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リアム・ギャラガー来日公演を総括 オアシスを継承する意思、世代を超えたファンとの絆

Rolling Stone Japan / 2023年8月25日 10時0分

リアム・ギャラガー(Photo by Mitch Ikeda)

SUMMER SONIC 2023に出演するためリアム・ギャラガー(Liam Gallagher)が日本に滞在している間に、今月リリースされたばかりのライブ・アルバム『Knebworth 22』が全英アルバム・チャートでNo.1を獲得した。ソロキャリアの大きな到達点であるネブワース公演のライブ盤がチャート首位に立った喜びを、リアム自身も19日にX(Twitter)で(彼にしては素直な)感謝の言葉を添えて投稿。必然的に、8月22日豊洲PITでSUMMER SONIC EXTRAとして開催された単独公演は、祝祭感に包まれたものになった。

入場して開演を待つ間、場内に流れるBGMはT.レックスやセックス・ピストルズ……選曲はリアムの兄でギャラガー兄弟の長男、ポールが担当していたようだが、それを聴きながら、「Cigarettes & Alcohol」を初めて聴いた瞬間の衝撃を思い出していた。今では単にグラム・ロックっぽいロックンロールとして認識されている曲かもしれないが、1994年当時はT.レックスのリフにジョニー・ロットンのようなボーカルを組み合わせるバンドなんて他にいなかったのだ。ありそうでなかったことをやすやすと実践してしまう、コロンブスの卵的な面白さが初期のオアシスにはあった。そうした”サンプリング以降”の編集センスでロックンロールを更新するスタイルは、メイン・ソングライターであったノエル・ギャラガーに依るところが大きいが、ノエルのコンセプトに血肉を与え、世間を振り向かせることができた最大の武器が、リード・シンガー=リアム・ギャラガーの強烈な声だったことは疑いようがない。

そんなことを考えながら勝手に熱くなっていると、いつの間にかBGMはストーン・ローゼズの「I Am The Resurrection」に。リアムの登場を待ちきれなくなった観客が、オアシスの曲かよ!と思うほどめちゃくちゃ騒いで盛り上がる。この曲をフルで流し終えたらちょうど開演、という算段になっているのは明らかで、今は活動していないローゼズもオアシスも、全ロックンロールをひっくるめて担う覚悟あり、という意思表示のようにも思えた。そしてBGMが終わり猛烈な歓声が上がるなか、暗転してオアシスの「Fuckin' In The Bushes」が流れ、メンバーが入場……100点のオープニングだ。


Photo by Mitch Ikeda

バック・バンドはギタリスト3人を含む6人を核に、曲によってコーラス2名や、リアムの息子、ジーン・ギャラガーがドラムスで加わる大所帯。リードギターの多くはダフィーやバクスター・デューリーのバックでプレイしていたマイク・ムーアが弾き、カサビアンのサポートでお馴染みだったジェイ・メーラーは思ったよりリードを任される機会が少ない。ボーンヘッドの後任として加わった3人目のギタリスト、リトル・バーリーのバーリー・カドガンはプライマル・スクリームで弾くときよりもかなり控えめで、主にリズム・ギター要員としての役目に徹しているように見えた。

ベースは引き続きベイビーシャンブルズのドリュー・マッコーネルが担当。ドラムスは怪我のため一旦離脱したダン・マクドゥーガルの代役として、アダム・フォークナーが急遽参加してツアーをこなしており、結果的にベイビーシャンブルズの傑作『Sequel To The Prequel』(2013年)でプレイしたリズム隊がリアムのバックを支えている。そしてキーボードは、レギュラーメンバーであるクリスチャン・マッデンが引き続き担当。彼は日本でもアルバム『These Were The Earlies』(2004年)がリリースされ、サイケ・ポップ好きの間で話題になったジ・アーリーズの一員だった。

ド頭からオアシスの「Morning Glory」「Rock 'n' Roll Star」でたたみかけ、「Wall Of Glass」へとつなぐ流れはサマソニ大阪、東京と同じ。しかし、ここからがひと味違っていた。2枚目のソロ作『Why Me? Why Not.』の冒頭を飾っていたのに日本公演ではなかなかやってくれなかった「Shockwave」を披露、これは待っていた人が多いはず。ガレージ感満点のギターリフが活きてトリプルギター編成にした効果がよく出ていたし、こういうブルージーな曲が今のリアムの声には合っている。

「Better Days」ではジーン・ギャラガーが加わってダブル・ドラムスに。親バカだと笑う人がいるかもしれないが、ビートを立体的に聴かせるうえでジーンの起用がちゃんと効いていて、スタジオ・バージョンよりもスケールが大きいグルーヴを生んでいた。適材適所で、単に思いつきっぽい使い方ではなかったことを強調しておきたい。ソロ・シンガーとして復活後、こういう前向きな歌詞も書けるようになったリアムがジーンと一緒に演奏している様子も、長年のファンとしては感慨深いものがあった。

続いてオアシスの「Stand By Me」「Roll It Over」「Slide Away」を立て続けに。メンバー・チェンジ後の過小評価されている4thアルバム『Standing On The Shoulder Of Giants』から、「Roll It Over」を選んでくれたことが何ともうれしい。『Knebworth 22』で取り上げられて再度光が当たるようになったこの曲、ジェイ・メーラーによるいぶし銀のリードギターも絶品だった。

今のリアムは誰のために歌っているのか?

そしてソロ作に戻り、「More Power」「Diamond In The Dark」「The River」「Once」を続けて歌う。兄と比べるとソングライティングが弱いと言われがちだったリアムだが、アンドリュー・ワイアットと共作するようになってからメロディの粒立ちが格段に良くなった。これら4曲はいずれもアンドリューとのコラボからうまれた曲。中でも「Diamond In The Dark」は2者の要素がうまく絡み合っているし、リアムひとりの引き出しでは作り得なかった名曲だな、と改めて思った。また、グラム・ロック譲りのリズムで跳ねる「The River」では、再びジーン・ギャラガーが入ってダブル・ドラムスで突進。続くバラード「Once」ではリアムのボーカルの輝きがいよいよ頂点に達し、この日のクライマックスとして推したい名唱でしんみりさせてくれた。昔は「成熟したリアム」なんて想像しにくかったが、さすがに30年も歌い続けると表現に深みが出てくる。


Photo by Mitch Ikeda

本編の終盤は、「Cigarettes & Alcohol」「Roll With It」「Wonderwall」「Champagne Supernova」「Live Forever」と問答無用の名曲ばかりを連打。セットリストではラスト2曲をアンコールで演る予定になっていたが、そのままぶっ通しで「Live Forever」まで演り切ってくれたおかげで、場内の興奮も最高潮となった。新ドラマー、アダム・フォークナーの威力は「Roll With It」で存分に発揮されていて、原曲でアラン・ホワイトが組み立てた弧を描くようなグルーヴを損なうことなく、堂々としたドラミングを見せてくれた。オアシスの曲でもソロの曲でも柔軟に対応、バンドの背骨としてきっちり役目を果たしたアダムの貢献はもっと賞賛されていい。

ここまでやり切ったらアンコールはないのでは……と思っていたところに、メンバーが戻ってきて演奏を始めたのは、なんとジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの「Are You Experienced?」! テープの逆回転を駆使した曲を、キーボードとギターを敷き詰めたアレンジに置き換え、サイケデリックなムードで場内を包み込んでいく。抑揚をつけ過ぎず、飄々と歌うリアムも実にいい感じ。それまで前面に出てくる場面がほどんどなかったバーリー・カドガンがようやく本領を発揮、彼らしい爆発的なソロを弾き倒して、実に爽快なエンディングとなった。


Photo by Mitch Ikeda

2019年のドキュメンタリー『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』を観た人ならわかると思うが、ビーディ・アイが志半ばで空中分解してしまった時点で、リアムの心は一回死んでいる。ミュージシャンとしてのキャリアが終わってしまう可能性すらあったどん底の時期を経験してから、一念発起してソロ歌手として仕切り直し、一歩一歩積み重ねてきた成果が、昨年のネブワース公演であった。今回のステージでいつになく「アリガトウ」と連呼していたのも、心からの感謝の表明だったはず。ビーディ・アイの頃のようにオリジナル曲中心で突っ張るのではなく、オアシスの名曲群も引き受けながらソロ活動を続けていく形になったのも、ファンとの絆を重視した結果だろう。”誰のために歌うのか”という明確な目的が今の彼にはよくわかっている……それを実感した一夜だった。

印象的だったのは、客席を埋めたオーディエンスの年齢層の広さ。リアムと同い年の自分のようなリアルタイムど真ん中世代よりやや上と思われる年配の方から、下はローティーンまで、皆が揃って歓喜の声を上げる光景は感動的なものがあった。自分は一番後ろのブロックで観ていたが、周囲には親子連れが何組も。それも無理やり連れられてきた風ではなくて、それぞれの目線で心底楽しんでいる様子だった。かつては終演まで全曲歌い終えるかどうかもわからない不安定なフロントマンで、プロ意識の欠如を批判されることも多かったリアムだが、時は流れて2023年……徹頭徹尾プロフェッショナルな姿勢で親子2世代を楽しませるエンターテイナー、というのが現在のポジション。”反社会的なロックンロール・スター”というイメージに囚われて破滅することなく、「俺には音楽しかない」と開眼することで、彼がひとりの歌い手として生き延びてくれたことを心から祝福したい。来年はオアシスのデビューから30周年となるアニバーサリー・イヤー、きっとまた何か特別なプレゼントを届けてくれることだろう。


〈セットリスト〉
1. Morning Glory (Oasis)
2. Rock 'n' Roll Star (Oasis)
3. Wall of Glass
4. Shockwave
5. Better Days
6. Stand by Me (Oasis)
7. Roll It Over (Oasis)
8. Slide Away (Oasis)
9. More Power
10. Diamond in the Dark
11. The River
12. Once
13. Cigarettes & Alcohol (Oasis)
14. Roll With It (Oasis)
15. Wonderwall (Oasis)
16. Champagne Supernova (Oasis)
17. Live Forever (Oasis)
EN. Are You Experienced? (The Jimi Hendrix Experience cover)

〈セットリストのプレイリスト〉



リアム・ギャラガー
『Knebworth 22』
発売中
再生・購入:https://liamgallagherjp.lnk.to/K22

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