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ソニックマニア総括 ジェイムス・ブレイクらが提示した「深夜ならではのカタルシス」

Rolling Stone Japan / 2023年8月25日 17時0分

ジェイムス・ブレイク(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

サマーソニック東京の開催前夜に幕張メッセにて行われるオールナイトの祭典、ソニックマニア。その最大の特徴のひとつは、クラブミュージックのDJ/プロデューサーと、クラブカルチャーに親和性が高いライブアクトをバランスよく織り交ぜたラインナップだ。8月18日に開催された今年もそんなソニックマニアらしさは踏襲しつつ、出演者の全体的な傾向はよりディープなクラブ寄り。それゆえに今年のソニックマニアは、オールナイトならではの興奮や喜びやカタルシスが例年以上に強く味わえる一夜だった。

【写真ギャラリー】ソニックマニア ライブ写真まとめ(全64点)


グライムス(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


グライムス(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

【Grimes (DJ Set)】21:00~21:50

筆者が最初に観たのは、SONIC STAGEのグライムス。今回はライブではなくDJセットでの出演だ。だがDJセットとは言うものの、実際は音と映像とダンスを掛け合わせた総合芸術表現と呼ぶに相応しい内容だった。

特に素晴らしかったのは、Perfumeのライブ演出でも有名なクリエイティブチーム、ライゾマティクスとコラボしたビジュアル表現。映像を照射する画面は、グライムス後方のスクリーンと、垂れ幕のようにステージ前面を覆い尽くす半透明スクリーンの計2枚。前方の半透明スクリーンは3D映像を投射できるのに加え、映像が視界全体に広がる巨大さのため、観客に強い没入感をもたらす。そして後方のスクリーンに投射されるのは、アニメ、中世ヨーロッパ、AI、ロボットなど、グライムスの美学が高圧濃縮されたギークな映像。この2つの映像の掛け合わせが、オーディエンスをグライムスワールドに引き込むのに大きな役割を果たしている。

視覚がそのような映像で支配される中、グライムスのDJセットが展開される。大箱向けのEDM~テクノを基調に、「Welcome To The Opera」「We Appreciate Power」など自身の曲から、マライア・キャリーやレディオヘッドやデヴィッド・ボウイやブルガリア合唱までを混合。グライムス節としか言いようがない、ソキゾフレニックでポップでマッドでマッシヴなプレイだ。さらに2人のダンサーによるパフォーマンスが、音と映像の世界観を引き立てる。もはや完全なる異世界。どれをとっても強烈なグライムス印。通常のライブ以上にグライムスの世界観が濃密に伝わってくるステージだった。

一応触れておくと、グライムスのDJ中、ステージ上でイーロン・マスクがグライムスの前に立ってずっと動画を撮っているのが邪魔だとSNSで炎上した。確かにイーロンはウザかった。だが、半透明スクリーンの後ろで2人とも陰になっていることが多かったので(そもそもグライムスの姿も最初から見えづらかった)、ステージ全体の世界観創出の邪魔にはなっていなかったのが不幸中の幸いだろう。



サンダーキャット(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


サンダーキャット(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

【Thundercat】22:00~23:20

グライムスが終わると、すぐMOUNTAIN STAGEに移動してサンダーキャット。ステージに登場したサンダーキャットは、ブレインフィーダーのロゴがプリントされた着物に猫耳のヘアスタイル。そして太陽のように明るい笑顔で「コンニチハ、ニッポン!」と元気よく挨拶。もうそれだけで完全につかみはOKだ。彼の人懐っこいキャラクターと日本愛がばっちり伝わってくる。

演奏はいつもながら超絶。音源では1、2分台の短い曲が多いが、ライブでは曲のフレーズをモチーフにしたインプロビゼーションで大きく引き伸ばされる。この即興の主役を張るのは、サンダーキャットのベースとジャスティン・ブラウンのドラム。どちらもひたすら手数が多いダイナミックなプレイで、流れるような滑らかさと目まぐるしい勢いで曲を展開させていく。そしてデニス・ハムの鍵盤は2人との間合いを計りながらグルーヴをキープ。相変わらず見事なトライアングルだ。

セット中盤には、MCで坂本龍一と対面したときのエピソードを披露。そして盟友テイラー・グレイヴスをゲストに迎え、坂本龍一の曲をサンプリングしたオースティン・ペラルタの追悼曲「A Message for Austin」と、坂本龍一「One Thousand Knives」のカバーをプレイする。ソニックマニア2日前のジェイムス・ブレイク大阪公演では、坂本龍一の「Andata」がオープニングSEに使われていたという。英米の素晴らしい才能たちからの立て続けのトリビュートに、改めて坂本龍一がワールドワイドに与えた影響の大きさを実感した。



シャイガール(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

【Shygirl】22:50~23:40

サンダーキャットに後ろ髪を引かれながら、ここでPACIFIC STAGEのシャイガールに移動。すでにライブは始まっている。ラップトップでトラックを流すバックDJが一人、そして幾つもの円形ミラーに囲まれてステージに立つシャイガール。ライブの形態は完全にラッパーのそれ。しかし、紫がかった青とピンクを基調としたソニックマニアの照明が、妖しげなクラブのような雰囲気も醸し出している。

UKクラブミュージックとハイパーポップとR&B/ラップのスタイリッシュなフュージョンを得意とする彼女だが、ソニックマニアの客層もあるのか、この日はクラブ寄りのアプローチが強い曲が映えた。特にセット後半にかけてのハウシーな「Poison (Club Shy mix)」、ジャージークラブとレイヴサウンドを接合した「TASTY」、ドラムンベースを搭載した「Crush (Live Edit)」は大歓声で迎えられた。これから深夜に差し掛かっていく時間帯に相応しい、夜の匂いがするディープなセットだった。


フライング・ロータス(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


フライング・ロータス(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

【Flying Lotus】23:50~1:00

再びMOUNTAIN STAGEに移動してフライング・ロータス。この夜、もっとも度肝を抜かれたのが彼のライブだ。

まずは強烈なサブベースでフロアを圧倒。間髪入れずに映画『ツインピークス』のテーマソングのリミックスで幕を開け、そこから最新作『Yasuke』のトラックを中心に幻想的な世界観を構築。フライング・ロータスの背面とDJブース前面、そしてブースの左右に設置されたスクリーンをフルに使った立体的なビジュアル表現が、サウンドのムードを何倍にも増幅させる。そしてデンゼル・カリーが参加した「Black Balloons Reprise」を皮切りに、ケンドリック・ラマーやアンダーソン・パークをフィーチャーしたラップトラックを連続投下。一気にギアが上がる。ファンカデリック「(Not Just)Knee Deep」やケンドリック・ラマー「Wesleys Theory」も織り交ぜて、さらにボルテージを上げていく。

驚いたのはここからで、なんとセット中盤はハウシーなDJセットに移行。筆者はドリンクを買うために5~10分ほどステージを離れたのだが、その間にDJセットに変わっていたので、一瞬何が起きているのかわからなかった。あれ、フライロー、もう終わったの?と思っていたら、「もっとダンスしたいか?」と客を煽るフライング・ロータスの声が聞こえる。一体どういうことなのか? アンジェロ・フェレーリ&ムーン・ロケット版の「From: Disco To: Disco」やローンの「Blue Moon Tree」でフロアを熱狂させるフライロー……ややシュールにも感じられたが、しっかりと観客の心をつかんで盛り上げていた。

最後はサプライズで、しかし誰もが待ち望んでいたサンダーキャットをステージに招いて共演。サンダーキャットの生ベースと歌声が入ると、グッとサウンドの立体感が増す。グルーヴも二割増し、三割増し。なにより気心が知れた間柄でのセッションゆえのリラックスしたヴァイブが心地よい。両者ともこのセッションを心底楽しんでいる様子で、終始笑顔を絶やさない。気づけば「Getting There」「Black Gold」「Dragonball Durag」「Them Changes」と4曲も一緒にプレイした。ぜひ次はフルセットでの共演ライブが観てみたい。



ジェイムス・ブレイク(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


ジェイムス・ブレイク(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

【James Blake】1:30~2:40

続いてMOUNTAIN STAGEに登場したジェイムス・ブレイクは、この夜のハイライトのひとつだった。ソニックマニア直前インタビューでも公言していたとおり、セットリストに9月リリースの新作からの曲は無し。だが、ライブ自体はすでに新作モードに切り替わっていた。つまり、いつになくダンスフロアのエナジーを直接的に反映させたパフォーマンスになっていたということだ。

この最新モードがわかりやすく表出していたのが、アンセム「CMYK」からそのままアントールド「Stop What You're Doing (James Blake Remix)」になだれ込む怒涛の展開。インタビューでは「新作に影響を与えたダンスミュージックをやる」とも話していたが、この辺りはまさにそうだろう。いつものように3人編成のバンド演奏だが、DJのように曲を繋いでアグレッシブなダンスビートを延々と打ちつける様は、完全にクラブのテンションだ。ほとんどマッシュアップのようだった「Choose Me」~「Coming Back」は音源とは比べ物にならないほど激しいアレンジに生まれ変わっていたし、ライブでは定番になっている「Voyeur」後半のテクノパートもいつになくハードで荒々しかった。

もちろんライブはハードでダンサブル一辺倒ではない。セット中盤にはスタンドマイクで歌うパートが用意されていて、ブレイクの繊細な歌をメインに聴かせる。今回のライブで際立っていたのは、しっとりと歌声を届けるパート=静と、激しいダンスミュージックのパート=動の強いコントラストだ。そのように明快な緩急がついていたからこそ、どちらのパートも生きていた。終盤にブレイクがスポットライトを浴びながら弾き語りしたフランク・オーシャン「Godspeed」のカバー、そしてそれに続いて披露された「Retrograde」が息を飲むほど美しく、感動的に響いたのが忘れられない。

内省的なシンガーとマッドなプロデューサーという極端な二面性をライブで表現し、そのコントラストによって両極の魅力を最大限に引き出すことに成功した今回のライブは、ブレイクのキャリアでも屈指の出来だった。


【Autechre】2:40~3:40

ジェイムス・ブレイクの余韻に浸る間もなく、SONIC STAGEに移動してオウテカ。オウテカのライブと言えば、漆黒の闇の中、無機質でストイックで緊迫感に満ちた電子音が飛び交うというもの。幕張メッセでこの暗闇をどのように実現するのかと思っていたが、なんと巨大な暗幕でSONIC STAGE全体を覆っている。徹底したこだわりようだ。入場規制の看板を横目に、暗幕の隙間からステージに吸い込まれると、まるで異世界にいざなわれるような高揚感を覚える。

暗闇の中で激しく乱れ飛ぶ電子音。当然VJなどなく、オウテカ本人の姿も見えないので、観衆はひたすら音に集中してついていくしかない。オウテカのライブは一切の予定調和を許さない。だから全体の展開にわかりやすい流れは見つけられない。静謐な空間に電子音が飛び交っていたと思ったら、突如、暴風雨のような激しさへと移行する。ようやく規則的なリズムが浮かんできたと思ったら、肩をすかすように不規則になったり、違ったパターンに展開したりする。一時たりとも観衆を安心させない、緊張感とスリルに満ちたライブ。普通であれば脱落者続出でもおかしくないが、深夜3時過ぎにこの場に集まっているのは熟練のオウテカ主義者たちなのだろう。通常なら踊れるはずがないリズムに喰らいつき、歪に体を動かしている。疲れて座っている人の中にも、上半身だけは激しく揺らしている人もいる。不思議とそのように体を動かしていると、不規則な電子音の中にも自分なりのグルーヴを見つけたような感覚になってくる。いわばオウテカズ・ハイだ。ソニックマニアだろうとどこだろうと、オウテカはオウテカ。一切のブレは無し。漆黒の世界にストイックな快楽が広がっていた。


ムラ・マサ(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


ムラ・マサ(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

【Mura Masa】3:10~4:10

オウテカが終盤に差し掛かったところでMOUNTAIN STAGEへ。このステージのトリを務めるムラ・マサのライブがもう始まっている。筆者がフロアに辿り着いたときには、ムラ・マサが生でスネア&タムを被せるドラムンベースのビートが鳴り響いていた。ジャージークラブとレイヴミュージックとドラムンベースの混合体「Whenever I Want」だ。筆者は巨大なマウンテンのフロアの中央右寄りにいたが、観客は互いに適度な距離を取って激しく踊っている。このノリは完全にライブではなくクラブのそれだ。フロアの熱気に当てられるように、ムラ・マサのテンションも上がる。正直言って、この夜のライブは2019年の単独来日公演とは比較にならない素晴らしさだった。アーティストとオーディエンスの相互作用、興奮と熱気の絶え間ない交換が美しい空間を生み出していた。終盤には自身が共同プロデュースしたピンクパンサレスの曲、「Boys A Liar」「Just For Me」を二連発という大サービス。そして最後はツアーシンガー2人が一緒に出てきての「Firefly」で大団円。高揚感と多幸感と達成感に満ちた空気で、MOUNTAIN STAGEの最後を締めくくった。


【ICHIRO YAMAGUCHI】4:00~5:00

外は少しずつ明るくなりはじめているが、ソニックマニアはまだ終わらない。サカナクションの山口一郎がオーガナイザーを務めるクラブイベント、NFの特別ステージはメッセからはみ出るくらい人が溢れている。それもそのはず。このステージのトリを務めるのは主催者ICHIRO YAMAGUCHIだ。筆者はステージ移動の際に何度かNFステージに立ち寄ったが、4つのステージの中でもっともストイックにDJ/クラブイベントの空気を創出し続けていたのがNFだった。ICHIRO YAMAGUCHIも硬派なテクノでまだまだ踊り足りない観衆をどこまでも熱狂させ続けていた。


ソニックマニアの会場内は大混雑だったが、チケットはソールドアウトまでは至らなかった。今年のサマーソニックが早々に両日完売したことを考えると、ソニックマニアには二の足を踏む客も少なくないのだろう。オールナイトだから翌日のサマーソニックに支障をきたすと躊躇した人もいるかもしれない。だが、ソニックマニアにはサマーソニックでは絶対に味わえないオールナイトならではのカタルシスがある。特に今年はそれを強く実感した。ジェイムス・ブレイクが提示したアグレッシブなビートへの熱狂、フライング・ロータスの豪放な楽しさ、オウテカのマッドな興奮、そしてムラ・マサを触媒として広大なMOUNTAIN STAGEに広がったオーディエンスの歓喜――それらは、どれも深夜のあの時間帯だからこそ生まれたものだ。音楽の世界には一晩のストーリーの中でしか味わえない感動もある。それをあの規模で実現するソニックマニアは本当に稀有なイベントだ。

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ムラ・マサ(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

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