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EASTA & NAOtheLAIZAが語る、世代とビートとメロディの化学反応が生んだラップ作品

Rolling Stone Japan / 2023年8月15日 18時30分

左からEASTA、NAOtheLAIZA

90年代後半から、メジャー/インディーを問わず硬質かつ良質なビートを提供し、柔軟な視線で数多のラッパーたちをプロデュースしてきたNAOtrhLAIZA。そして、話題のラップ・オーディション番組「ラップスタア誕生2021!」のファイナリストとして勝ち進み、愛すべきキャラクターと独創性でもって大きな注目を集めるようになった若きラッパーのEASTA。キャリアの差、そして世代の差がある両者がコラボ・アルバム『T.U.R.N』を発表した。目まぐるしく変化を遂げる日本語ラップシーンの中心にいつつ、異なる視点からのアイデアを交換し合って完成したアルバムは、ある種の正統性を保ちつつもエッジーな魅力がスパイスのように効いている。両者の出会いから、「やっぱり、ヒップホップはおもろいな」と言わせしめた充実の制作プロセスについてじっくりと話を聞いた。

―今回の『T.U.R.N.』は、両名で作ったコラボ・アルバムということで、2人の出会いから伺ってもいいですか?

NAOtheLAIZA もともとABEMA TV「ラップスタア誕生2021!」(以下、「ラップスタア」)でEASTAくんのことを知って、かっこいいなと思っていたんです。それで、去年の春ぐらいに「若い子と組んで、トータル・プロデュースをしてEPを作りたい」と思った時に、「EASTAとやってみよう」と思いついた。自分ももともと大阪で活動していたし、彼も奈良出身なので、バックグラウンドにも共通点があってすごくいいな、と。それで、僕の方から声を掛けました。

―NAOtheLAIZAさんといえば、これまでにも韻踏合組合、ANARCHY、般若、NORIKIYO……と、たくさんのラッパーを手掛けてきている。EASTAさんのどういったところに魅力を感じたのでしょうか?

NAOtheLAIZA 最近では珍しいタイプかと思うんですが、彼はラップもできるし、歌もできる。マルチというか、全体の総合力が高い。僕も、いろんなタイプのビートを作るので、2人で色んなことをトライしたら面白い作品ができるんじゃないかと思ったんです。EASTAの基礎体力の高さに関しては、「ラップスタア」の挑戦者の中でも一番高いなと思っていました。あとは、おもろいっていうことろも(笑)。かっこいいヤツはいっぱいいるんですけど、EASTAには、「おもろいな、コイツ」っていうところもある。

―EASTAさんは、最初にNAOtheLAIZAさんから連絡をもらって、どんな気持ちでしたか?

EASTA 嬉しい気持ちもありましたけど、もともと知っていたプロデューサーの方から連絡をもらって、驚きの方がデカかったですね。

―2021年末に放送された「ラップスタア」で、ファイナリストに残った。当時、そこからの自分のキャリアについても、具体的に描いていたのでしょうか?

EASTA キャリア関してはそこまで深く考えていなかったですね。今、目の前にあることをこなしていくというか。ナオさんから声を掛けてもらったタイミングは、「さあ、やっていこう」と思うと同時に、「どうしていったらエエんやろ?」とも思っていた時でもあったので、このオファーがすごく助けになりました。

―さっきも、「2人だったら面白いことができるのでは」と仰っていましたが、実際の制作のプロセスはどうでしたか?

NAOtheLAIZA 初めてのセッションは、お互い手探り状態でしたね。4曲分くらいのビートを作って持って、Loud Studioっていう大阪にあるEASTAのスタジオに行ってプリプロしてみたら、俺が想像していた感じにはならなかった。自分が思い描いていたビートのアプローチと違うな、と。だか改めて、「2人でやったらどんな感じなるか?」ということを話し合って、「EASTAの意見もしっかり取り入れつつ作った方がいいな」と、方向転換して行きました。

EASTA 初めてビートを聴いた時は、やっぱり「クオリティすげえ」と感じました。僕はスタジオに入ってから歌詞を書くタイプなんですけど、レコーディングしている時のナオさんの反応を見ながら「あ、これは全然あかんかったか……」とか判断しながら、悔しい思いもしつつ進めて行ったんです


NAOtheLAIZAがプロデューサーとしてEASTAに伝えたこと

―普段、NAOtheLAIZAはプロデューサーとして何を一番大事にしていますか?アーティストに求める「これだけは!」という条件みたいなものは?

NAOtheLAIZA トラックだけ渡す時と、プロデュースをする時とでハッキリ違うんですけど、プロデュースするときは「リリックも含めて、自分がフィールせえへん人とはやらへん」ということです。メロディとかも大事なんですけど、やっぱりラッパーのリリックを一番重要視しているかもしれません。EASTAにも「これは言わんといて」ということは結構言ったかもしれません。

―具体的には、EASTAさんにどのような内容を伝えたのでしょうか。

NAOtheLAIZA 世代の違いもあると思うんですけど、ストレートにパッと言うのが好みじゃないんですよ。もうちょっと言い回しを面白く、とか文学的に、とか。”深く感じられる日本語のよさ”みたいな部分は出したいなと思っていたんです。

EASTA (そうした要求を受けて)ハードルが高かったですね。大人の方やな、とも思いました。なので、制作中はまず第一に表現に気をつけていきました。あと普段よりもメロディを作るのを頑張りましたね。表現方法とメロディ、この二つが難しかったです。

NAOtheLAIZA メロディに関しては、やっぱり「めちゃくちゃええな」という印象でした。何々風、というのではなくて、完全にオリジナルなんですよね。EASTAは、これまでにレゲエ界隈で活動していた時期もありますし、現行のUSヒップホップの感じと、自分がやってきたことをうまくEASTAのフィルターを通して作っているメロディなんですよ。絶対に他と被らないな、っていう。自分が考えていたメロディもあったんですけど、EASTAが出してくるものは、それと全然違ったんですよね。

―特にEASTAさんの良さが現れている楽曲はどれだと思いますか?

NAOtheLAIZA 「OSAKA LOVER」のヴァースの後半8小節ですかね。あそこは結構「やべえ」と思いました。リスナーに伝わっているか分からないですけど(笑)。



EASTA 楽曲自体がアフロ・スイング調のビートだったので、レゲエのディージェイをしていた頃の感じと、最近のDavidoみたいなフロウを出したいと思って、降ろしたメロディなんです。俺としては感覚的にやった、という感じなので、こうして改めて言われるとすごく嬉しいです。逆に、難しかったのはSIMONさんをフィーチャーしている「Too Busy」。結構、時間が掛かりましたね。ナオさんには、2014〜15年くらいのトラップ感を出してほしい、とオーダーしたんです。一回、サビ部分を録ったら「いや、ちゃうなあ」ってナオさんからやり直しを命じられたんですけど、俺はそうやってやり直しさせられることが超嫌いなんです。それで、めっちゃ悩んで。SIMONさんはめちゃくちゃリスペクトしていたラッパーで、「誘えるのはこのタイミングや!」と思って、曲に入ってもらいました。



NAOtheLAIZA SIMONと曲を作ったのは、俺も初めてだったんです。いいタイミングで出来たので、それはEASTAにも感謝しています。
 
―先輩アーティストとのコラボ曲というと、JAGGLAさんとNORIKIYOさんが参加した「Straight Up」という曲も収録されています。

EASTA 俺自身、JAGGLAさんのめっちゃファンであり、彼のことをリスペクトしているんです。ナオさんがJAGGLAさんの1stアルバム『蜃気楼』をフル・プロデュースした話も伺っていたので、最初に声をかけさせてもらいました。で、オッケーしてくれて「やったー!」と喜んでいたら、NORIKIYOさんも参加することになって……。

NAOtheLAIZA もともと、「EASTAとJAGGLAで曲をやる」ということが決まってからビートを作ったんですけど、ビートを送ったらJAGGLAもめっちゃカマして来てくれた。「完璧やな、この曲」と思いながら、アレンジやミックスなど、最後の仕上げに入っていたんですよね。その時に、ちょうどNORIKIOYOくんが俺のスタジオに来ていたんです。(NORIKIYOとの)レコーディングの合間の休憩時間を使って、「Straight Up」の修正作業をしていたら、NORIKIYOくんから「これ、 EASTAくんですよね?彼は自分が一緒に曲をやりたいと思っているアーティストの一人なんですよね」と言われて。「よかったら、この曲に入ります?」と聞いたら、「ビートも好きな感じだし、いいですよ」と言ってくれて。NORIKIYOくんとは、また三日後くらいに会う予定だったんですけど、その時にもう自分のヴァースを書き上げてくれて。

EASTA 仕上がった曲を聴いて、JAGGLAさんとNORIKIYOさんのヴァースが自分に贈られているみたいな気がしたんです。そこが自分にとっても励みになったというか。アルバムには、「Straight Up」の直前に「Happy End 2022」っていう曲が収録されているんですけど、「Happy End 2022」は、もともと5年くらい前に作った曲なんです。それと同じトピックで歌った楽曲が「Straight Up」で。なので、5年の成長を自分の中で認識できたというか、同時に背中を押されている感じもある。先輩たちが自分に向けてスピットしてくれている感じっていうんですかね。

ーEASTAさんのラップのいいところって、トレンドを追うような表現だけではなく、ネガティブで泥臭いことも包み隠さずラップするところだなと感じているんです。今回の『T.U.R.N.』に収録されている曲だと、「らしいな」とか、そうした魅力が溢れていると思うんです。アルバムとして深みを増しているというか。

EASTA そうした部分に関しては、意識している部分もあるんですけど、レゲエをやっている時に影響を受けた部分でもあります。レゲエのアーティストってよりストレートに言う人が多いなと思っていて。感情が伝わる感じっていうんですかね。それを無意識にラップに落とし込んでいるのかもしれません。分かりやすい言葉を使いたい、という気持ちもあって、自然とこういう歌詞の書き方になっていました。


EASTAが「ラップスタア」で培った経験

―アルバムのハイライトといえば、「笑って生きる」というシングル曲も。ともに「ラップスタア」のファイナリストにもなったShowyRENZOさんを招いています。

EASTA ナオさんから「ビートのアイデアが欲しい」と言われたことがあったんです。そこで、この曲のビートを一緒に作っていった時に、フィーチャリング・アーティストとして思い浮かんだのがRENZOくんだった。「彼じゃないと無理そうやなあ」と思って。オファーしたら実際にスタジオまで来てくれたんですけど、レコーディング現場で、クラいましたよね。

NAOtheLAIZA そうやね。RENZOくんのスタイルは、フリースタイルなんすよ。歌詞を書かないで、そのまま録ってる。謎なんです。最初、バーっと録っていって「これで、曲として成り立つんか?」って思ったほど。

EASTA ナオさん、「イケるんか?」って顔でこっちを見てましたよね(笑)。

NAOtheLAIZA そうしたレコーディング手法は、僕も初体験だったので。「ここにこのフロウを持ってきて、次、どういくんやろ?」って常に思いながら。本人の頭の中では、すでに出来上がっている流れみたいなものがある。でも、自分にはなくて、先が読めないんですよね。彼のやり方って、ピカソみたいな感じなんちゃうかな? 抽象的っていうか。

EASTA それ、俺より褒めてるじゃないですか(笑)。RENZOくんはプロデューサーもしてらっしゃるんで、「こういうアイデア、どうですか?」ってどんどん持ってきてくれたんです。



―「笑って生きる」は、多くのリミックスが発表されたことも話題になりました。Fuji Taitoとeydenが参加しているヴァージョンもありますよね。

EASTA 「ラップスタア」のファイナリストが全員集まったらおもろいな、と思って声を掛けたんです。同じくファイナリストだったCyber Ruiだけ、タイミングが合わなかったんですけど。「みんなを集めることが出来るのは俺やな」とも思ったんです。

―今、振り返ってみて、「ラップスタア」で培った経験はどんなものがあったと感じていらっしゃいますか?

EASTA 出場してみて、プラスなことしかなかったですね。出場するまで、俺は結構尖っていたんです。でも、「ラップスタア」を経験してみて、「ヤバい」と思わせてくれて刺激をもらえる同世代のラッパーたちと知り合えたことはすごくデカかったです。eydenとかTaitoくんといった友達もできましたし。彼らのおかげで、「もっと頑張らな」と思える。そこが一番嬉しいところですね。

―「笑って生きる」のリミックスをまとめたシングルもリリースされました。B=BALL、NOTYPE 9、KESSOという三者三様のプロデューサーによるリミックスが収録されていますが、このアイデアはどこから?

NAOtheLAIZA オリジナルのBPMが、62くらいなんですよ。自分はDJ出身だし、やっぱりクラブで掛かる仕様にしたいなという思いがあって、原曲よりも踊れるリミックスを作りたかった。あと、昔は、こうしたリミックスってよくあったと思うんですよね。シングルの中にデイヴィッド・モラレスのリミックスがあったり(渡辺註:なおさんがデイヴィットと言いかけていて、デイヴィッド・モラレスかな?と思って加筆しています)、エクステンディッド・ヴァージョンが入っていたりして、めっちゃカッコよかった。そういう世代だったので、自分の楽曲でもやりたいなと。そこで、自分がDJとしても、ビートメイカーとしても好きな3名を選んでリミックスをしてもらいました。B=BALLは昔から大阪のクラブで一緒にレギュラーをやっていたんで、あいつに任せたら絶対にやばいものが出来あがろうだろう、と。「こういうジャンルがよくない?」というようなやり取りもしたんですけど、最終的にはB=BALLに任せましたね。NOTYPE 9は、EASTAとKVGGLVがやっているユニット、SUMMER SNOWMANのメイン・プロデューサーでもあるんです。

EASTA NOTYPE 9はスイッチのオン&オフが激しいやつなんですけど、今回はいつもの3倍くらい気合い入ってるなと感じましたね。そこが嬉しかったです。彼はダブステップ出身なんですけど、今回のリミックスを聴いて、もともと得意としていたスタイルに戻ってきたような感じもあります。

NAOtheLAIZA KESSOくんは僕から声を掛けたんです。Tokyo Young Visionのレコーディングをしているときに、彼らKESSOくんのビートを使っていて、めっちゃかっこいいなと思っていた。スタジオに遊びにきた時にリンクして、機会があったら一緒にやろうと話していたんです。

EASTA 実際にクラブで聴くとめっちゃハマるんですよね。


プロデューサーとしても、前よりも柔軟になれた

―今後のプランはどうですか?

EASTA 「OSAKA LOVER」のリミックスを出します。あと、自分の次のアルバムも作っているので、それを出していければ。KVGGLVもいい感じなので、SUMMER SNOWMANとしても引き続きやっていきたいですね。

NAOtheLAIZA EASTAとこの作品を仕上げたことは、自分のキャリアにおいても何ていうか、いい挑戦でした。キャリアを重ねていくと、なかなか新しい動きってしづらいじゃないですか。自分から若いアーティストに対してアプローチしていく、ということも、自分にとっては新しい動きだったし、もともと自分は苦手だなって思っていたことだったんです。そういう部分においても、今回、一緒にやれてよかったなと思っています。プロデューサーとしても、前よりも柔軟になれたかなって思っています。

―NORIKIYOや般若といった、ベテラン格のラッパーとの制作とは違う良さがありましたか?

NAOtheLAIZA そうですね。そうしたラッパーの方との制作では、「やっぱりこの人らはすごいな」って実感するんですけど、今回は、若い子は若い子ならではの感覚でヒップホップを捉えていて、作品を作っているということを直に感じることができたんです。今後も、世代は関係なく自分が本当に好きな人と、ちゃんと責任持って作ることができるような気持ちで挑みたいですね。

EASTA アツいっす。

NAOtheLAIZA 今回の制作を経て、「やっぱり、ヒップホップはおもろいな」ってことを再認識したっすね。

<INFORMATION>


『T.U.R.N. 』
EASTA & NAOtheLAIZA
8月16日発売

CD予約リンク:
https://manhattanrecords.jp/T%EF%BC%8EU%EF%BC%8ER%EF%BC%8EN%EF%BC%8E/product/0/4582695060591/

配信リンク:
https://linkco.re/9pX9BsPm

[トラックリスト]
01. 123
02. OSAKA LOVER (feat. KUJA)
03. 笑って生きる (feat. ShowyRENZO)
04. SAUNA (feat. EMI MARIA)
05. らしいな
06. Do My Damn Thang
07. Too Busy (feat. SIMON)
08. I Decided
09. Papalapa
10. Happy End 2022
11. Straight Up (feat. JAGGLA & NORIKIYO)
12. 笑って生きる (feat. ShowyRENZO, Fuji Taito & eyden) [Remix]

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