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テラス・マーティンが語る「LAらしさ」と知られざるルーツ、石若駿に会いたい理由

Rolling Stone Japan / 2023年8月29日 18時10分

テラス・マーティン

ここ数年、テラス・マーティン(Terrace Martin)は規格外といえるほどアクティブに活動している。Love Supreme Jazz Festivalでの来日も話題になったロバート・グラスパー、カマシ・ワシントンとのディナー・パーティー名義で2作のアルバムをリリースする傍ら、盟友グラスパーの『Black Radio 3』やレオン・ブリッジズ『Gold-Diggers Sound』から、リゾ『Special』、セレステ『Not Your Muse』、バッドバッドノットグッド『Talk Memory』といった話題作まで幅広く貢献してきた。

さらにリーダー作も、2020年から昨年にかけてアルバム3作・EP4作を、自身のレーベル「Sounds Of Crenshaw」から立て続けに発表。2021年のアルバム『DRONES』はグラミー賞にもノミネートされた。さらに、今年もすでに『Fine Tunes』『Curly』という2つのアルバムをリリースしており、常に何かしらの作品に取り組みながら動いてきた印象がある。

ケンドリック・ラマーやスヌープ・ドッグをはじめ、数多くのプロデュースワークで知られるテラスだが、彼はグラミー賞にもノミネートされた『Velvet Portraits』(2016年)、The Pollyseeds名義での『Sounds Of Crenshaw Vol. 1』(2017年)、Gray Area名義での『Live At The JammJam』(2020年)といった作品で、サックス奏者としての自分を中心に据えたバンドでの録音にも力を入れてきた。最新作の『Curly』は『Velvet Portraits』にも通じるソウルフルなアルバムで、コリー・ヘンリーやロバート・スパット・シーライト、ニア・フェルダー、ラリー・ゴールディングスといった世界最高峰のジャズ・ミュージシャンが集まった豪華バンドによる楽曲が収められている。

9月11日(月)横浜、12日(火)大阪、14日・15日東京のビルボードライブで開催される来日公演では、『Curly』のサウンドを再現するためにサックストリオ編成で来日するという。ここでは『Fine Tune』『Curly』を中心に、近年のテラスについて話を聞いている。驚異的なリリースペースにも関わらず、どの作品もコンセプトが明確に固まっていることにも驚かされるし、彼の知られざるルーツがいくつも明らかになった。ちなみに、このインタビューを実施したあと、彼はボサノヴァがテーマにあると思われるEP『NOVA』をリリース。創作意欲が爆発している今のテラスを見逃す手はないだろう。さらに彼は、日本のジャズシーンへ熱視線を送っているようだ。



―秩父でのラブシュプはどうでしたか?

テラス:最高だったよ。ジャズやヒップホップを日本で演るのはいつも最高の体験なんだ。日本はそれらのカルチャーをずっとサポートしてくれているからね。僕自身にとって、日本はアートを率先してサポートしてくれている国の一つで、とにかくみんなすごく理解してくれている。だから、日本はライブをしたい国の一つで、毎回新しい発見がある。自分にとっては日本での初めての野外フェスだったけど、若いファンが笑顔で踊ったりしている姿を見ることができて嬉しかった。

―今日はあなたが近年発表してきたアルバムの話を聞かせてください。まずは2021年の『DRONES』から。

テラス:OK。このアルバムのコンセプトはケンドリック・ラマーやPunchを始め、このプロジェクトのために僕が厳選したアーティストたちとネット社会について交わした会話に基づいている。インターネットってすごく役に立つツールではあるけど、一方で悪いこともたくさん起こっていて、実際のところいろんなデータがどう利用されているのかわからないことも多いよね。

みんなと話していて一致した意見は、ネットは僕たちからある意味で人間性を奪ってしまったというか、いわゆる気持ちとか感情が追いやられてしまったということなんだ。今の時代、世界中で多くの悲劇や人を傷つける出来事がたくさん起こっていて、その中で多くの人々が辛い思いをしているけど、僕たちはそれを手元の携帯やインスタで簡単に目撃することができるよね。その手軽さがある意味、人間の感覚を麻痺させている。感情を持った生き物である人間らしい部分が麻痺して、人間をドローン(無人機)みたいにしてしまっていると思うんだ。このアルバムは、そんな時代のなかで自信のなさや恐れ、不信感、愛情を感じない、といったことで悩んでいる人々をテーマとして取り上げることで、みんなに手を差し伸べる試みの一つとして取り組んだんだ。




―コンセプトを念頭に置くと聴こえ方が変わりそうですね。では次に、『Fine Tune』について聞かせてください。

テラス:簡単に言うと、多くのアーティストと自分が好きな色々なスタイルの音楽をまとめたコンピレーション。ガンボみたいなものだね。『Fine Tune』は僕が新しく立ち上げたジャズレーベルとBMGとのパートナーシップによる「Sound Of Crenshow Jazz」というプロジェクトの第1作目で、このプロジェクトから今後出る作品(訳註:今年中に計6作リリースされる予定)がどんな感じになるかを知ってもらえるヒントみたいなもの。例えば、本作にコリー・ヘンリーをフィーチャーした曲があるのは、次作『Curly』に彼の曲が収録されているから。つまり、本作に収録されている曲は、どれも今後Sound Of Crenshow Jazzから出る色々なアルバムの一部が盛り込まれているわけ。だから『Fine Tune』のコンセプトは今後の作品の導入編みたいなもので、『Curly』はそのシリーズで紹介していくテイストを持った最初のオフィシャルな作品ということになる。




―『Fine Tune』は連作のサンプラーみたいなものだと。では、『Curly』についても聞かせてください。

テラス:『Curly』はハモンドB3オルガンの持つエネルギーから派生したグループのこと。ハモンドオルガンを取り上げた理由は、僕に演奏というものを教えてくれた亡き父が熱狂的なオルガンのマニアだったことから。僕も父もオルガンが大好きだったから、自分のルーツである「人をハッピーにさせる音楽」に立ち返ったプロジェクトをしてみたいと思ったんだ。教会とジャズやブルースのクラブが身近な環境で育った僕にとって、オルガンとサックス、ドラムは家にもあって幼少期から目にしてきた一番付き合いが長い楽器。だから、ハモンドB3オルガンの力を借りることで僕と父のルーツを象徴するのと同時に、今後を表わした作品を作ってみたかったんだ。そういう意味で、僕にとって『Curly』とこのバンドは特別な存在だよ。実は今度の来日も、このオルガングループ・Curlyを連れて行くことになっている。すごくくつろいだ雰囲気のライブになるから今からすごく楽しみにしているよ。



―教会での体験について聞かせてもらえますか?

テラス:僕は教会で育った。一般的に黒人のカルチャーにおいて教会はすごく重要な存在で、人生の一部なんだ。僕の家族は敬虔なクリスチャン・ファミリーで、曽祖父母が教会に熱心に通っていたよ。僕はゴッド・イン・クライスト教会(訳註:略称COGIC)という教区で生まれ育ったんだけど、家族の中にはその教会コミュニティで司教や福音伝道者を務める人もいたね。

そういった教会にはオルガンが必ずあって、僕もドラムや他の楽器よりも先にオルガンを目にしたのを憶えている。店先教会って呼ばれる小規模の教会のほとんどにはオルガンだけしかなくて、ドラムとか他の楽器は置いてないんだ。そういう教会では全ての要素を兼ね備えた楽器であるオルガンでペダルがベース、ミドルパートがコーラス、そしてトップパートがメロディーを奏でることで、まるで他の楽器があるかのようなサウンドを生み出してくれる。だから教会の世界でのオルガンは、僕や僕の年代にとってチャーチ・ミュージックの中心的存在なんだ。最低でも週に4〜5回はオルガンを耳にしてたし、家にもあったし、ジャズミュージシャンだった父はジャズオルガン奏者たちが周りにいる環境で育った。それで僕も自然にオルガン奏者たちと繋がっていった。

今も(自宅スタジオにいる)僕の後ろにオルガンがあるのが見えるだろ? とにかくオルガンってすごく深いんだよ。そんな背景で、感情を駆り立てるその音色を聞くことが昔からの僕自身のオルガン体験だった。オルガンは誰も気づかないような特徴のないBMGを奏でることはないんだよね。オルガンは伝えたいメッセージがあるときに聞こえてくる音色。礼拝での「そして神は仰られた、バーン!」っていう風にね。だからオルガンはブルースでよく使われる楽器でもある。ブルースのオルガンの音色には、まるで自分の内臓がオルガンに引っ張られるような感覚を覚えるよね。本当にソウルフルな楽器だよ。

ちなみに、ハモンドB3オルガンは日本でも特別な存在なんだよね。素晴らしいオルガン奏者もたくさんいるし、みんな楽器をとても大切にしている。だから今回の公演では演奏を楽しんでもらうだけじゃなくて、アメリカでは忘れられてしまったものを存続させてくれている日本に対して、感謝の気持ちを示したいと思っているんだ。

知られざるルーツ、同世代へのシンパシー

―『Curly』のインスピレーションになったアーティストを教えてもらえますか?

テラス:『Curly』は亡くなった父の魂にインスピレーションを得たアルバムだけど、音楽的にはあの独特のサウンドにたどり着けたのは、ジミー・スミスやラリー・ヤング、キャプテン・ジャック・マクダフ、ドン・パターソンをはじめとする、ジャズジャイアンツたちのおかげだから、彼らにも敬意を表したいと思う。

彼らは有名な面々だけど、この他にもあまり知られていないだけで、負けずとも劣らず凄腕オルガン奏者がたくさんいるんだ。例えばJean Mallard、オマハ出身のSugar Dumplingや Andre Lewis、ミネアポリス出身のBilly、ヒューストン出身のHolliman Bobby Lowellとかね。僕は彼らをオルガン・モンスターって呼んでるけど、彼らにもインスピレーションを得ることで、当時取り組んでいたことを一旦ストップして、オルガンを最前面に出した作品を作ってみたいと思ったんだ。




―『Curly』はオルガンがメインの作品ですけど、あなたはサックス奏者なので、ホーンが入った曲を作編曲するアーティストからのインスピレーションもあるのでは? 

テラス:僕はソニー・スティットとドン・パターソンの『The Boss Men』が好きなんだ。「Star Eyes」って曲が収録されているアルバム、知ってるよね? 9年生〜11年生(訳註:日本の中学3年生〜高校2年生)はこれを聴き倒していた。あの頃からいつかオルガントリオを作りたいと思っていたんだ。アルトサックス、ドラム、オルガンのね。オルガントリオって3人だけだから、それぞれのミュージシャンが担う役割が多い。3つのパートだけで最高のサウンドを生み出すために、それぞれに課された責任は重大なんだ。

それと、ラリー・ヤングの『Unity』も。ここにはエルヴィン・ジョーンズ、ウディ・ショウ、ジョー・ヘンダーソンも参加している。ブルーノートから出たアルバムだね。この2枚からすごくインスピレーションを受けたよ。あとオルガンのアルバムではないけど、ミーターズの「Cissy Strut」からも作曲するうえでインスピレーションを受けた。





―あなたはオルガンジャズにも詳しいんですね。

テラス:ちょっと待って、まだあった! ヒップホップからも多くの刺激を受けている。ケンドリック・ラマーはいつもインスピレーションを与えてくれる。 ドクター・ドレーもそう。このアルバムに取りかかってる時も、「ドレーだったらどういう風にシーケンスを組むだろう、この曲をどこでフェードアウトさせるだろう、ドラムは上げた方がいいかな」とか常に考えていた。昔のブルーノートの作品は大好きだけど、この作品に関してはオルガンのアルバムでありながら、ア・トライブ・コールド・クエストをかけたあとにも聴けるアルバムになっている。ジャズのクラブだけじゃなくて、ヒップホップやR&Bのクラブがかかる店でもプレイしてほしいんだ。そういう意味でも『Curly』にヒップホップが与えてくれた影響は大きいね。

―『Fine Tune』に話を戻すと、このアルバムのインスピレーションになった作品やアーティストは?

テラス:『Fine Tune』はアース・ウィンド・アンド・ファイアーのダブル・ライブアルバム『Gratitude』からインスピレーションを受けている。あのアルバムを聴くと感情の世界へ誘われる感覚になるんだ。愛や喜び、欲望、誠実さ、過ちとかね。例えば「Reasons」っていう曲、あれは一夜限りの関係(訳註:ワンナイトスタンド)についての歌なんだけど、あれをBGMにして結婚式を挙げる人もいるよね。『Fine Tune』ではジェットコースターみたいに波乱万丈な感覚を味わってもらいたいと思ったんだ。



―『Fine Tune』では同時代の楽曲をいくつかカバーしていますよね。まずはSZA。

テラス:SZAは僕が大好きなアーティストの1人だからね。今すごく乗ってるパワフルなアーティストだと思う。「Snooze」は僕にとって大切な曲だし、幸せな気持ちにさせてくれる。よくかかってるのを聴いていたら、インストバージョンを作ってみたいって思うようになったんだ。人気があるのは彼女のバージョンで、僕のはあくまでも追加的なバージョンにすぎないけどね(笑)。

―次はカマシ・ワシントン。

テラス:カマシは15歳の頃からの友達で、お互いできるだけたくさん一緒にレコーディングしようと思っている。僕は彼の作曲が好きだから、「Final Thought」をカバーしようと思った。この曲はカマシもよく自分のライブで演奏してるよね。僕はカマシ本人とラリー・ゴールディングス、ロバート・スパット・シーライト、ニア・フェルダー、パーカッションのAllakoi Peeteを迎えた僕のオルガン・グループでカバーしてみたいと思った。カマシとのレコーディングは阿吽の呼吸があるから、いつも楽しいんだよね。

―最後はレオン・ブリッジズ。

テラス:レオンは大切な友達だよ。「Sweeter」をレオンとリッキー・リードと一緒に書いた時、アメリカではジョージ・フロイドの事件をはじめいろんなことが起きていた。だから、僕らは曲を書く必要性を感じたんだ。あの曲はすごく気に入っている。”お互いにもっと思いやりを持つ(訳註:Sweeter)必要があるよ”っていうこの曲のメッセージをもっと広めたくて、もう一度レコーディングをしたんだ。



―カバーだけかいつまんで聞きましたが、『Fine Tune』の中で特にこの曲については語っておきたいというのはありますか?

テラス:「La Brea & Stocker」だね。この曲はアレックス・アイズレーをフィーチャーしていて、すごく美しい曲なんだ。少し前にウェイン・ショーターがこの世を去ったよね。音楽的には彼がこの曲を作るうえでのインスピレーションを与えてくれた。ウェインが僕のような後進のミュージシャンたちに用意してくれた使命に符合する作品を作って、そのミッションを継承していきたいと思ったんだ。それでアレックス・アイズレーとポール・コーニッシュに声をかけた。ウェインの魂にちなんで「La Brea & Stocker」というタイトルにしたというわけさ。La BreaとStockerはLAにあるストリートの名前で、その交わるところが日没と日の入りの両方が見れるポイントなんだ。まるで人生のサイクルを象徴しているように思った。



「LAらしさ」と日本のシーンへの熱視線

―今もLAのストリートの話をしてくれましたけど、これまでのアルバムにはLAに由来するサウンドが必ずどこかに入っていますよね。『Fine Tune』と『Curly』でもそれは聴くことができますか?

テラス:『Fine Tune』と『Curly』を聴くとテクスチャーを耳で感じ取れる。目を閉じて聴いてみると椰子の木が目に浮かぶかもしれない。今すぐLAに行くのが難しい人は、僕の音楽をかけて目を閉じて、深呼吸をして瞑想の世界に入ってみてほしい。僕の音楽を通して音響的にLAに連れて行ってあげるから。

よく言われることだけど、特定の場所と音楽の関係ってあるよね。僕は曲のタイミングやリズム、曲間にドラムやベースがどんなふうに呼吸しているか、そのニュアンスにLAらしさを聴くことができると思う。LAって身体が揺れてる感じなんだよね、わかる? "Hey...調子はどうだい?"っていう緩い感じだったり、マリーナに浮かぶボートの上にいる感じ。だから音楽もその感覚でないとね。ボートがグライディング(訳註:ゆったり揺れている)している感じで、音楽もグライディングしている、それがLAだと思うんだ。赤信号に向かって飛ばしたり、フライトに間に合うよう必死で向かっている感じではない。僕はグライディングするのが好きだから、自分の音楽も全部ゆったり揺れてるよ。"Hey..."ってね。そこにLAらしさがあるよ。

―LAの音楽はなぜグライディングしているんですか?

テラス:海が近いし、美しい木々もあるからね。椰子の木がそこらじゅうにあるんだ。LAの音楽がグライディングしているのは、ここではみんなゆっくり話す傾向があるからだと思う。全員とは言わないけど、LAに住んでいる黒人のほとんどはヒューストンやダラスといったテキサス州の街とかニューオリンズからの移住者だから、元々はいわゆるサウスの人間なんだ。だから東海岸じゃなくて西海岸に移ってきたサウス出身者だから、忙しなく走ってるんじゃなくて、ただゆったり手を振って歩いているわけさ。雨がひどすぎたら学校だって休むんだよ。西海岸の音楽はそんな感じ。そのグラインディングなところにスヌープたちがきて、反抗的な態度とゆったりさが共存したものが生まれたんだ。Death Rowもゆったりさと反抗的な態度の両面を持っていた。"Hey....調子はどうだい?"っていうグライディングと、バンバンビートを飛ばす反抗的な感じが融合したものなんてヒップホップ史上なかったからね。とにかくLAの音楽はグライドしてるんだ。本物の遊び人が「このテーブルにワイン持ってきてくれ」とか「今日のディナーは俺の奢りだ」って言うみたいなかっこいい感じだよ。高い香水を付けてキメまくってる本物の遊び人みたいな感じだね。

 ―今の話でいうLAらしさのインスピレーションになっているアーティストや曲ってどんなものですか?

テラス:DJバトルキャットとDJクイック、あとはドクター・ドレーだね。彼らが手掛けたアルバムは全部そうだけど、例えばDJバトルキャットがプロデュースした(クラプトの)「We Can Freak It」とか、DJクイックの「Tonite」は独特な感じで聴くものを魅了するんだ。『Fine Tune』に収録した「Mind Your Business」を聴いてもらえば、僕が弾いてるベースラインとドラムの感じから「We Can Freak It」とかDJクイック、スヌープ・ドッグからインスパイアされているのがわかるし、フレーズに西海岸のGファンクを感じてもらえると思う。Gファンクとジャズの融合だよ。





―『Curly』では「The Voice of King Nipsey」を再録音していますよね。この曲に込めた想いを聞かせてください。

テラス:ニプシー・ハッスル(2019年死去)は同じ地区で育ったすごく大事な友達だったんだ。しょっちゅう話をしていたし、何年も一緒にプロジェクトをやったよ。僕は彼のことが「大好きだった」んじゃなくて、「今も大好き」なんだ。本当に誰かのことを大切に思っていたら、たとえその人がもうこの世にいなくてもずっとその名を叫び続けるだろ? 彼は今、この世とは違うところへ行ったけれど、彼がサポートしてきたことのためにこれからもずっとその名前を叫び続けるのは大切なことだと思う。

自分を大切にすることやお互いを思いやることなど、彼のメッセージはもっと多くの人に伝わるべきだと思う。ニプシーは誰に対しても絶対に「ノー」を言うのが嫌で、分け隔てなくみんなを大切にする心の大きなヤツだったし、絶対に人を悪く言うことはなかった。ニプシーは誰も傷つけたくないやつだったんだよ。僕は彼に敬意を表して今後もこの曲をレコーディングしたいし、もっと(彼に捧げる)曲を作っていきたいと思っている。そんな思いから彼の言いたかったことを彼に代わって表現すると同時に、彼の家族や子供たち、恋人、お母さんとお父さんたちに「彼のことは忘れないよ」っていうことを敬意を持って表すために「Voice Of King Nipsey」ってタイトルを付けたんだ。




―あなたはこれまでの多くのインタビューでビリー・ヒギンス、ジャッキー・マクリーン、レジー・アンドリュース、ニプシー・ハッスルについて語ってきました。彼らはそれぞれのやり方で音楽を通じてLAのコミュニティに貢献してきたと思います。彼らから受けた影響について教えてください。

テラス:ジャズ的な慣習で言うと「ひとりひとりが教え合う」っていうのがある。ビリー・ヒギンスが僕に常々言っていたのは、「私が君に教えたことに対して恩返しをする唯一の方法は、私から学んだことを今度は君が誰かに教えること」だった。音楽の世界でがんばっていくと誓い、自分がやっていることが人間愛に貢献することだとわかったら、「ひとりひとりが教え合う」が基本になるんだ。僕自身がコミュニティのために取り組んでいることで言うと、僕は常にたくさんのことに従事してるけど、実際に今取り組んでいて、すでに実現しかけているのが、若いアーティストたちの成功への入り口を築き上げることだ。僕は全てのコミュニティが自分のコミュニティだと思っているから、色々な入り口や門戸をLAのコミュニティに限らず様々なところに築きたいと思っている。僕はクレンショー(Crenshaw)区出身だから、まずはそこが自分のコミュニティだ。

―「Sounds Of Crenshaw」というレーベル名の由来もそこからですよね。

テラス:でも、愛を理解していて、人間愛においてもっと高いレベルを目指して共に助け合いたいと思っているコミュニティはどこであっても、それらも僕のコミュニティなんだよね。だから今は自分の地元に限らず、世界中のコミュニティに向けて、我々はどこにいてもうまくやり遂げなきゃいけない、一緒にうまくやり遂げるんだっていうメッセージを精神的に、そして音楽を通じて広めようとしている。一緒にやろうよってことに尽きる。

ウォーの「The World Is A Ghetto」って曲があるけど、今の世界はまさにゲットーだよね? ひどいもんだよ。ロシアやヨーロッパ、アフリカ、日本、シカゴをはじめ、世界各地でゲットーさながらの出来事が多発している。僕に言わせれば、平和な場所はない状態だよ。憎しみが至るところにある今、まさに人間は助け合わないといけない。誰しも助けを必要としているからね。今はそこに重点的に取り組んでいるよ。問題が起こっているコミュニティに音楽を広めるんだ。だから僕はジャズのレーベルを立ち上げて、そこからたくさんの音楽を発信することにしたんだ。みんなが身近に感じ、自分もその一部だと感じることができる音楽を発信する流れに物足りなさを感じていたからね。僕の音楽を聴いてそこに秘められたメッセージを受け取り、新たな気持ちで明日を迎えられるよう、みんなには自分も僕の作品の一部だと感じてもらいたい。僕の強みはアートだから、それを活かせば世界に影響をもたらすことができるかもしれないからね。そのために自分の長所と短所の両方を活用しているんだ。世界中に僕のメッセージを発信するには、その両方がパワフルなツールになるから。

―ちなみにジャッキー・マクリーンは、ブルーノートを代表するアルトサックス奏者であるのはもちろんとして、アメリカでは教育者としても知られているそうですね。あなたは彼の名前を頻繁に挙げていますが、彼からどんなことを学んだのでしょう?

テラス:ジャッキーからは自分の直感を信じることを学んだ。力尽きるまで自分の持つものを出し切ること、練習を絶やさないこと、今より上手くなりたいと思い続けること。チャーリー・パーカーを聴き続けること、そして自分のアートに対して常に遠慮するなっていうことを学んだ。ジャッキーとは個人的な繋がりがあって、LAに来るたびに師匠として接してくれたよ。ジャッキーから学んだ最大のレッスンは、個性的であることだと思う。多くのミュージシャンたちが「〇〇みたいになりたい」って憧れを語っているなかで、気に入られようが嫌われようが「これはテラス・マーティンのサウンドだ」ってすぐわかるよう自分の個性を保つこと。僕のアートには否が応でも自分の名前が付いているわけで、僕は常々そうありたいと思っていた。自分らしさを保つことが大切なんだ。AIの時代だからうかうかしていられないけどね。



―最後に、ビルボードでの来日公演はどんなものになりそうですか?

テラス:楽しくてソウルフルで、いい意味で遠慮のない内容になるはずだよ。B3オルガンとパワフルなドラム、僕のアルトサックスでディナー・パーティーの「Freeze Tag」、カマシの「Final Thought」、レオンの「Sweeter」、『Curly』からの 「Bromali」といったお馴染みの曲を演る予定だ。ジミー・スミスとJ・ディラ、ジャッキー・マクリーンのスピリットを借りて、日本に最高のジャムをお届けするよ。

日本にはずっと行きたいって言ってきたんだ! だから色々なスケジュールが決まっていたのに、コロナで中止になって気が狂いそうだったよ。来年またディナー・パーティーのメンバーで日本に行きたいと思っているし、これからもハービー・ハンコックとの共演だったり、いろんな形で来日公演を続けたい。それに、僕は日本のジャズアーティストのプロデュースを手がけてみたいと思っているんだ。

―ぜひ!

テラス:日本に若手のドラマーがいるんだよ、ちゃんと名前を確認しなきゃ。今、気になる日本人のミュージシャンが3人いる。みんなNYに引っ越すべきなのに……と思う反面、いや、やっぱり日本にいた方がいいとも思うんだ。NYはクレイジーだからね。以前、サンダーキャットと話をしたときに、彼からも日本のアーティストをプロデュースすべきだよって言われたんだ。日本のファンとは相思相愛の関係なんだから、コンタクトして足を運んで、日本のジャズシーンを深く掘り下げて能力を試してみろってね。もしこの記事を読んで気になった人がいたら、僕は日本のジャズアーティストのプロデュースを手掛けたいと思っているのでよろしくね。世界にある隔たりを埋めたいんだ。そして、「ワールド・ジャズ」じゃないアルバムを手掛けたい。全ての要素が詰め込まれたアルバムをね。だから、プロデューサーを探している人はこの記事を読んだら連絡してくれよ。

―もしかして、その「若手のドラマー」って石若駿のことですか?

テラス:そうそう! めちゃくちゃヤバいんだよ! 連絡くれるように伝えといて。マジで実現させたいと思っているから。



テラス・マーティン来日公演

2023年9月11日(月) ビルボードライブ横浜
1stステージ OPEN 16:30 / START 17:30
2ndステージ OPEN 19:30 / START 20:30
▶︎詳細・チケット購入はこちら

2023年9月12日(火) ビルボードライブ大阪
1stステージ OPEN 16:30 / START 17:30
2ndステージ OPEN 19:30 / START 20:30
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2023年9月14日(木)・15日(金) ビルボードライブ東京
1stステージ OPEN 16:30 / START 17:30
2ndステージ OPEN 19:30 / START 20:30
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チケット: サービスエリア 9,800円 カジュアルエリア 9,300円(1ドリンク付)

Member
Terrace Martin / テラス・マーティン (Saxophone)
Pat Bianchi / パット・ビアンキ (Organ)
Trevor Lawrence / トレバー・ローレンス (Drums)

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