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フジロック総括 完全復活した「いつものフジロック」と変化していくフェスのあり方

Rolling Stone Japan / 2023年8月3日 17時0分

フー・ファイターズのデイヴ・グロール、「FUJI ROCK FESTIVAL ’23」にて(Photo by Taio Konishi)

「FUJI ROCK FESTIVAL 23」が7月28日(金)、29日(土)、30日(日)にわたって新潟県湯沢町・苗場スキー場にて開催された。26回目の開催となる今年は、海外からも多くのオーディエンスが来場。7月27日(木)の前夜祭を含めた4日間の延べ来場者数114,000人は、コロナ禍に見舞われてからの2021年(35,449人)、2022年(69,000人)と比べて大幅増となり、フジロック完全復活を印象付けた。音楽ライター・小松香里が3日間の模様を振り返る。

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パンデミックの影響で中止を余儀なくされた2020年、国内アーティストのみで開催された2021年、マスク着用や手指の消毒といった感染症対策を講じて開催された2022年を経て、2023年は4年ぶりに制限のないフジロック。昨年、海外アーティストと日本のオーディエンスの間にギャップがあった声出しについても、今年は問題ないはずだ。

「いつものフジロック完全復活」に向けて、フジロックの醍醐味とも言えるエリア、THE PALACE OF WONDERが4年ぶり復活することが開催前に報じられた。また、「FUJI ROCK PLUS」と名付けられたパスを購入すると、ホスピタリティエリア・OASISとWHITE STAGEの2拠点間を運行するシャトルバスや専用休憩スペース、専用ビューイングエリアが利用できたり、飲食店で優先購入ができるといった新サービスも登場した。

本誌の記事「フジロック×サマソニ運営対談2023」にて、SMASHの高崎氏は「できる限り快適な空間を作る。トイレなどの環境面にも力を入れる」と発言をしていた。既にプラチナチケットを導入しているサマーソニックと比べ、フジロックは良くも悪くも、「トイレも飲食も並ぶし、ステージ間の移動も時間がかかる。その不自由さを含めて野外フェスの醍醐味」的なムードがあったわけだが、パンデミックによりあらゆるものが転換期を迎え、フジロックも変化の季節を迎えていることが開催前から伝わってきた。

その変化はブッキングにも表れていた。フジロックの伝統的な価値観を感じさせながらも、最終日のヘッドライナーは2023年ど真ん中なアーティストと言えるリゾ。他にも、イヴ・トゥモア、BENNEやd4vd、ワイズ・ブラッド、キャロライン・ポラチェック、100gecsといった時代性を感じるアーティストが名を連ねた。いつものフジロックであり、変化したフジロック。実際にどんな3日間になったのか、海外アーティストのステージを中心にレポートする。




1日目・7月28日(金)

【The Strokes】

初日のGREEN STAGEのヘッドライナーは、中止になってしまった2020年にも出演が決まっていたザ・ストロークス。実に17年ぶりのフジロックだ。ライブは「The Modern Age」からスタートし、彼らを待ち詫びていた多数のオーディエンスのテンションはいきなりマックスに。初めてストロークスのライブを見た時、「このラフで不愛想でとてつもなくヒリヒリしているのにチャーミングなアンサンブルの正体は何?」と慄いたが、演奏力が上がり、唯一無二のアンサンブルの強度もアップ。そのマジカルなサウンド・デザインは2023年も十二分に有効であるということがひしひしと伝わってきた。

余裕と貫禄を感じさせながら、「Welcome to Japan」で日本のオーディエンスを喜ばせつつ、本編を「Is This It」「Someday」「Reptillia」という三連打で締めた。アンコールは「Hard to Explain」、大谷翔平を賞賛してからのジュリアンのメッツ愛があふれる「Ode to the Mets」、最後は「Last Nite」!





【Yeah Yeah Yeahs】

ザ・ストロークスのスロット前、RED MARQUEEでは同じく90年代ニューヨークを代表するバンド、ヤー・ヤー・ヤーズがパフォーマンス。こちらも2006年以来、17年ぶりのフジロックだ。RED MARQUEEはもちろん超満員。カレン・Oの求心力は一切衰えておらず、イントロが鳴る度に大歓声が上がる中、目が刻まれた巨大な2つのバルーンもフロアに投下された。「Gold Lion」「Y Control」と続け、「Maps」でシネイド・オコナーに追悼の意を捧げた流れはとても感動的だった。

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【Daniel Caesar】

ダニエル・シーザーを見る度に、その年齢でどう生きてきたらこんなに繊細で奥行きのある豊かな情感のある歌が歌えるのかと不思議に思うのだが、巨大なGREEN STAGEにポツンと立ち、そぎ落とされたなシンプルなサウンド・デザインの楽曲を披露し続けた今回のライブでも、やはりそう思った。数万人のオーディエンスは立ち入ることが許されないような至高の歌の世界にただただ浸り、曲が終わると今まで声を上げることを我慢していたかのような絶叫を上げた。一方で、曲間のMCではまるで友人かのような気軽さでオーディエンスに話しかけ、親密なコール&レスポンスを行うのだからたまらなかった。

2日目・7月29日(土)

【Foo Fighters】

とにかく人、人、人。たくさんの人が待ちわびる中、現れた2日目ヘッドライナーのフー・ファイターズ。ドラマーのテイラー・ホーキンスが急逝し、ア・パーフェクト・サークル、ナイン・インチ・ネイルズ等のツアーで知られるジョシュ・フリーズを迎えた編成での初のフジロック。「All My Life」から飛ばしまくり。デイヴ・グロールの歌声もバンドの演奏も、凄みすら感じる。デイヴにとって、生きることと、前進しエネルギーを放射することは同義なのではないかと思えるほどだ。

デイヴが「一緒に歌ってくれ」と言って、バンドの演奏はほぼキーボードだけになり、言葉を噛みしめるように「こんな時は生きることを学ぶときなんだ」と歌った「Time Like These」では、スマホライトを左右に揺らすオーディエンスの姿も。テイラーの存在を感じた人は少なくないだろう。演奏後、沈黙が流れ、大きな拍手が送られた。

同日にGREEN STAGEに出演しており、テイラーがフー・ファイターズのメンバーになる前に活動を共にしていたアラニス・モリセットや、ウィーザーのパット・ウィルソンも登場する場面もありつつ、とにかく「For Fuji!」を連発していたデイヴ。最後、「次のタトゥーは”For Fuji”と入れる」と嘘か本当かわからないことを言った後、「もう一曲聞きたいか?」と問いかけて、「Everlong」で締め括った。




【d4vd】

テキサス州ヒューストン出身のd4vd。日本のアニメに大きな影響を受けているネット発の気鋭のアーティストだ。ヘヴィなバンドアンサンブルの中、歌いながら走って登場し、「盛り上がっていけ!」といきなり日本語でMC。「私はd4vdです」と日本語で自己紹介し、『東京喰種トーキョーグール』や『呪術廻戦』からの影響を話したり、日本カルチャー愛全開。バンドを携え、ミラーボールが回る中、珠玉のバラード「Sleep Well」で豊潤な歌を聴かせたと思ったら、「Take Me To The Sun」ではヘヴィに躍動するオルタナロックを鳴らす。無邪気さすら感じる振れ幅が今っぽい。最後はステージから降りて、オーディエンスに近づき、めちゃくちゃ楽しそうな笑顔を浮かべ、再会を口にしていた。

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【Caroline Polachek】

ライブ前、ビジョンに映る時計のイラストのカウントダウン映像からしてかわいい。カウントテンからはオーディエンスも一緒にカウントダウン。ライブに寄せる期待の大きさが伝わる中、現れたキャロライン・ポラチェックは冒頭で「アルバムをリリースして、このフェスに出られて嬉しい」と話し、感極まった。幼少期に日本に住んでいたことがあり、以前所属していたインディーポップバンド、チェアリフトでは「I Belong In Your Arms」の日本語バージョンを発表している。ゆかりの深い場所で、たくさんのオーディエンスに迎え入れられたことが余程嬉しかったのだろう。

エレクトロポップ、ラテン、ヨーデル、ドラムンベースといった多種多様な音楽を軽やかに吸い込んだサウンドを、時にバレエダンサーのように可憐に舞い、時にファイターのように拳を突き上げながら披露していくパフォーマンスはどこを切っても絵になっていた。手にとんぼが止まることすらあらかじめ決まっていたかのようだった。その圧倒的な表現力故に、何のセットもないのにシアトリカルとも思えたライブは、ハイクオリティな楽曲と歌唱力の上に成り立っている。「Bunny Is A Rider」や「So Hot Youre Hurting My Feelings」等、気軽に口ずさみたくなるキャッチーな曲があるのもまた強い。途中、同じ歳でプライベートでも親交の深い同日出演のワイズ・ブラッドを招き入れ、真っ白な衣装にロングヘア―の二人が美しいハーモニーを聞かせるスペシャルな一幕もあった。

3日目・7月30日(日)

【Lizzo】

GREEN STAGE大トリは、今を象徴するアーティスト、リゾ。冒頭から、「JAPAN!」ではなく「ニッポン!」と言うのが何だかリゾっぽい。ダンサーたちと一緒にリゾが満開の笑顔で歌い踊る姿はエンパワメントそのもの。「私が輝けばみんなも輝く 生まれた時からこう」と歌う「Juice」ではもちろん「ヤヤイー」の大合唱が巻き起こった。広大なGREEN STAGEエリアをオーディエンスが埋め尽くす光景が目に入り、リゾも嬉しそうだ。「私はリゾです!」と日本語で自己紹介した後、早速「ビッチ!」というシャウトが飛び出す。

ミッシー・エリオットからリゾへの愛とリスペクトのメッセージが流れた「Tempo」からの、カーディ・BのFacetime動画が写し出された「Rumors」という流れも最高だった。「右の人も左の人もスペシャル! 私もあなたもスペシャル! 全員に捧げます!」と言って、「Special」へ。数万人が一斉に「Youre Special!」と歌うと、本当に全員がスペシャルだと思えたし、これこそが音楽の力なのだと感じた。そして、こんな曲間で何度も「ニッボン大好き!」と愛を伝えてくれるのだから、ますます惹かれてしまう。レインボーフラッグが振られた「Im Every Woman」、黒人女性やLGBTQへの支持を表明してからの「Everybodys Gay」という流れも素晴らしかった。

後半、ピンクのリボンに包まれたような衣装に着替えたリゾ。リゾのセーラームーン姿のイラストが入っているタオルを持っているファンやメッセージボードを持ったファンを見つけ、その場でサインを入れていた。リゾが莫大な愛とエネルギーを送っているからこそ、オーディエンスも莫大な愛とエネルギーを返すのだ。もちろんその愛は数々の苦難を乗り越えて得たものだということを我々は知っている。




【BAD HOP】

5月に開催されたPOP YOURSで解散を発表したBAD HOP。最初で最後のフジロック当日に、バンドメンバーとして、RIZEから金子ノブアキ(Dr)とKenKen(Ba)、the HIATUSからmasasucks(Gt)と伊澤一葉(Key)が参加するというニュースが発表された。猛者たちを迎えてのBAD HOP初のバンドセットはどんなステージになるのだろうか?と期待を膨らませていると、漆黒のステージから勢い良く炎が上がり、いきなりの「Kawasaki Drift」。ビジョンには「WARNING」の文字。バンドの音もラップも重すぎて痺れる。苗場で「川崎区で有名になりたきゃ 人殺すかラッパーになるかだ」というラインを聞く日が来るとは思わなかった。このタイミングで初のフジロック出演で初のバンドセットを持ってきて、自らのヒップホップを大幅に更新したBAD HOP。「High Land」や「Ocean View」「Foreign」といった聞き慣れた楽曲も、メタリックでドス黒いアンサンブルが渦巻く楽曲へと変容していた。ゴールテープを切る瞬間まで、こうやってシーンを揺らし続けるのだろう。YZERRは「自分たちは保育園から一緒のメンバーも多くいる幼馴染同士で、レーベルに所属せずに活動している」といったことを丁寧に自己紹介した後、「日本でヒップホップをもっともっとデカくするために本気で頑張ってます!」と言い放った。

T-Pablowが「解散を発表したタイミングでこのステージに出られるのは神様からのプレゼント。ずっと川崎という港町で夢を見てきました。今日は娘たちも来てます!」と言って娘の名前を呼んだ後、「Bayside Dream」を披露。解散するからといって、BAD HOPの夢が終わったわけではない。このフジロックのステージが終わってからも、そしておそらくドームクラスの会場で行われるであろう解散ライブが終わってからも、BAD HOPの前代未聞の偉業は後続に夢を与え続けるのだろう。

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【Balming Tiger】

自らを「多国籍オルタナティブK-POPバンド」と名乗るBalming Tigerは、5MCが顔のイラストが書かれた箱型の被り物をして登場。ヴィジョンには「Balming Tigerの新しくなった公演」という日本語のメッセージが表示されており、ワクワク感を高める。「今から始まります」と表示された後、おどろおどろしい民族音楽が流れ、5MCが一斉にかぶりものを外し、ジャンプしながらキレのいいラップを披露。これは楽しい。白いツナギを着てキメポーズを見せる5MCはまるでヒーロー戦隊のようだ。「フジロック、ワッツアップ!」とシャウトすると、地鳴りのような歓声がRED MARQUEEに轟いた。

メンバーの一人はどうやら足を怪我していて松葉杖姿だったが、松葉杖をスティックのように高々とかざしたり、ギターを弾く真似をしたり、元気いっぱいだった。フリースタイルダンスを披露したり、お揃いの振りを踊ったり、5人で円を作りぐるぐると回ったり、コール&レスポンスをレクチャーしたりと、RED MARQUEEのオーディエンスをどんどん盛り上げていく。

原曲ではBTSのRMをフィーチャーした「SEXY NUKIM」では、ドスの効いたラップを軸に、MC3人がフロントで横並びになり、中毒性のあるダンスを披露。3人の内、2人は上半身裸。1曲ごとに、そのモダンでエンタメなセンスが爆発していて目が離せない。終盤にはモッシュピットを何度も作り出し、ライブ後のRED MARQUEEには「ヤバい!」や「楽しかった!」という声があちこちで上がっていた。

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いつものフジロックであり、変化したフジロック。開催前に「力を入れる」と運営側が発言していたトイレについては、数も増え、スタッフがこまめに状態をチェックをし、例年より行列は少なく感じた。飲食店については、優先購入ができるパスを利用しているオーディエンスを見かけることが少なかったこともあり、かなりの行列ができていた。専用ビューイングエリアの利用者もあまり多くなかったように見えたが、専用休憩スペースは多くの人が利用しているタイミングがあった。「FUJI ROCK PLUS」は導入1年目ということもあり、まだ知名度が低いのかもしれないし、フジの客層のニーズとギャップがあるのかもしれない。今年の状況を踏まえ、来年は改善される可能性もあるだろう。

復活したTHE PALACE OF WONDERはキャンプサイトの入口と入場ゲートの間へと場所が変わり、飲食やグッズ売り場を内包した大きなエリアになっていて、昼間も深夜も盛況だった。

今回のフジロックで何より喜ぼしかったのは、アーティストたちの素晴らしいパフォーマンスに対し、何も気にすることなく声援が上がり、大合唱が起きたことだ。GREEN STAGEのラストチューンとなったリゾの「About Domn Time」だって、みんなで大合唱したからこそ得られたとてつもない感動があった。自然に囲まれたフジロックでの解放感と一体感は何ものにも代えがたい。

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