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BENEE、南半球のポップスターが語るメンタルヘルスと二面性【フジロック出演】

Rolling Stone Japan / 2023年7月23日 10時0分

BENEE(Photo by Lula Cucchiara)

2019年の楽曲「Supalonely」がTikTokで大いにバズり、たちまちブレイクを果たしたNZ発ライジングスターがフジロック初登場(2日目土曜・7月29日に出演)。2020年のデビューアルバム『Hey u x』を経て、昨年のEP『Lychee』や最新シングル「Green Honda」「BAGELS」ではカラフルなポップワールドがさらに進化。Z世代特有の不安やメンタルヘルスと向き合い、オリジナルな存在であることを恐れず、自身のアートを追求するBENEE(ベニー)ことステラ・ベネットの素顔に迫る。

※注意:本記事には強迫性障害の描写が含まれます。

メンタルヘルスとの向き合い方

2年前、BENEEは強迫性障害を患っていると診断された。世界中のチャートを席巻しているニュージーランド出身の彼女は以前、運転中は必ず数を数えるようにしていた。1からゆっくりと数え上げていたのは、数えるのをやめた途端に事故を起こして死んでしまうと信じていたからだ。また飛行機に乗るたびに、墜落事故が起きて死ぬのだろうと本気で思っていた。そういった傾向に病名がつけられ、フルオキセチンを処方してもらい、週1で心理カウンセリングを受けるようになってからは、彼女の世界に対する見方は変化したという。「悲しみに暮れながらシャワーを浴びる日々から抜け出せたんだ。今ではシャワーの時間が楽しみ」。彼女は天使のような笑顔を浮かべながら、抗うつ剤の効果についてそう語った。

ステラ・ベネットの原動力は知識だ。バイラルヒットした「Supalonely」は10カ国のチャートでトップ10入りし、2020年の1カ月間のうちにTikTokで約70億回再生された。彼女は今でも、脅迫的観念や死をテーマにした曲を書いている。一昨年10月にリリースされたシングル「Doesnt Matter」で、彼女はこう歌っている。”手を合わせて祈ってる/スイッチは全部オフにする/私の家は魔女の巣窟かも”。また2020年発表の「Happen to Me」では、自ら死を選ぶ人々に共感している。

「メンタルヘルスについての議論がもっと盛んになって、誰もがセラピーやカウンセリングを受けられるようにするべきだと、最近になって確信した」と彼女は話す。「すごくお金がかかるし、誰もが受けられるわけじゃないから」




2021年末のある日の午前、ビデオ通話に応じてくれたBENEEは地元のオークランドにいた。朝食を終え、一緒に暮らす犬のTuiと猫のPadasioに餌(「ピスタチオをちょっとハイソにした感じ」)を与えたばかりだという彼女はいつものようにノーメイクで、オーバーサイズの服の襟元から幾つものネックレスを覗かせている。BENEEはまさに「音楽業界のクールな女の子」だ。黒く染めた髪は首元で切り揃えられている。多くの少女が美容室でリクエストするピクシーカットの前髪は、自宅でのスタイリングには苦労しそうだが、彼女のそれは見事に整っている。ニューエイジパンクのエッジを備えたZ世代の彼女は、どんな時も自分のペースを保ちつつ、メンタルヘルスのケアを最優先している。今日はというと、着古した服を個人間で売買できるアプリDepopに出品する予定だ。売上は全額チャリティに寄付するか、金銭的な理由でカウンセリングを受けられない人々の支援に使うつもりだという。毎年そうしているように、一昨年も10月の世界メンタルヘルスデーには、彼女は過去12カ月の間に大泣きした時の写真をまとめてInstagramに投稿した。

「最近は気持ちがすごく沈んでいる時にインタビューを受けたりすることも増えた」と彼女は話す。「ある時、ふとこう思ったの。『正直な気持ちを話してしまえばいい』って。落ち込んでるって打ち明けるのをためらう必要なんかない」

気まぐれな部分と作家性の同居

BENEEは郊外の暮らしの倦怠感、不安との格闘について歌うことでキャリアを築いた。恋人との別れをテーマにしたアンセム「Supalonely」の世界的ヒットはもちろん、様々なアワードを受賞した「Glitter」はTiktokでダンスチャレンジのムーブメントを巻き起こしたほか、グライムス(真摯で誠実な「Sheesh」)やリリー・アレン(失恋の経験を皮肉った「Plain」)との共演も果たしている。昨年は初の本格的なワールドツアーを開催。ツアーに備えて彼女は禁酒し、キックボクシングやピラティスに励んだという。

昨年3月にはEP『Lychee』がリリースされた。様々なジャンルと感情が交錯する7曲入りの同作は、オークランドとロサンゼルスで制作された。気心の知れた同胞のジョシュ・ファウンテンが大半の楽曲をプロデュースしている一方で、同作は彼女のこれまでの作品とは感触が大きく異なっている。2021年初頭、彼女は「悲しい女の子の曲」を書いていたが、それらを聴き直した時に違和感を覚えたという。『Lychee』で、彼女は変化を試みている。2020年発表のアルバム『Hey u x』には彼女の好きなアーティストが多数ゲスト参加していたが、今作にクレジットされているのはプロデューサーと共同作曲者の名前だけだ。



だが、それは必ずしも意図的ではなかったようだ。数週間後に再び彼女と話した時、BENEEは2つの変化を実践していた。まず、彼女は自宅の観葉植物たちをより大きな鉢に植え替えた(「どれも大きくなりすぎてたから」)。それから次に、他のアーティストとのコラボ曲をボツにすることに決めたうえで、EPの収録曲を見直した。

その甲斐は確かにあった。アデルやポール・マッカートニーとの仕事で知られるヒット請負人、グレッグ・カースティンが作曲した夏のアンセム「Beach Boy」。ヴァンパイア・ウィークエンドの結成メンバーであるロスタム・バトマングリと共作した、ダークなギターを軸とする「Never Ending」。ケニー・ビーツとのコラボレーションによって生まれた「Soft Side」。ビートの効いた6分間におよぶパワフルな大曲「Make U Sick」は、元々はファッションショーに提供する予定だったが、ショーに出演するはずだったモデルたちと同じように、同曲がランウェイで披露されることはなかった(理由はもちろんパンデミックだ)。

驚くべきことに、EPのリリックの大半はBENEEの想像に基づいている。スマッシュヒットを記録した「Glitter」は、オークランドのあるゲイクラブのイベントで、誰かが彼女にグリッターを浴びせかけたときに閃いたというが、今作の「Hurt You, Gus」や「Marry Myself」のストーリーは完全にフィクションだ。作詞の最中にふと浮かんだGusという名前は響きが気に入ったという理由で採用され、「Marry Myself」は曲の中に空想の世界を作り上げたいという思いから生まれた。

「ドライブっていう設定に、なんとなくピンと来てね」。彼女は肩をすくめながらそう話す。「誰かが私にプロポーズするっていう場面がはっきりと浮かんで、それを形にしようとしたんだ。ロサンゼルスに滞在している間に、実際にコヨーテを見たし」。”洋梨の木の下に座ってる/1匹のコヨーテが私をじっと見てる/まるで映画のワンシーン”という歌詞に言及しながら、「その経験を反映させたかったの」と彼女は話す。「なぜかはわからないけど、キュートでドリーミーな曲にしたかった」。


Photo by Lula Cucchiara

気まぐれな部分と作家性の同居、それがBENEEの魅力だ。思いつきを大事にする典型的な若者でありながら、確信と深い内省を感じさせる。彼女のそういった二面性は、昨年11月下旬に行われた彼女のレーベルOlive Recordsのバーチャルショーケースにもはっきりと現れていた。オリーブが好物だという理由で名付けられたそのレーベルを、彼女は2020年にマネージャーのポッピー・トヒルと共同で立ち上げた。その日の夜、同レーベルと契約したMurokiとTheres A Tuesdayのお披露目イベントが、BENEEの自宅のリビングから生配信された。パフォーマンス後に行われたQ&Aで、彼女はリアルタイムで届くファンからのいくつかの質問に、顔を赤らめながら答える。質問の大半は、ツアーでブラジルやペルー等に来る予定はあるかといった内容だったが、彼女は生配信というシチュエーションに緊張していることを認めながらも、当日の主役が自分ではなくレーベルの契約アーティストであることを強調していた。バーチャルショーケースの配信が終了する直前には、彼女の母親がいかにも子供を叱りつけているといったトーンで「オーマイガー」と口にするのが聞き取れた。

BENEEのアワードでの受賞スピーチを見たことがある人、あるいはソーシャルメディアで彼女をしばらくの間フォローしている人なら、彼女と母親の仲睦まじさを知っているはずだ。多感な時期に両親との交流を避けたがる少女は多いが、BENEEは母親との親密な関係、そして彼女からのアドバイスを一貫して大切にしてきた。

「ママから言われたの。どんな時でも、例えば恋人と別れる場合とかでも、心の声に耳を傾けなさいって」。彼女は胸のあたりを叩きながらそう言った。「絶対に正しいと思うこともあれば、何かが違うと感じることもある。私はずっとそういう直感を大事にしてきたし、それに基づいて取捨選択してきた。心の声がこれだっていうものを選び取ってきたの。それが私を正しい方向に導いてくれるはずだから」。


BENEEの最新シングル「DO IT AGAIN」は2023 FIFA女子ワールドカップ公式ソング

取材の終了時刻が迫り、BENEEはその日の午後にカウンセリングの予約を入れているのだと教えてくれた。声のトーンから、彼女がそれを楽しみにしているのがわかる。カウンセリングは彼女にとって、もはや日常的なヘルスケアの一部なのだろう。終わり間際になって、彼女が最近避けていることに話題が及んだ。それは恋愛事情についてだ。

「今は自分のことで精一杯だから、恋愛をしている余裕はない」。そう話す彼女の声は、実年齢にふさわしくないほど落ち着いている。「思いがけず誰かをどうしようもなく好きになってしまったら、話は別だけどね」。BENEEはそう念を押す。「そういう感情って、きっと自分ではコントロールできないだろうから。私はまだ経験したことがないけど。当面は仕事が恋人かな」

From Rolling Stone au.



FUJI ROCK FESTIVAL '23
2023年7月28日(金)29日(土)30日(日):新潟県 湯沢町 苗場スキー場
※BENEEは7月29日(土)出演
公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/

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