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テデスキ・トラックス・バンドが語る来日の抱負、夫婦の絆、クラプトンやジェフ・ベックへの敬意

Rolling Stone Japan / 2023年9月25日 17時30分

テデスキ・トラックス・バンド(Photo by David McClister)

テデスキ・トラックス・バンド(Tedeschi Trucks Band)が10月18日、20日〜22日に東京・TOKYO DOME CITY HALL、24日に名古屋・Zepp Nagoya、25日に兵庫・あましんアルカイックホールで来日公演を開催する。Rolling Stone Japanでは昨年のスーザン・テデスキ取材に引き続き、今回はデレク・トラックスへのインタビューを実施した。

昨年アルバム4枚に及ぶ超大作『アイ・アム・ザ・ムーン』シリーズに取り組んだテデスキ・トラックス・バンドが、コロナ禍以降初めて日本にやって来る。オールマン・ブラザーズ・バンドのドラマー、ブッチ・トラックスの甥であり、デュアン・オールマンが参加したデレク&ザ・ドミノズから名前を授かったデレク・トラックスにとって、『いとしのレイラ』(1970年)は逃れようがない宿命のアルバム。2019年に同作の再演ライブ・アルバム『レイラ・リヴィジテッド』をリリースして決着をつけたかと思いきや、デレクはさらに奥へと足を踏み入れ、『いとしのレイラ』に影響を与えたペルシアの詩人、ニザーミー・ギャンジャヴィーの物語詩「ライラとマジュヌーン」をテーマに据え、『アイ・アム・ザ・ムーン』プロジェクトを遂行した。

村上春樹から受けた助言が作品に独自の視点をもたらした『アイ・アム・ザ・ムーン』のあらましは、スーザン・テデスキが昨年詳しく語った通り。今回は同作に対するエリック・クラプトンの反応や、若いメンバーが加わったバンドの現在、ジャパンツアーにかける意気込みをデレク・トラックスに語ってもらった。



─大作『アイ・アム・ザ・ムーン』プロジェクトをやり遂げたことに、達成感があったと思います。ツアーでもそこから何曲か演奏していますが、ライブでやってみた手応えはどうですか? 曲が成長しているのを感じる?

デレク:確かに独自の命を宿しつつあるなと感じるよ。あのアルバムを作った時はパンデミックの最中だったので、ライブで演奏する機会はなくて、何カ月も自分達だけの世界、つまりスタジオの中で過ごしていた。でもそれはそれで良かったんだ。すっかり自分達のものになるまでやれたし、あれはああいう形で出すしかないアルバムだった。でも実際にツアーに出てみると、ステージは毎晩違う。レコーディング中に参加した新しいメンバーもいるので、新鮮に感じながらも、全曲が自分達のものなんだという自信というか……昔の曲に関しては、そう思えるまでに少し時間がかかったよ。もともと他のメンバーがやっていたパートを、新しいメンバーは自分の解釈でやらねばならなかったわけだからね。むしろ『アイ・アム・ザ・ムーン』からの新曲は苦労することなくやれているよ。バンドにとってホッとできる場所、みたいに自信を持ってパワフルな演奏ができてるんじゃないかな。



─ファンの多くは、日本でも長尺の「パサクアン」をたっぷり聴けることを期待していると思います。やってくれる可能性はあるでしょうか?

デレク:(笑)あれは僕も弾いていて楽しいよ。ドラマーたちが息切れしない限りね。二人からは「ライブ開始から2時間後にあの曲をやるのだけはやめてほしい」と頼まれた(笑)。なので、もう少し早い段階で、彼らにまだガソリンが残ってるうちにやることにするよ。あれはいつやっても楽しい曲だ。どう発展するかわからないけど、楽しい。



─『アイ・アム・ザ・ムーン』はエリック・クラプトンと切っても切れない作品ですよね。エリックから何か感想を聞く機会はありましたか?

デレク: 実は『アイ・アム・ザ・ムーン』を作ってから、しばらく後まで話してなかったんだ。僕らのショウがロンドンのパラディアムで数日あった時、僕とスーザンとエリックと彼の奥さんとで食事をしたんだけど、奥さんがアルバムの話を持ち出してくれた。で、エリックはライブも観に来てくれたので、『アイ・アム・ザ・ムーン』の曲を実際に聴いてもらえて、反応も見ることができて良かったよ。エリックはすごく感激してくれてたし、そんなエリックを見ることができて、僕もうれしかった。スーザンにとってもエリックは昔からのヒーローなわけで……それまでは常に僕とスーザンはペアというか、エリックと会う時はいつも僕と一緒だったけれど、その時初めて一人のミュージシャンとしてスーザンを観て、リスペクトを払ってくれた。『アイ・アム・ザ・ムーン』を作ったことにも感激してくれてたみたいだ。エリックと長年にわたり、友情が続いていることをうれしく思うよ。初めてエリックと日本に来たのがきっかけで、ウドーの人たちと会い、僕もツアーで来るようになったので、彼には感謝しかない。親しい友人たちもたくさんできた。その前にも日本には行ってたけど、エリックのツアーで行った時は別世界だったからね。

─今やっているツアーでは、ジェフ・ベックの「ベックズ・ボレロ」も演奏していますね。あなたとジェフは、実は共通点が多そうな気がします。彼のどんなところから影響を受けましたか?

デレク:昔から彼の曲を聴いていたわけじゃないんだけど、彼とツアーをするようになって「ジェフみたいに弾ける人間は他にいない」と、みんなが思うのと同じ感想を抱いたよ。まさにユニーク。僕もそうだけど、ピックなしで弾くギタリストはそう多くないので、そのことで余計にジェフが好きになった! 彼がワミーバー(トレモロアーム)を使って弾くと、まるでスライド奏者のようだし、そういう意味で考え方やプレイに共通点があるのかもね。彼の古い曲を演奏し始めたら、すぐにしっくりきて、演奏するのが本当に楽しかった。ジェフのトリビュート・ライブで「ベックズ・ボレロ」を演奏したのがきっかけでジェフの曲の楽しさを再認識できたので、今後もカバーしていくと思う。ジェフは唯一無二の存在だったから、生きている時は彼の曲を演奏すること自体に違和感を覚えるほどだった。何をやってもジェフの方がうまいんだ、なぜ手を出す必要がある?って(笑)。でも彼が亡くなってしまった後は、それを将来に引き継いでいくことも大切だと思う。正しい形でリスペクトするのであればね。

ジェフとはいろんな形で一緒になることがあった。僕らのバンドが前座を務めたこともあるし、スーザンもフェスで一緒になったことがあったと思う。彼女はジェフを僕以上によく知っていたし、ツアー中に割と会うことがあったよ。



テデスキ・トラックス・バンドの進化と現在地

─新しく加わったドラマー、アイザック・イーディのプレイが観られるのも楽しみです。彼はどんなプレイヤーで、どんな人柄の人物ですか?

デレク: アイザックは心の優しいモンスターだよ。ヨンリコ(・スコット、2019年に死去)がデレク・トラックス・バンドに在籍していた時、彼は本当に興奮の頂点に持っていけるようなドラムを叩いてくれた。J.J.(ジョンソン)も同じくモンスターだった。でもアイザックはまたちょっと違うエネルギーとスピリットを持っている。ピアノ、歌、ベース、ギターと多才な男だ。2歳の時からファミリーバンドで演奏してたっていう男さ。おじいさんはブルースギタリスト、おじさんも皆ゴスペルかブルースのプレイヤー。ディープサウス出身なんで、アイザックにはその血が流れてるんだ。子供の頃からデレク・トラックス・バンドやスーザンのバンドを聴いて育ったので、ヨンリコとコフィ(・バーブリッジ:キーボード&フルート担当、2019年に死去)がいる僕のバンドを14〜5才の時に観てるんだよ。だから昔の曲をやる時は、アイザックを通して二人がいた頃のエネルギーや楽しさが再び戻ってきたかのように感じる。

アイザックの家はミュージシャン一家ってだけでなく、ウィスキーメイカーの一族でもあるんだ。ひいひいお爺さんはジャック・ダニエルズの最初のマスター・ディスティラーで、アンクル・ニアレストというウイスキーブランドの創始者であるアンクル本人(ネイサン・ニアレスト・グリーン)なんだよ。テネシーウィスキーとブルースとゴスペルが彼の中にはある。そのどれも僕は大好きだ!

アイザックとファルコン(タイラー・グリーンウェル、もうひとりのドラマー)との相性もバッチリだよ。僕らがアイザックと最初に接点を持ったのは、ニューオーリンズ・ジャズフェスにテデスキ・トラックス・バンドが出演した時さ。コフィがハウリン・ウルフ(ライブハウス)で行われたアフターショウに出て、それを見ようと列に並んで待っていたアイザックがコフィと話したんだ。J.J.とファルコンも同じ頃にアイザックと知り合って、お互いに「もしどちらかがバンドから欠けることがあれば後任はこの坊やだ」と言ったらしい。そんなわけで、彼がバンドに入ることになったのはごく自然な流れだったのさ。5〜6人オーディションしたけれど、彼がスタジオにやって来て音を出した瞬間に決まった。『アイ・アム・ザ・ムーン』の曲はもう書けていたので、翌日からアイザックを入れてレコーディングを始めたんだ。その時のファーストテイクの多くがアルバムに収録されたよ。「Dゲーリー」もそうだし、「パサクアン」も互いのことを知り合っていく中で爆発したという感じさ。うまく行く予兆があったんだ。


Photo by Stuart Levine



─気が付くと、テデスキ・トラックス・バンドに名前が変わってから、早いもので10年以上が過ぎました。来日を記念して再発されるライブ・アルバム『エヴリバディズ・トーキン』(2012年)の頃からメンバーがすっかり変わり、ライブも様変わりしてきたと思うのですが。今現在のメンバーは、どんなところに魅力を感じていますか?

デレク:グループで一緒に音楽を作ることが楽しい、ってことが僕らの強みじゃないかな。今のメンバーは年齢的にも幅があるし、バックグラウンドも様々だ。そんな僕らだが、大きな音楽への愛がある。そしてそれを仕事にできていて、その愛を聞いてくれる人に返すこともできている。このパンデミックを乗り越えられたのも、どれだけ僕らが恵まれているのかという感謝を忘れず、謙虚な気持ちになれたからだと思う。ツアーってやっている時は辛いこともあるし、家族に会えない寂しさもあって、そのことについつい文句を言いがちだけど、ツアーが無くなってみると、無いことがどれほど辛いかわかったよ。今、僕らはこうやってツアーができることの特別さを全員が感じてる。誰一人として手は抜かないよ。出来の悪いギグの日は全員が同じくらい頭に来てる(笑)。一人のせいにはしない。そういうバンドの資質は昔から変わってないんだけど、それぞれが少し歳をとって大人になったせいで、今まで以上に感謝の気持ちが強いようだよ。

デレクとスーザンの絆、最近のお気に入り

─スーザンとも結婚して20年を過ぎましたね。ふたりのお子さん、チャールズとソフィアもすっかり大きくなりましたが、それぞれどんな子に育ちましたか?

デレク:二人とも独立しているんで、家は僕とスーザンの二人だけさ。息子はフロリダ州タラハシーの州立大を12月に卒業するし、娘はセントラル・フロリダにいる。二人とも頑張ってるし、いい子に育ってくれたよ。彼らは音楽はやらないが、聴くのは好きで、いい趣味をしてるよ。息子は金融系に進むので、僕が倒産しないように助けてくれるかも(笑)。僕はそっちがからっきし苦手なんでね。娘はドッグトレーナーになろうと真剣に頑張っている。

─そもそもあなたは、スーザンのどんなところに惹かれたのでしょう? これだけ長く続いてきたところを見ると、よほど相性が良いカップルなんだろうと思うのですが。

デレク: 初めて彼女を観たのは、ニューオーリンズのセンガー・シアターでオールマン・ブラザーズの前座を彼女が務めた時だ。その時、彼女と組んでいたのはクリス・レイトンとトミー・シャノンのダブル・トラブル(スティーヴィー・レイ・ヴォーンと活動を共にしていたバンド)。サウンドチェックを観ながら「さっき楽屋で会った女性と同一人物なのか? 声が全然違うしこんなにパワフルなんて」と驚いた。そのうち彼女と話をするようになり、好きな音楽は何か訊いたら、マへリア・ジャクソン、マジック・サム……って言うじゃないか! そのツアーの数カ月前、僕はある女性と別れた直後だったんで、バンドの連中に「一人の方が気楽でいい。ジョン・コルトレーンやマへリア・ジャクソンを聴いてる女性にでも出会わない限り、僕は一生独身を貫く」と冗談で言ってたんだ。だからヨンリコに電話をして「マズい! 条件に合う人を見つけちゃったみたいだ!」と言ったんだよ(笑)。

僕らはいろんなところで気が合うっていうか、二人ともツアー生活がどういうものか理解できているし、それに身を捧げているところも一緒なので、互いに認め合える関係なのが大きかった。二人ともスポーツ好きで音楽好き。ラッキーだよ。結婚して24年になるが、ロックンロールの年月で換算すると115年かな?(笑)。ここまで続けてこられたけど、これからも良くなると思いたい。僕らのような旅ばかりの生活だと、一触即発な部分もあった。24年の間、常に楽だったわけじゃないよ。でもここ5〜6年は、おかげさまでとてもいい感じなんだ。


Photo by David McClister

─何度も日本公演を行ってきましたが、特に印象に残っているライブは?

デレク:いくつもあるけれど、やっぱり初めて来た時かな。何事も初めてっていうのは、驚かされることばかりだ。あとはクラプトンとの日本公演をとてもよく覚えている。あの時、子供たちを連れてきてたんだ。初めて子供達と行ったときの日本での写真は、今も家中に飾ってあるよ。その時に出会った素晴らしい友人たちとは今も付き合っているし、日本へ戻れるのをいつも楽しみにしている。素晴らしい経験、コンサート……必ず訪れるバーも何軒かある。メンバーやクルーから一番尋ねられる質問は「いつ日本に行くの?」だよ。実際、日本へ行く予定があったのにパンデミックでキャンセルになっていたので、ここまで間が空いてしまったのは初めてだ。なので、10月をみんなとても楽しみにしているよ。

─あなたは非常に幅広い音楽を聴くリスナーであることも知られています。ここ数年で新たに発見したミュージシャンや、共演してみたい相手はいますか?

デレク:共演に関しては分からないな。というのも、好きになるのは大抵30年前のアルバムだったり、もうこの世にいない人だったりするから(笑)。ついこの間、ジギー・マーリーとツアーを回ったんだけど、彼のギタリストの一人からバニー・ウェイラーの『ブラックハート・マン』(1976年)を教えられて。今まであれを聴いたことがなかったなんて、自分が信じられなかった。最近はそのアルバムをずっと聴いてるよ。あと、マイク・マティソンから教えられたタブ・レイ・ロシュロー。コンゴのアーティストで、強烈な声の持ち主だし、ギターも物凄いグルーヴなんだ。このアルバムをよく聴いてるよ(『The Voice Of Lightness, Vol. 1: Congo Classics 1966-1977』のジャケットをこちらに見せる)。先月あたりはその2枚をヘビロテしていた。

新しい音楽はいつも聴いている。共演相手に関しては、ツアーでたまたま一緒になって共演することも多いよ。曲を書くってことだと、聴いてきた音楽が一緒の、昔からの友人や知り合いとやることが多いのかな。ドイル・ブラムホールII、オリヴァー・ウッドといった、これまでにも曲を書いてきた人たちとね。でも、新しい意見にはいつも耳を傾けたいと思っているよ。






テデスキ・トラックス・バンド来日公演

10月18日(水)TOKYO DOME CITY HALL
18:15開場/19:00開演
チケット:S席¥12,000、A席¥11,000

10月20日(金)TOKYO DOME CITY HALL
18:15開場/19:00開演
チケット:S席¥12,000、A席¥11,000

10月21日(土)TOKYO DOME CITY HALL *SOLD OUT
16:15開場/17:00開演
チケット:S席¥12,000、A席¥11,000

10月22日(日)TOKYO DOME CITY HALL *追加公演
15:00開場/16:00開演
チケット:S席¥12,000、A席¥11,000

10月24日(火)Zepp Nagoya
18:15開場/19:00開演
1F 指定席 / 1F 後方スタンディング / 2F 指定席 ¥12,000

10月25日(水)あましんアルカイックホール
18:15開場/19:00開演
チケット:S席¥12,000、A席¥11,000

公演ページ:https://udo.jp/concert/ttb2023

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