「ロックというクソがDNAに組み込まれている」イヴ・トゥモアのむき出しで挑発的な返答
Rolling Stone Japan / 2023年8月31日 17時45分
イヴ・トゥモア(Yves Tumor)は、エキセントリックな音楽性と魅惑的な世界観を世に問うておきながらも、実のところこの5年間で3本しかインタビューを受けていない。その全てが対談であり、米メディア『FLAUNT』でミシェル・ラミーと、同じく米メディア『INTERVIEW』でコートニー・ラヴと、そして英メディア『AnOther』でケンブラ・ファーラーと行なったものである。
多くを語ろうとしないミュージシャンであるがゆえに、最新アルバムを携えてフジロックに出演したからといって、近年の作品から漂う極めてロックスター的な振る舞いについてその真意を訊くことなんてできないと思っていた。しかし、打診してみたところ、インタビューを受けるとのことだ。――本当に?
まずは撮影をしようと伝えると、フジロック初日・7月28日の正午を過ぎた頃、イヴ・トゥモアはCRYSTAL PALACE TENTに颯爽と現れた。マネージャーなどは帯同しておらず、単独での登場。そのままカメラの前でノリ良くポージングしてくれたものの、インタビューは土壇場でキャンセルになってしまい、後日メールでの回答という形になった。やはり一筋縄ではいかないが、近年の変化し続ける姿を見ているとそれも想定の範囲内かもしれない。一人でロック史を振り返るような大胆かつ物珍しい試みを披露してきた人物だし、先のミシェル・ラミーとの対談ではこうも発言しているから。
「イメージの面で何かを予見したり、計画したりしたことはないんだ。俺はいつも自分自身であり、とても有機的にやってきた。おそらく、50歳くらいになったら本名(ショーン・ボウイ)を使い始めると思う」。
グラムでキャンプなパフォーマンスでフジロックのステージを沸かせてから待つこと1カ月、ついにメールが返ってきた。ぶっきらぼうながらも、自然体なコメントが並ぶ。実にイヴ・トゥモアらしく、挑発的な態度でもある。そう、それは最新作『Praise A Lord Who Chews But Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)』のアルバムタイトルから音源の細部に至るまで通底する傾向だ。つまり、挑発的なまでのピュアネス。異形の芸術家のむき出しのコメントを、そのままの形でお届けする。(質問作成:つやちゃん・小熊俊哉/構成:つやちゃん)
【写真ギャラリー】イヴ・トゥモア フジロック撮り下ろし(全8点)
Photo by Masato Yokoyama
―あなたはこの5年間で3本しかインタビューを受けていないですね。なぜ今このタイミングで、日本でインタビューを受けようと思ったんですか?
イヴ・トゥモア(以下、YT):マネジメントに強要されたから(笑)。
―dangerous、bizarre、romantic、weirdを兼ね備えたロックスターがこの時代に活躍していることに感激しています。ショーン・ボウイはいつ、どのようにしてイヴ・ トゥモアというダークヒーローに覚醒したんですか?
YT:そんなにシリアスな話じゃない(Its not that serious)。
―グラムロックのようなけばけばしいギラつきは、クィアカルチャーに息づいてきたキャンプの要素を感じます。あなたにとって、クィアカルチャーはやはり大きなインスピレーション源なのでしょうか。
YT:その瞬間に自然に感じられることは何でもする。自分の置かれている環境からインスピレーションを受けている。
Photo by Masato Yokoyama
―あなたは最初、エレクトロニック・ミュージックの世界で知られるようになりました。コートニー・ラヴとの対談で「俺にはコンピューター、Ableton、ヘッドフォンと、それらを使ってできることしかなかった。でも、昔からパワフルなサウンドやボーカルに夢中だった」と語っていましたが、本当は最初からロックンロールをやりたかったんですか? それとも、どこかでキャリアの劇的な転換点があったのでしょうか?
ムムム……それはないな。このクソ(shit)は自分のDNAに組み込まれている。仲間がロックンロールを発明し、開拓したんだ。最初から最後まで。それだけのことだ。
イヴ・トゥモアが愛するロックスターとは?
―近年のグラムロック・スタイルから、最新作ではパンク/ニューウェーブへの変化も感じられます。Warpからリリースした3つのアルバムは、あなた一人でロック史を再定義しているようにも映りますが、ロックの何があなたをそこまで突き動かしているのでしょうか?
YT:ただ楽しんでいるだけだよ(Im just having a laugh)。
―あなたが過去に感銘を受け、今も好きなポップスターやロックスターは誰ですか?
ジョン・フルシアンテ、ソフィー、サム・ミーラン、カイリー・ミノーグ、コートニー・ラヴ、ダガー・ポリエステル、ジェネシス・P・オリッジ、プリンス、アリス・グラス、シェイン・オリヴァー、イアン・スヴェノニウス、ミカ・リーヴァイ、デヴ・ハインズ、シルヴェスター、パンダ・ベア、ピート・バーンズ、カレンO等々……誰か俺を止めてくれ。
Photo by Masato Yokoyama
―最新アルバム『Praise A Lord Who Chews But Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)』で、あなたはどのような作品を作りたかったのでしょうか?
YT:……輝き(Brilliance)?
―どれだけポップな作風に変化しても、時折あなたの楽曲に顔を覗かせる暴力的な部分があります。たとえば最新作では「Purified By The Fire」などの曲にインダストリアルミュージックの要素が見られます。あなたにとって、インダストリアルの破壊性は重要なルーツとしてありますか?
YT:俺がしていることすべてが、今自分が創造しているものにインスピレーションを与え続けている。
―普段、ライブでパフォーマンスすることをどの程度イメージして曲作りをしていますか? というのも、ライブでの衣装や世界観、演奏によって、あなたの楽曲は大きく姿を変えているように見えるので。
YT:うるさいほど良い(The louder the better)。
―生身のあなた自身である「ショーン・ボウイ」と音楽家でありパフォーマーである「イヴ・ トゥモア」の距離感は、作品を重ねるごとに近づいている実感がありますか?それとも、遠ざかっていますか?
YT:何の違いがあるっていうんだ?
Photo by Masato Yokoyama
そっけない回答だが、実にイヴ・トゥモアらしくもあるだろう。コートニー・ラヴとの対談で次のように語っていたことからも分かる通り、時に繊細で、時に素直な発言は一貫している。
「自分が何をしているのか、それが誰に影響を及ぼしているのか、私を顧みない人々は誰なのか、私の失脚を陰からじわじわと画策している連中は誰なのか、時々本当に意識的に考える必要があるんだ」
また、ミシェル・ミラーとの対談ではこのように語ってもいた。
「自分をヒーローだとは思わない。自分がやっていることで、誰かのヒーローになることは考えていない。何かと言われれば、人をインスパイアするのが好きなだけだ。人々にポジティブな影響を与えたり、人々がやりたいことを何でもやれて、着たい服を着て、誰かに許しを請わなくても好きな音楽を作りたいと思えるようにインスパイアするのが好きなんだ。そういう姿勢を鼓舞するのは好きだけど、誰かのヒーローになりたいとは思わない。なぜなら、俺は完璧ではないし、欠点もあるからだ。歴史的な意味でのヒーローというのは、台座の上にいて、その人を尊敬しなければならず、間違ったことをしない人だと思う。俺はそのどちらでもない」
自らを「ヒーローではない」と語る、実に人間くさいキャラクター。ショーン・ボウイであり、イヴ・ トゥモアは、やはり愛さずにはいられない人物だ。
イヴ・トゥモア
『Praise A Lord Who Chews But Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13252
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