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KIRINJI『Steppin' Out』全曲解説 堀込高樹が語るポジティブなムードの背景

Rolling Stone Japan / 2023年9月6日 20時0分

KIRINJI・堀込高樹(Photo by Mitsuru Nishimura)

KIRINJIが通算16枚目のニューアルバム『Steppin' Out』をリリースした。新レーベル「syncokin」からの第1弾となる本作は、昨年6月配信の「Rainy Runway」(インタビューはこちら)、ドラマ「かしましめし」主題歌「nestling」、韓国のSE SO NEONとのコラボ作「ほのめかし」など全9曲を収録。いつになくポジティブなムードに満ちた本作の制作背景を知るべく、堀込高樹によるアルバム全曲解説をお届けする。

【写真ギャラリー】KIRINJI・堀込高樹 撮り下ろし写真(記事未掲載カットあり・全10点)


韓国での人気ぶり、SE SO NEONとの共演

—8月4日に開催された、韓国の仁川ペンタポート・ロック・フェスに出演したんですよね。お客さんの盛り上がりがすごかったみたいで。

堀込:そうですね、楽しさや喜びをストレートに表現してくれるというか。

—熱気が違うと言いますよね。シンガロングも起きたりしたんですか?

堀込:「愛のCoda」を歌ってくれましたね。誰かが撮ったライブ動画を観てみたら、小田さん(小田朋美:サポートメンバー)が歌うコーラスのラインがやけにデカくて。「どういうことだ?」と思ったら、それは小田さんの声じゃなくて、ファンの方々が歌ってる声でした。歌メロを口ずさむ人もいれば、コーラスのトップラインを歌う人もいて。「そっちを歌うんだ、そんなに聴き込んでくれてるんだ」というのは面白かったです。あとは旗にも驚いたし、(観客がライブを)スマホで撮るのも基本。日本にはそういうカルチャーがないから、海外に来たって感じがすごくしました。



—韓国でのライブは約20年ぶり、2004年にイ・サンウン(「ダムダディ」「Someday」で知られる人気歌手)と行なったジョイントコンサート以来だったみたいですね。そのときのことは何か覚えていますか?

堀込:たしか、ちょうどいいライブハウスが見つからなくて、デパートの催事場……普段は結婚式とかをやってそうなところが会場でした(現代百貨店 木洞店7F トパーズホール)。あのときも熱烈に歓迎していただいて。あとはファンクラブツアーも兼ねていたので、日本から来たお客さんも結構いらっしゃったと思います。日本語のポップスが解禁されてから少し経った頃で(2004年1月1日に韓国での日本語CD発売が解禁)、僕らが当時所属していた東芝EMIは韓国でCDを出すことに一生懸命だったんですよ。

—もともと韓国では渋谷系やシティポップが人気なのもあって、キリンジ時代から熱心なファンがいると聞いたことがあります。KIRINJIの私設ファンクラブもあるんですよね?

堀込:そうみたいなんです。韓国へ行く前に、彼らが作ってくれたファンジンが送られてきたのですけど、恥ずかしくなっちゃうくらい男前に描いてもらったイラストが載っていて。「いやいや、こんなにカッコよくないよ」みたいな(笑)。

—そんなことないですよ(笑)。

堀込:その冊子に「ペンタポートでやってほしい曲」をファンどうしで募ったランキングも載っていて、「愛のCoda」がたくさん挙がっていたんです。当初の予定ではセットリストに入れてなくて、「僕の心のありったけ」を演奏するつもりだったけど、これを見たらやるしかないと思って。

—それで合唱が巻き起こったと。他にはどんな曲が人気だったんですか?

堀込:「killer tune kills me」も(韓国語で歌う)ラップのパートで合唱が起こったし、「時間がない」も反応がよかったです。さっきのランキングでいうと、「悪玉」を選ぶ昔からのファンもいれば、新曲の「Rainy Runway」を聴きたいという方まで幅広くいました。


Photo by Mitsuru Nishimura


Photo by Mitsuru Nishimura

—ペンタポートではSE SO NEONとの共演も実現したんですよね。今回のアルバムでも「ほのめかし」でコラボしているわけですが、どういう経緯で実現したんですか?

堀込:昨年、サマーソニックやタヒチ80との対バンでお世話になったクリエイティブマンの方が、SE SO NEONにも携わっていて、「共演とかできたらいいですね」みたいな話はしていたんです。それでアルバム制作に入り、SE SO NEON向きの曲を書こうかなと思ったのですけど、それっぽいのが作れなくて。「今回は難しいかな」と思っていたら、彼女たちが3月に来日公演を行なうことが決まり、その翌日に「お茶でもしましょう」という話になったんです。ちょうどそのとき「ほのめかし」を作っていて、この曲だったらソユンさんのボーカルと相性がいいかもと提案したら「いいですね」となって。割とあっさり決まりました。



—制作もそのまま日本で行なったんですか?

堀込:いや、オンライン上です。後日デモを送り、「ヴァースについては自由に作ってもらって構いません」とお伝えして。そこの歌詞やメロディは彼女が考えてくれたものです。

—2019年に高樹さんを取材したとき、SE SO NEONについて「初めて自分がブラジルのロックを聴いた時に近い感動があった」と語っていましたよね。

堀込:ソユンさんはSE SO NEONでかっこいいギターを弾いてたりするけど、ソロ(So!YoON!名義)ではダンスミュージックの影響も感じられたり、ミュージシャンとして奥行きのある人ですよね。だったら「ほのめかし」みたいな曲もいけるかなと思って。


SE SO NEON、今年のペンタポートでのライブ映像



—So!YoONのニューアルバム『Episode1 : Love』も最高ですよね。「ほのめかし」はサウンド的にどんなものをめざしたんですか?

堀込:まずはループの曲を作ろうと、ベースラインから着手し始めて。ドラムは8ビートなんだけど、ちょっと跳ねた感じ。最近のソウル/R&Bみたいなヨレたビートにしてみたら、途端に今までのKIRINJIと違う感じになって。「これは新しいかも」と思ったんです。ビートが曲の印象を決定づけているというか。伊吹くん(伊吹文裕:Dr)に打ち込んだデモを聴いてもらって、すごくいい塩梅で叩いてもらいました。

—「曖昧に仄めかし、行間を読む」というのはある意味で日本的な仕草とも言えそうですが、そういうモチーフをここで採用した理由は?

堀込:「ほのめかし」はずっとメモにあった言葉で、たまたまこのメロディにピタッとハマったんですよね。”仄めかしたら 察してほしいね”というくだりも、言葉にグルーヴがあるなと思って。忖度みたいな話として、政治的な側面から捉えてもらっても構わないんですけど、それよりは単純に……「 言葉がなくてもわかりあえる」ってコミュニケーションとして高度じゃないですか。そういうのって恋愛とか人間関係において日々行なわれていることで。「皆まで言わない」というのは日本人特有みたいに思われがちだけど、世界中で行なわれていることだと思うし、だからみんな理解してくれるだろうと思ったんです。

—なるほど。ソユンさんのパートは、そういう意図を深く汲み取っているように思います。

堀込:”既読スルーしないで”っていうね。LINEで既読がついたのに返事が来ないときの空気って、たしかにそうですよね。僕はてっきり同じ空間にいるものだと考えて、その場に流れる空気のことしか頭になかったんですけど、彼女はさすが今の人だから。離れ離れの距離にいても流れている空気、スマホとスマホの間の空気というのを見つけたんだなって。

ポジティブなムードの背景

—『Steppin' Out』というタイトルは、昨年6月に配信された「Rainy Runway」の歌詞から持ってきたものですよね。あの曲が出たときのインタビューでも、高樹さんは「新しい一歩を踏み出す勇気」について語っていましたが、ずばり最新アルバムのテーマは?

堀込:作りながら考えていたのは、メロディアスな曲を増やしたかったのと、自分なりに明るいアルバムにしたいなと思って。だから先にタイトルを決めて、それにふさわしい曲を作っていこうと考えたんです。で、最初は「素敵な予感」というタイトルにするつもりだったんですよ。どこにでもある言葉だけど、意外と使われてないような気がして。

—同じ「Rainy Runway」の”新しい季節を生きよう/素敵な予感しかない!”というくだりから、ということですよね。

堀込:それから、アルバムのジャケットをイラストレーターのみっちぇ(亡霊工房)さんに手がけていただくことになり、どれを使おうかなという話になったときに……荒野のなかに未知なる物体があって、1人ポツンとそれを見上げている。このイラストで「素敵な予感」は違うかな、と思ったんです。それよりはこう……「Walk out to Winter」的な感じがするじゃないですか。それで、『Steppin' Out』がよさそうだとなりました。



—高樹さんがおっしゃる通り、”ほら、素敵な予感が湧いてきそうだよ”(「指先ひとつで」)、”必ずや上手くいくよ”(「説得」)などポジティブな言葉が目立ちますが、そのモードはどこからやってきたんですか?

堀込:昨年から弾き語りツアーを始めまして。その高揚感で気持ちが上向きになったまま制作に入ることができたのが大きいと思います。肉体的にも精神的にもエンジンがかかった状態で、調子がいいまま曲作りに取り掛かることができた。あとはコロナも落ち着いてきたので、社会のムードもそうだし、自分自身もシフトチェンジしたいという気持ちもありました。


Photo by Mitsuru Nishimura

—アルバム全体で、サウンド面ではどんなことを意識しましたか?

堀込:KIRINJIはここ数年で編成も変わってきたし、「時間がない」「killer tune kills me」で知ってくれた人たちは、ああいう曲調が好きで聴いていると思うんですよ。そこでいきなりジャズとかカントリーっぽいもの、ディープなものをやりだすと「あれ、変わっちゃったな」と思われかねないし、KIRINJIがどういうものか掴みにくくなりそうな気がして。それで、シグネチャーサウンドとまではいかないけど、(引き続き)ソウルっぽい要素を印象付けるために「Runners High」や「Rainy Runway」といった曲を作ったところはあります。「指先ひとつで」も70年代っぽいサウンドだけど、小森くん(小森雅仁:エンジニア)が現代的な音像にミックスしてくれているからレイドバックした感じには聞こえないはずで。

—新レーベル『syncokin』設立に寄せたコメントで、「新しい音楽も古い音楽も取り込んで、今の音楽として響かせよう」と書いていましたよね。「Rainy Runway」のインタビューでも「書く曲そのものを劇的に変えたいわけではないのですが、(中略)オーセンティックな演奏だけど新鮮に感じられる、そういう落とし所をアレンジやミックスなどで模索しているところです」と話していました。

堀込:そうそう。『cherish』で打ち込みとかダンスミュージックっぽい音像に振り切ったあと、千ヶ崎くん(千ヶ崎学:Ba)と一緒にミックス作業をしているときに、「昔のキリンジでやっていたようなサウンドも、ミックスのバランスや音像次第で今のものとして機能するんじゃないか」という話をしていたんです。それは今回も改めて意識しました。「nestling」や「I ♡ 歌舞伎町」もそうだし、「Runners High」は過去の曲でいうと「冬来たりなば」みたいなシンベ(シンセベース)を使ったソウルに近いんだけど、音像や曲の構造はちゃんと新しくなっている。アルペジオで始まり、パッドが入って、「ハウスっぽい曲なのかな」と思ったらドラムが入って、また抜けて、そこから曲が始まるというダンスミュージックっぽいイントロにして。さらに、曲(歌メロ)が終わってからも先がある。

—最近のKIRINJIはタイトにまとめる傾向が続いていたなか、1曲目から6分強の長尺というのも新機軸ですよね。曲終盤のゴスペルっぽい展開も新鮮でした。

堀込:イントロを長くするなら、エンディングも長くしないとバランスとしておかしいじゃないですか。だから、ファンクに突入するのがいいかなと思って。宇多田ヒカルさんがフローティング・ポインツと一緒に作った曲(「Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー」)は前半がAOR的だけど、後半はハウスっぽくなっていきますよね。1曲のなかでフェイズが変わっていくのが面白いなと思って。曲調そのものは全然違うけど、構造的にはあの曲を少し意識しています。




—”どこまでもいけそう”というフィーリングが歌詞からも伝わってきますが、そのなかに”新しいスタジアム 切り倒された街路樹/鏡の国は scrap and build”というフレーズがあったのも気になりました。

堀込:渋谷の再開発も進んで、 自分が知っていた渋谷駅とは随分違うものになってきました。横浜駅とかも訪れるたびに変わっていて、こういうのが永遠に続くんだろうなって。そうなると迷子になりがちだけど、自分を見失わないようにしようねってことですね。

—”太陽が脱皮する/今日の日が始まる/身体中の血が駆け巡っているんだ”というくだりで、「Almond Eyes」の”身体中の血が集まってきてる”を思い浮かべたりもしました。

堀込:ああ、そうか。でも今回は健全ですから(笑)。

心踊るビートと指ハート

—「nestling」が4月にリリースされたとき、「次のアルバムはすごくよさそうだな」と思ったのを覚えています。

堀込:ドラマ主題歌のお話をいただいたとき、今回の特装版に入っているデモがちょうどあったんですよね。これでどうかなと提出したらOKをいただいて。



—そうそう、『Steppin Out』の数量限定盤には1stデモ音源が収録されるんですよね。「こんなの聞かせてもらっていいんですか?」という感動がありました。

堀込:これまでも出したいと言えば出せたと思うんですけど、そういう気にならなくて。恥ずかしかったので……図々しくなったんですかね(笑)。

—「ラララ〜」という高樹さんの仮歌に悶絶するファンも多いのでは。いろいろ発見や驚きもありました。

堀込:「(完成版にはある)Aメロがないじゃん」みたいな曲もありますしね。


『Steppin' Out』数量限定盤は特殊パッケージ仕様のCD3枚組。アルバム収録曲のインストゥルメンタル/1stデモ音源を収録。1曲ごとに用紙や加工で表現した全9曲分の歌詞カード、プリントサイン入りポラロイド風カードも封入(数量限定盤はsyncokin OFFICIAL STOREとライブ会場限定で購入可能)

—個人的には、「デモの段階でここまで作り込んでるんだ!」と思いましたよ。

堀込:ギターやピアノだけ、みたいな人もいますからね。でも「nestling」はだいぶ変わってたでしょ?

—デモと完成版では疾走感やグルーヴが全然違いますね。単純にテンポが上がっているのと、BREIMENの高木祥太さん(Ba)、So Kanno(Dr)の演奏も大きいのかなと。

堀込:そうですね。Kannoくんは前からライブでも一緒にやってますし、高木くんには5弦(ベース)を弾いてもらって。

—サウンド的には「Take On Me」の系譜、ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」やハリー・スタイルズ「As It Was」に連なる曲かなと思ったら、ザ・ナックの「My Sharona」が下敷きになってるそうですね。

堀込:あまり気づいてもらえないんですよね、曲調が違いすぎるからなのか。楽しいんですよ、このビート。ウキウキしてくる。


Photo by Mitsuru Nishimura


Photo by Mitsuru Nishimura

—その次の「指先ひとつで」はどういうイメージで?

堀込:10ccとかパイロットみたいな、イギリスのパンク直前のポップスみたいなイメージはありました。

—言われてみれば、途中に入ってくるギターの音色はかなり10ccっぽいですね。近年のKIRINJIはループ主体だったわけで、ここまで何度も転調する曲も久々なのかなと。

堀込:頭のAメロから作っていったんですけど、こういうメランコリックな曲をシャッフル(ビート)でやってなかったと思って。そういうのをやるとポップス職人とか言われるので避けてたんです(笑)。イギリスっぽいことをやると絶対言われるじゃないですか。

—わかります(笑)。最近は音楽メディアでも見かけなくなってきたフレーズですね。

堀込:でも言われがちでしょう、エバーグリーンとか(笑)。この曲は平歌とサビでテンポが違っていて。平歌のテンポでサビを歌うとすごく間延びするんですよ。「うーん、どうしよう」と思って、それでサビはテンポを早くしたんです。昔は曲を作ったらみんなで覚えて、メロディに合わせて演奏すると自然にテンポも変わっていったわけで。なんだ、昔みたいにクリックなんか聞かずに録ればよかったんだって。




—その辺りをさらっとスムーズに聞かせているのは、GOTOさんの技巧的なドラムも大きいんじゃないですか。

堀込:GOTOくんのことは崎山蒼志くんのMVで知りました。「こんなにかっこいい人がいるんだ、どこでライブをやってるんだろう?」と思ったら、ちょうど「GOTO Festival」というのが開催されるらしいと知って。



—GOTOさんが日頃から演奏しているDALLJUB STEP CLUB、礼賛、Mega Shinnosuke、崎山さんなどが一挙出演するイベントが3月にあったんですよね。

堀込:その日の日中にSE SO NEONとお茶したんですよ。それからGOTOくんのお祭りに行って、翌日には「お願いします」と。

—指先のサインひとつで自分も周囲もポジティブになれる、という歌詞ですよね。”後ろ指 刺されても/親指と人差し指で/小さなハートの形を差しだせば/それ以上はかまってこない”という一節を聞いて、高樹さんにハートポーズをキメてもらったら素敵な予感がするぞって思いました。

堀込:すでにやってます、バレンタインのときに。すみません恥ずかしげもなく(笑)。

KIRINJIの堀込高樹さんが
毎週日曜14時〜お送りしている
「NEW MUSIC, NEW LIFE」

休日のひとときに
いろんなシチュエーションで
こだわりの音楽をセレクト!

メッセージお待ちしてます
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今週もどうぞお楽しみに#堀込高樹 #KIRINJI pic.twitter.com/oxHIbTN1iv — α-STATION FM KYOTO (@fmkyoto) February 12, 2023
「新たな一歩」を踏み出し続ける理由

—「説得」も独特な曲ですね。出だしから”説き伏せてみてほしい”と歌う曲も珍しい。

堀込:仕事を受けるのってプレッシャーなんですよ。でも、断ると仕事が来なくなっちゃう。「ライブのリハもしなきゃいけないけど……できなくもないんだよね」みたいな。そういうときに「やりましょう、やった方がいいですよ」と言ってもらえると「じゃあやるか」となるじゃないですか。だから説き伏せてほしいんです。それで、失敗したら人のせいにすると。「そっちがやれって言ったんじゃん!」って(笑)。

—(笑)この曲も昔のキリンジを想起させる曲調ですが、音像はやはり今っぽい。

堀込:メロウなファンクを作ろうかなと思って始まった曲で、宮川純くんがキーボードを弾いてるんですけど、彼がいるとジャズ寄りのフレーバーが入ってきますね。伊吹くんのドラムもそう。普通にやるとギルバート・オサリバンっぽくなるのかもしれないけど、彼らが演奏することでまた別の顔が見えてくるというか。



—「seven/four」は前作の「ブロッコロロマネスコ」に続くインストで、曲名は7/4拍子ということですよね。

堀込:「ほのめかし」「nestling」のようにエレクトロニクス中心で生まれた曲と、「I ♡ 歌舞伎町」「Rainy Runway」といったアコースティックなアンサンブルがあるなかで、その中間くらいなものがほしくて。完全に生演奏だけど、上物はピッチの危ういシンセがあったり、ミックスもざらついた感じにして。バッドバッドノットグッドみたいな、ジャズなんだけど音像的にオルタナティブな感じがここに来ると、うまく接着できるかなと思ったんです。




—「I ♡ 歌舞伎町」は有名なネオンサインが思い浮かびます。

堀込:そうそう。トー横キッズとか、あの辺りにたむろしている若者がいますよね。彼らがいろんな犯罪に巻き込まれてしまうなかで、食い物にしたり、貢がせたりする存在がいるわけじゃないですか。”推しのためです”と売春している若い子に寄ってくる男たちとか。子供たちは弱い立場にいるんだけど、そこに群がってくる男たちというのも辛い思いをしながら生き続けているのかもしれない。「被害者と加害者」という構図ではなく、弱い立場にいる人たちがお互いに傷つけ合っている。そこで出会った2人が、パッと見上げると「I ♡ 歌舞伎町」が目に入る。そういう皮肉めいた光景を描いたつもりです。



—「「あの娘は誰?」とか言わせたい」に通じるストーリーでもありますが、視点は逆というか。こういうシチュエーションを歌うとなったとき、若い女性の視点に立つJ-POPはあっても、中高年であろう男性の視点で歌ったものはほとんどなさそうな気がします。

堀込:僕も近い世代だし、たまたまこうやってミュージシャンとして生活できているだけで、(人生は)どう転がるかわからないじゃないですか。たとえば、自分が大学生のときに親が亡くなったりしていたら途端に困窮していたかもしれない。物の弾みでうまくいってるけど、 いつ落ち込むかわからないわけです。そういうことをたまに想像するんですよね。 それに、ああいうところにいる子供たちって高校生や大学生だけでなく、中学生や小学生もいたりする。うちの子たちとほぼ同世代で、そう考えるとそこまで遠い存在とは思えないんですよ。

—不穏な雰囲気が、ブラスのアレンジでうまく表現されています。

堀込:ハーモニーが綺麗な曲になったので、ホーンが入ったほうが際立つだろうと思って。4管とフルートという取り合わせで、カウンターメロディもしっかり作って。あとは武嶋聡さん(Sax, Fl)とも相談して、かっこいい感じになりました。


Photo by Mitsuru Nishimura

—「不恰好な星座」は”死は優しくおごそか/雨はそっとあたたか/あなたがいてよかった/さようなら”というサビで、「死と喪失」について歌われています。

堀込:ちょうどアルバムを作っているときに高橋幸宏さんや坂本龍一さん、バート・バカラックといった音楽家たちが立て続けに亡くなりましたよね。今日(取材日)もロビー・ロバートソンの訃報があったけど、憧れてきた人たちが「巨星墜つ」でどんどんいなくなってしまった。星が消えていくと星座の形も変わるじゃないですか。初めは喪失感もあって、形の変わった星座が奇妙に感じるけど、自分も生きることを続けなきゃいけないわけで。今というものに美しさを見出さないと生きていけないよねっていう。

—そういうテーマで曲を作ると大袈裟なバラードとかになりがちですけど、ニューウェーヴっぽい尖ったアレンジに仕上がっているのも面白いです。

堀込:最初はメロウな曲になったんですけど、つまんないなと思って(笑)。 泣きっぽいのはイヤだから、もう少しファンキーでグルーヴのあるものにしようと。それでカッコよく出来上がったかなと思ったんですけど、しばらくしてから聴き返したら、なんか違うなってなって。それで、最初はカウペルを叩く音とかも入ってたんですけど、アフロファンクを象徴する音は全部外して、もっとメカニカルでよくわからない感じにして、最終的にこういうバランスになりました。



—ずっとKIRINJIを続けて、新レーベルを立ち上げ、またもや意欲的なアルバムを完成させて。そのモチベーションはどこからやってくるんですか?

堀込:看板を背負ったから、みたいなところはありますよね。(キリンジとして)15年やってきたものをガラッと変えたとき、「昔の方がよかった」と言ってくる人は当然いるわけですよ。そういう声に負けたくないという気持ちは当然あります。「昔もよかったけど今もいいね」という形にしたいわけですよね。ただ、(KIRINJIとして)バンドにした頃はそういう気持ちでやっていたけど、今はまたちょっと違うんですよ。

—そうなんですか?

堀込:今はもっと単純に、作るのが楽しいんですよね。あと、 新しいことをやると新しいリスナーがついてくるっていうのは、やっぱり実感としてわかるじゃないですか。そのおかげで、常に新鮮な気持ちでいられるのは大きいかもしれない。何かを出すたびに新しい景色が広がっていくので、「次はこうしよう」 みたいな気持ちになりますよね。


Photo by Mitsuru Nishimura

【写真ギャラリー】KIRINJI・堀込高樹 撮り下ろし写真(記事未掲載カットあり・全10点)



KIRINJI
『Steppin Out』
2023年9月6日(水)リリース


通常盤(CD):3,850円(税込)
配信:https://syncokin.lnk.to/SteppinOut


数量限定盤(3CD): 11,000円(税込)
※数量限定盤はボーナスCD付属(収録曲のインストゥルメンタル/1stデモ音源を収録)
購入:https://starsmall.jp/shops/KIRINJI

KIRINJI 弾き語り~ひとりで伺います
2023年9月16日(土)岩手・岩手県公会堂 21号室
2023年9月17日(日)秋田・能代市旧料亭金勇 大広間
2023年9月18日(月・祝)青森・ねぶたの家 ワ・ラッセ
2023年10月7日(土)山口・山口県旧県会議事堂
2023年10月8日(日)島根・興雲閣
2023年10月9日(月・祝)鳥取・湖泉閣 養生館
2023年10月14日(土)三重・賓日館
2023年10月15日(日)滋賀・蔵元 藤居本家 けやきの大広間開場
2023年10月19日(木)神奈川・SUPERNOVA KAWASAKI

KIRINJI TOUR 2023
2023年11月17日(金)宮城・仙台 Rensa
2023年11月23日(木・祝)福岡DRUM Be-1
2023年11月24日(金)広島CLUB QUATTRO
2023年12月9日 (土)北海道・札幌 PENNY LANE 24
2023年12月14日(木)愛知・名古屋CLUB QUATTRO
2023年12月15日(金)大阪BIGCAT
2023年12月19日(火)東京 EX THEATER ROPPONGI
2023年12月20日(水)東京 EX THEATER ROPPONGI
2023年12月24日(日)沖縄 桜坂セントラル

KIRINJI公式サイト:https://www.kirinji-official.com/

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