SKY-HIが語る、「刃牙」シリーズと「THE FIRST」の共通点
Rolling Stone Japan / 2023年8月30日 18時0分
SKY-HIとBE:FIRSTによるスプリットシングル『Sarracenia / Salvia』がリリースされた。この2曲は以前からSKY-HIが大ファンであることを公言していた「刃牙」シリーズのアニメ「『範馬刃牙』地上最強の親子喧嘩編」のオープニングテーマとエンディングテーマ。
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主人公の範馬刃牙とその父親である範馬勇次郎との関係を、BE:FIRSTとそのプロデューサーであるSKY-HIの関係とリンクさせて、SKY-HIが勇次郎目線、BE:FIRSTが刃牙目線を表現したコンセプチュアルな作品となっている。今回のSKY-HIへのインタビューでは楽曲制作の裏側に加え、「刃牙」シリーズと「THE FIRST」の共通点、SKY-HI自身と父親との関係性、マッチョイズムとの距離感など、幅広いテーマで話を聞いた。
ー日高さんは以前から「刃牙」シリーズのファンであることを公言していましたが、改めて、日高さんの思う「刃牙」の魅力について話していただけますか?
SKY-HI:パッと浮かぶものが2個あって、まず1個目はキャラクター。最近のいい漫画の潮流にもなってると思うんですけど、主人公以外のキャラクターに人格とストーリーがしっかりある。モブキャラがいないというか、装置になってないというか……装置っていうのは、キャラクターの誰かが毎回かませ役になる、みたいなことですけど(笑)。
ー周りを引き立てるために置かれる、ということがないと。
SKY-HI:それぞれのキャラクターの人生がちゃんと存在する。っていうことが一つと、二つ目はそれがすごく濃いということ。現実的にはギリ不可能な、漫画的なレベルのことにはなるんだけど、実際に人生を生きているレベルのキャラクターたちが、それぞれの哲学をぶつけ合うから美しいっていうのはすごく感じます。
ーまさにそこが「刃牙」の魅力であり、言ってみれば「THE FIRST」もそうだったと思うんですよね。もちろん「刃牙」ほどの漫画的な要素はないけど、「THE FIRST」もモブキャラはいなくて、オーディションの参加者がそれぞれの人生を背負って、競い合ったわけで。
SKY-HI:前に板垣先生(「刃牙」シリーズの作者・板垣恵介)とお話をさせていただいたときに、『範馬刃牙』のエア夜食のシーンは書き始めるまで自分でもどうなるかわからなかった、みたいな話をされてたんです。本気でやってるとドラマが生まれるけど、それがどう転ぶかは本当にわからないとおっしゃっていて、それを聞いてびっくりもしたし、すごく嬉しかったんですよね。創作物として捉えたら、おそらく最初の段階で、想像のカマキリと戦ってる時点で完璧な帰結を考えて、そこに向けて1話を始める気がするんですよ。でもそうじゃなくて、本気でやってると最初から練ったものよりよく練られたドラマが生まれたりするわけで。
ー漫画を描くこと自体がある種のドキュメンタリーで、そこもオーディションとリンクする部分かもしれないですね。
SKY-HI:そうですね。だからホントに本気で描かれてるんだよなっていうのをすごく感じます。「刃牙」シリーズの中でも『範馬刃牙』が一番好きなんですけど、多分その頃の「刃牙」って、数字に左右される状況じゃなかったと思うんです。もはやカルチャーとして存在してたから、週刊連載の都合に人物が左右されてない感じがすごくしますよね。作品によっては左右されまくってることがわかっちゃうわけじゃないですか(笑)。でも『範馬刃牙』はそうじゃないから、板垣先生の「これを描きたい」っていうエゴとリアルのハモリがすごい。俺ピクル編がすげえ好きで、あれがあるのめっちゃ大事だし、あのドラマが同時に進行していることがすごく意義深いと思ってるんですよ。本筋じゃないところで本筋が起こるっていうのは、普通にあることじゃないですか。
BE:FIRSTとのスプリットシングルに込められた想い
ーまた「THE FIRST」と比較しちゃうけど、ボーイズグループを1組作るという本筋がありつつ、そこからトレーニーが生まれたり、ソロデビューする人がいたり、次の新しいグループに行く人がいたりっていうのも、「本筋じゃないところで本筋が起こる」ことの表れとも言えそうですよね。
SKY-HI:トレーニーと新しいグループはまだわかりますけど、ソロアーティストが2人生まれてるの面白いですよね(笑)。あとNovel Coreの物語も「THE FIRST」にはちょっとあるわけで、それこそ漫画だったらスピンオフが描けますよね。「THE FIRST」を漫画やアニメにしたときに誰が主人公軸でも成立するっていうのはすごい思ってて、それは妄想したことがあります。絵柄も変わるんですよ。RAN主人公とLEO主人公でも違うし、Shota主人公とSOTA主人公でも違うし、全部想像すると漫画の種類もだいぶ違ってくる。
ーやっぱりモブキャラはいない感じがします。
SKY-HI:俺REIKO主人公が一番王道なドラマがあると思ってて、それはプロデューサーとか社長目線に近いし今のタイミングもあるかもしれないですけど、「THE FIRST」でもまだ堀り足りてないところがあるので、それはいつかやりたいなって……まああれはやっぱりコロナ禍で、自分はその期間本当にそれしかやってなかったし、スタッフの人たちもほぼそうだったわけで、そんなことが今後またできるかというと難しいけど……でももう板垣先生は自分のことを「刃牙屋」って言ってて、多分一生「刃牙」を描く。「THE FIRST」もそういうライフタイムものになってるといいなとは思いますね。
ー「刃牙」ファンの日高さんが『範馬刃牙』のテーマ曲を担当するのは納得感がありつつ、BE:FIRSTとのスプリットシングルとしてリリースするというアイデアは驚きました。
SKY-HI:ちょっと悩みましたけどね。「刃牙」ファンの自分にとってこんなありがたい話はないので、何も余計なことを考える必要はなかったんですけど、この企画は1年半前くらいから進めていたので、デビューから2年経ったビーファの状況がどうなっているのか分からない中、強力なイメージのあるアニメタイアップの曲をリリースすることの怖さはすごくあったんです。その帰結として一番美しかったのが、スプリットシングルという形だったんですよね。ちょうど自分と前の事務所との契約が完全に終了して、SKY-HIとBE:FIRSTが同じ事務所、同じレーベルと契約してるという状態になることが決まっていたから出せたというのもあります。
ーまだデビュー仕立てでグループとしてのイメージが確立されていなかった分、色の強いタイアップをつけることに対する不安があったと。
SKY-HI:例えばですけど、ENHYPENはデビュー当時のゴシックっぽい感じから、いろんな状況の中で、ストリートに作風が寄ったりする事もあるわけじゃないですか。同じようにビーファがどうなってるかわからない部分もあったから、どんなグループになっていても成立する曲にしようっていうのは思ってたんですけど、もしもっと繊細なグループに育っていたら、「範馬刃牙」というワード自体に「なんで?」ってなる可能性もあったわけじゃないですか。逆に過剰にマッチョな印象がついちゃう可能性もあるし、そこのビビりは正直ありましたね。
ー「BE:FIRSTらしさ」を保持する上でも、スプリットにしてSKY-HIと対比することによってそれを明確化することになっていると言えそうですね。ちなみに、今回は勇次郎と刃牙の関係をSKY-HIとBE:FIRSTの関係に置き換えてるわけですけど、実際に日高さんとBE:FIRSTはある意味親子のような関係性だと言えますか?
SKY-HI:「生みの親」っていうワードなら正しいとは思います。よく例えで出しちゃってるけど、『ROOKIES』みたいな関係って言うとしっくりくるんです。でもいわゆる親子かっていうと、そうでもないかなとは思いますね。まあでも自分が『範馬刃牙』で一番好きなのも関係性萌えではあるんですよ。勇次郎という地上最強の生き物が刃牙の家に靴を脱いで上がったり、魚の食べ方を注意したり、刃牙が超ビビリながら勇次郎に喧嘩をふっかけようとする、あの感じがいいっていうか、やっぱり自分も父親がいるので、身に覚えがあるんですよね。俺の親父は普段あんまり家にいなかったので、たまに帰ってくると基本は嬉しいんですけど、2人になってしまうとちょっと緊張するんです。親父も親父で何を喋っていいかよくわかんなかっただろうし。でも俺一回「キャッチボールをしてくれ」って頼んだことがあって、その後に中華料理を食べさせてくれて、帰路についたっていうだけの1日があったんですけど……それは30歳を超えてからも時々思い出すんですよね。
Photo by Mitsuru Nishimura
父親との関係性
ー日高さんのお父さんは何をされてた方なんですか?
SKY-HI:パイロットってやつですね。飛行機乗りをやってました。
ー自分の生き方に影響を与えた部分があると思いますか?
SKY-HI:あるんじゃないですか。SKY-HIになっちゃったし(笑)。
ー間違いないですね(笑)。
SKY-HI:あと親父のメンタリティは終始ポジティブなところがありましたね。楽観的というよりは、問題に対してあんまりぺシミスティックにならない。どっちかっていうと、「そうなっちゃったらなっちゃったでしょうがないだろ」っていう方のマインドなのは確かで、だから自分もあんまりペシミスティックにならないようにはなった気がする。そういう部分も含めて、親父に対してはリスペクトがあるし、すげえなと思うことがたくさんあります。
ー刃牙も勇次郎に対してはリスペクトの精神を持ってますよね。
SKY-HI:「Sarracenia」にしろ「Salvia」にしろ、リスペクトと愛情はすごく大事にしました。特に「Salvia」は強く意識したけど、さっきも言ったようにボーイズグループとしてどんなフェイズにいるかわからなかったから、ちゃんと性愛にも聴こえる余白を残しておかないといけないっていう、すげえ難しい作詞だったのを覚えてます。
ーたしかに、「Sarracenia」の方がよりアニメに寄り添ってる感じで、「Salvia」はアニメとリンクする部分もありつつ、もう少し広くいろんな意味に取れる歌詞になっているなと。
SKY-HI:それがすごく大事だったんですよね。「Sarracenia」は勇次郎の曲でないとあり得ないものにする必要があったし、逆に「Salvia」は「BE:FIRSTっていうボーイズグループの新曲ですよ」って言って聞いたときに、「今回こういう曲なんだ、かっこいいね」って思われるものでないといけない。そこはすごくシビアに考えました。
ーでは「Sarracenia」は『範馬刃牙』のテーマ曲であることを強く意識して作られているわけですね。
SKY-HI:むしろ勇次郎に引き出してもらったものすらあります。書いててすっげえ楽しかった。一ヴァース目とかプリプロの日にツルッと書けたと思うんだけど、ホントに一筆書きですよ。
ー〈この地球上全てが俺の遊び場 半端な覚悟で汚すなよ坊や〉はまさに勇次郎ですよね。あと〈さぁおかわりはいかがですか?〉とか〈お味の程はいかがですか?〉はやはり食卓のシーンを連想させます。
SKY-HI:そうそう。ただ勇次郎にインスパイアを受けて、「刃牙」のオープニングソングを書くってなったときに、当然その全部を注釈するわけにはいかないわけじゃないですか……って思ってたんだけど、YOASOBIの「アイドル」を聴いてたら、そこまでやるのもありなんだなと……まあそれは置いといて、やっぱり自分の歌である必要は最低限あると思ってたから、一人称として自分じゃないといけない部分を気にしながら書いてはいて。ただその中でも絶対に抽出しないといけない勇次郎の部分は何だろうって考えると、「食」がでっかいワードとしてあったのは確かですね。「食」だけという概念にやたらこだわるから、あの人。
ートラックのプロデュースはどちらの曲もRyosuke”Dr.R”Sakaiさんですが、「Sarracenia」はどのように作っていったのでしょうか?
SKY-HI:「刃牙の曲」という意識もあったけど、どのみちこのテンションをやりたいと思ってたのは間違いなくて、それは『THE DEBUT』収録の「Dramatic」にも繋がってくるところがあったりして。「Dramatic」のプロデュースはSUNNY BOYだからまた全然違う曲ではあるけど、SKY-HIとしてあのときやりたいと思ってたのはああいう音像で。
ー「Sarracenia」と『THE DEBUT』は近いタイミングで作ってたわけですか?
SKY-HI:「Sarracenia」の方が『THE DEBUT』よりも前に作ってますね。このフックの発声、シャウトに近い声でずっと歌うみたいなことは多分「刃牙」じゃなかったらやってないと思うんですよ。キーがだいぶ高いから、普段なら「こんな無理して出してもしょうがないから、いくつか下げた感じで様子みようか」ってなってたと思うんですけど、Sakaiさんとも「刃牙のオープニングはこれくらい行った方がいいんじゃないか」みたいな話になって。この発声は俺とSakaiさんの中で発明で、ここから「Dramatic」にも繋がったし、この吠えながら歌う感じが一個の新しい武器になった感じがします。だから自分のやりたいこととやるべきことを考えた上で、「寄せようとした」というよりは「結果的に寄った」っていう方が近いかもしれないですね。タイアップソングの功罪みたいなのってやっぱりあって、自分がやりたいことじゃないことをやってもあんまりいい結果は生まれないし、あとで整合性を取ろうとしてもどっかで破綻しちゃうから、ゼロイチの部分はフルで自分のやりたいことをやるっていうのはすごく大事にしました。
Photo by Mitsuru Nishimura
マッチョイズムを更新したい
ー〈夢を越えろ〉というフレーズも印象的で、「Dream Out Loud」のリリースタイミングでØZIと対談をしてもらったときに、「最近の日本のヒット曲はペシミスティックなものが多いから、ちゃんと『夢』を歌いたい」という話をしてくれたじゃないですか。この曲にもそういう背景が影響していると言えますか?
SKY-HI:それは多分あんまり関係なくて、勇次郎である以上ペシミスティックになる余地がなかったっていうのがでかい気がする(笑)。でもヴァイブスとして、露悪的なものとペシミスティックなものはやりたくないというか、「可愛くてごめん」とかも結構露悪的じゃないですか。別にそれが好きとか嫌いじゃなくて、自分がやる仕事じゃないなっていうのはすごく思ってます。まあ、難しいんですけどね。ヒップポップに露悪的な成分があるのも事実で、そういうアーティストを見て素敵だなと思うこともたくさんあるし。ただね、まだもうちょっと綺麗ごとから逃げたくないっていうのはあります。それはBMSGとして逃げたくない。ステージ上でマイクを持って歌う立場だからこそ、綺麗ごとを本気で言いたいし、その積み重ねで世の中の空気が変わるのを知ってるので、陳腐じゃない綺麗ごとを言い続けたい。こういう話を実際どのくらいしたかはわからないけど、この前のライブのMCでShotaが似たようなことを言っててちょっと感動しちゃったんだよなあ。「SKY-HIっぽいことを言ってる」って感じがしなくて、Shota感がすごいあった。Coreもそうで、普段みんなで話してるようなことをCoreが言ったとして、トレース感がないんですよ。特にステージ上では、自分のものにしてからじゃないと口に出さない人たちだし……あ、このスプリットシングル、俺とCoreでもできたかもしれない(笑)。
ー親子感で言うと、日高さんとShotaさんもよさそうですけど(笑)。
SKY-HI:Shotaとは『ちいかわ』とかでやりたいっすね(笑)。Shotaと俺は絶妙なところがあって、俺の方が先輩で、俺が引っ張っているが、親はどっちかっていうとShotaの気もする。Shotaの悩みを聞いていると見せかけて、俺がShotaに甘えている節もある気がするし。ただビーファにしろShotaにしろライバル的なヴァイブスは存在し得ないから、そこが刃牙と勇次郎の関係性との違い。でも俺が勇次郎でCoreが刃牙ならありかもなあ。しかもその場合ライティングもCoreがやるでしょ。それでもう一枚作りましょっか(笑)。
ー「Salvia」に関しては「刃牙」の曲でもありつつ、あくまでBE:FIRSTの曲として成立することを強く意識したというお話でしたね。
SKY-HI:言葉遣い含めて意識した記憶がすごいあるんだよな。あとだいぶRYUHEIに頼りました。RYUHEIとSHUNTOに頼った。少しでも親子性を担保するために。RYUHEIとSHUNTOには少年性があるから、その素質に助けてもらったところもあるので、RYUHEIが言って似合う言葉、SHUNTOが言って似合う言葉から書き始めさせてもらったっていう感じがありますね。あと刃牙の言葉遣いをすると、オラッとするじゃないですか。それは2023年のボーイズグループとしてかっこいいのかなっていう。ボーイズグループが担うべき社会的意義があるとして、マッチョイズムではないのは確かじゃないですか。そこが本当に難しくて。『範馬刃牙』の魅力がマッチョイズムだけでないのも確かだけど、絵柄も含めてマッチョ性が存在するのは確かで、そこは大変だったなあ。
ーでも途中の話にもあったように、曲だけを聴くとむしろ女々しさも内包した異性愛の曲にも聞こえるわけで、曲調も含めて見事にバランスを取っているなと感じます。
SKY-HI:そうですね。個人ものの歌よりグループものの歌の方が助かるのは、バッファを持ちやすいんですよ。ソロアーティストが歌うと抽象的になりかねない言葉でも、グループだと歌う人と場所を変えるだけで、意味が勝手に出てくることがすごくある。あと同じ声でヴァース、プリフック、フックって行ったときのダイナミクスと、メンバーが変わることで出てくるダイナミクスの違いはやっぱり存在して、後者の方がドラマチックになりやすい。そういういろんな要素に助けてもらって書きました。
ー両方の曲タイトルを花の名前にしたのはどんな経緯だったのでしょうか?
SKY-HI:ここまで話したような複雑なものがいっぱい絡み合った上で、楽曲をドンと提示したときに、タイトルはこの2曲が対比してるんだっていうことを象徴できる固有名詞である必要があったのと、あとはやっぱりマッチョイズムとの距離とか、自分が書くべきことをいろいろ考えて……これだわって。
ー確かに、マッチョイズムの対極としての「花」というモチーフはよくわかります。ただサラセニアは食虫植物の名前で、そこは勇次郎らしさもありますね。
SKY-HI:食虫植物って超勇次郎っぽいですよね。勇次郎が人を屠るのって、本質的じゃないですか。顕示欲でも上昇志向でもなく、ただ強く生まれているから、弱者を屠るのが強者の仕事というか。食虫植物も別に「俺が植物の王になる」っていうつもりで虫を食ってるわけじゃないわけで(笑)。そういう動物的正解をしっかりと言葉で表していくのが勇次郎で、あの人はすごく哲学家なんですよね。
ー「マッチョイズムとの距離感」というのはすごく興味深いテーマだし、大事なポイントだと思ったんですけど、やっぱり「刃牙」シリーズのファンは基本的には男性が多くて、今回の曲はこれまで以上に男性に聴かれる可能性が高いわけじゃないですか。その意味合いについてどう考えているか、最後に聞かせてもらえますか。
SKY-HI:この前、前田裕二がラジオに来てくれたときに、まさにマッチョの話になったんですけど、社会的意義が生まれたときに、やっぱりアンチマッチョな方向に考えを持ってかなきゃいけないとは思う。ただ、いわゆるマッチョイズム、上昇志向、強さこそが正義、稼いだ人が正義っていう考え方と距離を置いたとて、上昇志向や向上心の中にも健全な意識が存在してる気はして。もともとヒップホップカルチャーで育った人間からすると、あれなんてマッチョミュージックと言っても過言じゃない部分もあって、特に一昔前はめちゃくちゃそうで、それに憧れた自分がいたことも事実で……で、最近の新しいファンの子の中に、成功者になりたい大学生くらいの男の子が増えてきてるのを見ると、鼓舞してあげたい気持ちにはやっぱりなるんですよ。これまでは若いラッパーに対してしか思ったことなかったけど、若い世代全体に対して鼓舞したい気持ちがある。あと最近すごく意識してるのが、ちょっと前は「今の日本の状況がヤバい」っていうのが社会の共通認識になってなかった気がして、どっちかっていうと自分は警鐘を鳴らす方の立場として発言やタイトル、『JAPRISON』ってアルバムを作ってるぐらいなんで、そういう意識の方が強かったんだけど、いまは共通認識が「日本やべえぞ」になってる感じがすごいして……でもだからこそ、「こっからいけるぞ」というかね。
ーヤバい状況だからこそ、実はチャンスなんじゃないかっていう。
SKY-HI:そう、「ヤバいからこそこれはチャンスなんじゃね?」の旗を持ちたいっていうのはすごく意識してる。それはれっきとした社会意識で、マッチョイズムも内包したものにはなるんだけど……そうか、マッチョイズムを更新したいんだ。誰も傷つけない、清潔な、高潔なマッチョイズムを生み出したい。それが今の社会善の気がするし、その強さは確かに今の日本に必要な気がする。「高潔なマッチョ」って言葉にするとちょっと面白いですけど……でも勇次郎がまさにそうですよね。今必要なのはそういうことかもしれない。
Photo by Mitsuru Nishimura
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