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オリヴィア・ロドリゴが大いに語る、20歳の現在地と『GUTS』のすべて

Rolling Stone Japan / 2023年9月25日 20時15分

PHOTOGRAPHY, PROP CONCEPT, AND COLLAGE CREATION BY JOHN YUYI

プロモーションのため初来日中のオリヴィア・ロドリゴ(Olivia Rodrigo)。世界中から熱い視線を注がれるなか、20歳の歌姫は2ndアルバム『GUTS』を通してまたひとつ大人になった。ローリングストーンUS版最新号のカバーストーリーを完全翻訳でお届けする。こちらは前編。

>>>後編に続く
オリヴィア・ロドリゴが語る『バービー』への共感、テイラー・スウィフトとの関係


大人になって見つけた自由

「見てみて! いま、縦列駐車できた!」オリヴィア・ロドリゴが興奮気味に言った。

ロドリゴと私は、カリフォルニア州ロサンゼルスのハイランド・パークの路上に駐車された黒いレンジローバーの車内にいる。プロデューサーのダン・ニグロのプライベートスタジオに到着したのだ。7月後半の某日、ロドリゴは丈の短い花柄のワンピースに茶色いレザーのロングブーツと、この時期にぴったりの服装をしている。手元の指輪がまぶしい。そんなロドリゴは、眉間にできたニキビのせいで落ち込んでいた。ここ半年間、「アキュテイン」というニキビ用の飲み薬を服用しているため、唇がいつも乾くそうだ。車用ドリンクホルダーの中でリップスティックやリップバームのケースが音を立てるのはそのせいだ。20歳のドライバーの車内としては、とりたてて珍しい点はない。車載モニターのカレンダーに表示された「ローリングストーン誌の取材」という文字を除いては。

縦列駐車と聞いて私は、500万回以上再生されたロドリゴの大ヒット曲「brutal」を思い出していた。いまから2年前、ロドリゴは”私はカッコよくないし、賢くもない/縦列駐車もできない”と歌いながら、怒りと不安を爆発させていた。そしてこの曲は、近年のポップス界でもっとも待ち望まれていたロドリゴのデビューアルバム『SOUR』(2021年)の1曲目を飾った。『SOUR』は、リリースからたった1週間で「Spotifyでもっとも再生された女性アーティストのデビューアルバム」の新記録を打ち立て、ロドリゴは半年足らずでディズニーのティーンアイドルから世界でもっとも共感を誘う人気ポップスターへと変貌を遂げた。グラミー賞3冠達成と人気TV番組『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』初出演に加えて、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで行われたビリー・ジョエルのライブにもゲスト出演し、ジョエルとデュエットを2曲披露した(「親戚のおじさんみたいな安心感」とロドリゴ)。グラストンベリー・フェスティバルでは、リリー・アレンと一緒にステージに立ってアレンの代表曲「Fuck You」を披露。中絶の権利を認める判決を覆した連邦最高裁を痛烈に批判した。2021年7月にはホワイトハウスを訪問し、若者たちに新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を呼びかけた。苦手だった縦列駐車も克服した。そんなロドリゴだが、すべてを手に入れたわけではない。

ロドリゴはいま、『SOUR』以降にさらされたプレッシャーに匹敵する、あるいはそれを凌駕するほどの凄まじいプレッシャーと戦っている。それを克服することが目下の最優先事項だ。9月8日、ロドリゴの2ndアルバム『GUTS』がリリースされた。「最初の頃は、本当に辛かった」とロドリゴは言った。「世間にどう思われるだろう?と考えずに曲を書ける気がしなかった。ピアノの前に座って、曲を書くことにワクワクしてるんだけど、気づいたら泣いていることもあった」

「2ndアルバムに取り組んでいるときの頭の中って、本当にカオス状態なんです」と語るのは、人気シンガーソングライターのケイティ・ペリー。2ndアルバム『Teenage Dream』(2010年)の制作中、まさにロドリゴと同じような経験をした。「デビューアルバムはそれまでの人生をすべて注ぎ込んでつくるのに、2ndアルバムは2年かそこらでつくらなければいけません。その間、『これでママに車を買ってあげられる』『やっと過去のストレスから解放された』のように、メンタル面での変化もあります。要するに、いろんな感情が渦巻くジャングルのような状態なんです」とペリーは言った。


PHOTOGRAPHY, PROP CONCEPT, AND COLLAGE CREATION BY JOHN YUYI
BODYSUIT: S/S 1998 GIANNI VERSACE BY DONATELLA COURTESY OF THEREALLIST. TIGHTS: WOLFORD. SHOES: 3JUIN

ペリーは、ロドリゴのメンター役を買って出た。「初めてオリヴィアに会ったとき、彼女の両肩に手を置いて『いい? 私はここにいる。だからいつでも頼ってちょうだい』と言いました。私は、オリヴィアのように若くしてポップスターの地位を勝ち取った女の子たちが、どんな経験をしているかよくわかっています。でも、私のときはそういうことを言ってくれる大人はいませんでした」

ロドリゴのもっとも近しい共作者である、元バンドマンのダン・ニグロも心の支えになってくれた。「ダンには『家に帰ってゆっくり休みなさい』って言われた」とロドリゴは振り返る。恐怖にも似たプレッシャーを克服するため、ふたりは一緒に食事をして一息ついた。ハンバーガーや台湾料理が多かったが、出かけるのが面倒な日はファストフードチェーンのタコスを食べた。「『GUTS』をつくっている間は、本当によく食べた」とロドリゴは冗談混じりに言った。食事のほかにも、ニグロの1歳の娘に会いに行くこともあった。その度にベビーフードを味見したり(「おいしくてビックリした!」とロドリゴ)、かわいい洋服をプレゼントしたりした。「スランプの特効薬になってくれた」とロドリゴは振り返る。

ポップ・パンク色の濃いエネルギッシュな曲や、じりじりと胸を焦がすスローテンポな曲を集めたかのような『GUTS』は、『SOUR』が描いた失恋をロドリゴが乗り越え、すべてをさらけ出すワイルドで自由な20歳として、ようやく人生を楽しめるようになったことを表している。多幸感に満ちた「all-american bitch」で、”ポケットの中に太陽が入ってる/本当だよ”とポジティブな気持ちを歌ったかと思えば、「get him back!」では、”彼は自己中心的で短気で、目が泳いでた/身長188センチって自慢してたけど、だからなんなの?”と辛辣な歌詞で笑わせてくれるのだ。

「遊び心があるというか、あまりシリアスすぎないアルバムをつくりたかった」とロドリゴは言う。だが、多くのファンが『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』の共演者ジョシュア・バセットとの破局から『SOUR』が生まれたと思っていることも知っている。「確かに前作は、失恋を歌ったアルバムだった。残念なことにね。そうならないように努力したんだけど、結果としては失恋アルバムになってしまった。でも最近は、前よりも幸せ。何もかもがわりとうまくいってる。だから、胸の痛みを歌うバラード集にはしたくなかった」と語った。

”17歳の自分にうんざり/私のTeenage Dreamはどこにいったの?”(「brutal」より)と歌って全米の注目を集めたロドリゴは、いまでは大人の女性だ。先日、ニューヨークのグリニッチ・ビレッジにあるアパートメントを買い、ニューヨーカーの仲間入りを果たした(一部の報道によると、そこで南京虫と格闘した)。それについてロドリゴは「ひとり暮らしってすごく怖い。誰かに殺されたり、幽霊に呪われたりするんじゃないかって、いつもビクビクしてる」と言った。ニューヨークのアパートメントとは別に、いまでもビバリーヒルズに家を借りている。最近は、ロス・フェリズというエリアにも家を買いたいと考えている。「半分は東海岸、もう半分は西海岸」と、ニューヨークとカリフォルニアを行き来する生活について語った。「だって、ニューヨークにずっと住むなんて想像できる? 車がある生活が大好き。新しい曲を聴くときは、いつも車の中。これ以上最高の場所はないから」

ロドリゴは、来年の2月20日に21歳の誕生日を迎える。「バーカウンターに座って見ず知らずの人に話しかけられるって想像しただけで、最高に思えてくる」と言う。『GUTS』は、ロドリゴが見つけた新しい自由を描いた作品だ。「このアルバムには、大人になって世界と自分の関係性を知り、それに戸惑いながらも成長する気持ちが集約されている。私自身、自分が飛躍的に成長したと実感してる」とロドリゴは言った。

『GUTS』の影響源を明かす

ニグロのプライベートスタジオに着くまで、私たちはそんなことを話していた。その間もロドリゴは、「駐車違反で切符を切られることがよくある」と正直に認めながら愛車を走らせた。一度、ニグロのご近所さんの車にぶつけてしまったことがあるそうだ(幸い、ご近所さんは怒らなかった)。「ちょっとこすっただけなんだけど、号泣しちゃった。車が何かにぶつかる瞬間って、びっくりするし本当に最悪の気分」とロドリゴは振り返った。

サボテンが立ち並ぶロサンゼルスの大小さまざまな通りを走るうちに、自分たちがどこにいるのか見分けがつかなくなってきた。「あれ? この道だっけ? ま、いっか。スリルドライブってことで」とロドリゴがひとりごちた。


PHOTOGRAPHY, PROP CONCEPT, AND COLLAGE CREATION BY JOHN YUYI
DRESS: MARINE SERRE

ニグロのプライベートスタジオは、チャコールグレーに塗られた家の中にある。家の周りには生垣がめぐらされ、シダ植物の生える砂利道がオレンジ色のドアのほうに伸びている。ニグロ本人はパサデナに引っ越したが、いまでもこのスタジオでレコーディングを行っているのだ。『SOUR』と『GUTS』の一部を収録したのもここだ(『GUTS』のほかの楽曲は、ニューヨークのエレクトリック・レディ・スタジオで収録された)。ロドリゴが家の中を案内してくれた。散らかった子ども部屋のドアをうっかり開けては、急いで閉じる。別の部屋には、ドラムセットとヤマハのアップライトピアノが置いてあった。70年代物と思しき、濃いオレンジ色のベンチもある。ホワイトボードには、緑色のマーカーでロドリゴのレコーディングのスケジュールが書かれてある。シングルの「vampire」と「bad idea right?」の隣には、赤いハートマークが。

もうひとつの部屋がメインスタジオだ。赤いペルシャ絨毯とマクラメ編みのカーテンでしつらえられた空間は、とても居心地が良い。ニール・ヤングの名盤『After the Gold Rush』(1970年)の額装されたジャケットが中央の壁を飾る。そのすぐそばには、ニグロのバンド、アズ・トール・アズ・ライオンが2010年にトルバドール(訳注:ロサンゼルスにある老舗ライブハウス)でライブをしたときのポスターが。インディ・シンガーソングライターのゼラ・デイ(Zella Day)からキャロル・キングのような大御所まで、さまざまなアーティストのポラロイド写真が壁を彩っている。

リビングルームの隅、中庭に通じるガラスの引き戸と暖炉の間に、レコードプレイヤーが置いてあった。それを支えに、レコードが山のように重ねてある。レコードを物色するロドリゴの手が止まった。ニグロに贈られた『SOUR』のレコードだ。表紙には「ダンへ、ザマーミロ!」というメッセージが。さらにレコードをめくり、キャロライン・ポラチェックの『Desire, I Want to Turn Into You』(2023年)でまた手を止めた。このアルバムには、ニグロがプロデュースした楽曲が収録されているのだ。2021年にロサンゼルスのグリーク・シアターでポラチェックのライブを見たことに触れ、「最高のライブシンガーね」と称賛した。

ロドリゴは、ポラチェックの『Desire, I Want to Turn Into You』についていろんなことを考えたと言う。本作は、ポラチェックのブレイクのきっかけとなったソロデビューアルバム『Pang』(2019年)の3年後にリリースされた2ndアルバムである。ロドリゴにとっては、2作目でスランプに陥る、という状況を回避するためのお手本となった。「デビューアルバムを完全に再解釈したわけではないけど、新しくて新鮮みがある。私も、デビューアルバムを再解釈するつもりはなかった」と言った。



ロドリゴには、ほかにもお気に入りの2ndアルバムがある。コールドプレイの『A Rush Of Blood To The Head』(2002年)とケイティ・ペリーの『Teenage Dream』だ。「『Teenage Dream』の収録曲のうち、5曲がナンバー1に輝いたの」と言った。ペリーのドキュメンタリー映画『ケイティ・ペリーのパート・オブ・ミー』(2012年)が大好きだと言いながら、「『Teenage Dream』は、アイコニックで最高のアルバム」と言い添えた。

『GUTS』にも「teenage dream」という曲が収録されているが、ロドリゴはあくまで偶然だと主張する。「タイトル変更も考えたけど、仮に誰かがSpotifyで『Teenage Dream』って検索しても、私の曲が最初に出てくるわけないし」と語る。

偶然かどうかはさておき、メンターのペリーは気にしていないようだ。「時代とともに、違う年齢層の人たちにも共感してもらえるのは嬉しいことです」と、タイトルの一致についてペリーはコメントした。「オリヴィアは職人なんです。ドラマ『フリーバッグ』が人気を博したように、オリヴィアは心の中の声をさらけ出しました。それも、私たちが決して表に出さないようなことを」




『GUTS』のラストを飾った「teenage dream」は、ポップス界のアンセムとなったペリーのシングルとはまったくの別物だ。静かなピアノの調べがカタルシス的な嵐へと変わっていくこの曲を通してロドリゴは、ポップス界の若きスターではなくなった日のことを歌っている。だが、ペリーが「過去は振り返らない」と語ったように、ロドリゴ自身も過去に固執するつもりはない。

「自分がもうティーンエイジャーではないことへの恐怖、無邪気な少女や神童というイメージから離れていく恐怖を歌った」とロドリゴは解説した。「私は、ちょっと変わった環境で成長したの。子どもの頃は、『若いのに才能がある』って周りの大人たちに褒められた。でも、この曲では2ndアルバムをつくりながら、『世間は、17歳のシンガーソングライターではない自分を見て、それでもクールだと思ってくれるかな?』と思ったことと、それによるプレッシャーと戦う自分を表現した」

そう語るロドリゴは、ブーツを脱いでダークグリーンのベルベットのソファに座っている。白い靴下には「Parental Advisory(保護者への勧告)」のロゴが。私たちがいる部屋の隣はキッチンになっていて、カウンターの上にはワインボトルが3本置いてある。レコーディングの打ち上げのあとは、空のボトルが何本も転がっていたと言う。「とにかく飲んで、飲みまくった」とロドリゴは冗談半分に言った。



『GUTS』では、いままでとは違う形でパーティーが描かれている。「bad idea right?」では、”2か月も連絡してこなかったね/いまパーティーしてるんだけど、めちゃくちゃな状態”と歌ういっぽう、「making the bed」では”時々、いまいる場所が嫌になる/都合の良い友達とクラブで酔っ払いながら”と胸の裡を明かす。

ロドリゴのようなアーティストにとってはごく自然なテーマだ。それでも、こうした歌詞を入れることに戸惑ったと言う。「正直なところ、すごく怖かった。ファンの多くが若い女の子だってこともよくわかっているから。でも、これが私のリアルな感情なの。私が理想とする人たちはみんな、ありのままの自分を表現している。だから私も、自分にとって都合のいい部分だけを選んで歌詞にすることはできない。私が自分自身をさらけ出している、と思ってもらえるなら、結構うまくいってる証拠ね」


PHOTOGRAPHY, PROP CONCEPT, AND COLLAGE CREATION BY JOHN YUYI
TOP: GUCCI BY TOM FORD COURTESY OF LOVERS LANE LONDON. SKIRT: DSQUARED2 SHOES: WESTERN AFFAIR. JEWELRY: TIFFANY & CO.

ロドリゴが感銘を受けた音楽の中には、彼女が生まれる前のパンクやオルタナティブロックのアルバムも含まれる。こうした作品は、どれも過激なまでに誠実だ。14歳だった頃、ロドリゴはベッドの隣にレコードプレイヤーを置いていたそうだ。毎朝、母親がベイブズ・イン・トイランド(訳注:90年代に活躍したアメリカのガールズバンド)の2ndアルバム『Fontanelle』(1992年)をかけて起こしてくれた。キャット・ビーランドの叫び声を聴きながら、毎朝支度をしたのだ。「女性的なロックは、私にとって世界一クールなもの」とロドリゴは言った。

『GUTS』の制作中、ロドリゴはベイブズ・イン・トイランドの荒削りなパワーをどうにかして取り入れたいと思った。それが実現したのが「all-american bitch」だ。タイトルは、米作家ジョーン・ディディオンのエッセイ『ベツレヘムに向け、身を屈めて』に由来する。『GUTS』の1曲目を飾るこの曲は、『SOUR』を聴いてロドリゴを「失恋したティーンエイジャー」とみなしたすべての人に向けられている。”私は許し、忘れる/自分の年齢をわきまえているし、年相応のことをしてる”とロドリゴが歌う。




「誰もがレッテルを貼られた経験はあると思う」とロドリゴは解説する。「私自身、いつもそういう経験をしてきた。もっと若い頃は、怒ったり不満を漏らしたり、文句を言ったりしてはいけないと思っていた。恩知らずだと思われるのが怖かったから。でも、そうやって我慢したせいで、いろんな問題を起こしてしまった。当時は、心の中に怒りを抱えていた。ティーンエイジャーだから、っていうのもあったと思う。自分も混乱してるのに、周りがみんな敵に見えて不安なときは特にそう。頭がおかしくなってしまう夢も見た。現実の自分は、正直に怒りを表現してはいけないって思ってた」

「all-american bitch」には、90年代を代表するもうひとつの大物ロックバンドにインスパイアされた歌詞とラウドなコーラスが含まれている。「今年になってから、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンをよく聴いてる。いま、一番好きなバンド。家とスタジオを往復する車の中でずっと聴いているの。ロックの殿堂に選ばれたから、なんとしてでも式典に行きたいんだけど」と言いながら、「スケジュールの都合」で11月3日にブルックリンで行われる式典に出席できないとぼやいた。「悲しすぎて、毎晩泣き寝入り」



ロドリゴは、「リヴィーズ」と呼ばれる熱狂的なファンたちの間で、次回作のタイトルをめぐってある噂が流れていたことも知っている。一部のファンは、「Sweet」というタイトルを予想していたのだ。「私が大恋愛をしている最中だったら、スウィートなアルバムをつくったかもしれないけど。でも、その次はどうなるの?『ウマミ』とか?」とコメントした。

大恋愛中かどうかはさておき、2021年1月にリリースされた「drivers license」によってスターダムを駆け上がったロドリゴが、『SOUR』をつくった過去の自分をどう思っているかは気になるところだ。「当時の自分には共感できるし、当時のことを考えると悲しい気持ちになる。でもいまは、『先のことがわからないからメソメソしてるんだよね。でも大丈夫。未来は明るい』と思えるようになった」と言った。

果たしてロドリゴは、大ヒット曲「drivers license」を今後何十年も披露することに抵抗を感じていないのだろうか。「先日、そのことについて考えた」とロドリゴは口を開く。「スティーヴィー・ニックスが大きなスタジアムで『Landslide』を歌っているのを見たの。『drivers license』と比べるなんておこがましいけど、それを見て心の底から感動した。彼女があの年になって若い頃の胸の痛みを歌う姿は、ものすごくパワフルだった」

結婚式とボブ・ディラン、憶測との向き合い方

ロドリゴは、占いや霊能力の類が大好きだ。言っておくが、ハリウッド大通りに店を構えているような怪しげな占い師(暗いエネルギーを洗い流すために5000ドル払え、と言うような人たち)ではない。「本物の霊能力者は、そんなことは言わない。私が見てもらった人たちはみんなとても前向きだった。中には、繰り返し会いに行った人もいる。1年後にまた会いに行ったときなんか、『あれはうまくいかなかった。わかってたけど、あなたには言わなかった。あなたには、乗り越える力があると思ったから』って言われて『へぇー、そうですか』って感心しちゃった」

霊能力者の中には、ロドリゴが双子の母親になると予想した者もいたそうだ。「母親になることで頭がいっぱいなの」と言うと、急に話を私にふってきた。「ところで、子どもは何人ほしい? ごめん! こんな深いこと聞いちゃって。まだ会ったばかりなのにね」

私たちは、フィグエロア通りのタコスショップのテラス席に座っている。テーブルの上には、ワカモレを添えたトルティーヤチップスとアイスティーが並ぶ。ロドリゴは、子どもと結婚という話題が大好きだ。『GUTS』の収録曲「love is embarrassing」でも”結婚式を計画してる/あの人とは結婚できないのに”と歌っている。「子どもの頃から『自分の赤ちゃんの名前はどうしよう』ってずっと考えてるの。相手の名字との相性を考えながらね。やばくない?」と言った。

インタビュー中、ロドリゴは自分に向けられた質問を何度か私に投げ返し、結婚について訊いてきた。もうすぐ私(筆者)は結婚するのだ。ロドリゴは「お願い! 最後にひとつだけ質問させて!」と言い、話題は結婚式のBGMになった。ロドリゴ自身、自分の結婚式のBGMをどうするか、何年も前から考えているそうだ。現時点では、ニール・ヤングの「Harvest Moon」、モダン・イングリッシュの「I Melt With You」、ブライト・アイズの「First Day of My Life」が候補だ。「タコス食べながら、結婚式の相談になっちゃった!」とロドリゴは言った。

ボブ・ディランの楽曲をかけるつもりだと言うと、ロドリゴは心から感動した様子だった。「ボブ・ディランのディスコグラフィって、本当に膨大よね。私自身、まだ表面すらこすっていない気がする」と言った。だが、『GUTS』には「Ballad of a Thin Man」にヒントを得た「ballad of a homeschooled girl」という曲が収録されている。このところロドリゴは、『Planet Waves』(1974年)と『Blood on the Tracks』(1975年)にハマっていて、特に後者は飛行機の中でよく聴くそうだ。「ずっと前から『If You See Her, Say Hello』のような曲を書いてみたいと思ってる。ディランはレジェンド。本当に最高」と語った。




タコスショップの店員が、写真を撮らせてもらえないかと尋ねてきた。すると、ロドリゴは「食べ終わってからがいいな」とやんわり断った。いままでの彼女であれば、そうは答えなかっただろう。親友のマディソン・フー(ディズニーのオリジナル・コメディシリーズ『やりすぎ配信! ビザードバーク』の共演者)とハワイに行ったときも、写真撮影はことごとく断っていた。「誰かを傷つけるようなことはしたくない。でも、声をかけてもらうのは嬉しいこと。断ったとしても、相手と話すきっかけになる。断らなかったら、写真を撮って『ハイ、終わり』だから」と言った。

デジタル世代の多くの若者がそうであるように、ロドリゴもソーシャルメディアに対して複雑な感情を抱いている。SNSアプリのない生活なんて想像できないいっぽう、そうしたアプリが重荷になっていると感じているのだ。中でも、彼女が7歳だった2010年に誕生したInstagram(ロドリゴのフォロワー数は3300万人を超える)に関しては、特にそう感じているようだ。「ある本によると——細かい数字は言わないけど——人間の脳って、200人くらいしか認識できないんだって。だから、面識のないオーストラリア人美女がビーチで何をしているかっていう情報は、脳に入れる必要がないわけ。私たちの脳の情報処理能力はそこまで高くないの。だから、何事も話半分に聞くようにしてる。SNSを見ていると、時々気分が落ち込むこともあるから」

多くのポップスター同様、ロドリゴにもソーシャルメディア関連のサポートをしてくれるチームがいる(「本人の投稿かどうかは簡単に見分けられるから、本物感を大切にしてる」とロドリゴ)。だが、2021年に「drivers license」をリリースした当時は違った。「SNSには、心底うんざりした。半年間、SNS関連のアプリを全部削除したの。だって、急に誹謗・中傷が殺到したから。炎上の洗礼を浴びた感じ。だから、長い間アプリを削除したままにしてた。それでよかったと思ってる。いまは、もう少しうまく対処できるけど、当時はSNS断ち以外の方法を知らなかったから。最近は、もっとハッピーな発信方法を模索してる」


PHOTOGRAPHY, PROP CONCEPT, AND COLLAGE CREATION BY JOHN YUYI
DRESS: DILARA FINDIKOGLU. SHOES: FEMME LA. JEWELRY: CARTIER

ロドリゴ本人が「炎上の洗礼」と言ったように、「drivers license」のヒットによって彼女は、良くも悪くも世界中の注目の的となった。(SNLを見ればわかるように)あらゆる世代のリスナーがこの曲に共感した。そのいっぽう、誰もがこの曲の本当の意味を掘り下げようとしたのだ。『SOUR』がリリースされた頃には、ロドリゴとジョシュア・バセット、そしてディズニースターのサブリナ・カーペンターの”三角関係”に誰もが興味津々だった。

3人は、”三角関係”について公の場では何も語らなかった。ロドリゴもそれについて語るつもりはない。私も、”教えてあげたビリー・ジョエルの「Uptown Girl」を、今頃あの娘と一緒に歌ってるんだろうな”(「déjà vu」より)と歌われた男性がバセットであるかどうかをはっきりさせようとは思わない。だが、ロドリゴからカーペンターに”乗り換えた”ことでバセットが浴びた非難についてどう思っているかは気になる。そこで私は、2022年のバセットのインタビューを引き合いにした。ストレスで病気になったと語っていたインタビューだ。

「うーん、ややこしいな。私は、そのインタビューを読んでいないから、なんとも言えない。でも、何もかもがクレイジーだった。個人同士で対処するべきことなのに」とロドリゴは言い、次のように訂正した。「対処っていうのは、正しい表現じゃないかも。とにかく、このことについては公の場で話したくない。彼の言っていることは本当だと思うけど、すべてはプライベートなことだから。声明文を発表するつもりもない。そんなの嘘くさいし。結局のところ、私たちは人間だから。SNSしか見ない人にはわからないと思うけど、こういう問題には個人として対応してる」

 

それでも世間は、ロドリゴのプライベートを詮索することをやめないだろう。6月末に約2年半ぶりの新曲「vampire」がリリースされるや否や、ファンの間で新たな憶測が飛び交った。今回のターゲットはバセットではなく、プロデューサーのアダム・フェイズとDJ/インフルエンサーのザック・ビアだった。両者とも、ロドリゴと交際中と噂された年上の男たちだ(”あなたの年の女の子はもっとよくわかってるから”という歌詞がその点をほのめかしている)。歌詞に登場する”夜になると出てくるクールな人”は、ビアを指しているのかもしれない(それを裏打ちするかのように、ビアはGQ誌のインタビューで「過去4年間で家にいたのは4、5回だけ」と語っている)。こうした憶測はきりがない。果たして「vampire」は、「drivers license」と同じように詮索の対象になってしまうのだろうか。

「最近は、あまり気にしなくなった」とロドリゴは言う(タコスショップのスピーカーから、アーケイド・ファイアの「Wake Up」が大音量で流れている)。「私は誰も見てないところでやるべきことを全部やっているし、こうしたことに可能な限り備えるようにしてる。だから、世間は言いたいことを言えばいい。コントロールしようとすればするほど自分が惨めになるし、問題も大きくなる気がする。私はただ、曲を書いているだけ。誰かのために曲を解釈するのは、私の仕事じゃない」

タコスショップでのインタビューの1カ月後、別のメディアのためにいくつかインタビューをこなしたロドリゴと再会すると、別の見解を示した。「私って本当にビッグマウスなの。この仕事をするには、それをコントロールする方法を身につけなければいけなかった」と電話会議アプリ越しに言った。「でも、それは仕方のないこと。私は日記のような歌詞を書くから、いろんな解釈をされるのは当然なの」

インタビューの途中でロドリゴは、カーリー・サイモンの「Youre So Vain」に触れた。50年以上前の曲だというのに、いまだにいろんな憶測を呼ぶ曲だ。私は、意を決して「vampire」はビアのことを歌っているのかと質問した。ロドリゴはふと黙り、深呼吸をして笑顔で言った。

「ノーコメント」


>>>後編に続く
オリヴィア・ロドリゴが語る『バービー』への共感、テイラー・スウィフトとの関係

From Rolling Stone US.



オリヴィア・ロドリゴ
『GUTS』
発売中
再生・購入:https://umj.lnk.to/OR_GUTS

オリヴィア・ロドリゴ日本公式HP:https://www.universal-music.co.jp/olivia-rodrigo/

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