上原ひろみ、新プロジェクト「Sonicwonder」を語る「今回は想像してるものと違いますよ」
Rolling Stone Japan / 2023年9月15日 18時0分
ソロピアノでの『Spectrum』(2019年)、弦楽四重奏との共演『シルヴァー・ライニング・スイート』(2021年)といった意欲作を送り出してきた上原ひろみが、久々のバンド編成によるニューアルバム『Sonicwonderland』を発表した。
今回は新プロジェクト「Hiromi's Sonicwonder」名義でのリリースとなり、超絶テクニックで知られる5弦ベースの名手アドリアン・フェロー、ラリー・カールトンからフライング・ロータスまで幅広く活動してきたドラマーのジーン・コイ、トランペットの新鋭アダム・オファリルという気鋭の音楽家たちが迎えられている。
かつて2007〜2008年に活動した「Hiromi's Sonicbloom」では、奇才ギタリストのデヴィッド・フュージンスキーがぶっ飛んだプレイを随所に聴かせ、それに上原も応えるさまが聴きどころでもあった。今回のSonicwonderでは、アダム・オファリルがその役割を務めているように思う。アルトゥール・オファリルやスティーブン・フェイフケらの名ビッグバンドに所属する実力派でありながら、自身の作品ではフリージャズも視野に入れた抽象性をもたせ、エフェクトや多重録音も駆使するセンスを併せ持つ個性派だ。そんなアダムの存在が上原に刺激を与えていることは、本作のどの曲を聴いても明らかだ。
また、ここ数年はトリオ・プロジェクトやソロピアノでの活動が続いていたこともあり、上原の持ち味のひとつでもあったシンセサイザー、Nord Leadのサウンドがあまり聴かれない時期が続いていたが、この最新作ではタイトル曲「ソニックワンダーランド」などで、その音色が大きな存在感を放っている。つまり、Sonicwonderのメンバーによって、この15年ほどは聴かれなかった音楽性が引き出されているとも言えるだろう。
そういう意味では、かなりの異色作である。僕もアルバムを聴いて驚いたし、多くのファンが同じように驚くはずだ。本人の制作意図を確かめるべく、上原にインタビューを行なった。
―そもそも「Sonicwonder」という名前にはどんな意味があるんでしょうか?
上原:ザ・トリオ・プロジェクトの前に、「Sonicbloom」というエレクトリック色の強いバンドをやっていました。今回、「Sonic」という言葉をつけているのは、当時からのファンの方に「今回はちょっとエレクトリックなことをやるよ」って気づいてもらうためのサインです。”Sonic”だったら、私がキーボードに囲まれているような音楽だっていう意思表示が伝わるだろうと。
―「Sonicbloom」と明確な繋がりがあるわけですね。デヴィッド・フュージンスキーと共演していた頃の音楽とも関係があると。
上原:そうですね。ピアノだけではないっていうことや、エフェクトを使ったりもするということの意思表示としてバンド名を考えました。
―このメンバーはどうやって決めたんでしょうか。
上原:アドリアン・フェローは2016年、アンソニー・ジャクソン(Ba)の代役としてトリオ・プロジェクトで演奏してくれたんです。それが初共演だったのですが、初めてという感じがしなかったというか、「面白いな、この人ともっと演奏したいな」という気持ちになりました。
その頃はトリオのサウンドがかなり確立されてきた時期で、サイモン・フィリップス(トリオ・プロジェクトのDr)も私も、こういうベースがほしいっていうイメージがかなり固まっていて、アドリアンはそれに寄せてプレイしてくれました。でも、やっぱり一緒にやっていると「アドリアンらしさ」が出てくる瞬間があって、「こういうプレイをもっと自由にやってもらいたいな」って思うことが何度もあったんです。そのうち、彼のことを想定して曲を書いたりするようになり、「プロジェクトを一緒にやれたらいいな」という気持ちがすごく強くなっていました。
でも、エドマール・カスタネーダとの出会いや(2017年作『ライヴ・イン・モントリオール』)、10年に1枚作っているソロ(『Spectrum』)、他にもいろいろとやりたいプロジェクトが渋滞していて。「よし、バンドやろう!」と思ったら、2020年からコロナ禍に入ってしまい……。当時は弦楽四重奏とのピアノ・クインテットをやったり(『シルヴァー・ライニング・スイート』)、その時にできることをやってきたのですが、このバンドの構想はずっと頭にあったので、曲は書きためていました。
それで、ようやく海外と行き来ができるようになってきたので、アドリアンとジーン・コイに声をかけて、もうワンレイヤーほしいなと思っていたところ、曲を書いてるなかでトランペットだなと。探すのに時間はかかりましたが、アダム・オファリルを見つけて、声をかけてセッションをしたら「この人だ!」と思ったので、バンド・メンバーが揃いました。
―さっき仰ってた「アドリアンらしさ」ってどんなところだと思いますか?
上原:彼の動画を見ていると、基本的に超絶技巧で弾いているような演奏が多いですが、私が一緒に演奏しながら感動したのはそこじゃないんです。1つのコードに対してベーシストが弾ける音って、いろんな音のオプションがあると思いますが、彼のハーモニーのコンセプトが本当に面白いので、彼がその音を弾いたことで、上でソロをしている人の聴こえ方が全然変わってくるんですよ。そのコードに対して、もちろん、F7だったらFを弾くんだけど、Fじゃない音を彼が選んだ時に、不協和音ではなくて、ちゃんとソロとして成立する絶妙な音を選んでくる。彼はそれを天性でやっている。「ここでそのベース音を選ぶんだ!」って驚いたし、それによってソリストの聴こえ方を変えてしまうんです。
あとは音色もいい。そこに関しては、アンソニー・ジャクソンの影響を受けてると彼は言っていましたけど、ウッドベースみたいにピッキングしたり、音をミュートさせて弾いたり、いろんな音色の豊かさを出せるし、そのための奏法を持ち合わせています。ミュートしてつまびくように弾くっていうやり方は、私はアンソニーを除いては、アドリアン以外で見たことがないですね。
―彼はベースヒーローという印象ですけど、テクニックだけではなくアンサンブルでの貢献がすごいと。では、今回はアドリアンのそういった部分がよく出るような曲を書いたんですか?
上原:はい。優れた技術の持ち主なので、「彼だったらこれをユニゾンで弾けるな」とか、そのポテンシャルをマックスで出せるような楽曲を書きました。アドリアンのことをすごく考えて作ったので、アドリアンが光るようになってると思います。
新たな仲間たちとのフリージャズ
―個人的に、今回の目玉はトランペット奏者のアダム・オファリルだと思います。かなり意外な人選でしたけど、どんなところに惹かれたのでしょうか?
上原:音色です。トランペットって楽器の印象が煌びやかで、ビックバンドだったら花形で、音が一番パーンと突き抜けるイメージがすごく強いと思います。でも、私が最初に好きになったトランペッターはケニー・ドーハムなんです。トランペットの音域の中の低音からミッドの部分がすごく好きなんですね。だから、アダムの音を聴いたときに痺れた。「この人は何を吹いたっていいな」「この音色があれば勝ちだ」みたいに思いました。彼に声をかけた時に「エフェクトを使うような、ちょっとエレクトロニカな音楽をやりたいんだけど、どう?」って言ったら、エフェクトを使ったサンプル音源をいくつか送ってくれたんです。実際に会ってセッションした時も、いくつかペダル持ってきてくれて、「これだったら思い描いている感じに持っていけるな」と思いました。
―僕はアダムのアルバムを以前から聴いたので、すごく意外だったんですよね。
上原:私が声をかけたことを、彼自身も驚いたみたいです。それこそ、系譜からすれば全然違う。ニューヨークのシーンでも、彼がいる場所ってThe Jazz Gallery(若手による実験的な企画や新人の発掘を続けるNY随一の先進的なジャズクラブ)とかだから。ただ、彼自身はいろんなことをやってる人なんですよ。しかもすごくやる気があったので、いいなと。
―さっきケニー・ドーハムが好きだと仰ってましたが、他にはどういったトランペッターが好きなんですか。そもそも上原さんはこれまでほとんど管楽器を入れてこなかったですし、トランペットが好きなイメージがあまりないもので。
上原:オスカー・ピーターソンは幼い頃から聴いていて。初期に買ったアルバムは『Oscar Peterson and the Trumpet Kings - Jousts』(参加しているトランペット奏者はハリー・エディソン、ディジー・ガレスピーなど)。だから、トランペットはすごく好きですよ。やっぱりバンドで一緒にやってないと、好きそうっていうイメージにならないんですかね?
―上原さんはデビュー時からエレクトリックでプログレッシブなジャズをやってる印象もあったので、エレキギターをバンドに入れるのは想像がつきましたけど、トランペットとのカルテットを結成するのは想定外でした。
上原:今回、「ポラリス」という曲を書いた時、トランペットが聴こえてきました。「もうワンレイヤーほしいけど、サックスじゃないし、ギターでもないなぁ」とか考えていた時に「トランペットだ!」って、そこではっきり分かった。どういう音色のトランペッターかということも、すぐにはっきりしました。
Photo by Mitsuru Nishimura
―あと、ジーン・コイはどういう繋がりですか?
上原:スタンリー・クラーク・バンドと演奏した時、彼がロナルド・ブルーナーJr.の代役として来ていたので、会ったことはありました。その後、いろんなバンドで彼の演奏を見ていて、ユーモアに溢れた素敵なドラマーだと思うようになって。私のバンドで必要なドラマーは、ソリストに対して内向的ではなく、外交的な人です。ジーンはまさにそういう人だった。それに、彼はアドリアンとLAのThe Baked Potatoというクラブでよく一緒に演奏しているんです。ベースとドラムがちゃんとしたボートになっているって重要だし、アドリアンに相談したら「いいと思う」と言ってくれたので、ジーンに声をかけました。
―トリオでのサイモン・フィリップスとは全然違うタイプのドラマーですよね。彼はどんなドラマーですか?
上原:アコースティックピアノとドラムって音圧が全然違います。ジーンはソフトに叩くところはすごくソフトに叩く。だから、トリオ・プロジェクトの時より音が小さい時が多い印象があります。弦とやっている時ぐらいの音圧(の小ささ)の時が結構ある珍しいタイプですね。こんなに小さいなと思ったドラマーはマーカス・ギルモアぐらいかもしれません。マーカスやケンドリック・スコットも小さいときは小さいですが、すごくダイナミクスがある。ケンドリックは、ハードの時はすごくハードで、そこがすごく面白いですよね。ソロをコンストラクトしてるときの音圧が自由自在だから。
―ジーン・コイのそういう部分がよく出ている曲ってどれですか?
上原:「ゴー・ゴー」と「トライアル&エラー」ですかね。この2曲はアダムの影響が否めないというか、ライブの時は、フリー(ジャズ)なんです。テーマはあって、もちろん展開もあるけど、ソロの部分はテンポの拍子もコードもその日次第。ジーンとアドリアンもそうですけど、真っ暗闇に行くのがまったく怖くないタイプなんです。(ライブ中に)3秒間全員が止まっちゃう、みたいな時があって、「これ、誰が次?……ああ、戻った」っていう調子がずっと続いていくのがこの2曲なんです。こういう感じを自分の作品でやるっていうのは新しいですね。誰かとセッションしているときにはあるけど、自分の作品やライブでそういう(フリージャズ的な)ことはあまりしてこなかったので、楽しいです(笑)。
―なぜ、それを今回やろうと思ったんですか。
上原:このメンバーと一緒にやっていたら、自然とその方向に行っちゃったんです。もともと「ゴー・ゴー」って、パンデミックの時、SNSで「One Minute Portrait」というプロジェクトをやっていて、そこでメタリカのロバート・トゥルヒーヨ(Ba)とやった演奏がもとになっています。もともとはフリーになるような曲ではなかったのですが、このメンバーとやってたら、すごくフリーになっていって。それがすごく楽しいですね。
―「ゴー・ゴー」はまだわかるんですけど、「トライアル&エラー」みたいな遅くてダークなフリージャズは、今までの上原さんのイメージと違いすぎるんですよね。アダムの影響もあるのかもしれないですけど。
上原:アダムの影響は大きいでしょうね。リード・インストゥルメント、メロディを弾くような楽器でソリストが(私とアダムの)2人いるわけだし。曲って最初から最後まで演奏でストーリーを紡いでいくものなので、自分の前の人がどういうプレイをしたかがお互いに影響するんですよ。もしアダムがビバップっぽく吹く人だったら、全く違った作品になっていたと思います。別のトランペッターが同じ曲を吹いたとしたら、違う展開になるだろうし。たとえば自分が先陣を切って最初のソロをとるとしたら、アダムに渡すってことをわかってやっているので、そこも含めてインプロバイズします。それもその瞬間のコンポーズ。その作曲法はメンバーが誰かで変わるんですよ。
―上原さんってこういう暗くて遅いインプロみたいな音楽は聴くんですか?
上原:聴きますし、演奏するのは好きなのですが、あんまりやってこなかったですね。
―録音はしてないけど、実はどこかでやってるとか?
上原:たまにありますよ。ただ、発表することがすべてではないと思っているので。1時間くらい、フリーなセッションをするのも好きですね。それをステージでやるとびっくりされちゃうこともありますが…。2006年頃にタップダンサーの熊谷(和徳)くんと、事前に決めずにやりたいと思って45分1曲で演奏したことがありますが……その時客席はシーンとしてましたね(苦笑)。
―(笑)。
上原:とはいっても好きです。お客さんが50人ぐらいで、暗いところでやりたいですね。夜12時ぐらいから(笑)。
―そういう狭い地下でやってるような音楽を「アルバムに入れるんだ⁉️」と思ったんですよね。
上原:作品で出すかどうかはみんなと相談して、(アルバムでは)7分にしましたけど、ライヴだと14〜15分になる時もあります。アドリアンは全体の空気を客観視できる人なんです。私も見るようにはしますが、特にこういうタイプの曲をやってる時は見えなくなる時があって、終わってから「ちょっとやりすぎだったんじゃないかな?」みたいな反省会をすることもあります。でも、アダムは大体やりすぎの時の方が好きなタイプなんですよね。「いや、今のは最高だったと思う」「いや、絶対やりすぎだよ」とか話し合ったりします(笑)。
Nord Leadの魅力を大いに語る
―ところで、今回はかなりNordを弾いてますよね。初期のアルバムだと「010101 (Binary System) 」や「Kung-Fu World Champion」みたいにNordを派手に弾いてる曲もあったりして。
上原:はい、ありましたね。
―そもそも上原さんにとって、Nordってどういう楽器ですか。
上原:曲を全然違う視点で書かせてくれる楽器です。ピアノで曲を書いている時とは全然違うものが出てくる。トリオ・プロジェクトをやっている時は、「ミュージシャン」「バンド」って設定で曲を書いていて、あまりNordは聞こえてこなかったんです。でも、2017〜2018年あたりからは、かなりNordで作っています。シンセがくれるインスピレーションがすごくあって、「この音だったらこういうメロディ」とか「こういうリズムが面白いな」という感じで、絶対ピアノでは出てこないものが出てくる。曲を作るうえで、Nordはすごく頼りにしている存在ですね。
―ピアノは「技術でどう鳴らすか」みたいな楽器ですが、Nordだと地道に音色を作る作業があると思います。上原さんは初期の頃から変わった音を作っていましたよね。その作業は、自分にとってどういうものですか。
上原:メロディを書いてから音を作るというより、音から(曲を)作ることが多いです。音色がスパイスだとすると、一つ一つを混ぜながら、もうちょっと歪ませたいなとか、伸ばしたいなとか、もう少しアタックを遅くしようとか、いろんなことをやって音色ができたところで、その音色でどんな曲ができるかなって考えていく感じです。
―曲があってじゃなく、先に音色を作ると。
上原:はい。キーボードでは、遊びながら面白い音を探して弾きながら、こういう曲がいいなと思いを巡らせながら作っています。
―タイトル曲の「ソニックワンダーランド」も、音を作っていたところで出てきたんでしょうか。
上原:そうです。
―音がゲームっぽいと思った、みたいなことですか?
上原:この曲のミュージックビデオでも描かれているように、横スクロールの2Dゲームというイメージが頭の中にあって、そういう曲を書きたいなと思って音作りを始めたので、その影響は大きいですね。
―Nordでソロをとる時って、やっぱりピアノと違うじゃないですか。ピアノだったらタッチで(ニュアンスを)変えられるんだろうけど、上原さんみたいにピアノを弾ける人にとってはシンセって不自由なところもあるのかなと。Nordでソロをとるのはどんな感覚ですか?
上原:ピアノとの一番の違いは、音が伸びること。減衰しない音の中で音色を変えていったりできるので、キーボードを弾いている時の方がいたずら感が強いですね。子供がおもちゃで遊んでいる感がピアノより強い。マッドサイエンティスト系ではないというか。
―もっと無邪気な感じなんですね(笑)。
上原:今回、自分が弾いていて、デヴィッド・フュージンスキーの影響が強いなってすごく感じました。私はギターがとても好きで、ギタリストになれるものならなりたかったくらいで。私にとってキーボードを弾くのは、ギターを弾いている気持ちに近いと思います。一番身近にいたギタリストがフュージンスキーだったので、彼と一緒にやっている時にいろんなものをもらいました。だから、自分の中でフュージンスキー・スイッチが入る時があります。
―たしかに。Sonicbloomの頃にも、どっちがギターで、どっちがシンセかわからないような演奏をしていましたよね。
上原:そこで勉強したことは大きいです。こういう音作りがあるんだなって思ったし、ギターの演奏をキーボードに移植できないかな、みたいなことも考えました。彼が精通していたマイクロトーナル・ミュージック(微分音)にも影響を受けています。
―上原さんはずっと同じNord Leadを使ってますよね。
上原:ちょっとずつアップデートしているんですよ。前はNord Lead 2でしたが、今回はA1にアップデートしています。
―昔からずっとシンセを使っているのに、いつもNordの同じシリーズですよね。実はいろいろと試していたりするんですか?
上原:はい。でもやっぱり、Nord Leadが一番好きですね。今までたくさんのシンセを試してきていて、2000年初頭の頃はAccess Virusっていうシンセも同じくらい好きだなと思ったのですが、ここ10年くらいはやはりNordの方が好きだなって。
―Nord Leadはどこがいいんですか?
上原:やっぱり音色が一番大きいです。プレイの部分ではベンド(音程を滑らかに連続的に変化させること、ギターではチョーキングといわれる)ですね。Nord Lead以上のベンドに出会ったことがないです。いつか、ベンドをあの材質にしてくれた制作者に、私は会いたい。
―(笑)
上原:木の下に何が入ってるのかわからない……もしかしたらプラスチックかもしれないけど、ベンドが跳ね返るんですよ。パフォームするうえで本当に最高だなって。あと自分としては、縦のベンドは使いづらくて。横のほうがいいんです。
―ベンドにこだわりがあるってのは、ギターが好きって話とも繋がりますね。
上原:それから鍵盤のタッチも大きいですね。Nord Leadはタッチがすごく好き。ただ、Claviaが(メーカーとして)推しているのはNord Leadではなくて、間違いなくNord Stageなんですよ。Nord Stageはもっといろんなことができる楽器で、特にポップスで使えるので、新作モデルもどんどん出ていますし、Claviaが力を入れるのもよくわかります。それに比べて、Nord Leadはあまりマルチな活躍ができないタイプ。とはいえ、私はそこが好きなんですよね。だから、ディスコンティニューの商品にならないことだけをずっと祈ってます(笑)。部品がなくなっちゃうと困るので。
Photo by Mitsuru Nishimura
―最後の質問です。今回のニューアルバムで「これまでの作品とここが違う」という点が、もしあるとすれば何だと思いますか?
上原:そうですね……(しばらく考え込む)。2017年にはエドマール・カスタネーダとデュオをつくり、2019年にはソロをやり、2021年には弦楽四重奏とやってきた。特に意識していたわけではないですが、この3作では演奏するのはピアノ・オンリーだったんですよ。キーボードは1台持っていたけど、そこまで弾いてこなかった。なので、6年前に私と出会った方にとっては、私にはピアノのイメージしかないと思います。
ただ、ベイエリア、サンフランシスコ、オークランドのあたりって、長年にわたって年に1回は必ず公演しているので、全プロジェクトを観てくださっている方も多くて。それこそ、もう20年ぐらい聴いてくださっている方の中には、こういうことを始めるとセッティングを見ただけで「来た!」みたいな人たちもいるんですよ。
―ですよね。
上原:一方で、近年はコンサートホールをメインに演奏していたのもあって、最近知ってくださった方からすれば「あれ?」ってびっくりしますよね。立ってキーボードを弾いてるっていうだけで「今までと違う」みたいな。特に日本だと『BLUE GIANT』もあったので、ピアノのイメージがより強くなっている。だから、バンド名にしろジャケットにしろ、今回は「想像してるものとは違いますよ」っていう、できる限りの注意喚起を出したつもりです(笑)。
―注意喚起(笑)。
上原:私にとっては、すごく自然にやっていることだし、ずっと好きな音楽の中にあるもの。ファンの中には、ここ5〜6年聴いてきたものとあまりに違って、ショックを受けてしまう方がいるかもしれないけど、これがチャレンジだとはまったく思っていません。やりたいことをやるためにミュージシャンになったので、それを実践しているだけです。
Hiromi's Sonicwonder(上原ひろみ)
『Sonicwonderland』
発売中
再生・購入:https://Hiromi-Uehara.lnk.to/Sonicwonderland
上原ひろみ Hiromis Sonicwonder JAPAN TOUR 2023 ”Sonicwonderland”
2023年11月22日(水)東京・渋谷Spotify O-EAST *スタンディング公演
2023年11月23日(木・祝)三重・四日市市文化会館 第1ホール
2023年11月25日(土)静岡・アクトシティ浜松 大ホール
2023年11月28日(火)宮城・SENDAI GIGS
2023年11月30日(木)福岡・福岡市民会館
2023年12月1日(金)鳥取・米子市公会堂
2023年12月3日(日)静岡・静岡市清水文化会館 マリナート 大ホール
2023年12月5日(火)石川・金沢市文化ホール
2023年12月7日(木)東京・東京国際フォーラム ホールA
2023年12月9日(土)岡山・岡山芸術創造劇場ハレノワ 大劇場
2023年12月10日(日)広島・JMSアステールプラザ 大ホール
2023年12月12日(火)大阪・フェスティバルホール
2023年12月13日(水)名古屋・日本特殊陶業市民会館 フォレストホール(名古屋市民会館)
2023年12月15日(金)北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru
2023年12月17日(日)岩手・盛岡市民文化ホール
2023年12月19日(火)大阪・なんばHatch *スタンディング公演
2023年12月21日(木)東京・東京国際フォーラム ホールA
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