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ザ・ローリング・ストーンズが語る、新作『Hackney Diamonds』知られざる制作秘話

Rolling Stone Japan / 2023年10月17日 18時0分

Photo by Mark Seliger

ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)が、2005年の『A Bigger Bang』以来18年ぶりとなる新作スタジオ・アルバム『Hackney Diamonds』を10月20日にリリースする。豪華ゲストも参加した本作の制作背景をミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ロン・ウッド、スティーヴィー・ワンダーらが語った。


2022年、ザ・ローリング・ストーンズが最後にオリジナル・アルバムをリリースしてから17年が経ち、ミック・ジャガーは焦りを感じ始めた。前年にこの世を去ったドラマーのチャーリー・ワッツの喪失感に耐えながらも、バンドはツアーを続けていた。この10年以上は、ツアーの合間に新作へ向けたスタジオ・セッションを断続的に続けていたものの、アルバムに使えそうな作品をまとめるまでには至らなかった。2022年8月にバンドがドイツのベルリンでツアーを締めくくると、「今しかない」と腹を決めたミックが、キース・リチャーズに声をかけた。

「キースには、”ものになりそうな素材もあるが、ほとんどが使えるレベルに無いよな”と伝えた」とミックは、イタリアからの電話インタビューで当時を振り返った。「(アルバム完成の)デッドラインを決めて、ツアーに出よう」と言うミックに対してキースは、「いいね。これまでの俺たちのやり方と同じだな」と応じたという。ミックは笑いを堪えられなかった。「きっとキースは、俺のとは全く違う話をすると思うよ」。

「”今こそアルバムを作る時だ”というミックの提案から始まった」とニューヨークに滞在していたキースが、電話の向こうで語った。「俺もとっくにそのつもりでいたが、”その通りだな、ミック”と、彼を立ててやったよ」とキースは笑う。「ミックが、”今俺たちが取り掛かっているやつを、がんばって仕上げてしまおう”と言うから、俺は”自分が歌いたい曲ができるまで付き合うよ”と言ってやった。ミック自身が満足して歌えたら、それで90%は完成したようなものさ」。

ミックは2023年のバレンタインデーに、自分たちの「デッドライン」を設定した。ただしキースは「ちょっと難しい」と感じていた。

「俺は”確かにちょっと無理っぽいかもしれないが、がんばってみよう”と言った」とミックは振り返る。



自ら尻に火を付けたことが、功を奏した。『Hackney Diamonds』は、2023年10月20日にリリースが決まった。アルバムには、ハードロック曲「Angry」から、4つ打ちのディスコ曲「Mess It Up」やカントリー・ホンクの「Dreamy Skies」まで、デビューから60年以上にわたってバンドが培ってきた幅広いスタイルの楽曲が収録されている。収録曲のうち2曲は、チャーリー・ワッツが生前にレコーディングしており、残りのドラムはスティーヴ・ジョーダンが叩いている。スティーヴは80年代からキースと付き合いのあるドラマーで、ストーンズのツアーにも参加している。

「レトロな曲、レトロなサウンド、レトロな演奏を再現しようなんて考えていなかった」とミックは言う。「正に今レコーディングしたものとして聴こえるはずだ。ある意味で、実際にその通りだしな」。

アルバムのクレジットには、ポール・マッカートニー、スティーヴィー・ワンダー、エルトン・ジョン、レディー・ガガ、さらには元メンバーのビル・ワイマンといった、ポピュラーミュージック界のそうそうたるメンバーが名を連ねている。ビルは、チャーリーが生前最後にレコーディングした楽曲のひとつに参加した。アルバムのエンディングは、バンド名の由来ともなったマディー・ウォーターズによるブルーズの名曲「Rollin Stone」を、ミックとキース2人だけで演奏している。バンドはデビューから61年経つが、同曲を正式にレコーディングしたのはこれが初めてだった。彼らの言うように「今でなければ実現し得なかったアルバム」と言える。

チャーリー・ワッツの不在、若きプロデューサーの貢献

ローリング・ストーンズにとって、ロックンロール史上最高のドラマーの1人に数えられるチャーリー・ワッツ抜きでの活動は、決して簡単ではなかった。「全てはチャーリー・ワッツへのトリビュートだ。いつものミスター・ワッツのバックビートが聴こえてこないと、俺は何も弾けない」とキースは言う。ニューアルバムにおけるチャーリーの存在は、バンドにとって特別なものだった。「チャーリー・ワッツさえいてくれたら……それだけが残念でならない」とキースは吐き捨てるように言った。ただ、チャーリーが生前キースへ紹介したスティーヴとのコンビネーションも、悪くはなかった。「スティーヴがドラムを叩くと、文字通りステージが動くんだ」と、バルセロナから電話インタビューに応じたギタリストのロン・ウッドは言う。「彼のドラムは、大地を揺るがすのさ」。

2022年、まだバンドがデッドラインを決定する前の時期に、グリマー・ツインズ(ミックとキース2人の呼称)は、スティーヴ・ジョーダンとピアニストのマット・クリフォードを伴ってジャマイカに滞在し、新曲の制作に取り掛かった。ツアーで既にスティーヴのドラム・スタイルに慣れていたミックは、曲作りにおけるコラボレーションもスムーズだった。「俺はグルーヴ指向の人間だから、まずはグルーヴから曲作りに入っていく」とミックは言う。「バンドだから、全部を一人で決めるわけにはいかないが、自分の目指すグルーヴは理解しているつもりだ」。

ジャマイカでのセッション中に、スティーヴのドラムビートに合わせてミックが歌い、「Angry」の原型が出来上がった。「ちょうど良いテンポを求めて、歌詞を口ずさんだりするんだ」とミックは言う。「どこにアクセントを置こうかとか、コーラスはヴァース部分と少し印象を変えてみようとか、ノリが良くテンポがしっくり来るまで何度も歌詞を口ずさみながら繰り返すのさ」というのが、ミック流の曲作りのプロセスだ。ミックとスティーヴは、ロンドンの「寂れた通り」からの脱却を歌ったノリの良い曲「Whole Wide World」や、ミックが自宅のピアノで作った賑やかなゴスペル曲「Sweet Sounds of Heaven」にも、同様のメソッドを採り入れた。

「俺は言葉を詰め込みすぎる傾向にあるから、後で音節を削っていくのさ」とミックは明かす。「ずっとボーカルばかり聴こえていても良くないだろう。余白部分も重要だ。経験から学んだのさ」。

90年代初頭からバンドが頼りにしてきたプロデューサーのドン・ウォズは、スケジュールが合わなかった。「全体的に自分たちの手に負えなくなってきたんで、”俺たちにはレフェリーのように仕切ってくれる人間が必要じゃないか”と考えた」とロン・ウッドは振り返る。「ポール・マッカートニーとディナーしている時に、レコーディングはどんな具合かと聞かれたんで、誰か仕切り屋を探していると言ったのさ。するとポールから”アンドリュー・ワットというニューヨークの若い奴に一度やらせてみないか”と提案されたんだ」。

ところがロンの知らない間に、ミックが既にアンドリューと連絡を取っていた。グラミー賞受賞歴もあるアンドリューは、マイリー・サイラスからオジー・オズボーンまで、幅広いジャンルを手掛けるプロデューサーだ。数年前にストーンズが何枚かのシングルをリミックスしていた時期に、ドン・ウォズがアンドリューをバンドに紹介した。2022年6月にバンドがロンドンのハイドパークでのコンサートを終えた頃、ミックは、アンドリューにニューアルバムのプロデュースに興味があるか打診した。ストーンズ・ファンでもあった32歳のアンドリューは、歓喜のあまり「そんなの答えを聞くまでもないでしょう」と思わず口走ったという。

一方のミックは「アンディー(アンドリュー・ワット)は、とてもやる気がありそうな奴だった」と、冷静に見ていた。


Sixtyツアーのステージに立つ(左から)ロン・ウッド、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、スティーヴ・ジョーダン(2022年、ベルリンにて撮影。Photo by SOEREN STACHE/PICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES)

間もなくバンドはニューヨークにあるエレクトリック・レディ・スタジオに集結し、アンドリューも加わった。「いいかい、僕は彼らの大ファンなんだよ。僕がローリング・ストーンズのコンサートを何回観たか彼らに明かしたら、きっと気味悪がって二度と口をきいてくれないかもしれない」とアンドリューは語る。彼は「あなた方は、客席からバンドを見ていた熱狂的なファンにプロデュースを任せているのだ」とアピールするため、毎日違うストーンズTシャツを着てスタジオへ通ったという。アンドリューをプロデューサーに迎えたバンドは、ニューヨークをはじめ、ロンドン、パリ、ロサンゼルスなどで数カ月に渡りレコーディングを続けた。そうしてバンドは、自ら設定したデッドラインを守った。

アンドリューはまず、100曲分を超えるデモ素材を整理するところから始めた。「新たに加わったアンドリューは、バンドを取り仕切りながら、たくさんあるカードの中からロイヤル・ストレート・フラッシュになる組み合わせを選び出した。彼が選んだカードは最高だった」とロンは絶賛する。

「俺たちも以前は、そうやって曲を仕上げていた」とミックは言う。「いくつかの曲を選んでリハーサルを繰り返しながら、どんどん肉付けしていく。そうして20曲ほどの曲を仕上げて、スタジオでオーバーダビングしながら、優先順位を付けていくのさ」。

「ツアーのためにスタジオを離れたのは数週間かそこらで、あとはスタジオで一緒に作業を続けた」とキースは振り返る。

オーバーダビングのためのスタジオ・セッションを長時間続けた後で、息抜きに夜の街へ出ることもあった。そんな時でもキースはすぐにスタジオへ戻ると言い、ミックも続いた、とアンドリューは証言する。「キースはハードワーカーだった」とミックは言う。「彼は何日も休まず働き続けた。それから俺がボーカルの一部をレコーディングして、ロニーも自分のパートを入れた。それから俺は2023年の1月にバハマのナッソーへ行って、ボーカル・パートを仕上げた」。

スティーヴィー・ワンダーとレディー・ガガの貢献

レコーディングには、ゲストも招いている。バンドの旧友でストーンズと並んで伝説的な存在のスティーヴィー・ワンダーは、ゴスペル調の「Sweet Sounds of Heaven」に独特の雰囲気を吹き込んだ。自分の指にスティーヴィー・ワンダーのタトゥーを入れているアンドリューは、1972年にストーンズと一緒にツアーを回ったスティーヴィーこそが、「Sweet Sounds of Heaven」にフィットすると確信していた。「ファンの一人として、スティーヴィー・ワンダーがストーンズの曲に参加しているのを目にするなんて、どんなにクールなことかわかるかい?」とアンドリューは得意げに言う。



レコーディング前にスティーヴィーとストーンズのメンバーは、昔話に花を咲かせた。スティーヴィーは、ストーンズとのツアーで盛り上がったエネルギーそのままにスタジオ入りし、「Superstition」をレコーディングしたことを明かした。それから全員で「Satisfaction」をジャズ・バージョンやレゲエ・バージョンでセッションした後で、本番に入った。スティーヴィーは「〜Heaven」で、グランド・ピアノ、フェンダー・ローズ・ピアノ、モーグ・ベースを弾いている。ストーンズはスティーヴィーのベースラインを、『Sticky Fingers』の「I Got the Blues」を彷彿させる熱狂のホーンセクションに置き換えた。

「僕が参加した曲には、人々が集まってリズムに乗って歓喜するような雰囲気が必要だと感じた」とスティーヴィーは言う。さらにスティーヴィーは、チャーリー・ワッツに捧げたこの曲にとても感動したという。「僕にとっては”グッバイ”ではなく、”ハロー”という気持ちだ」。

「スタジオでのスティーヴィーを見て、とにかく感動した」とロンは言う。「シンセサイザー、モーグ、クラビネット、グランド・ピアノを操りながら醸し出すスティーヴィーの楽しい雰囲気は、バンド全体に大いなるインスピレーションを与えてくれた」。

「スティーヴィーが弾くゴスペルは曲を活き活きとさせ、作品をレベルアップしてくれた」とミックは言う。「俺たちはただ”ワォ”と感動するだけだった」。


(左から)レディー・ガガ、アンドリュー・ワット、スティーヴィー・ワンダー(Photo by CHRIS POLK/VARIETY/PENSKE MEDIA/GETTY IMAGES; JEFF KRAVITZ/FILMMAGIC; LESTER COHEN/GETTY IMAGES)

レディー・ガガは、スティーヴィーとバンドがレコーディングしていたスタジオへ、ちょっと挨拶に立ち寄りたいとミックに連絡してきた。「彼女はスタジオへ入ってくると、膝を抱えて床に座り込んだ」とミックは振り返る。ちょうどバンドは、アルバムに収録する「Sweet Sounds of Heaven」のセッションの最中だった。「誰かが彼女にマイクを渡すと、彼女は曲に合わせてハミングし始めた」。

ガガによる即興だったが、ミックは気に入った。「彼女は床に座ったまま、曲を聴いてすぐに歌い始めた」とロンは証言する。ミックが「立って一緒にやろう。ちゃんとしたコーラスに仕上げてみないか」と提案し、皆が顔を突き合わせて一緒に歌った。「彼女の多才さに驚いた」とスティーヴィーは言う。「実にソウルフルな歌声に感動した」。

スティーヴィーのソロパートをきっかけに、全員が再びコーラスを繰り返した。最高の雰囲気だった。「いつでも優しく微笑んでいたチャーリー(・ワッツ)を偲んで、皆が再び集まって歌えるのは最高だ」とスティーヴィーは言う。「彼らのノリの良いビートは健在だった」。

ビル・ワイマン、ポール・マッカートニー、エルトン・ジョンも共演

『Hackney Diamonds』には、バンドの膨大な曲のストックの中から、チャーリー・ワッツも参加して2019年頃にレコーディングした「Mess It Up」と「Live by the Sword」を選んで収録した。「俺たちは非常にたくさんの曲のネタをストックしている。そこから1枚のアルバムを作るために選び出すだけでも至難の業さ」とキースは言う。プロデューサーのアンドリュー・ワットが、「Live by the Sword」にビル・ワイマンを起用しないかと提案した。そこで早速、ミックがビルへ電話した。「今でも弾いているかい? チャーリーが叩いた曲を一緒にやらないか」との誘いを、90年代初頭にバンドを離れたベーシストは、快諾した。「本当にワクワクした」とロンは、『Some Girls』当時のラインナップの復活を喜んだ。「ストーンズならではのリズムセクションだから、他の曲とは一味違うんだ」とミックも言う。

「ミックが連絡してきて、チャーリーのドラムをフィーチャーしたニューアルバム用の曲で弾いてくれって言うんだ。もちろんOKしたよ」とビルは、ローリングストーン誌の取材に答えている。「天国のチャーリーと一緒に演奏できるなんて、素晴らしい体験だった。本当に大切な友人を失って、あらためて寂しさを感じる」。

「ミックと一緒にベースとドラムのパートだけを抜き出してチェックしてみたが、とてもエモーショナルで、あの感動は決して忘れられない」とアンドリューは言う。「チャーリーのストレートなドラムとビルの強烈なスイングのおかげで、アルバムの中で最も”60年代らしい”曲に仕上がった」。

ビルのカメオ参加を除き、その他のレコーディング作業はキース、ロン、アンドリューの3人を中心に進められた。プロデューサーのアンドリューによると、長年バンドでベースを担当してきたダリル・ジョーンズは別のツアーに参加するため、レコーディング・セッションに参加できない時期もあったという。そこに現れたのは、バンドの古くからの友人で、たまたまベースが上手な人物だった。ミックの思い付きでスタジオに誘われたバンドの旧友だが、アンドリューとは、ロサンゼルスの別プロジェクトで既に仕事をした経験があった。その伝説の人物こそ、ポール・マッカートニーだった。「ポールと一緒に歌ったことはあるが、彼の演奏で歌った経験はなかった」とミックは言う。「『Depending on You』のようなバラード曲がいいか、それとも別の曲がいいか」と迷うミックに対してアンドリューは、「パンクな曲『Bite My Head Off』をやってみてもらいましょう」と提案した。ポールは、自分に何のプレッシャーもなくバンドとして演奏できることを、とても楽しんでいるようだったという。事実「ポールは、まるで長年一緒にやってきた仲間のようにバンドに馴染んで、本当に楽しそうだった。とてもしっくり来たよ」とミックは証言した。

ポールはロンに「一緒にスタジオに入る日が来るなんて、信じられない」と言って喜んだ。「ローリング・ストーンズと共演するという夢が叶ったよ。そして、僕が紹介したアンドリューをプロデューサーとして採用してもらったのも素晴らしい」と語るポールは、まるでおもちゃ屋に連れて行ってもらった子どものようだったという。ロンが明かしたところによると、ポールとはもう一曲共演していて、また別の機会にリリースされる予定だという。

エルトン・ジョンは歌に参加することなく、まるでセッション・プレーヤーの如く「Get Close」と「Live by the Sword」の2曲でブギウギ・ピアノを披露した。ジョンがそれほど積極的に参加してくれるとは期待していなかったため、ミックも驚いた。エルトンは、心から楽しんでいた。「元々セッション・ミュージシャンだったエルトンは、ピアノを弾くのが大好きだ」とアンドリューは証言する。「誰もがローリング・ストーンズのファンなのさ。ポールと同じく、エルトンもまた”俺はローリング・ストーンズと共演したんだぞ”と鼻高々だった」。

バンド名の由来となった曲を演奏する意味

『Hackney Diamonds』の何が素晴らしいかと言えば、もちろんゲスト・ミュージシャンの顔ぶれも凄いが、これがローリング・ストーンズのアルバムだという点にある。特にミック・ジャガーのエモーショナルなボーカルは、ダイレクトに響いてくる。「1テイク録ったところで、ミックが”これは良すぎた”と言うんだ」とアンドリューは振り返る。ミックは「もっと”削って”歌い直す」という。「どういう意味ですか?」と問いかけるアンドリューに対して「もっと感情を削ぎ落とさなきゃいけない」とミックは答え、もっとリラックスした感じで録り直した。すると、これまでになく素晴らしいキャッチーなテイクが録れたという。

「楽曲を完全に自分のものとして歌えるようになるまで、時間をかけなきゃならない」とミックは言う。つまり、これまでに数えきれないほど歌ってきた「Paint It, Black」も、新しい曲も、同じレベルで歌えなければならないというのが、ミックの理論だ。「2000回も繰り返し歌えと言っている訳ではない。でもわずか3テイクでは、自分の作品としてものにできない。新曲も、ステージで何度か演奏してみると熟れてくる。レコーディングの時点から曲を自分の中に吸収して、熟れた状態に持っていくべきだ」。

ミックとキースは、個人的な出来事を深掘りした歌詞を書いた。「もちろん他にもいろいろあるが、主に人間関係をテーマにしたアルバムだ」とミックは言う。「『Dreamy Skies』は人間の内面について歌っている。『Sweet Sounds of Heaven』はゴスペル調の曲だが、歌詞の内容は個人的なものだ。『Whole Wide World』は、”人生で何が起きても乗り越えられる”と、冗談を交えながらも励ます内容の歌だ。ロンドンで過ごした青春時代の経験や、フラムでの生活を書いた曲もある」と説明したところで、ミックは少し間を置く。「実際にフラムで暮らしたことはないが、 ”filthy”という単語と韻を踏みやすかったからな。チェルシーよりもいいだろう」と笑った。

一番のお気に入りとして「Whole Wide World」を挙げたロンだが、ニューアルバムには印象的な曲が多いという。「『Angry』『Tell Me Straight』『Driving Me Too Hard』のキースのギターは秀逸だ」とロンは言う。「『Driving Me Too Hard』は、カントリーっぽくて他とは違った雰囲気がある。『Dreamy Skies』は、『Sweet Virginia』を思わせる魅力的な曲だ。『Mess It Up』はチャーリーのドラムをフィーチャーしたダンス曲だし、他にも俺のお気に入りの幅広いジャンルを網羅したアルバムだ」。


Photo by Mark Seliger

アンドリューは、アコースティック・ブルーズも1曲加えるように提案したが、ミックとしてはオリジナル曲を新たに書く気はなかった。ミックは「アンディー、俺は今28曲分の歌詞を書いている最中だ。本来なら、とっくに仕上がっていなければならない。今からブルーズの歌詞を書く時間はない」とアンドリューに告げた。そこでミックとキースは「Rollin Stone」をカバーすることで、アンドリューの提案に応えることにした。「キースと一緒に楽しめた」とミックは振り返る。「この曲には手を付けていなかったので、ちゃんと覚えなければならなかった。マディー・ウォーターズの作品はたくさんあるが、バンド名の由来となったこの曲だけは、カバーしたことがなかった。自分たちでも理由はわからないけれどね」。

ロンによると、アンドリューはスタジオ作業を中断して、ミックとキースに「少年時代のあなた方2人が駅で出会った時に、ミックが小脇に抱えていたレコードに収録されていた曲を、これからレコーディングすることになるんですよ」と告げたという。それがマディー・ウォーターズの「Rolling Stone Blues(原題:Rollin Stone)」だった。「とてもいい話だ」とロンは言う。

ミックとキースにとって、マディー・ウォーターズのレパートリーは得意中の得意だった。「ミックと俺にとっては朝飯前さ」とキースは言う。さらにキースは、アンドリューがレコーディング用に選択したギターと、彼が作り出すサウンドに感銘を受けたという。「俺では思い付かないようなことが実現できて、本当に良かったよ。アンドリューは俺たちに、”マジかよ!(Come on!)”と言わせたかったんだな。」(※訳注:ストーンズの1stシングルはチャック・ベリーのカバー曲「Come on」だった)

「つまり、あの曲は俺たちにとって、ある意味であまりにもベタ過ぎるということさ」とキースは続けた。「俺たちのバンド名の由来になった曲だしな。スタジオでミックと俺は顔を突き合わせて、”よし、ちゃんとやらなきゃな”という感じで始めて、その通りにやり遂げた」と彼は言う。

「テイクを重ねるごとに、2人の距離がだんだん近づいていった」とアンドリューは証言する。「確か、テイク4をアルバムに採用したと思う。曲の初めはタイミングがバラついているようでも、クールだった。彼らはお互いに競い合っているようだった。そして、ミックのハープ(ハーモニカ)とキースのギターが、同じリックをユニゾンしながらエンディングを迎える。同じインヴァージョンに同じ音符、そして同じリズム。2人が正に一つになった瞬間だ。僕には、何があっても2人はお互いを必要としているように見えた」

ミックとキース、そしてロンも含めて、彼らは元来、お互いを支えとしている。ミックとキースが初めて出会ってから、約75年が経つ。キースは自分の年齢を考えた時に、全てに疑問を感じることもある。「俺はいったい何をしているんだ? 80歳の俺がロックンロールしている」と大笑いする。しかしそんな考えも、すぐに頭から消え去ってしまうという。「自分の歳のことなんか気にするもんか」と、キースは楽しそうだ。(ちなみにインタビュー時点でキースは79歳、ミックは80歳だ)。

「Rollin Stone」をアルバムのファイナル・トラックに持ってきたということは、これがローリング・ストーンズ最後のアルバムになるのだろうか? 「もうかれこれ40年も、そんなことを言われ続けてきたよ」とキースは笑う。「”その歳でいったい何をやっているんだ”と不思議がられるが、”これが俺のやり方さ”と答えるしかない」とキースは言う。

タイトルの意味、未来への挑戦

アルバム制作の過程で最も大変な作業の一つが、タイトルの選定だ。「山ほどアイディアを出したが、これといったタイトルが出てこなかった。もう我慢の限界だった」とミックは強い口調で振り返る。そんな時、ミックの友人で画家・彫刻家のマーク・クインが「Hackney diamonds」とタイトルを付けた一連の写真を見せてくれた。「ハックニー(Hackney)は、ロンドンにある地区の名前だ。土曜の夜に盛り上がった勢いで車のフロントガラスを叩き割ると、ガラスの破片が地面に飛び散ってキラキラ輝いて見えるだろう。それが”ハックニー・ダイヤモンズ(Hackney diamonds)”さ。ロニーとキースにアイディアを送ると、キースから”いいね、これで行こう”ということになった。”ああ、やっと決まったよ”という感じだった」と振り返るミックの声には、当時の安堵の気持ちが籠もっていた。

最終的に『Hackney Diamonds』には、全12曲が収録された。誰が証言するかによって数字は前後するが、バンドは23曲から29曲をレコーディングしたという。つまり次のアルバムを作ろうと思えば、素材はいくらでもあるということだ。ミックによると、彼らの中で温めている曲の中には、社会的なメッセージを込めた作品もあるという。「全てはストーンズの音楽という世界観の中にある」とミックは言う。「俺たちの中でも整理できている訳ではない。未発表曲の中には、(サウンドやスタイルが)ストーンズらしからぬものもある」とミックは明かす。アンドリューは、眠っている数々の楽曲にいつか光を当てたいと望んでいる。「俺にとってはバットマンのようなヒーローさ。ストーンズがまたトレードマークの舌を出す時に、俺も関われたら最高だ」とアンドリューは言う。

ミックは今回のニューアルバムが、過去の作品では見せなかったバンドの姿を、どのように表現してくれると期待しているのだろうか? 「このアルバムこそ、”今”の俺たちを表現した”ザ・ストーンズ”さ」とミックは言う。「”今年”のストーンズと言ってもいいかもしれない。最高の作品になってくれることを願いながら作った。”まあまあ”の出来にはしたくなかった。俺の望みは叶ったと思う」。

「このアルバムには、チャーリー・ワッツとストーンズの歴史へのトリビュートという側面がある。それから、俺たちに残された未来への挑戦という意味も込められている」とキースは語る。とはいえ、レコーディングのプロセスが曖昧だったためか、キースは今なお作品の解釈を続けている。バンドが前に新曲を出してからかなりの時間が経っており、キースはいつも新鮮な気持ちで臨めるという。「俺は一番の新参者さ」とキースは笑う。「だんだんと慣れていくんだ。”ストーンズの新しいアルバムが出たぞ”という感じで、初めて聴いてみたが、まだ評価を決めかねているのさ」。

それでもキースは、ツアー中に曲が成長していくのを楽しみにしている。「誰かにアクシデントが起きない限り、来年はツアーに出ていても不思議ではない」。

最終的にキースは、ストーンズが今なおロックンロールを続けられている理由を理解した。何がモチベーションになっているか問われたキースは「他の誰ができるって言うのさ?」と答えた。「ストーンズにできないことは、他の誰にもできないのさ」。

From Rolling Stone US.



ザ・ローリング・ストーンズ
『Hackney Diamonds』
2023年10月20日(金)リリース
国内盤全4形態で発売
ボーナス・トラック1曲収録/英文解説翻訳付/歌詞対訳付/SHM-CD仕様
予約:https://umj.lnk.to/RS_HackneyDiamonds

①CD(デジパック仕様)
②CD(ジュエルケース仕様)
③CD+ブルーレイ
④1LP(直輸入仕様/限定盤)

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