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ザ・ストロークス、偉大な功績を振り返るための名曲10選【フジロック直前予習】

Rolling Stone Japan / 2023年7月25日 17時30分

ザ・ストロークス

いよいよ今週末、7月28日〜30日に開催されるフジロック。ザ・ストロークス(The Strokes)の初日ヘッドライナー出演を記念し、彼らのアルバム5作品が初の日本語帯付レコード(輸入盤国内仕様)でリリースされる。そこで今回は、バンドを初期から追ってきた音楽ライター・小林祥晴に、20年超のキャリアからセレクトした「今すぐ振り返っておきたい名曲」を解説してもらった。

時代を塗り替えたデビュー作『Is This It?』から20年余り、ストロークスはいま第二の全盛期を迎えている。現時点での最新作『The New Abnormal』は、歴史的名盤である初期2作以来の傑作。このアルバムで初のグラミー受賞、時代の寵児ビリー・アイリッシュからは「2020年のベストアルバム」と絶賛されるなど、追い風も吹いている。詳しくは以下に譲るが、受難の季節だった2010年代を経て、彼らは再び波に乗り出した。

だからこそ、実に17年ぶりの凱旋となるフジロックでのヘッドライナー公演は見逃すわけにいかない。最近のライブはこれまでのアルバムをほぼすべて網羅したオールタイムベスト的なセットリスト。過去最高の充実度だと断言できる。しかも彼らは、昨年からレッド・ホット・チリ・ペッパーズのオープニングアクトとして全米スタジアムツアーを周り、フジロック直前には単独アリーナ公演やフェスで東南アジアを巡回。エンジンが完全に暖まった状態で苗場の地を踏むのだ。

となれば、いまこそがストロークスの偉大な功績を振り返るには絶好のタイミング。そこで本稿では、2022年以降のライブのセットリストから10曲を厳選。それぞれの曲を時代背景や当時の音楽シーン/バンドが置かれていた状況を踏まえて解説していく。いまからでも遅くはない。フジロックの直前予習を兼ね、ギターミュージックを鮮やかに再定義した5人組による珠玉の名曲群を再訪しよう。

【プレイリストで聴く】ザ・ストロークス、偉大な功績を振り返るための名曲10選

★2023年7月26日リリース
1stアルバム『Is This It?』(ブラック盤)
2ndアルバム『Room On Fire』(ブルー盤)
3rdアルバム『The First Impression Of Earth』(ヘイジー・レッド盤)


★2023年8月30日(水)リリース
4thアルバム『Angles』(パープル盤)
5thアルバム『Comedown Machine』(イエロー&レッド・マーブル盤)

予約/購入リンク: https://TheStrokesJP.lnk.to/Vinyl


「The Modern Age」(『Is This It?』収録:2001年)



すべてはここから始まった。何もかもが完璧だったデビュー曲「The Modern Age」は、2000年代の新しい扉を押し開いた。軋みを上げるほどタイトなサウンドで、ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!と打ちつけていくアンサンブルは、とっくに死んだはずのロックンロールがもう一度蘇ることが出来るのだという、あまりにも鮮烈な宣言だった。

2000年前後のギター音楽と言えば、アメリカではリンプ・ビズキットに代表されるニューメタル、イギリスではポスト・ブリットポップ世代のトラヴィスや初期コールドプレイのメロウなバラッドが人気を博していた。それらはある意味、90年代US/UKオルタナティブからエッジを取り除いた再生産品。耳当たりはいいが、刺激に欠けていた。トム・ヨークでなくとも「ロックなんて退屈だ、ゴミ音楽じゃないか!」と言いたくなる状況だったのである。

だがストロークスは、そこで当時脚光を浴びていたアンダーグラウンドの実験的なIDMやティンバランドがプロデュースする先鋭的ヒップホップにヒントを求めることはしなかった。彼らが選んだのは、贅肉をすべて削ぎ落したプリミティブなロックンロールに”敢えて回帰する”こと。まさにコロンブスの卵的な発想だ。その慧眼は世界中の若者たちに電流が走るようなショックを与え、時代遅れの楽器に成り下がっていたギターを再び手に取らせた。リバティーンズやアークティック・モンキーズからThe 1975やウェット・レッグに至るまで、ストロークスがいなければ生まれなかったと言っても過言ではない。

当時のストロークスは”NYパンクの焼き直し”と揶揄されることも多かったが、その批判が的外れなのは「The Modern Age」を聴けばすぐにわかる。ヴェルヴェット・アンダーグラウンド「I'm Waiting For The Man」を下敷きとしつつも、そこに掛け合わせているのは裏拍を強調したレゲエ由来のリズムギター。ギターソロのフレーズはハードロックに肉薄しており、ナイフのように鋭い音色はポストパンクに近い。そして全体を貫くのは、グランジの呪いを断ち切るような軽快さとパンキッシュなスピード感だ。初期ストロークスはそのミニマリスト的な演奏を解剖すると、通常ではありえない音楽的要素の組み合わせで成り立っているのがわかる。リリースから20年以上経ったいまもこの曲が古びていないのは、そこに理由の一端があるのかもしれない。


「The Adults Are Talking」(『The New Abnormal』収録:2020年)



『The New Abnormal』のオープニングを飾る「The Adults Are Talking」は、ストロークスが新たな黄金期を迎えていることを如実に伝える名曲だ。全体的な音の質感は、奇妙なほど無機質で、どこかレトロフューチャリスティック。ほとんどリズムマシーンみたいに聴こえるドラムサウンドを筆頭に、ロボットがストロークスをカバーしているような演奏はかなりエクストリームだろう。一方で、おそろしくスカスカなアレンジとクールなボーカルには初期ストロークスを連想させる懐かしさもある。過去を受け入れながら未来へと向かっているようなバランス感覚が絶妙だ。

音楽的進化を続けたいというバンドの野心と、古き良きストロークスを求めるファンの欲求――その両極の間でストラグルを続けてきたのがストロークスの歴史だとすれば、『The New Abnormal』は初めて揺れ動く天秤が均衡を保つポイントを見つけたアルバムだ。それゆえに『The New Abnormal』は、初期2作以来の傑作と呼ぶにふさわしい。


「Automatic Stop」(『Room On Fire』収録:2003年)



ストロークスの音楽性を語る際にレゲエからの影響は欠かせない。特に2ndアルバム『Room On Fire』以降はそれがわかりやすい形で顕在化している。たとえば「Automatic Stop」のイントロで聴ける裏拍を強調したリズムギターは、ストロークス流レゲエ解釈の典型例だ。リズム隊にレゲエのうねるようなグルーヴ感は希薄で、むしろ直線的でガレージロック寄り。それゆえにアルバムの他の曲とも違和感なく馴染んでいる。当時のインタビューによると、アルバート・ハモンドJrがこの曲のレゲエ風ギターで意識したのはシンディ・ローパーの「Girls Just Want To Have Fun」。ジュリアン・カサブランカスのボブ・マーリー好きは有名だが、いざ自分たちの曲に取り入れるときは正統派レゲエをそのまま参照しない”ズラし”がストロークスらしい。そういえば、この頃のストロークスがライブのオープニングSEで使っていたのも「Girls Just Want To Have Fun」だった。

「Under Cover Of Darkness」(『Angles』収録:2011年)



長年バンドをやっていれば、良い時期も悪い時期もある。4thアルバム『Angles』は、ストロークスが一番バラバラになりかけていた時期の作品だ。このアルバムのレコーディングでジュリアンはメンバーが待つスタジオに顔を出さず、メールやファイルのやり取りだけで曲を完成させたという。メンバー間の空気は決して良いものではなかったに違いない。しかしそんな険悪なムードのなかからも、確かな輝きを放つ曲が幾つか生まれている。そのひとつがアルバムからのリードシングルでもあった「Under Cover Of Darkness」だ。

この曲は要するに、古き良きストロークスへの回帰。軽快なシャッフルビートは「Last Nite」や「Someday」へのオマージュであり、リードギターのフレージングは「Hard To Explain」にも通じる楽天的なフィーリングを醸し出す。だが、ヴァース→プレ・コーラス→コーラスときっちり展開する曲構成は、2nd以降に積み上げてきたソングライティング技術の向上なしにはあり得ない。間奏で一瞬スローダウンしたかのように錯覚させる、緩急をつけたアレンジの妙も、演奏家としての成熟を感じさせるだろう。

「誰もが10年間、同じ曲を歌ってる」という歌詞は、10年前の『Is This It?』のようなサウンドをいまだにファンから求められ、セルフパロディのような曲を作らざるを得ない状況に対する皮肉かもしれない。だがそんなジュリアンの忸怩たる思いとは裏腹に、「Under Cover Of Darkness」には10年前と同じような曲を作ろうとしても同じにはならないという事実、つまりバンドとしての確かな成長が刻まれている。


「Juicebox」(『The First Impression Of Earth』収録:2005年)



重戦車が砂ぼこりを巻き上げながら爆走するようなゴリゴリのベースラインはミスフィッツか? 『ピーター・ガン』のテーマか? この曲は、ハード&ヘヴィに変貌を遂げた3作目『The First Impression Of Earth』期のストロークスを象徴するトラックだ。ギリギリまでヘヴィメタルに近接したギター、グロテスクに歪んだベース、鋼鉄のようなドラム、フラストレーションを爆発させたシャウト――それらが混然一体となって突進する様は、ひたすら暴力的で重苦しい。

ワーキングタイトルが「Dracula's Lunch(ドラキュラの昼食)」だったことからもわかるように、曲名のJuicebox=紙パック入りジュースとはドラキュラから見た人間のこと。血がたっぷり詰まっている人間はさぞ美味しそうに見えるだろう。ジュリアン曰く、この曲で歌っているのはブラッドサッカー(血を吸う=搾取する人)について。ストロークスで一儲けしようと舌なめずりする業界人に対する苛立ちが隠せない、キャリア随一のブチギレソング。


「Welcome To Japan」(『Comedown Machine』収録:2013年)



ローリングストーン誌のロブ・シェフィールドの見立てでは、「Welcome To Japan」は「デュラン・デュランに負うところが多い曲」。5th『Comedown Machine』にはストロークスのレンズを通した奇妙な 80年代解釈が散見されるが、この曲もそのひとつだと言っていい。日本でのアバンチュールを歌うジュリアンの気怠いボーカルがセクシーな、ファンキーなノリのポップチューンだ。ちなみに歌詞の一節”What kind of asshole drives a Lotus?”は、シュールで笑えるパンチラインとしてファンや批評家の間で愛され/ネタにされている(意訳:ロータスみたいな”車バカ”向けの高級スポーツカー、どんなクソ野郎が乗ってると思う?……俺の愛車なんだわ)。

リリース時に一切プロモーションやツアーをしなかったので世間からスルーされた感のある『Comedown Machine』だが、いま振り返ると決して悪くはない。前作『Angles』のようなチグハグさはなく、バンドとしてのまとまりが感じられるし、新しい音楽的アイデアもある。次作『The New Abnormal』での完全復活を踏まえれば、このアルバムはストロークス再生の準備段階として必要不可欠な一手だったのかもしれない。


「Reptilia」(『Room On Fire』収録:2003年)



いまやライブのクライマックスに欠かせない、2nd『Room On Fire』が誇るストロークス屈指のアンセム。オーディエンスのアドレナリンを爆発させるハードなギターリフはライブで大合唱が巻き起こるほどアイコニックだが、コーラスで登場するカウンターメロディのアルペジオも実に効果的だ。艶めかしくてキャッチーなフレージングは、ガンズ・アンド・ローゼズの曲に出てきてもおかしくない。これがあるからこそ、間奏のハードロッキンなギターソロが自然に聴こえるし、一層映える。1stの曲よりダークでハード、だが同時にメロディアス。『Room On Fire』の目標は「1stとかけ離れているわけではないが、ちゃんと違いが感じられるものにすること」だったというが、「Reptilia」はその理想形のひとつだろう。

「Bad Decisions」(『The New Abnormal』収録:2020年)



4作目以降には、”みんなが好きなストロークス”像に寄り添った曲が必ずひとつは収録されている。現時点での最新作『The New Abnormal』においては、この「Bad Decisions」がそれに当たるだろう。

この曲を際立たせているのは、イントロから続くアルペジオのようなギターリフ。2コードのシンプルな構成だが、メロディアスで美しい。曲全体にメロウでロマンティックな情感を生み出している。リズム隊はグルーヴを保つことを重視し、2本のギターの絡みと展開でメリハリをつけていくという手法も、いまやお手の物だ。いわゆる”クラシックなストロークス”ソングでありながら、ベテランの風格さえ漂わせている。初期作にあったのがスリルと緊迫感だとすれば、ここにあるのは余裕と安定感だ。

ジュリアンの歌詞は、いまだに初期2作の幻影を追うファンとのテンションを歌っているようにも、パートナーとの関係を歌っているようにも、党派性によって分断された政治状況を歌っているようにも受け取れる。具体的なモチーフが何であれ、通底するテーマは”妥協を受け入れること”だ。おそらく誰もが人生を前に進めるためには妥協が必要な局面がある。誤った判断(Bad Decisions)をしたんじゃないかと不安に駆られることもあるだろうが、妥協が必ずしも悪い結果をもたらすとは限らない――やや踏み込めば、この歌詞はそんな解釈も可能だろう。ビリー・アイリッシュは『The New Abnormal』におけるジュリアンのワードセンスを称賛していたが、この曲の多様な解釈に開かれた言葉選びからは、確かにジュリアンのリリシストとしての成長が感じ取れる。


「You Only Live Once」(『The First Impression Of Earth』収録:2005年)



ストロークスの1stは後続に絶大な影響を与えたが、力作だった2ndはやや評価が振るわず、セールス面ではキラーズなどのフォロワーに次々と追い抜かれていく。その焦りもあったのか、3rd『The First Impression Of Earth』は筋肉質な音と洗練されたプロダクションへと向かった。つまりこれはアリーナロックへの挑戦だ。一方で曲のアレンジ自体は複雑化し、不協和音が増え、混沌とした空気が漂う。プロダクションのわかりやすさとアレンジのわかりにくさがぶつかり合い、あまり喰い合わせが良いとは言えない。しかし3rdを失敗作と簡単に切り捨てられないのは、ジュリアンのソングライティングがもっとも充実しているアルバムでもあるからだ。とりわけ「You Only Live Once」は珠玉のポップソングだろう。

3rdのなかでもアレンジは比較的に明快。ソリッドなリズム隊が曲を力強く牽引し、ギターは軽快なリフで彩りを添える。「Reptilia」以降に血肉化した手法である、コーラスでカウンターメロディを奏でるギターアルペジオもいい塩梅だ。そして、ボーカルメロディはいつになくポップでチャーミング。リリース当時、バンドはこの曲のリクエストをラジオ局に一斉に送るというプロモーション作戦をファンに呼びかけていた。ストロークスには珍しいキャンペーンだが、それくらいこの曲が秘めた”ラジオヒットを狙えるポップソング”としてのポテンシャルに自信があったのだろう。

今となっては、You Only Live Once=YOLOはドレイクが2010年代前半に流行らせた「人生一度きりだから好きにやろうぜ」というモットーとして有名だ。だがストロークスの歌詞は、「人は完璧にわかりあうことなど不可能なのだから、互いの違いを認め、争いをやめて耳を傾けあおう。だって人生は一度きりなのだから」と解釈することも可能だろう。ドレイクの享楽的なノリとは対照的に、ジュリアンのYOLOはビターで成熟している。


Last Nite (『Is This It?』収録:2001年)



当初、アメリカのモダンロックラジオ局は「ストロークスはローファイ過ぎる」と眉をひそめ、「こんなのリンキン・パークと一緒にかけられない!」と『Is This It?』の曲をオンエアのリストに入れなかった。しかしその無理解の壁を突き破って、とうとうラジオの電波に乗り、アメリカでのブレイクスルーのきっかけを作ったのが「Last Nite」だ。

トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ「American Girl」を下敷きにした、シャッフルビートのドラムとオクターヴ奏法のギターリフ。楽曲の根幹を成すのは、ほぼそれだけ。レゲエを意識して裏拍を取るリズムギターや、ギターとは微妙に異なるコード展開をするベースも効いているが、わかりやすいコーラスもなければミドルエイトもない。ただひたすら軽快なリズムとボーカルメロディのフックだけで駆け抜ける、究極のミニマリズム。ストロークス最大のアンセム「Last Nite」は、どこまでもプリミティヴでシンプル。だからこそ、一切の混じり気がない澄みきったクリスタルのように、このバンドの魅力がもっともピュアな形で凝縮されている。

胸が高鳴るダンスビートとは相反し、当時21歳のジュリアンは「人の悩みなんて理解できないし、俺だって気分が落ち込んでる、こんな気持ちは誰も理解してくれないし、自分でもどういうことかわからない」とナイーヴな苦悩を歌う。その音と言葉の強烈なコントラストが、この曲の美しさを一層引き立たせている。かつてピート・タウンゼントが言ったように、「いまそこにある問題から人々を逃避させるのではなく、対峙させ、同時にそれを忘れさせて踊らすんだ」というのがロックンロールの定義のひとつだとすれば、「Last Nite」こそが完璧なロックンロールソングと呼ぶにふさわしい。


ザ・ストロークス日本語帯付レコード
輸入盤国内仕様/完全生産限定盤
日本語帯+歌詞対訳付き


★2023年7月26日リリース
1stアルバム『Is This It?』(ブラック盤)
2ndアルバム『Room On Fire』(ブルー盤)
3rdアルバム『The First Impression Of Earth』(ヘイジー・レッド盤)


★2023年8月30日(水)リリース
4thアルバム『Angles』(パープル盤)
5thアルバム『Comedown Machine』(イエロー&レッド・マーブル盤)

予約/購入リンク: https://TheStrokesJP.lnk.to/Vinyl



FUJI ROCK FESTIVAL '23
2023年7月28日(金)29日(土)30日(日):新潟県 湯沢町 苗場スキー場
※ザ・ストロークスは7月28日(月)出演
公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/

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