BREIMEN・高木祥太と鳥飼茜が語る、音楽と漫画の創作論
Rolling Stone Japan / 2023年9月5日 18時0分
BREIMEN・高木祥太が話を聞きたい人を招いて対話する連載企画。今回来てくれたのは、高木が今最もハマっている漫画家・鳥飼茜。『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて連載されていた『サターンリターン』の最終巻が発売された直後、ついに憧れの鳥飼と会えることとなった。
【写真を見る】『サターンリターン』より
そもそもこの連載企画は、普段表に出ない人の人生にもドラマがあるし世の中には多様な価値観・生き方がある、といった高木の想いをもとにスタートしたもので、様々な人間や社会的状況をリアルに描く鳥飼の漫画にも近しい想いが流れている。二人は「人間」や「幸せな生き方」に対してどのような考えを持っているのか、なぜ「他人」を知ろうとするのか、そしてそれらをいかにして作品で表現しようとしているのか――二人の創作論は深いところにまで潜っていった。
※この記事は「Rolling Stone Japan vol.22」に掲載されたものです。
高木から見た鳥飼の漫画のすごさ
高木 鳥飼さんは僕が最近一番ハマってる漫画家さんです。『サターンリターン』が本当にもう、最高の漫画で。そもそも僕、めちゃくちゃ漫画読むんですよ。その中でも鳥飼さんの作品は全部読もうと思って、『地獄のガールフレンド』、『おはようおかえり』……。
鳥飼 あ、すごく古いのまで。
高木 『前略、前進の君』、『ロマンス暴風域』、『先生の白い嘘』、『おんなのいえ』……2つくらい以外は全部読んだと思います。最初に『先生の白い嘘』を読ませていただいて、衝撃的にくらって。僕の人生史上、その漫画家さんの作品を全部読みたいと思ったのが鳥飼さんと古谷実さんで。そこからインタビューとかを読んでいたら、古谷実さんのアシスタントをしていたことがあると知って。
鳥飼 そうなんです。私が唯一、長くアシスタントを勤めたのが古谷実先生で。
高木 それが自分的にしっくりきたというか。古谷さんも鳥飼さんも、それぞれ根幹のテーマがあって、作品によってその出し方を変えているというふうに思っていて。
鳥飼 そうですね。自分のことはあんまりわからないんですけど、古谷さんの話で言えばめっちゃそうだなって思います。
高木 僕的には同じだなと思いました。今回話をする前提として、僕、男性じゃないですか。あえてわけちゃいますけど、鳥飼さんの作品を読んで男性と女性で受け取り方が違うと思っていて。俺が受け取れる部分はどうあがいても一線あるような気がしている上でいうと、「性差」というテーマで、初期の作品は女性性の方に寄っているけど、『ロマンス暴風域』あたりから「なんでこの人はこんなに男のそれをわかるんだろう」みたいな……。
鳥飼 「それ」!(笑)
高木 本当にすごいなと思って。鳥飼さんの全作品に言えることは、ディテールがすごい。登場人物全員のディテールが細かくて、全員を主人公にして別の漫画ができるくらい。全員魅力的だし、醜いし。
鳥飼 醜いですよね(笑)。
『サターンリターン 』全10巻
小学館
発売中
主人公・加治りつ子が大阪に向かうシーン/『サターンリターン』第66話(8巻)より
高木 その塩梅がすごいなと思います。あと、現実の中で起きる、本当はいろんな人に起こっているであろう感情とか小さな出来事を広げていくような漫画というか。リアルなんだけど、リアルの中に存在する非日常的な部分にフォーカスがあたっていて、かつ、作品によってその出し具合や非日常度合いが違う。『サターンリターン』でいうと、主人公の(加治)りつ子が大阪の街に向かうあたりから急展開になって、だんだん壊れていくじゃないですか。
鳥飼 そうですね。今後はこういう展開にしていくということを、ちょっと宣言的な感じで描かせてもらったりして。それは、途中で色々あったんですよ。
高木 そうなんですか?
鳥飼 生活でも問題が増えて、本もどんどん売れなくなったんですよ。このままだと続けられないかもしれない、と。というのも作家が漫画を描き続けるには結構出費があるんです。だから部数が減っちゃうと赤字になっちゃうんですよね。こうなると長くは続けられないから、モチベーションを高めるためにもよりドラマチックな展開に振り切ろうと思って、そこまで考えていた設定を一回全部捨てちゃったんです。
高木 そうだったんですね。『サターンリターン』が他の鳥飼さんの作品と差があるとしたら、『サターンリターン』はそこらへんにいそうだった人にドラマ性があるという部分かなと思っていて。
鳥飼 すごいですね、全部お見通しで(笑)。やっぱり、エンタメ性が私の漫画には欠けているなとずっと思っていたし、あとは、自分の想定外の行動をさせることって難しくて。自分も生活で自身を抑えつけていたような感覚でいたから、自分の描いてるキャラクターが自由になるのが許せなかったんです。だからりつ子にちょっと変わったことをさせても、常に想定内のところで終わってた。それに対して読者も、中途半端というか、「もっと来いよ」という感じだったのかなと自分で思っていて、だから途中からとにかく自分の手から遠くに飛んでもらうことに集中して。最後はもう本当に遠くに行っちゃって、憧れてました。りつ子が羨ましかった。
高木 雑な言い方ですけど、『サターンリターン』は完璧な漫画だと思ってます。鳥飼さんの全部の漫画に言えるんですけど、特に『サターンリターン』は登場人物が多いと思うんですよ。
鳥飼 多いですよね。「女性8人を巡礼する」みたいなストーリーで、さらに周辺人物と、主要人物の3名とかがいるので。最後の方のシーンとか1個のコマに7、8人くらいいるんですよね。
高木 しかも、全員の表情をちゃんと描くじゃないですか。
鳥飼 もう描くのほんと嫌だと思って(笑)。なんかね、気になっちゃうんですよね。
高木 絶対そうだなと思って。創作物って共通点を探したら全部にあると思うんですけど、特に音楽と漫画は近いと思っていて。漫画の要素としてはお話と絵があって、音楽は詩と曲がある。話や詩だけだったら本でいいわけで、そこに絵や音が入ってやっと成立するというか。それでいうと、鳥飼さんの漫画はデザイン性とか絵のディテールがすごいから、バランスとして絵が占めている要素が多いなと思って。
鳥飼 説明が、文字情報より絵でわかるということ?
高木 そう、絵で補填されているというか。
鳥飼 へえー! それは描いていてよかったです(笑)。
高木 カメラワークとか、アングルの切り替えとか、寄りからいきなり広いところへ行くところとか、めちゃくちゃすごいなと感じました。……すみません、オタクな意見で(笑)。
鳥飼 いやいや、嬉しいです。今、褒めてもらうボーナスタイム(笑)。
なぜ人間の魅力と醜さを描くのか
高木 さっきも言ったんですけど、登場人物全員、魅力的なんですけど醜くもあって。
鳥飼 そうですね。
高木 全員を魅力的に描き切らないって、意外と難しいことだと思っていて。『サターンリターン』だと、りつ子の編集担当の小出くんの醜さの加減がすごく絶妙だなと思いました。小出くんとか、彼女のまきちゃんは、この話の中ではわりと魅力的な部類の人たちじゃないですか。
鳥飼 そうです、善良さを担保しているので。
高木 でも醜さとか、小出くんだったら幼児性とかを出してくる。別に魅力的なまま描いても成立すると思うんですよ。それをやらないことも、本当に、リアリストだなと思ったんです。
鳥飼 あ、そうですね。自分のことを一言で言うとそう思ってますね。うんうん。
高木 めちゃくちゃリアリストだから、逆に嘘とかのぼかし方ができないんだろうなと思って。
鳥飼 できないんですよねえ。それがネックでもある(笑)。
高木 いやそれはすごく魅力だと思うんですよ。
鳥飼 多分、若い時は理想があったと思うんですよ。「こういう異性がいてほしい」とか、友情も一生続くと思ってるし、家族も立派だと思ってるつもりだったし。でも生きていくとだんだん「あれ?」ということが起きるじゃないですか。「すっごく信頼していたけど、この人は私にこういうことをしてくるんだ」とか。私にだけじゃなくて、「男の人ってこういうものだと思っていたけど、女性に対してこういう態度をするなあ」とか。そういうことがいろんな人と会っていく上でたくさんあって、それにいちいち幻滅しているわけですよね。ただ、ショックを受けても立ち直っていかなきゃいけない。落ち込んで沈んでしまったら生きていけない、というのが現実主義なのだろうなと思うんですけど。だから何をするかというと、全部の可能性を含んでおいて、人と会っていく、生きていく。
高木 うんうん。
鳥飼 楽しいことがあると別の側面では誰かがつらかったり、傷つけられることはあるけど自分が傷つけていることも絶対にあったり。なんていうか、10:0では生きていけない。自分が手負いになる部分は絶対に出てくるから、「保険」じゃないんですけど……。
高木 保険? 面白い。
鳥飼 保険というといやらしいな(笑)。もちろん、理想のことを詰め合わせて世界を作っていくやり方もあると思うけど、それはどうしてもできなくて。昔、少女漫画の雑誌にいたんですよ。
高木 そうですよね。
鳥飼 中高生の女の子たちが読む『別冊フレンド』でデビューしたんですけど、やっぱりどうしても理想の恋愛とか、キラキラした側面にフィーチャーすることが途中からできなくなっちゃって。私は基本的に希望を持って生きているんですよ。他の人もそうあってほしいんですね。そうじゃないと自分が幸せになれないから。自分が幸せになるために相手の人も幸せでいてもらわないといけないということで描いているんだと思うんです。
高木 わかります、うん。『サターンリターン』もそうだけど、10巻完結で、9巻で終わらせられるというか、多分終わらせられるタイミングはいくらでもある中で……。
鳥飼 すご! すごいですね(笑)。
高木 でも最後に、それまでの流れを汲んだ上でありえないくらい前を向いていくところにすごく意志を感じて。
鳥飼 めっちゃびっくりした。そう、内容的には9で終われたんです。めちゃくちゃすごいですね。
高木 俺にとってはこの10巻があるのが鳥飼さんの漫画なんですよ。重いテーマとかを扱っていく中で、別にそれを押し出したいわけじゃなくて、それを経た上でどう前を向いていくかとか、希望の部分を描く。『サターンリターン』も読後感としては、別にハッピーエンドではないけど、でも絶対に前を向いている描写というか。鳥飼さんの漫画ってこれだなと思いました。
鳥飼 私がリアリストであるということは、キャラクターとか役割を固定させないんですよね。だって普通に生きていても、一人の人が請け負っている役割って絶対に一個ではないじゃないですか。大きく言ったら、場面によって「マイノリティ」とか「マジョリティ」というのも入れ替わる。
高木 そうですね。
鳥飼 私から見ると、全部が交代ばんこなんですよ。人をフッたら次フラれるし、助けたら助けられるし。一側面だけで人生は終わらせてくれない。そういう厳しいものじゃないですか。だから、それを見ていたいんですよね。
高木 なるほどなあ。さっきのカメラアングルの話にも通じるのかなと思って。善悪は決めつけられなくて、どの角度から見るかによっても違うし、状況においても違うし、社会的な立場もそう。人ってシンプルではないというか。ある人から見たら素晴らしい人かもしれないけど、ある人から見たらそんなことはなかったり。いろんな角度がある中で、どの角度をどれくらい描くかというレンジがあると思うんですけど、鳥飼さんはそれを本当に描ける限り描いてる。だからリアルだし。
鳥飼 楽しみたいんですよ、自分が。
高木 だから登場人物が生きている感じがするんですよね。
最終巻にて。複数人の表情や背景が緻密に描かれている1コマ/『サターンリターン』第81話(10巻)より
自分が自由で幸せであるために
鳥飼 私は、社会問題を描いていこうみたいな大きい動きをしているわけではなくて。自分が生きていて実際に接してきた友達の話や自分に起こった出来事について「なんでこんなことになったんだろう」って、「なんで」を考える方なんですよ。誰かが悲しんだ、傷ついた、苦しかったという時に、なんでそれが起きてしまったのかを分解していく。そうすると「不条理だな」みたいなことが残るんですよね。「救いたい」と言うと大袈裟だけど……手紙みたいな感じ。自分が物語を描いて何を救えるのかはわからないんですけど、私なりにそのことについて考えてみて、その結果を描いたというようなところが多くて。『サターンリターン』については、知ってる人の自殺があったり。まあ、生きていたらあるじゃないですか。「なんであの子はそんなふうにならざるを得なかったんだろう」って、やっぱり思うんですよね。
高木 うんうん。
鳥飼 その子だけじゃなくて、今後自分も含め、誰かが同じような立場に立たされることは全然あるから。さっき言ったように、持ち回りの話で。何かの事件というのはその人だけに起こった物語ではないんですよね。いいことも悪いことも持ち回りなんですよ。
高木 うんうんうん。
鳥飼 だから悪い事件が起きたら、それは次に自分の身に起こり得ることで、自分の知り合いの身にも起こり得ることで。巡ってくるから、巡ってくる前にいかに負担を減らせるかとか、そういうことを考えているんだと思うんです。
高木 バトンみたいなことですよね。負のバトンもそうだし、いいバトンもそうだし。
鳥飼 そうそう。どうやったら負がより軽くなるかということを……別に漫画で解決できないんですけどね。あとは『サターンリターン』でいうと、自分もいい大人の年齢になって、色々と持っているわけですよね。子どもとか、家族とか。お金、若さ、立場、評判……「持った」「持って嬉しかった」というものがなくなることってすごく怖いんですよね。その怖さにどうやったら抗えるか。どうやって目を瞑らずに怖さを持ったまま生きていこうかを考えた時に、「喪失」というテーマで描いてみるのはひとつの方法だなと思って。
高木 漫画という媒体を通して社会運動をしたいみたいなことではないのはすごく感じていて。鳥飼さんの漫画でいうと、「性差」とかのテーマはどういう話を描いても滲み出てしまうものだとわかるんですよ。
鳥飼 そうなんですよね。あえてテーマに取り上げるという感覚はそもそもそんなになくて。今は少なくなってきたけど、「女の人の生きづらさを主に描いてほしい」みたいなことをお願いされたりするんですよ。それは、「言われなくてもそうなっちゃいます」という感じに近くて。自分は何かを告発しようという気があるとかでもなく、ただ本当に、幸せで生きていたいんですよ。私は個人主義なんだけれども、私が幸せで自由だったらいいんです。だけどそれを邪魔してくるものがあるんですよね。誰かが自分に圧をかけてきたり、逆に言えば私も何かの圧をかけてしまっていることがあって。性別の話を描きたいというよりは、自分が女で生まれてきて、高校生以降くらいから「女に見えているからこうなんだな」みたいなことがどうしても増えてきて。「自由に楽しく生きたい」がテーマでやると、それになっちゃったというのが近いかなと思います。
高木 鳥飼さんは男性側の視点も描くじゃないですか。『先生の白い嘘』でも、性暴力をしている早藤くんが最後に壊れていく様を描くことによって、この人にも社会がそうさせている部分があるということを描く。そこもリアリストだなって思いました。そこは描かずに突っ放しちゃうやり方もあったと思うんですよ。
鳥飼 女性が受ける不条理みたいなことを描いたら、男性側のそれも描くというのは、もう本当に単純で、私は異性愛者なので私一人で幸せになれないんですよね。女性が女性から尊重されたいというのもあるんだけど、女性が男性からちゃんと尊重されて生きていけるようになりたいし、そう願った時に、男性側に何か不満とかがあると難しい。結局、自分らが自由で幸せにいようと思ったら、自分ら以外の人たちも自由で幸せじゃないと成立しないというか。「私はこうしたいんです」「僕はこうしたいんです」がパンってぶつかっちゃうから問題になるのであって、それがぶつからないで両立できる方法を……。
高木 そうですよね、わかります。
鳥飼 ですよね。ただそれだけのことじゃないですか。
高木 うん、そうです。
鳥飼 だから、その一歩としてまずは「こうしたいんですね?」「なんでなんですか?」「それはどうしてできてないんですかね?」ということを知りたいし、見たいし、見せたいというか。そういう感じでやっていたら、いろんな人(登場人物)が出てきたということなのかな。
高木 まったく同じで。俺も個人主義なんですけど、自分がこうしていたい、でも自分と違う考え方の人たちもいいと思える社会でないと自分のそれが成立しなくなっちゃう。個人主義だからこそ、相手のことをより知る必要があるんだと思うんですよね。
鳥飼 そうだと思う。「自分も我慢してるんだから、そっちも我慢すべきだ」という考え方の人もいるから。みんなが思い思いに好きなことをやっていたらむちゃくちゃなことになるぞ、という不安が強い人たちっていて、そういう人たちからすると何かを我慢することがデフォルトなんだよね。
高木 めちゃわかります。
鳥飼 それ私ずっと、すっごく謎なんですよ。なんで我慢する方法で解決すると思っちゃったんだろうって。そうなっちゃうと「自分はこうありたいんです」という人に対して、「自分は我慢してるのになんであいつは自由にしてるんだ」という怒りに変わっちゃう。それでぶつかっちゃうことがよく起こっているから。だから「その我慢してるものって何なんですか?」ということを拾いにいかなきゃいけないのかもしれないし、それはどっちにも義務があると思う。そういう意味で他人に興味を持っていくことしかないですよね。
『サターンリターン』第1話の1ページ目
人間の多面性を見せることへの挑戦
ー「相手のことを知りたいし、見たいし、見せたい」という意志がお二人に通じている中で、どれだけ相手のことを見ようとしても結局は自分が見たいようにしか見ることができない、というリアルも鳥飼さんの作品の根底部分には流れていると思うんです。それはBREIMENのアルバム『FICTION』のコンセプトにも通ずるもので。
高木 『FICTION』は、めちゃくちゃ人を傷つけてしまって、自戒の念も込めて作り出したアルバムで。俺から見たあなたは一面でしかないし、あなたから見た俺も一面でしかない。どこかで自分の見たいものしか見えない瞬間があるということに自覚があるから。たとえば「綺麗事」という曲は、恋愛のよかった部分だけを映画的に切りたいように切り取ってロマンチックに描いていたりするんですけど。そもそも作品化すること自体が、切り取ってしまっているから。
鳥飼 そうですね。
高木 それを、自戒の念と「これは事実ベースの話だけど俺目線でしか切り取れてないよ」ということを前提として、アルバムタイトルに付けたというか。
鳥飼 ああ、それを『FICTION』と。
高木 そう。俺はある意味諦めたというか。「作品ってフィクションだよな」という気づきでもあったんですけど、鳥飼さんの漫画を読んだら、ギリギリまで全部を見せようとするアプローチがあるんだなということを思いました。ひとつの事実のどこをどのアングルで切り取るのか、その認識ってものを作っている人だったら全員あると思うんですよ。でも俺は鳥飼さんの作品を読んだ時に「いやもうちょっと頑張ります」と思って。
鳥飼 (笑)。『FICTION』という名前を自分でつけちゃったのは、聴いている人に何をどう思ってほしくて?
高木 音楽ってすごく即効性のある媒体だと思っていて。だからたとえばサビが終わって「えっと、これはあくまで僕からの視点でしかなくて、これが事実というふうには捉えないでほしいです」って言ったら変じゃないですか。
鳥飼 はい、ですね(笑)。
高木 だからそれをアルバムタイトルに入れたというか。伝わりやすいかって言われたら、そんなことはないと思うんですけど。これは事実があった上であくまで俺視点の話でしかないということをわかる形にしておきたかった。
鳥飼 ああ。多分、途中まで自分もめっちゃ近いんですよね。ただ最終、そこに「フィクション」というタイトルを私はつけない。「これはあくまで私の見た一面なので」というのはもちろん絶対にそうなんだけど、「すべての可能性を探ってみました」みたいなことをやりたいんですよ。
高木 めちゃくちゃわかります。それこそ鳥飼さんの漫画を読んで……別に『FICTION』が「諦めた」とは思っていないけど。
鳥飼 いや、それは「親切」だと思う。
高木 もっと自分の中でいろんな可能性を探して、という作り方もありなんですけど、それをやったら多分3年後くらいに出せる感じだったなと思って。自分の人生のタイミングとかも含めて、「フィクション」というていでアルバムを出すことが必要だったんですよ。だから『FICTION』は納得いってるし、すごく好きなアルバムで。多面性を探るよりは、もうめちゃくちゃ振り切って、俺の視点ということに開き直っちゃうというか。
鳥飼 だって音楽は時間の尺があるから。時間が限られている1曲の中でできることって、すっごく無限だし、限られてるじゃん。それに嘘つきでいたくないというか、なるべくパンツ脱いでいたいという感じは、私も一緒なんですよ。
高木 そうですね。
鳥飼 だからすごくわかるんだけど、多分、それをどこまでやっても見る人からすれば一面でしかないことにも変わりがないから、すごく葛藤がある問題で。本当はまん丸のボールの全部剥き出しのやつを出したいんですけど。
高木 わかります。
鳥飼 でもそれって不可能じゃないですか。いろんなカメラがあるから。なるべく球体に近い多面体を作っているけど丸にはならない、みたいな感じで。でも一回は『FICTION』という一点に落とし込まないと自分が納得いかないというのはすごくよくわかる。
高木 鳥飼さんの漫画は本当にそれを感じたから、憧れ的な意味も含めて好きだしすごいなと思います。音楽におけるそれの限界も確かにあるとは思う。でも媒体は違えど、剥き出しをギリギリまで描こうとしていることへのリスペクトがすごくあります。
鳥飼 そういう……露出狂じゃないんですけど(笑)。ちょっとそんな感じなのかな。
高木 そうですよね(笑)。この企画にあやかって普段だったら会えない鳥飼さんを呼べて、本当に感謝してます。いくらでも話せるなという感じなんですけど(笑)、本当にありがとうございました。
鳥飼 2時間しゃべり通しでしたね。こちらこそありがとうございました。
高木 舞い上がってしまった部分もありつつ、楽しかったです。普通にまたしゃべりたいです。(カメラ)なしでも。
鳥飼 ですね、ぜひぜひ!
Text&Editor by Yukako Yajima
左から鳥飼茜、高木祥太(Photo by 2025, Hair and Make-up・Styling by Riku Murata)
BREIMEN
常軌を逸した演奏とジャンルにとらわれないスタイルで注目を浴びる5人組オルタナティブファンクバンド。2022年5月リリースされたポルノグラフィティ岡野昭仁とKing Gnu井口理のコラボナンバー「MELODY(prod. by BREIMEN)」では高木祥太(Vo.&Ba.)が作詞作曲を手掛け、メンバー全員が演奏・編曲を担当。同年7月に3rdアルバム『FICTION』をリリース。
BREIMEN 最新シングル
「T・P・P feat.Pecori」
配信中
BREIMEN ONEMAN TOUR 2023 「COME BACK TO BREIMEN」
2023年10月13日(金)東京Spotify O-EAST
2023年10月20日(金)大阪BIGCAT
2023年10月28日(土)広島Reed
2023年10月29日(日)福岡CB
2023年11月5日(日)金沢AZ
2023年11月6日(月)名古屋ElectricLadyLand
2023年11月21日(火)仙台MACANA
2023年11月23日(木)札幌Sound lab mole
鳥飼茜
漫画家。1981年生まれ、大阪府出身。2004年に『別冊少女フレンドDXジュリエット』でデビュー。『先生の白い嘘』『地獄のガールフレンド』などを手掛ける。最新作は『サターンリターン』。
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