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キャロライン・ポラチェック、異端のディーヴァが語る音楽的進化の過程【フジロック出演】

Rolling Stone Japan / 2023年7月23日 10時25分

キャロライン・ポラチェック(Photo by Nedda Afsari)

キャロライン・ポラチェック(Caroline Polachek)が7月28日から30日にかけて新潟・苗場スキー場で行われる「FUJI ROCK FESTIVAL '23」に初登場。チャーリーXCXらとの共演、デュア・リパのオープニングアクトに加えて、世界各地の人気フェスで圧巻のパフォーマンスを見せつけ、今年2月リリースの最新アルバム『Desire, I Want To Turn Into You』は既に「2023年のベスト」との呼び声も高い。NYアヴァンポップの最先端を突き進む彼女のインタビューをお届けする。


少し前、ローマでのハウスパーティーのキッチンでたまたま耳にした曲が、キャロライン・ポラチェックの心に深く突き刺さったという。イタリアのポップグループ、マティア・バザールが1985年に発表したシングル「Ti Sento(I Hear You)」は、盛大なオペラ調のボーカルとキッチュなシンセポップが輝くユーロポップの人気曲だ。

ディーヴァに思いを巡らせていたポラチェックにとって(彼女はセリーヌ・ディオンのことを「アイコンであり続け、ピュアでありながら確固たる存在」と敬愛している)、マティア・バザールのシンガー、アントネッラ・ルッジェーロはまさに目指すべき規範となった。「彼女は音楽にすべてを捧げている。まるで眼球が頭蓋骨から飛び出すかのように歌うの。本当に強烈すぎて、まるで感電でもしているみたい。あの曲は、私が進むべき道を照らす灯になった」とポラチェックは語る。

今年2月にリリースされた最新アルバム『Desire, I Want to Turn Into You』で、彼女はディーヴァを体現する瞬間を夢見ている。初めてマティア・バザールを聴いたときに感じたような、身体を突き抜けて産み落とされたサウンドを作りたかったのだという。「私は”儚さ”に対して抵抗したい」。



「キャロライン・ポラチェック」はキャリアで4つ目(にして間違いなくベスト)の活動名義である。最初に所属したチェアリフトは、2008年の楽曲「Bruises」がAppleのCMソングとしてフィーチャーされるなど、インディーポップの世界で優れた功績を残した(2017年に解散)。その一方で、ソロとして(「Ramona Lisa」「CEP」名義で)実験的な作品をリリースし、ビヨンセの楽曲に携わったこともある。

自分の名前で初めてリリースした2019年のアルバム『Pang』は、その後のキャリアに大きな影響を与える作品となったが、それには理由がある。PC Musicに所属していたプロデューサー、ダニー・L・ハールとタッグを組んだのだ。同レーベルがポップの異端児として存在感を放ち始めるにつれ、チャーリー・XCXやカーリー・レイ・ジェプセンとのコラボレーションからも顕著なように、彼は古典的かつ純粋無垢なポップ・プロダクションの担い手として名を馳せていった。そのハールと手を組むことで、ポラチェックはトレンドから逸脱していき、ほとんどオペラ的な声域とキャッチーなフック、実験的な音作りを披露するようになる。



ポラチェックの新しい音楽世界

2019年の後半にリリースされた『Pang』は、あやうく時代の犠牲者になるところだった。ポラチェックはまさにツアーをスタートし始めたところだったが、2020年3月11日にロンドンで行ったパフォーマンスを最後に、ライブ活動はしばらく中断された。「その2日後にコロナに罹ったの。ロックダウンが始まる前にね」と彼女は振り返る。「回復したときにはもう旅ができない状況になっていた」。

その後、ポラチェックと彼女のボーイフレンド、マット・コプソンは1年半にわたってロンドンで暮らすことになった。そこで幸運だったのは、ハールとも一緒に生活していたことだ。『Desire, I Want to Turn Into You』における共同制作者は、プロデューサーのみで充分だと彼女は考えていたという。「このアルバムに必要なのは、私と彼だけだってすぐに気づいた」。

2021年の半ば、新たな問題が生じた。彼女の行政書士が、マンハッタン生まれのポラチェックに対し、イギリスでの暮らしについて「深刻なオーバーステイ」のリスクがあると忠告したのだ。そこで彼女は、ハールとプロデューサーのセガ・ボデガを連れてスペインへと向かい、知り合いのスタジオでレコーディングしながら同国の「すばらしい雰囲気」を満喫した。さらに、バルセロナを拠点とし、カニエ・ウェスト、FKAツイッグス、ロザリア、ザ・ウィークエンドとも交流のあるエクスぺリメンタル系アーティストのアルカと知り合うと、2人はレイブに赴くようになる。「そこから突如、世界の音楽が私の現実と融合したの」と彼女は言う。


Bodysuit by Maroskee Peech. Shoes: vintage. Dress by Lucky Jewel(Photo by Nedda Afsari)

ポラチェックの新しい音楽世界は一貫して、感情によってドライブしている。『Desire, I Want to Turn Into You』というアルバムタイトルについて、彼女は2つの意味が込められていると説明する。「一つは、”あなた”について。恋に落ちたとき、人は相手のことをもっと知りたい、その相手になりたいという欲情を持つ。でも一方で、それは、自分自身がその強い欲望の渦のなかに溺れていたいという望みでもありうる」。

『Pang』と『Desire, I Want to Turn Into You』はしばらくの間、不思議なかたちで共存していた。『Pang』はリリースから3年以上が経過しているにもかかわらず、ファンの間では人気の火が消えることはなかった。2021年の秋、ツアーを再開した彼女の会場規模は、当初予定していたサイズの2倍となっていた。というのも、『Pang』の収録曲「So Hot Youre Hurting My Feelings」を使ったダンス動画がTikTok上でバイラルヒットしたことにより、当初の想定以上の成功を収める作品となったのだ。「コロナ禍で、ファンのみんなと深く繋がったような気がする。どうしてそう思うのかは、うまく説明できないけれど」と彼女は振り返る。「あそこで何かが動きだした気がする」。



ポラチェックは『Pang』のツアーが始まる前の2021年7月に『Desire, I Want to Turn Into You』のリードシングル「Bunny Is a Rider」をリリースし、巧妙でセクシーなサウンドでファンの心を掴んだ。興奮のエネルギーが凝縮された「Billions」や、フラメンコにインスピレーションを受けた佳曲「Sunset」は2023年にぴったりの楽曲だ。昨年の冬、デュア・リパの6週間のオープニングアクトを担当している間に、ポラチェックとハールは近場でスタジオを借り、朝9時からパフォーマンスまでの時間をレコーディングに費やした。「ツアー中だったから、作っている曲がはたして良いのかどうか、それらがアルバムに関係あるのかわからなかった」と彼女は話す。「今になってみれば、お気に入りの曲になったけどね」




ポラチェックはアルバム制作の仕上げに集中するため、昨年秋のスケジュールを延期することにした。それにしても、彼女の人生はノンストップだ。夕方の我々のインタビューの前に、彼女は1日中バンド練習をしていた。前日はツアー衣装のフィッティングだったという。2日前はミキシングのセッションといった調子だ。「本当に目まぐるしい」と、彼女はその多忙ぶりを認める。「去年からずっと走り続けているような感じ」

ダン・ニグロ(オリヴィア・ロドリゴ『SOUR』の共同制作者)と手がけた「Welcome to My Island」は、もともと『Pang』の制作が終盤に差し掛かった頃に作られた、アルバム中で最も古い曲だ。彼女は当時、この曲に新たなキャラクター(「威勢がよく生意気で、激しくカオティックで、誰の手にも負えない」)を見出し、前作には収録しないことにした。そして今、ようやく披露するときが来たという。2つのアルバムの世界観がぶつかりあった同曲を経て、ポラチェックは今、まったく新たなクリエイティブの可能性に目を向けている。



From Rolling Stone US.



FUJI ROCK FESTIVAL '23
2023年7月28日(金)29日(土)30日(日):新潟県 湯沢町 苗場スキー場
※キャロライン・ポラチェックは7月29日(土)出演
公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/


キャロライン・ポラチェック
『Desire, I Want To Turn Into You』
配信リンク:https://ffm.to/diwttiy

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