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でんぱ組.incが語る世界観、アキバカルチャーの果て

Rolling Stone Japan / 2023年7月21日 21時30分

『ONE NATION UNDER THE DEMPA』より

でんぱ組.incがつくり出す世界観が面白い。前作EP『でんぱぁかしっくれこーど』に続き、アキバカルチャー二部作といっても過言ではない、最新EP『ONE NATION UNDER THE DEMPA』をリリースした。プロデューサーのもふくちゃんに以前取材した際、「AIで(アートワークの)デザインのラフを構築した」と語っていたこともあり、今回はこれらの作品のジャケットやCDのブックレットのアートワークを誌上を使って大きく紹介しつつ、メンバーの中から相沢梨紗、藤咲彩音、小鳩りあの3人にインタビューした。

【写真を見る】でんぱ組.incのアートワーク

・もふくちゃんのエモーショナルな部分

ー別の取材でもふくちゃんに話を聞いた時、あらためて凄い人だなと思いつつ、前作『でんぱぁかしっくれこーど』から今回の『ONE NATION UNDER THE DEMPA』にかけての一連のEPのプロデュースワークが、突き抜け過ぎててヤバいなと。

藤咲 暴れてますよね。

ー表現する側としては求められるものって毎回変わってくると思いますが、もふくちゃんのプロデュース&ディレクションに関して、どう感じていますか?

相沢 『でんぱぁかしっくれこーど』を作る前って、今のでんぱ組.incで何をやるのがいいんだろうってもふくちゃん自身が模索してた印象があって。長いこと続けてる私とかピンキー!(藤咲彩音)、みりんちゃん(古川未鈴)は、毎回テーマを作るというよりは、その時代の流れとか、その時のメンバーの感情で動いて活動していたんです。だからEPにテーマをつける時は、自然発生型が多い印象があったんですよね。それはもふくちゃんや周りのスタッフさんたちが、私たちにその種を投げてくれていたのかもしれないけど、私たちの感覚としてはこれをしようって決めたというよりは、こうなっちゃった、ってイメージが強くて。

『でんぱぁかしっくれこーど』を作ることが決まった時、ある日もふくちゃんから「でんぱ組.incはやっぱり萌えきゅんソングだ!」って、周りが面食らうくらいの熱量で語られたんです。どうしたのって聞いたら、「秋葉原にはサブスクにも配信されていないような神曲がこんなにいっぱいあって、路上ライブで生まれた熱いエネルギーを後世に残さなきゃいけない、私たちの使命はそれだぁ!」って叫び出して、あ、はい……みたいな(笑)。私、みりんちゃんは、路上ライブをやってた頃もなんとなく秋葉原にいたんですけど、事件とかの影響で路上ライブがなくなってしまって、最近の子たちの多くは当時を知らないし、「私たちが秋葉原の歴史を歌っていいのかな」みたいな空気がちょっとあった中で、『でんぱぁかしっくれこーど』は始まったんですよね。ただ楽しいっていうよりは、これからでんぱ組.incはどうなっていくんだろうね、みたいなところからスタートしたのが、私の『でんぱぁかしっくれこーど』のイメージでした。



小鳩 私は加入して2年なんですけど、私が入ってからの2年間、「でんぱっぽくないね」みたいな評価をファンの方から受けることが多かったなと思ってて。でもそれは私や新メンバーが入ったタイミングで、新しいでんぱ組.incをどうやって表現していくかを、もふくさんや曲を作ってくださる方が、一緒に模索してくれたからなのかなって。そんな中で『でんぱぁかしっくれこーど』が発表されて、その時はファンの人も「これこれ!」みたいな反応が多かった印象があります。私自身、同じ時代と場所を生きてたわけじゃないけど、昔の秋葉原をTVで見てメイドカフェに憧れて働き始めた身なので、萌えとかアキバのカルチャーに憧れを持ってるんです。だから、「ついに歌わせてもらえる時が来たんだ」って想いはすごくありました。アキバが好きで私はアイドルをやってるんだなって再認識したのが『でんぱぁかしっくれこーど』の思い出です。





『でんぱあかしっくれこーど』
Design:サワイシンゴ
Photographer:藤城貴則
Photo Retoucher:奥津智彦
Illustration:きりさき
Clothing Design:石原睦美 【CLOTHING623】

ー今回の『ONE NATION UNDER THE DEMPA』に関しては何か言われました?

相沢 でんぱ組.incは結成して15年ぐらい経つんですけど、この10年ぐらいでもふくちゃんと濃く関わってた時期も含めて、もふくちゃんのエモーショナルな部分を言葉で伝えられたことが今までなかったんですよ。今回初めてぐらいで言われて、でんぱでそれをやりたいと思ってくれてたんだって、改めて感動しました。でも『でんぱぁかしっくれこーど』ができた頃って、コロナ禍で今までのライブの形が変わってから、やっと声が出せるかな、出せないかな、ぐらいの時期だったんですよね。コロナ禍の3年ぐらいの間に、ライブで見つけたものもあるが、失ったものも絶対ある、みたいな。そういうところと、この『ONE NATION UNDER THE DEMPA』の”萌えとエモを探す”っていうコンセプトが一致してるなって思います。萌えについては、みんなが何に突き動かされてるのかを、言葉じゃ説明できないから音楽でやろうよって言われてる感じがして。私たちもすごく好きだけど、もふくちゃん、秋葉原が好きなんだなって思いました(笑)。



ー今まではどちらかというとリアリティのある等身大の作品が多かった気がしますが、前作・今作のEPはコンセプチュアルで、ストーリー性のあるシリーズ作品になったと思います。普通はモチーフだけで終わってしまいがちだけど、これまでのキャリアの積み重ねが、物語により説得力を与えてくれていますよね。

相沢 そうですね。ファンタジーなのかホラーなのかわからないですけど、ちょいちょい現実とリンクするから、実際に秋葉原にこれがあるのかもってゾワッとさせてくれます。今回このEPにちなんで、ライブとお芝居をミックスした戯曲を、初めてみんなでやらせてもらって。それぞれがでんぱ組.incとは違うキャラクターになりきってやったんですけど、みんなめちゃくちゃ面白くて(笑)。すごく誇張されたみんなだったんですよ。『でんぱぁかしっくれこーど』だと、秋葉原が主人公の劇をやって。秋葉原が見てきた歴史を私たちが表現するんですけど、でんぱ組.incがこれまで通ってきた時代とか、震災のことも実は描かれていたり。





『ONE NATION UNDER THE DEMPA』
Design:サワイシンゴ
Photographer:藤城貴則
Photo Retoucher:奥津智彦
Illustration:ノInH
Clothing Design:石原睦美【CLOTHING623】



「エモい」とは?

ー『ONE NATION UNDER THE DEMPA』のコンセプトにもある”萌え”と”エモ”について、萌えの概念はなんとなくわかるんですけど、エモって難しいなと思っていて。今はみんな気軽に「エモい」とか言うけど、20年くらい前のバンド畑で育った自分みたいな人間からすると、エモ=ハードコアのイメージがあるんです。激情系の生々しいサウンドがエモだと思ってたのに、今は青春っぽい爽やかなものもエモだし、ちょっと懐かしいみたいなものもエモいって言うし。

藤咲 そうですね。”2000年代初頭の日本のほとんどが再現されてるけど、萌えとエモだけがない”っていうのが今回のストーリーですけど、それって今の時代のことだなって感じます。萌えやエモって、私的には感情が動くことを意味するのかなと思っていて。今の時代は、頑張ることをしなかったり、それこそ夢がなかったり、希望的なことが廃れてる感じがするんです。自分もちょっと気持ちはわかるけど、失敗するのが怖いのかなって感じる。もっと感情的に泣き叫んだ方が人間的だなって思うし、そういうところから発生するものがたくさんあるから、それを伝えるためにこういう曲を歌ってるんだろうなって思いますね。だから懐かしいとか青春とかのエモじゃないっていうのは、私も思います。

相沢 私、エモいって言葉をあんまり使わないようにしてて。普通に生活する上で、こうやって友達やメンバーと喋ってる時はエモいって言うんですけど、ファンの方の前では言わないようにしてたんです。エモいって抽象的すぎて、軽く感じる人もいれば、すごく感情的に捉えてくれる方もいるっていう温度差がめちゃくちゃ出ちゃう言葉だなと思っていて。それをうまく表現することがまだ私の中でできないから、エモいは使わないようにしようって、なんとなく禁句にしてたんですよね。そしたら、めちゃくちゃエモいって言わされるやんって思って(笑)。

一同 (笑)。

相沢 だからなんか恥ずかしかったです。久しぶりにエモいとか言わなきゃいけないって聞いて。「え? 何、エモって?」って、改めてもふくちゃんに聞きました。そしたら説明会みたいなのがあったよね。「プルチックの感情の輪ってのがあってね」って。

小鳩 紙になんか印刷されてて。

相沢 そうそう。エモいって、”楽しいと悲しい”とか、”怒りと喜び”とか、いろんな感情が動いたときに出るものだって。ライブとかでメンバーの気持ちと、お客さんの気持ちが動く瞬間は、エモだと思うみたいな。「でんぱのライブってそういうことだよね、だから今回は萌えとエモだ!」って言われて、納得するみたいな(笑)。それこそツアーで自分たちが歌っていく中で、エモいってこういうことかもってなんとなく感じられたり。今回のツアーはMCで、「これがエモかも」っていうMCをりあぴ(小嶋)が結構入れてくれたんですけど、毎回違うエモさがあったよね。

小鳩 声出しができるとみんなの熱量が余計リアルに伝わってくるので、毎回違うことが言えたなって思います。萌えとかエモって、感情が大きく動くから疲れるじゃないですか(笑)。

相沢 激しいよね。

小鳩 そう。最近の人たちはあんまり感情を動かすことに積極的じゃないっていうか、疲れるからあんまり感情を揺さぶられたくないって感じがする。私も結構そう思うタイプなんですけど、生きるのに必死で、悲しいとか楽しいとかも大きく感じたくないんですよね。でも萌えとかエモとか、そういう心がときめくことは、いっぱい大きく感じた方が生きてるって思うなって、改めて今回のツアーをやって思いました。感情は動かした方がいい。

藤咲 その話を聞いて、半年くらい前にときめきがなさすぎて、感情がわからないみたいな時期があったことを思い出しました(笑)。これじゃダメだってずっと思って生きてて。でも、ときめきなんてたくさんあるじゃんと思って、自分の好きなアニメだったりBLだったりを摂取してたけど、それじゃ足りないんですよね。どこからその感情って生まれるんだろうと思ったら、やっぱりライブなんですよ。今回の『ONE NATION UNDER THE DEMPA』のツアーで、感情がしっかりケアル(回復)されたというか。萌えとエモが私の中のときめきなんだって気づいたライブでした。

相沢 『でんぱぁかしっくれこーど』で、もふくちゃんがでんぱ組.incと一緒にやりたいことっていうのが、萌えの継承で。そこからの『ONE NATION UNDER THE DEMPA』で、改めてやりたいことが明確になったのを感じて、私たちも1個目より2個目の方が迷いなく、自分たちらしく歌うことができたような気がしました。





『ONE NATION UNDER THE DEMPA』



寄り添われるよりタイマンで

ーどれも最高な曲ばかりだと思うんですけど、ギターウルフが演奏に参加した「でんぱでぱーちゃー」。この曲、もはやコラボレーションに近いですよね。

相沢 今回のEPは、全体がでんぱ組らしくまとまってるところに「でんぱでぱーちゃー」でギターウルフさんが入ってくれたことで、私たちだけじゃ作れなかった歪みみたいなものが加わってよかったと思います。甘口ばっかりじゃないEPにできたなって思いました。こんなにやってくださるなんて思ってなかったんで、びっくりしましたけど。

藤咲 セイジさんの叫びも入ってるし、本当に早くコラボしたい!



ー皆さんが歌入れする時はもうあの状態だったんですか?

相沢 いや、歌入れの時はまだ何も。完成したものを聴いたら……。

藤咲 なんか、別物でした(笑)。

相沢 「デンパデパーチャー!!!! ロッケンロー!!!!」って。

藤咲 一瞬、間違えたかなって(笑)。

相沢 笑っちゃった。

小鳩 最高です!

相沢 でんぱ組.incって寄り添われるよりは、無茶苦茶にされたり退治されたり、VS.みたいな感じでやってもらった方が合うグループだなって、私は勝手に思ってて。ギターウルフさんもでんぱを半分おもちゃみたいに、でもしっかりタイマンしてやってくださったのがめちゃくちゃカッコよくてうれしかったです。こんなに向き合ってくれるんだって思いました。

ータヒチ80作曲・ヒャダイン作詞の「THE LAST DEMPASTARS」は逆に甘口ですよね。

藤咲 ”P P M Y M L”っていうのが、昔でんぱに在籍してくれてた子たちのカラーのイニシャルなんです。

相沢 ピンク、パープル、ミントグリーン、イエロー、ライトグリーン。そういうところはやっぱりヒャダインさんですね。ヒャダインさんはでんぱの初期から関わってくださってるので、「今のでんぱ組.incってこうなんじゃない?」って、もふくちゃんや周りの人たちと話してくださってます。でんぱ組.incが今行けそうな場所とか向かうべき場所の方向性を、歌詞とか曲で背中を押してくれるのがヒャダインさんだなって思う。

藤咲 畑亜貴さんも「でんぱでぱーちゃー」の歌詞で私たちの未来のことを書いてくれるから、こうやって前から知ってくれている2人が参加してくれてるのが、すごく頼もしいです。



ー曲調も今までのでんぱにはないものだと思いますけど、この作品に自然と収まってますよね。

相沢 映画のエンディングロールみたいですよね。EPを通して聞くと、1本の映画を観た気分になるというか。

ー想像力を掻き立てますよね。前作のEPもそうでしたが、今回も最初から最後まで通して聴いてると「今っていつだっけ?」「どういうジャンルなんだっけ?」って時空が歪んでくる感覚があって。でんぱ組.incはアイドル性とアート性を併せ持つグループだと思いますが、その二面性に関して、どう捉えていますか?

藤咲 もふくちゃんがでんぱ組.incを作った時代って、アイドルは男性向け目線の方が強かったから、ファッションやアートの要素を取り入れたらもっと面白いことになるなってところから、でんぱ組.incがアート寄りになったんだと思うんです。私は毎回コスプレだなって思っているので、今回はこういうコンセプトで、こういうキャラで作っていくんだって思いながらやっていて。着せ替え人形じゃないですけど、自分やでんぱはいろんな変化をしていけると思うし、「何者でもいいけど、我らはでんぱ組.incなんだ」っていうところが、尖ってていいなと思います。そこにアートやファッションが馴染むのかなって思いますね。



小鳩 私はもともとでんぱのファンだったんですけど、当時AKBとかが流行ってた中、でんぱってヘンな格好してると思ってました(笑)。「Future Diver」もそうですけど、ギンギラギンの、それ歩けるんでしょうかみたいな、たっかい靴をみんな履いてて(笑)。



相沢 確かに(笑)。

藤咲 歩けなかった(笑)。

小鳩 スカートもボワンボワンしてたり。でも最先端だなと思ってました。でんぱ組.incが着てたようなジャケットや衣装は私も真似してたし、どんどん流行っていった印象があって。だから見たことないようなジャケ写とか、「何それヘン」って言われてもやった方がいいなって、それがでんぱだなって私は思います。

相沢 最初にでんぱ組.incが東京コレクションで、モデルとしてMIKIOSAKABEさんとコラボさせてもらった時、正直でんぱ組.inc全員ヲタクだし、ファッションとかマジわからんからファッショニスタとか怖すぎワロタ、みたいな感じだったんですよ(笑)。めちゃくちゃ怯えながら参加してたことが、ファンの方からしたら応援してあげようとか、可愛いなって思ってもらえてたのかもしれないですけど。でも私たちがファッションを知らなくても、私たちがいることで不思議な化学反応が起きて、ファッションとか知らなかった人に対してのハードルも下がって広まったし、逆にファッションの世界は私たちが怯えてたよりもあたたかくて。「面白いね」とか「ファンの人たちも熱量があってすごい素敵」って言ってもらえたり、それこそアートワークをやってくれてた歌麿呂(ファンタジスタ歌麿呂)さんは、ライブを観て泣いてくれたりしたんです。怖いと思っていたけど、こんなにピュアで優しくて、私たちを受け入れてくれる世界だったんだと思って、急に扉が開いた瞬間が見えました。音楽ってこういうこともできるんだって感じられたんですよね。

今回もそうですけど、ギターウルフさんやタヒチ80さんとは直接関わったこともなかったし、正直私はそんなにたくさん聴いてきた人間ではないけど、何かしらがうまいこと引っかかっていい感じになった。そのミックスが、でんぱ組.incにしかできないアートなのかなってなんとなく思ってて。これからもしかしたら違うことをやって失敗することもあるかもしれないけど、新しい世界を見つけた瞬間がやっぱり一番楽しいので、やり続けていきたいなって思いました。

<INFORMATION>


『ONE NATION UNDER THE DEMPA』
でんぱ組.inc
トイズファクトリー/MEME TOKYO
発売中

1.ONE NATION UNDER THE DEMPA
2.古代アキバ伝説
3.イッき♡いっぱつ
4.でんぱでぱーちゃー
5.THE LAST DEMPASTARS

https://tf.lnk.to/ONUTD

「ジャケットは、私が先に星に到着してて、そこにみんなが宇宙船で来て降りてくるって絵なんですけど、『梨紗ちゃん卒業するの?』って言われて(笑)」(相沢)
「逆に、置いていかれるみたいに見える人もいるんですよね」(小鳩)
「いや違う違う、勝手にやめさせないでって言ってるけど」(相沢)
「そうなっちゃうの面白い(笑)」(藤咲)

https://dempagumi.tokyo/

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