってて。

Takeshi 彼らもハウスのPAオペレーターだったもんね。会場ごとに出音にバラつきがあって、結構ギターがシャリシャリしてる時もあって。曲を知ってても音の輪郭がわからないって時もあったり。

Atsuo それで、途中でもう「俺らのキャビ使え」って使わせて。そしたら全然違って。


明日の叙景

ーなるほど。音量はどれくらいだったんでしょうか。

Takeshi ヨーロッパでは音量制限があったりするね。でも今回はそこまでは…

布 スイスが小さかったですね。

Takeshi 確かに。スイスは100dBとか105dBとかね。

等力 メーター(dBの実測値を明示)がずっとピカピカしてて。でもそこまで気になる感じではなかったですね。

布 その上で、どの会場も迫力ある音を提供してくれましたね。

等力 どの会場も音いいなって。

布 日本国内で100から200くらいのキャパのライブハウスだと、どうしても上げきれないことがありますね。音同士が衝突しちゃって音の分離が難しいことが時折あったのですけど、UKの同じくらいの規模の会場だと「意外と音の分離が良いぞ?」と感じました。

等力 メインスピーカーが超小さいのに大丈夫か?って思ったら、意外と大丈夫だったり(笑)。あれは謎でしたね。

Atsuo 持ち込みのバックラインについて話すと、ツアーだと、すごい小さい箱からデカいフェスまでいろんなところを回るので、どんな規模の会場でも自分たちの最低限の音像を届けられるシステムを作っていかなければならないというのはありますね。僕らは生音がある程度デカくないとそれをキープできない。それは、ツアーをやっていくなかでいろいろ作ってきたものなんですけど。アンプシミュレーターを使ってる若い人たちは、そこは気をつけた方がいいよね(笑)。

一同 (笑)

Atsuo ツアーにいきなり出て、ライン直でとか危険だね。

等力 幸いなことに、音響面では大したトラブルもなく。

Takeshi でも、もしかしたら相性がいいのかもね。そういった海外の環境と。

ー会場的には、もともと同じような音楽性のバンドが出演しているところだったんですか?

Atsuo そういうのが多かったかな。

等力 ロンドンのNew Cross Innみたいに、明らかにハードコア箱みたいなの、モッシーなところはありました。

布 東欧のほうは、旧ソ連の工場跡地をリノベーションして使ってるみたいなところがありました。あそこら辺ってどうなんでしょうかね。

Takeshi 東欧とかは、ロックみたいなものが近年まで規制されてて、80年代〜90年代になってドバッと入ってきたところだから。ジャンル的には逆に、入ってくるものに対して非常にフラットな、オープンな雰囲気があって。

Atsuo オランダのほうは、オルタナ、グランジとか。スイスもそういう感じじゃなかった?貼られてたフライヤーに並ぶ名前がオルタナ歴代の名バンド。

等力 エレクトロニック系、ブレイクコア系のフライヤーと一緒にそういう古いのが貼られていて。

Takeshi 30年前のフライヤーが残ってて、そこにTherapy?とヘリオス・クリード(Chromeのギタリスト)が並んでて「ええっ?これ観たいんだけど!」ってなったり。Rollins Bandとか、Bad Brainsとか。

Atsuo 老舗感があったよね。

等力 そのポスターで学ぶ、みたいな。あのバンドのオープニングはこいつらだったのかとか。

Atsuo それこそ、こういう歴史の先端に俺らはいるんだな、という感じはありましたね。ヨーロッパはね、特にその会場は、「ご飯だよ〜」って呼ばれて。スタッフも一緒に食卓を囲んで。

布 自分たちがリハしてるなか、お母さんたちがたくさん料理作ってくれて。それで呼ばれて。

Atsuo 俺のせいでヴィーガン料理が多かったと思うけどね。

等力 それは、こっちもダレンがそうなので。基本的にヴィーガンでしたね。

布 他に音楽のジャンルで面白いところと言ったら、明日の叙景で最後にやったUKのコルチェスタ、Arts Centreという会場があるんですけど、そこは教会をリノベーションしたところで。スケジュールを見たら、ジャズとかクラシックとか、ファミリーとかビアーとか(笑)

Takeshi カルチャーセンターみたいなところだよね。

布 そうですね。市民会館みたいな。そこのスケジュールで、我々はなぜかネットのほうで、もうブラックメタルって表示されちゃってて。

一同 (笑)

布 教会なのに大丈夫なのかって(笑)。おおらかで面白いよなと思いました。ただ、その日にBurzumシャツの人がいるっていう。

Takeshi でも、教会としての機能もあるんだけど、地域密着のコミュニティ・センターというか。アメリカとかもそうで、立派で歴史のある教会なんだけど、地下の空調のないところで、毎週のようにパンクロック・ショーみたいなのが開催されてて、俺らもそれに出て酷い目に遭ったりしたこともあったから。酷い目というのは、ガムテープが湿気で全部剥がれるくらいの汗だくライブになったってことね。

Atsuo ヨーロッパは各国ツアーしてて風景が変わってくから。見どころが多くていいよね。

等力 そうですね。山があったり平らになったりとか。

布 地形の話すると、私がすごいうるさくなっちゃうから控えます。

一同 (笑)

等力 でも、地形の話は明日の叙景で結構してて。故郷に似てるかとか。

Atsuo 長野感。

布 長野感(笑)。または、ここは千葉の佐倉だとか。ポーランドとかは、戦乱の地だけあってみんなが取ろうとする平地じゃないですか。あのだだっ広い平原を見てると、最初はテンション上がってたのがだんだん不安になってくるんですよね。

等力 けっこう不安になるよね。

Takeshi ポーランドの会場は、建物の裏側が飛行場だったもんね。たぶん軍の滑走路だった廃墟が打ち捨てられてて。街のど真ん中に。そういう殺伐としたものが隣にすぐあったりとかして。

Atsuo 音楽の歴史だけじゃなくて、世界の歴史にも直結するからね。

布 様々な国に挟まれてる場所は大変ですよね。

Takeshi 毎日国境を超えてる感じだったからね。移動また移動で。

Atsuo そうなると、曲やバンドの活動も意味が大きくならざるを得ないというか。世界の歴史に参加している感じ。

布 自然と理解したい気持ちになりますね。紙の上で知っていたことについて、その現場に今ようやく来たんだなという気がしました。


Borisと明日の叙景

>>後編に続く

<INFORMATION>


Boris with Merzbow ”Heavy Rock Breakfast -Extra-”
7月19日(水)東京・吉祥寺 CLUB SEATA
OPEN 18:30 / START 19:30 TICKETS ¥6,000 (税込/All Standing /1 ドリンク代別途必要)
<問>クリエイティブマン:03-3499-6669
<チケット発売プレイガイド>イープラス / チケットぴあ / ローソンチケット / ZAIKO ※チケットの購入には、Zaiko アカウントの登録(無料)が必要となります
※クリエイティブマンの公演ウェブサイトに掲載されている注意事項を必ずご確認いただいた上でチケット購入、来場ください。
※公演の延期、中止以外での払い戻しはいたしません。※未就学児(6 歳未満)のご入場はお断りいたします。
主催:VINYL JUNKIE RECORDINGS 協力:クリエイティブマンプロダクション
https://www.creativeman.co.jp/event/boris-with-merzbow/

明日の叙景 Solo Concert "Island in Full”

7月23日(日)大阪・南堀江SOCORE FACTORY
<問> 南堀江SOCORE FACTORY 06-6567-9852
8月27日(日)東京・代官山UNIT
<問>クリエイティブマン 03-3499-6669
https://www.creativeman.co.jp/event/asunojokei/

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