WurtSが語る、フィジカル重視の理由、「ライブ」というメディアで表現したいこと
Rolling Stone Japan / 2023年10月13日 17時15分
コロナ禍にネットから世に出たアーティストは、ライブシーンが再開した2023年に何を思うのか――。2021年、TikTokに投稿したオリジナルソング「分かってないよ」がバイラルし、その後もいくつもの楽曲をヒットさせて、現在ストリーミング再生計4億回を記録する現役大学生アーティスト、WurtS。デビュー当初は「研究者×音楽家」という肩書きでも人々に大きなインパクトを与えた。
もともとWurtSとは、大学におけるマーケティング研究の一環で「TikTokの可能性」「オルタナティブロックのリバイバル論」「縦型MVの分析」など、10〜20代に音楽を届ける実験から始めたプロジェクトである。しかし、WurtSを本格始動させて約3年が経ち、彼自身の意識と表現に変化が生まれている。
若きトップクリエイターとなったWurtSが語る、「リアル」と「ネット」、コロナ禍以降の「フィジカル」「本能」に対する感度は、来たる時代に見失ってはならないことを教えてくれる。
【写真を見る】WurtS【ツタロックフェス2023】ライブ写真
―前回の取材以降、この1年間の活動や最新EP『BACK』から、WurtSさんの音楽活動への動機や、どういう音楽を作りたいのかが、少しずつ変わってきているんじゃないかと思ったんですね。「研究者×音楽家」という肩書きで世に出てきて、そのフレーズにインパクトがあるからこそ「研究者」というイメージが強いところもあったけど、最近は音楽家としての道筋をまっすぐ深めようとする姿勢を感じたりもして。
WurtS:最初の段階は、どっち付かずだった気もします。音楽を本気でやっているのか、趣味としてやっているのか。「研究者×音楽家」というのは、他の人と違って見えたらいいなという想いもあって言っていたところもありました。今年の活動を振り返ると、フィジカルな部分がすごく出ているなとは思います。全国ライブハウスツアー『WurtS LIVEHOUSE TOUR I』(3〜7月にかけて12カ所15公演を開催)でも言っていたのは、もともとネットから出てきて一方的に音楽を届けていたけれど、ツアーでいろんな人に自分の音楽を楽しんでもらっていることを実感したところから、やっと自分もWurtSというアーティストが存在していることを再認識できたということで。そういったことも、よりフィジカルなアーティストとしてやっていこうという気持ちの変化になりました。「実験としてひとつのアーティストを育てていきたい」というところからWurtSは始まっているので、どこまで行っても客観的に見てる部分もあるんですけど、今はちゃんとWurtSというアーティストを自分が演じている感覚が強い時期だなと思います。
―WurtSさんが今感じる、フィジカルのよさってどんなところですか。
WurtS:その場の気持ちや空気で変わっていくことが、音楽自体が生きている感じがします。音源は一定のクオリティが保たれるんですけれども、それとは違って、コンディションによってクオリティが変わるのも逆によさなのかなって。
―コロナ禍に始めたWurtSは、もともと画面の中でひとりで完結していたものだったけど、特にこの1年は、お客さん然り、コラボしたミュージシャンたち([Alexandros]、Chilli Beans.)然り、ようやく外の人とつながれる期間であった、といった言い方もできますか。
WurtS:まさにですね。フェスにもたくさん出させていただいて、そこで他のアーティストさんと挨拶することもあって仲良くなれたり。ほとんどつながりがない状態だったので、今年はそこの成長が大きいと思います。
―今年の夏フェス出演数ランキング、4位だそうですね。
WurtS:気づいたらそんな(笑)。
スタッフ:去年はツアーも含めて(ライブの本数が)12本だったんですけど、今年は、予定通りいけば60本くらいやります。気づけばうちの会社(UK.PROJECT。銀杏BOYZ、[Alexandros]などが所属するマネジメント/レーベル)で一番ライブをやる人に……。
―とても面白いですね。ネットから出てきたWurtSが、バンドがたくさんいる事務所で一番多くライブをやるアーティストに変換した。「NERVEs」(オリジナルバージョンは2021年12月にリリース)の新しいバージョンを最新EPに入れたのは、ライブを見据えた意識もあってということですよね。
WurtS:そうですね。打ち込み的なよさもあると思うんですけども、ライブでアレンジできるように、できるだけライブで使っている楽器で作りました。
「ネット」と「現場」のハイブリッド
―WurtSという存在が出てきた当初は、「研究家」「マーケティング研究」「トレンドを読んで」みたいな、どちらかというと理屈っぽさが目立った印象があるんですけど――でもそれはインタビューでしゃべることが、たまたまそっちの側面が強く出ていただけかもれなくて――本能をすごく大事にしている人なんじゃないかと思うんですね。
WurtS:はい、そうですね(笑)。ライブをしていなかった頃は、どこまで自分を変わったアーティストみたいに印象付けられるかという考えがありつつ、やっぱり目立った言葉がどんどんメディアに出ていく気はしてました。でも今はもう本当に、やりたいことをやっているというか。今、僕の中では、ライブがメディアになっているので。
―コロナ禍だとTikTokやYouTubeのようなプラットフォームとか、こういったウェブ記事で発信することが大事だったけど、2023年の今はライブこそがメディアであると。
WurtS:何十公演とやっていると、ライブが一番みんなに見せられる場所なので。他のアーティストさんを見ていると、同じ時期にネットから出てきた中でも、ライブアーティストとして打ち出すか、それともそのまま突き進んでいくか、そこがひとつの分岐点だなと思います。別にどっちがいい/悪いはないと思うんですけれども、コロナ禍があけてライブが増えていった中で、どっちで生きていくかというのはあるなと。
―WurtSさんには、そのまま突き進んでネットで完結しよう、という考えが一切なかったですか?
WurtS:WurtSを始めたときから、周りのスタッフさんに「ライブをしたい」ということをずっと言っていたんです。自分の中でネットアーティストという意識はなかったので。なので、スムーズにライブの方へ行きましたね。
―コロナ前だと、ライブハウスで鍛えて、少しずつ会場を大きくして、とかがミュージシャンにとって当たり前のルートだったけど、WurtSさんと同じようにコロナ禍にネットから出てきた人気アーティストたちの中には、いきなり大きなステージに立って、しっかりいいライブをする人もいるじゃないですか。なんでそんなことができるのだろう、と思って。
WurtS:でもそこは自分の中でも課題だなと思っています。それこそ[Alexandros]さんも、キャリアが全然違いますけど、ずっとライブをやってきたからこそ叶わない部分が存在しているなと思います。パワーが違うというか。出ている音とか、音量とか、そういうものじゃなく、持っているパワーみたいなものにライブで培われたものがあるなと感じます。僕みたいに最初がインターネットだった人には、そこの部分で足りていない部分がある。でもそれは、今自分が持ってるネットの力をうまく組み込んで補えたらいいなと思っています。完璧にライブアーティストにはなれないなという気持ちもあるんですけども、新しい形を作れたらなって。最近はTikTokなどにもライブ映像を上げているんですけど、ライブ会場を撮ることによって、お客さんが盛り上がっている中でWurtSがどうライブをしているのかをネットで伝えられる。そういったハイブリッドな感じは、新しい見せ方だなと思ってます。
―ネットから出てきたからこそ作れる、「ネット」と「現場」のハイブリッドを今は模索していると。最新EP『BACK』で「BACK」をリード曲にしたことは、これまでの話と無関係ではないと思うのですが、どういった想いからでしたか?
WurtS:「BACK」を作るにあたって一番大事にしていたのは、アコギとか、ライブで使っている楽器を大切にしたいということでした。やっぱりそれはライブを経験して、ライブで一番魅力が出せる曲を作りたいと思ったからで。『WurtS LIVEHOUSE TOUR I』をやっている最中にすごく思ったのは、ノレる曲はあるけど、しっとりした空気でみんなが何もせずに聴いてくれる時間を作れる曲がWurtSにはないなと。そういう曲を作りたいというところから「BACK」の全体的な雰囲気を作っていきました。僕の中でライブを想定した作り方は初めてでしたね。打ち込みだとアコギがアクセントの1つになってしまうんですけども、ライブだとずっとアコギを弾けるので、アコギを入れたいっていうのもすごくありました。
―それでオアシスを彷彿とさせる曲を――。
WurtS:オアシスっぽいですねえ(笑)。僕自身、オアシスがすごく好きで。オアシスのすごさって、ライブでみんなが歌ってるところで。「分かってないよ」みたいに跳ねながら歌うんじゃなくて、「エモーショナルな歌」みたいなものに憧れて作りました。
―それこそ「Dont Look Back in Anger」みたいに、エモーショナルに合唱するイメージ。
WurtS:はい、まさにそうですね(笑)。「BACK」には結構思い入れがあって。『WurtS LIVEHOUSE TOUR II』でこの曲をやろうと思っているんですけど、今回のライブでWurtSを見て「よかったな」と思って、また次のライブでこの曲を聴いたときに前のことを思い出して「成長してるな」と思えるような、「前向きな振り返り」みたいなことを「BACK」とか”巻き戻れ”という言葉にしました。ずっとネットの中で得てきた思い出が多かったんですけれども、今はライブを通して一緒に思い出を作っている実感があるんですよね。曲作りにおいても、今までは自分の内側を書くことが多かったんですけれども、対面ライブをし始めてからは、お客さんを見ながら作ることが多くなりました。なので自分だけじゃなくて「みんなの歌」になっているなと。そういったこともWurtSが大きくなっているなという実感につながります。
―そういった変化があると、歌詞を書くときに言葉の選び方も変わってきますよね。
WurtS:そうですね。「BACK」に関しては、みんながいろんな思いを詰め込んで「自分の曲だ」と思えるように、できるだけ抽象的な感じにしようという意識がありました。それこそ”巻き戻れ”という言葉も、いろんなシーンで使う言葉だと思いますし。最初はたとえば失恋を思い浮かべながら聴いてもらってもいいんですけど、ライブで聴くとまた違った捉え方ができるんじゃないかなと思います。みんなと一緒にこの曲を育てていきたいという気持ちがありますね。
「僕がずっと憧れていたのは、ライブでどんどん成長していくアーティスト」
―「ユートピア」は、元旦に公開されたMAPPA(『チェンソーマン』『呪術廻戦』などを手掛けるアニメーションスタジオ)のYouTubeチャンネル登録者100万人突破記念ムービーに書き下ろした曲ですが、そういった意識変化が生まれる前に書いたものですか。
WurtS:懐かしいWurtSみたいな感じですね。EP自体を作りたいという気持ちは1年前くらいからあって、そこに「ユートピア」も入れようと思っていたので、今までのWurtSを取り入れていこうという気持ちがありました。ライブを想定した楽曲というよりも、昔の気持ちを持ちつつ作った曲です。動画のコメントに「『資本主義の椅子』(WurtSの初作品)に近いものを感じる」と書かれていて、それは僕の中でも意識していたので「よかったな」と。(オルタナティブロックなサウンドだけでなく)言葉選びもですね。韻を踏みながら……うーん、なんなんだろう(笑)。
―”救世主爆誕”とか、音に合わせた言葉遊び感もそうだし。
WurtS:ああ、そうですね。結構「オリジナル言葉」を使っていたので。みんなの歌として作るようになると、「WurtS言葉」自体がなくなってきた気がしていて。”巻き戻れ”もそうですけど、みんなの中で昇華できるような言葉に置き換えられていると思うんです。でも「ユートピア」に関しては、内面の言葉みたいなものを綴っているのかな。聴いてる人を想定してない感じがすごくして、それが『資本主義の椅子』っぽい感じがしますね。最初のWurtSは、本能的に書いていたというか。自分の思ったこととか言葉にできていないものをババッと書いてるみたいな。綺麗に要約されてない感じがあったと思います。
―コンセプチュアルな見せ方とか、インタビューでのしゃべりとか、表面的な部分の出し方が変わっているだけで、根っこはずっと、本能を大事にしてる人なのだなと思います。
WurtS:そうですね。ネットアーティストと呼ばれつつも、僕がずっと憧れていたのは、ライブでどんどん成長していくアーティストさんだったので。
―前回のインタビューで、「みんなが反抗するものにあえて順応する。それこそが一番尖っている」という話をしてくれましたよね。WurtSさんは、ミュージシャンがマーケティング視点を持つこととか、プラットフォームのアルゴリズム、トレンドとかに反抗するのではなく、それらを乗りこなした上で、あえて人間らしい感情の発露を表現に変えて相手の本能を揺さぶることに挑戦しているように見えます。
WurtS:ずっと「順応することが一番の反抗」とは思っていますね。時代とともに、音楽の見せ方や聴き方も変わっているので、そこに順応していかなければアーティストとして生きていけない。ただ、順応はしてるけど、別にそれに対していいか悪いかは決めてなくて。僕はCDとサブスクが両方ある時代に音楽を好きになったので、自分でアーティストさんを探しにいくこともしていたし、サブスクでどんどん自分では探せない楽曲が流れてくることの便利さも知りつつ、戸惑いもあったり。でも、どちらがいいか悪いかではなく、その中で自分自身がなにを提示していくか。それがアーティストとして大事なことなのかなと思います。
<INFORAMTION>
『BACK』
WurtS
配信中
01. ユートピア (MAPPA『1 Million Subscribers Special Movie 2022』テーマソング)
02. クールじゃない?
03. NERVEs (Vol.2)
04. BACK
WurtS LIVEHOUSE TOUR Ⅱ
10/15(日) Zepp Fukuoka OPEN 17:00 /START 18:00
10/19(木) Zepp Nagoya OPEN 18:00 /START 19:00
10/20(金) Zepp Osaka Bayside OPEN 18:00 /START 19:00
11/10(金) 金沢 EIGHT HALL OPEN 18:15 /START 19:00
11/12(日) 新潟LOTS OPEN 17:00 /START 18:00
11/16(木) 高松festhalle OPEN 18:00 /START 19:00
11/18(土) 岡山 CRAZYMAMA KINGDOM OPEN 17:00 /START 18:00
11/19(日) 広島 BLUE LIVE OPEN 17:00 /START 18:00
11/26(日) 仙台GIGS OPEN 17:00 /START 18:00
12/06(水) Zepp Haneda(TOKYO) OPEN 18:00 /START 19:00
12/07(木) Zepp Haneda(TOKYO) OPEN 18:00 /START 19:00
https://wurts.jp/
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
Aile The Shotaが作品とともに語る、デビューから3年間の軌跡、音楽性の追求
Rolling Stone Japan / 2024年11月20日 12時0分
-
Chip Tanakaが語る「解き放たれた」最新作、レゲエからの影響、ピラティス、能や日舞への強い興味
Rolling Stone Japan / 2024年11月13日 12時0分
-
手越祐也が誕生日に贈る、4年間の到達点。新曲「Flash back」発売記念インタビュー&MV公開!
PR TIMES / 2024年11月11日 21時0分
-
SKY-HI、Novel Core、CHANGMOが語る、日韓コラボレーションの狙いと意味
Rolling Stone Japan / 2024年10月31日 12時0分
-
WurtS、2nd Album「元気でいてね。」 10月30日(水)発売!
PR TIMES / 2024年10月30日 16時45分
ランキング
-
1美しいと思う「50代の女性芸能人」ランキング! 「天海祐希」を抑えた1位は?【全国約1万人調査】
オールアバウト / 2024年11月26日 8時35分
-
246歳になった「国民的美少女」にネット仰天「雰囲気変わりましたね」出産、離婚経て女優復帰
スポーツ報知 / 2024年11月26日 11時15分
-
3斎藤工の“びしょ濡れセクシー”が後押しに?「海に眠るダイヤモンド」に上がる「水も滴るいい男」
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月26日 9時26分
-
4新井恵理那 第2子妊娠を報告「精一杯、新しい命に向き合う時間に」来春に出産予定
スポニチアネックス / 2024年11月26日 12時37分
-
5吉高由里子、茶髪変貌の〝サイン〟大河主演終え長期の充電期間突入か 昨年6月の熱愛報道もありプライベートに注目
zakzak by夕刊フジ / 2024年11月26日 6時30分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください